Co-CEO(共同経営)とは、複数の経営者が役割と責任を分担してトップを担う経営スタイルです。財務管理論を専門とする京都産業大学の中井透教授は、年代をずらした経営者が時間差でCo-CEOに就けば、バトンタッチまでの助走期間を長く取れ、スムーズな事業承継につながると提案します。
後継者難による廃業は、中小・中堅企業にとって切実な課題です。一方で、起業の機運は高まり、スタートアップへの関心も集まっています。会社を「創る」ことと「続ける」こと――その両方で中井教授が鍵とするのが、ファイナンスの知識と経営者自身の意思決定です。
本記事では、中井教授へのインタビューをもとに、スタートアップが活況を呈する背景、倒産を防ぐキャッシュマネジメント教育の重要性、既存企業の廃業を防ぐ視点と共同経営(Co-CEO)、新しいビジネスを創る力、そして生成AI時代に経営者が担う役割について解説します。
この記事でわかること
・スタートアップの活況と資金供給の関係
・倒産を防ぐ鍵がキャッシュマネジメントである理由
・スタートアップを1社創るより、既存の1社を廃業させない視点
・事業承継を円滑にする「Co-CEO(共同経営)」の考え方
・新しいビジネスを創る力と、生成AI時代の経営者の役割
京都産業大学 経営学部 マネジメント学科 教授(取材時)。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了。広島大学大学院社会科学研究科博士後期課程修了。博士(マネジメント)。1991年岡山商科大学商学部専任講師、2000年同教授を経て、2007年より現職。京都産業大学副学長、理事・評議員、経営学部長、大学院マネジメント研究科長、進路就職支援センター長などを歴任。日本財務管理学会会長・常任理事、日本経営財務研究学会評議員などを務める。近著に『物語でわかるスタートアップファイナンス入門』(中央経済社、2025年)。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
日本でも、起業を目指す若い人が増え、その少なくない割合が事業を軌道に乗せています。そうした起業家のストーリーがメディアで共有され、本人たちが自らの経験を語っていることを、中井教授は「とても良いこと」と評価します。
中井教授は1998年から1999年にかけて、米国カリフォルニア州立大学の客員研究員としてスタートアップを研究していました。当時はドットコム・バブルと呼ばれ、インターネット関連企業やIT産業への過剰な投資と期待から株価が異常に高騰した時期です。多くの投資家や企業がIT関連企業に多額の資金を投じ、それを目当てに多くのスタートアップが誕生しました。
起業にはおカネが要り、スタートアップを成長させるにはさらに巨額の追加投資が必要です。起業する環境は、資本市場の活況など資金供給の多さと密接に関わっているのです。日本では、バブルと呼ばれるほどの資金が資本市場に流れているわけではありません。それでも若い人を中心に起業マインドは高く、資金を持つ個人が起業家に投資するなど、十分な量の資金が供給されていることも、スタートアップの活況の背景にあると中井教授は見ています。
スタートアップの動きをさらに活発にするには何が必要か。中井教授は、資金面の支援は今後も充実が図られていくだろうとしたうえで、今後必要なのは教育に尽きると言います。倒産しないために、資金管理を中心としたファイナンス教育を施すべきだというのです。
中井教授は在外研究から帰国後も、カリフォルニア州のシリコンバレーやテキサス州オースティンの「シリコンヒルズ」と呼ばれる地域に出向き、起業家育成機関(インキュベーター)へのインタビュー調査を行いました。「インキュベーション施設で育った起業家とそうでない起業家とで、売上高や利益といった業績に違いはあるか」という問いに、複数の施設から返ってきたのは、次のような印象的な答えでした。
業績はまちまちであり一概には言えない。しかし、確実に言えることは、インキュベーション施設で育った企業はキャッシュマネジメントを中心としたファイナンスを学習し、その重要性を認識しているから倒産はしていないはずだ。
