自律的な社員を育てる第一歩は、社員と一緒に「この組織に所属する意義や意識」を高め、何をすべきか、どうするのがよいかを共有することです。専修大学の馬塲杉夫教授は、自律を促す過程では軋轢が生まれやすいからこそ、経営者が誠実に対話を続ける姿勢が欠かせないと語ります。
会社は従業員に自律を期待し、従業員は人を大切にする経営を望んでいます。この2つは一致しうるのでしょうか。自律を求めれば、社員から「なぜ自分が考えなければならないのか」という声が上がることもあります。
本記事では、馬塲教授へのインタビューをもとに、自律的な社員を育てる第一歩と、自律に伴う軋轢への向き合い方、事業承継を成功に導く対話と価値観の共有、ジョブ型雇用に対する見解とイノベーションへの影響、そして中小・中堅企業に眠る才能を引き出すためのメッセージを解説します。
この記事でわかること
・自律的な社員を育てる第一歩は「帰属意識」を一緒に高めること
・自律を促すと起きる軋轢と、誠実な対話の大切さ
・事業承継を成功に導く、価値観の共有と多様な選択肢
・すべてをジョブ型にするとイノベーションが起きにくくなる理由
・ジョブ型とメンバーシップ型を組み合わせる考え方
専修大学 経営学部 教授(取材時)。1966年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は戦略経営論。日本経営学会、組織学会、日本労務学会、Academy of Management、Strategic Management Societyなどに所属。三建設備工業 監査役、日本学生自転車競技連盟 評議員も務める。著書に『「組織力」の経営――日本のマネジメントは有効か』(共著、中央経済社、2002年)、『個の主体性尊重のマネジメント』(白桃書房、2005年)、『なぜ組織は個を活かせないのか』(中央経済社、2019年)など。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
自律的な社員を育てるにはどうすればよいのか。馬塲教授は教育者として、自分で考えられる学生を育てたいと考えていますが、うまくいかないことも多いと率直に語ります。学生は入学時の目的や目標が希薄で、入学してから興味や学び方が変わることも日常的に起きるからです。
そうした経験から言えるのは、所属する意義や意識を一緒に高めることが第一歩だということです。何をすべきか、どうするのがよいかを、組織と個人で共有していくことが自律の土台になります。
| 自律を促すときに起きやすいこと | 内容 |
|---|---|
| 会社にとっての不確かさ | 自律が本当に良い結果を生むかは、会社にもわからないことが多い |
| 離職の可能性 | 自律的に考えた結果、「この会社にはいられない」と判断する人も出てくる。そうした人ばかりになると、マネジメントは大変になる |
| 社員からの疑問 | 「どうして自分が考えなければいけないのか」「考えるのは経営者の役割ではないか」という疑問が生じ、軋轢が起きやすい |
出典:馬塲教授への取材をもとに編集部作成
だからこそ、社員の疑問に誠実に答え続ける姿勢が欠かせないと馬塲教授は言います。自律は「考えろ」と号令をかけるだけでは生まれません。なぜ一人ひとりが考える必要があるのかを、対話を通じて共有していくことが求められるのです(社員主体の職場づくりについては、野田稔教授の解説記事でも紹介しています)。
何をすべきかを組織と個人で共有するには、一人ひとりの役割や期待される成果を言葉にし、対話の材料として見える状態にしておくことが役立ちます。
役割と期待を共有し、対話の土台をつくる
社員の自律を促すには、それぞれの役割や目標、期待される成果を共有し、上司と本人が対話できる仕組みが役立ちます。DEFiDEの「JOB Scope」は、職務やスキル、評価・育成の情報を一元的に管理できるクラウドサービスです。
事業承継を成功に導く要因について、馬塲教授は、関わる人と価値観を共有し、対話を重ねることで解決策を見いだす必要があると言います。承継の選択肢は多様にあるからです。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 欧米のファミリービジネス | 日本に比べて内向きの承継を目指す傾向があり、そのために長続きしている例が少ないのではないか |
| 日本の承継 | いざという場合に娘婿や養子を迎えるなど、承継の選択肢を柔軟に使ってきた。近年は外部からの承継を模索する経営者も多い |
| 選択肢の一つ | 一時的に外部の人にバトンを渡し、また創業家に戻すことも考えられる |
出典:馬塲教授への取材をもとに編集部作成
実際に、大手企業でも、創業家と外部から招いた経営者との間でトップのバトンを受け渡してきた例があります。どの選択肢を取るにしても、対話と、価値観や方向性の共有が不可欠だと馬塲教授は言います(後継者の育て方については、高田朝子教授の解説記事でも紹介しています)。
ジョブ型雇用について、馬塲教授は即答は難しいと言います。日本の年功序列・終身雇用のスタイルは、既存の仕組みとの適合度が高すぎるため、変えることが難しい。強いジョブ型はそれと真逆の仕組みであり、デメリットも大きいからです。
