部下に任せるマネジメントで大切なのは、「自律的に働け」と強いることではなく、部下を見極め、働きかけ、目的と任せる範囲を明確にし、信頼を築くことです。関西大学の森田雅也教授は、管理職自身が自分と違う考えを受け入れる姿勢を持つことが欠かせないとし、働く側にも、自分で決めるだけでなく、周りへの配慮と結果への責任が求められると語ります。
「もっと自律的に働いてほしい」と部下に期待する管理職は多いでしょう。しかし、そう言われて働くことは、本当に自律なのでしょうか。
本記事では、森田教授へのインタビューをもとに、日本の職場に見られる「強制された自発性」、部下の自律を育てる5つのマネジメントの原則、自律とわがままを分ける3つの条件、そして時間のないプレイングマネジャーへのヒントを解説します。
この記事でわかること
・「強制された自発性」――言われて働くのは自律ではない
・部下の自律を育てる5つのマネジメントの原則
・失敗を責めるのではなく、次につなげるフィードバック
・自律とわがままを分ける3つの条件
・時間のないプレイングマネジャーにできること
関西大学 社会学部 教授(取材時)。1987年神戸大学経営学部卒業、1989年同大学院経営学研究科博士課程前期課程修了、1992年同後期課程単位取得退学。1992年関西大学社会学部専任講師、1995年同助教授を経て、2002年より現職。1996年博士(経営学、神戸大学)。専門は経営学、人的資源管理論で、裁量労働制や自律的な働き方を、現場での聞き取りを中心とする質的調査で研究している。共著に『経験から学ぶ経営学入門』『経験から学ぶ人的資源管理』(有斐閣)など。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
森田教授は、「自律的に働け」と言われて働くのは、自律ではないと言います。日本の職場のこうした状態を、労働研究者の熊沢誠氏(甲南大学名誉教授)は「強制された自発性」と表現しました。
自律は、命令によって生まれるものではありません。管理職に求められるのは、部下が自ら考え、決め、動ける状態を整えることです(社員の自律性を引き出す職場づくりについては、鈴木竜太教授の解説記事でも紹介しています)。
森田教授は、裁量労働制で働く部下を持つ管理職への聞き取りなどから、部下の自律を育てるマネジメントの原則を次の5つに整理しています。
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| ① 見極める | 部下が自律的に働きたいと思っているか、その力があるかを見分ける。働きたくない人に強いるべきではなく、力が足りない人は育てる。全員に同じ働き方を求めるのは乱暴 |
| ② 働きかける | 自律的に働く良さを伝え、本人が変わっていくのを支える。ICTの使い方がわからずに動けない人には、技術的なサポートを行う |
| ③ 目的と裁量の範囲を明確にする | 何をすべきか、どこまで自分で決めてよいかを、双方で確認する。任せた以上、失敗は認めるが、結果はあいまいにしない |
| ④ 信頼を築く | ③を行えば、信頼は自然に生まれる |
| ⑤ 自分と違う考えを受け入れる | 働く時間や場所を部下に委ねることに抵抗がある管理職は、うまくいかない |
出典:森田教授への取材をもとに編集部作成
任せた仕事で部下が失敗したとき、大切なのは叱ることではありません。森田教授は、なぜそうなったのか、誰にどのような影響が及んだのか、次にどう対応するのかを一緒に話し合うフィードバックが大事だと言います。
裁量労働制で働く人からは、「任されたのに、後ではしごを外されないか不安だった」という声も聞かれるといいます。勤務時間中の歯科の受診を上司が認めてくれて安心した、という例もありました。任せた以上は、信じて委ねる。その姿勢が、部下の安心と信頼につながります(自律的な社員を対話から育てる方法については、馬塲杉夫教授の解説記事でも紹介しています)。
目的と裁量の範囲を明確にし、結果をあいまいにしないためには、目標や役割、評価の基準を上司と部下で共有できる仕組みが支えになります。
目的と裁量の範囲、評価の基準を共有する
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森田教授は、自律とわがままは違うと強調します。自分で決めることだけを自律だと考えるのは誤りで、次の3つがそろって初めて自律といえるのです。
| 自律の条件 | 内容 |
|---|---|
| ① 自己決定 | 自分で考え、決める |
| ② 周りへの配慮 | 同僚や組織への影響に気を配る |
| ③ 結果への責任 | 自分で決めたことの結果に責任を持つ |
出典:森田教授への取材をもとに編集部作成
自分の都合だけを主張し、その負担を同僚に背負わせてしまうのは、自律ではありません。森田教授は、自分で決めることだけを自律だと考える人は、裁量労働制の対象にすべきではないとしています。
自らも成果を求められるプレイングマネジャーは、部下と向き合う時間がなかなか取れません。森田教授は、高い報酬を得ている立場である以上、それをこなす力はあるはずだとし、ICTを使ったコミュニケーションを工夫することを勧めています。
とはいえ、森田教授自身も、学生との意思疎通に苦労することがあると認めています。部下と向き合う時間の確保は、多くの管理職に共通する難しい課題です。
森田教授は、共著のテキスト『経験から学ぶ経営学入門』『経験から学ぶ人的資源管理』(有斐閣)で、具体的な経験から出発し、抽象化して考え、それを新しい具体に当てはめて、新たな経験を得るという学びのサイクルを大切にしてきました。表面に浮かぶ泡のような流行ではなく、時を経ても変わらずに流れる「本流」の理論に気づいてもらうことがねらいです。管理職が部下と向き合う際にも、目の前の出来事をより大きな原則に照らして考えることが役立ちます。
A. 労働研究者の熊沢誠氏が、日本の職場の状態を表した言葉です。「自律的に働け」と言われて働くことは、本当の自律ではないという意味で、森田教授は、自律は命令によって生まれるものではないとしています。
A. 森田教授は5つの原則を挙げています。部下の意欲と力を見極める、自律的に働く良さを伝えて支える、目的と裁量の範囲を明確にする、信頼を築く、そして管理職自身が自分と違う考えを受け入れることです。
A. 叱るのではなく、なぜそうなったのか、誰にどのような影響が及んだのか、次にどう対応するのかを一緒に話し合うフィードバックが大切です。森田教授は、任せた以上は失敗を認めつつ、結果はあいまいにしないことが重要だとしています。
A. 森田教授は、自分で決める「自己決定」に加えて、同僚や組織への「配慮」と、結果への「責任」の3つがそろって初めて自律だとしています。自分の都合だけを主張し、負担を周りに背負わせるのは自律ではありません。
A. 森田教授は、ICTを使ったコミュニケーションを工夫することを勧めています。ただし、部下と向き合う時間の確保は多くの管理職に共通する難しい課題であり、森田教授自身も苦労することがあると認めています。
では、働く一人ひとりは、どうすれば自分らしく、納得して働けるのでしょうか。後編では、ルールを知って自分で決める「かしこい働き方」と、「自分にとっての良い会社」を見つける視点を紹介します。
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▶ 前編:裁量労働制のメリットと課題とは?「任せて結果で評価する」と成果が上がる理由と、定着に欠かせない「自己規制」・納得できる評価(内部リンク)
▶ 後編:「かしこく働く」とは?ルールを知って自分で決める大人の自律と、「自分にとっての良い会社」を見つける視点(内部リンク)
▶ インタビュー全文:自律して働くとは何か――裁量と責任を両立させ、誰もが幸せに働ける組織をどうつくるか(中編)(JOB Scopeマガジン)