――米国のインキュベーターの回答(中井教授の調査より)
| 問い | 左右する要因 |
|---|---|
| 売上が増えるか、利益が多いか | 企業環境やマクロの環境に影響される |
| 倒産するか、しないか | キャッシュマネジメントの問題 |
出典:中井教授への取材をもとに編集部作成
インキュベーターには、起業家を送り出すまでに、倒産しないだけのファイナンスをはじめとした経営知識やノウハウを伝えてきたという自負がある――中井教授はそう感じ取ったといいます。話題のリスキリングも、起業家やその予備軍への教育においてこそ充実が図られるべきだと中井教授は考えています(起業家を育てる教育については、江島由裕教授の解説記事でも紹介しています)。
中井教授は、スタートアップを経済面・運営面でこれまで以上に支援し、活性化すべきだという立場です。そのうえで以前から、スタートアップを1社創る努力をするよりも、今ある1社を廃業に追い込まないほうが投資効率が高いと主張してきました。
多額の支援によって、ようやく一つのスタートアップを創っても、一方で事業承継がうまくいかずに廃業に追い込まれる会社があれば、企業数の観点ではプラス1とマイナス1で何も生み出さないことになります。だからこそ、既存の会社を廃業させないことにも多くのエネルギーを注ぎ、効果的な施策を講じるべきだというのです。
経営者に対しては、自分の代で終わらせようとせず、事業を継続させる可能性を真摯に探ってほしいと中井教授は語ります。その手段の一つが、経営者を目指す人と、事業を承継させたい経営者をつなぐプラットフォームの活用です(後継者の育て方については、高田朝子教授の解説記事でも紹介しています)。
もう一つの選択肢として中井教授が提案するのが、年代の違う人と共同経営をすることです。「共同」を意味する「Co」を冠した、Co-Management(共同経営)、Co-CEO(共同最高経営責任者)というスタイルです。
日本では長らく、社長が1人いたら次は副社長、キャプテンが1人いたら次は副キャプテン、という考え方が一般的でした。高校時代を米国で過ごした中井教授によれば、現地の運動部では当時から「Co-キャプテン」制がとられていたといいます。最近では、日本の大学の運動部でもCo-キャプテンが見られるようになりました。
| 観点 | 従来の考え方(社長→副社長) | 時間差のCo-CEO |
|---|---|---|
| トップの人数 | 社長は1人。次の候補は副社長 | 経営者マインドを持つ2人が、役割と責任を分担してトップを担う |
| 年代 | — | あえて年代を若干ずらし、時間差で就任する |
| 承継のしかた | 社長の交代時に引き継ぐ | バトンタッチまでの助走期間を長く取り、次の人を新たなCEOとしてスムーズに引き継ぐ |
出典:中井教授への取材をもとに編集部作成
全く同じ年代の2人だと、事業承継のタイミングも同じになってしまいます。そこで年代を若干ずらし、両方とも経営者マインドを持った人が時間差でCo-CEOに就く。そうすれば、次の人を新たなCEOとしてスムーズにバトンタッチできる、と中井教授は説明します。
時間差の共同経営を機能させるには、2人のトップの役割と責任の分担、そして次の世代の経営人材に求める役割やスキルを、あらかじめ明確にしておくことが土台になります。
経営人材の役割と育成の状況を見える化する
Co-CEOのように役割を分担して経営を引き継ぐには、職務や役割、求めるスキルを言語化し、育成の状況を把握できる仕組みが役立ちます。DEFiDEの「JOB Scope」は、職務やスキル、評価・育成の情報を一元的に管理できるクラウドサービスです。
中井教授のゼミの研究テーマは「新しいビジネスの創造」です。学生には、インターネットで検索してコピーすれば出来上がるようなものではなく、自ら考えて作り出したビジネスを成長させるシナリオを描いてもらいます。原則として人の真似はできず、世の中で自分しか創り出せない独自性・独創性を追求することが求められます。