馬塲教授が最も気にしているのは、完全にジョブ型に振り切った場合、企業が「もうその仕事はいらない」と判断したときにどうなるかという点です。事業ごと切り離すのであれば、ジョブ型ならある程度受け入れられます。しかし事業を閉じる場合には雇用の終了を伴うことになり、それを受け入れる文化がどの程度育っているかが気になるといいます。
| 観点 | ジョブ型の効果 |
|---|---|
| 生産性 | 上がる。専門性が高まり、仕事を上手にこなせるようになる分業の効果が働く。ジョブ型とリスキリングを同時に行う企業の生産性が高いという指摘とも整合する |
| イノベーション | すべてをジョブ型にすると、機会が激減する可能性が高い。専門的な一分野の仕事だけに従事し、自分たちの仕事だけを行う閉じた世界になりがちだが、研究では分野を越えた交流がイノベーションを生むとされる |
| 導入の範囲 | 合意が得られている範囲で、一定の割合をジョブ型にするほうが効率的。割合は業種による |
出典:馬塲教授への取材をもとに編集部作成
ジョブ型は効率は良いものの、長期的には新しいことに気づく機会を減らしてしまいます。そのため、全面的なジョブ型は限定的なものになるのではないかと馬塲教授は見ています。また、生産性が上がるだけで日本企業の将来が開けるわけではありません。社会の変化をとらえ、新しいものを生み出す場面では分業とは異なる力が必要になるため、その役割を誰が担うのかを考えておく必要があります。
ジョブ型かメンバーシップ型かは、単純な二者択一ではありません。馬塲教授によれば、欧米の企業でも幹部候補生のキャリアは大きくローテーションさせるもので、決してジョブ型ではないといいます。
| 人材 | 欧米企業での扱い |
|---|---|
| マネージャーが採用する担当業務の人材 | ジョブ型 |
| 幹部候補生(一定の割合) | メンバーシップ型を前提に採用し、大きくローテーションさせる |
| イノベーションの担い手 | 大企業では、イノベーションを担う役職が機能するように設計していると考えられる |
出典:馬塲教授への取材をもとに編集部作成
大企業向けのメッセージは一般化しやすい一方、中小企業は個別性が強く、一般化しにくいと馬塲教授は言います。その結果、中小企業の経営は「アート」の側面が強く、「サイエンス」の割合が小さくなりがちです。馬塲教授自身は、それでも一般化を目指し、「こうしていくことが望ましい」という知見を見いだして助言したいと考えています。
そのうえで中小・中堅企業の経営者や人事責任者に向けて、状況をよく観察し、人の力を信じて、働く人と会社の双方が幸せになれるよう一緒に考え、努力してほしいと語ります。
中小・中堅企業で働く人々にも、まだ開花し切れていない才能や能力、眠っているパフォーマンスがあるはずです。対話を通じて、組織や社会に貢献できることを一緒に考えてほしい――それが、馬塲教授からのメッセージです。
A. 馬塲教授は、所属する意義や意識を社員と一緒に高めることが第一歩だとしています。何をすべきか、どうするのがよいかを組織と個人で共有していくことが、自律の土台になるといいます。
A. 「どうして自分が考えなければいけないのか」「考えるのは経営者の役割ではないか」という疑問から軋轢が生じやすくなります。また、自律的に考えた結果、会社を離れる判断をする人も出てきます。馬塲教授は、社員の疑問に誠実に答え続ける姿勢が欠かせないとしています。
A. 馬塲教授は、関わる人と価値観を共有し、対話を重ねて解決策を見いだすことが必要だとしています。日本では娘婿や養子を迎えるなど承継の選択肢を柔軟に使ってきた歴史があり、外部の人に一時的にバトンを渡すことも選択肢の一つだといいます。
A. 馬塲教授は、すべてをジョブ型にするとイノベーションの機会が激減する可能性が高いとしています。専門的な一分野の仕事だけに従事する閉じた世界になりがちで、分野を越えた交流が生まれにくくなるためです。合意が得られている範囲で、一定の割合をジョブ型にするほうが効率的だといいます。
A. 馬塲教授は、二者択一ではないとしています。欧米の企業でも、担当業務の人材はジョブ型で採用する一方、幹部候補生の一定割合はメンバーシップ型を前提に採用し、大きくローテーションさせているといいます。
前編で見たように、個を活かす組織づくりは「個を活かす必然性」を確かめることから始まります。そして、個を活かす必然性があるとき、その力を引き出す鍵になるのが、従業員との対話です。
ジョブ型を「どこまで」取り入れるかを設計する
ジョブ型を一定の割合で取り入れるには、どの職務をジョブ型にし、どの人材をメンバーシップ型で育てるのかを整理しておくことが役立ちます。DEFiDEでは、ジョブ型人事の基本となる職務の枠組みをまとめた資料を提供しています。
▶ 前編:個を活かす組織とは?日本企業が個を活かせない理由と、「個を活かす必然性」から考える組織づくり(内部リンク)
▶ インタビュー全文:従業員との対話からすべてが始まる(後編)(JOB Scopeマガジン)