これを実際のビジネスに当てはめると、「何事にも関心を持つ」ことだと中井教授は言います。ただ関心を持つだけでなく、そこから不具合や得られていない便益を探し出し、「こうなったら良いのになぁ」「こんなのがあったら良いのになぁ」と思いを巡らせることで、オリジナリティは進化します。
顕在化したニーズの一歩手前にある、現状の「不具合な状態」をどれだけ多く見つけられるかが重要です。そのためには、色々な場所に出向き、多くの人と交わり、たくさんの経験をすることが欠かせません。思いがけない発見を意味する「セレンディピティ」も、その可能性がある場や状況に身を置かなければ得られないからです。
生成AIは今後も、望ましい仕事のやり方や効果的なマネジメント手法についてのヒントを与えてくれるはずだと中井教授は見ています。AIが回答を繰り返す過程でデータが蓄積・学習され、回答の内容も精緻になっていくでしょう。
ただ、それはあくまでヒントであって、それを意思決定するのは生身の経営者であるべきです。複数のヒントから最適解を出すことができる人が経営者となる資格を与えられることになるでしょう。
――中井教授
働き方も変わりつつあります。米国のテレビドラマで、解雇を言い渡された主人公が段ボール箱ひとつを抱えて職場を去るシーンには、次の職場でもこの箱ひとつで仕事をこなせるというスペシャリストとしての自負が見える、と中井教授は言います。コミュニケーションや共同作業を重視してきた日本では、こうした考え方は馴染みにくいものでした。しかし、働く側も雇う側も働き方が多様化するなかで、うまく人材を使いこなし、一人ひとりが自由に働きながら能力を高めて成果を最大化させるステージに来ていると中井教授は指摘します。
AIが示す複数のヒントから最適解を選び、多様な働き方をする人材を生かして成果につなげる。会社を創るときも、続けるときも、最後に決めるのは経営者自身です。
A. 複数の経営者が役割と責任を分担してトップを担う経営スタイルです。中井教授は、年代を若干ずらした経営者が時間差でCo-CEOに就くことで、バトンタッチまでの助走期間を長く取り、スムーズな事業承継につなげる方法を提案しています。
A. 同じ年代の2人だと承継のタイミングも同じになりますが、年代をずらした2人が時間差で就任すれば、次の人を新たなCEOとしてスムーズに引き継げます。中井教授は、後継者難による廃業を防ぐ選択肢の一つとしてCo-CEOを挙げています。
A. 中井教授は、資金管理を中心としたファイナンス教育を挙げています。米国のインキュベーターへの調査では、売上や利益はまちまちでも、キャッシュマネジメントを学んだ企業は倒産していないはずだという回答が得られたといいます。
A. 中井教授は、多額の支援でスタートアップを1社創っても、事業承継の失敗で1社が廃業すれば、企業数はプラスマイナスゼロになると指摘しています。既存の会社を廃業させないほうが投資効率が高いため、その施策にも力を注ぐべきだとしています。
A. 中井教授は、生成AIは望ましい仕事のやり方やマネジメント手法のヒントを与え、回答の精度も高まっていくと見ています。ただし意思決定するのは生身の経営者であり、複数のヒントから最適解を出せる人が経営者の資格を持つと述べています。
おカネのマネジメントで会社を潰さず、承継の仕組みで会社を続けていく。前編で紹介した「革新性と生産性の両立」とあわせて、自社の経営を見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
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後継者の育成や役割分担を見据えた組織づくりには、人事制度や人材マネジメントの見直しも欠かせません。DEFiDEでは、人事制度や人材マネジメントの課題について相談を受け付けています。
▶ 前編:中小企業の財務管理はなぜ重要か?「革新性」と「生産性」を両立させる“おカネのフィルター”と、人への投資を企業価値につなげる視点(内部リンク)
▶ インタビュー全文:目指すは、革新性と生産性が両立した状態(後編)(JOB Scopeマガジン)