外国人エンジニアの採用・活用を成功させる鍵は、日本企業が期待することと、外国人エンジニアが重視することのミスマッチを解消することです。東北大学の藤原綾乃准教授は、日本企業が職場への順応や日本語力を求めがちな一方、外国人エンジニアが最も重視するのは「これまで培った技術を生かせるか」だと指摘し、データに基づく人材配置の重要性を説きます。
かつて中国や韓国の企業は、日本企業出身者を含む外国人エンジニアを巧みに活用し、わずか10年足らずで日本企業に追いつき、追い越しました。今度は、日本が外国人エンジニアの力を生かす番かもしれません。しかし、そのハードルは決して低くありません。
本記事では、藤原准教授へのインタビューをもとに、日本企業における外国人エンジニアの現状、日本企業と外国人エンジニアの期待のミスマッチ、留学生が日本に残らない理由、データに基づく人材配置とジョブ型の考え方、そして中小・中堅企業が外国人エンジニアを採用する価値について解説します。
この記事でわかること
・日本企業の外国人エンジニアの割合と、活躍の実態
・日本企業と外国人エンジニアの「期待のミスマッチ」
・留学生が日本で就職せず、母国に帰る理由
・データに基づく人材配置と、ジョブ型が外国人の活用に役立つ理由
・中小・中堅企業が外国人エンジニアを採用する価値と「目利き力」
東北大学大学院 経済学研究科 准教授(取材時)。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(技術経営戦略学専攻)、博士(工学)。大阪大学大学院国際公共政策研究科 特任助教、文部科学省 科学技術・学術政策研究所 主任研究官、日本経済大学 准教授を経て現職。専門は技術経営戦略論、国際経営論。技術者・研究者の国際流動化、イノベーション、知識移転を研究している。研究・イノベーション学会 女性エンジニア活性分科会の理事も務める。著書に『技術流出の構図――エンジニアたちは世界へとどう動いたか』(白桃書房、2016年)、『技術獲得のグローバルダイナミクス』(白桃書房、2025年)。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
藤原准教授の分析では、日本企業で活躍する外国人材の割合は約4%にとどまります。米国では非ネイティブが25%を占めるとされ、それに比べると日本はかなり少ない水準です。
一方で、情報通信分野では、外国人エンジニアの研究業績が日本人を上回ることも確認されています。藤原准教授は、外国人エンジニアをより積極的に活用すべきだと提言しつつ、どのようにマネジメントするかが重要だと指摘します。
実際、外国人エンジニアのマネジメントに悩む日本企業は少なくありません。文化やコミュニケーションのスタイルの違いから、日本人の社員との間で摩擦が生じ、マネジメントが難しいという現場の声もあるといいます。外国人の女性エンジニアの活用はまだ進んでおらず、職場の設備などの環境は少しずつ改善されてきたものの、それだけで十分とはいえないと藤原准教授は見ています。
アンケートの結果から見えてきたのは、日本企業と外国人エンジニアの期待の大きなズレでした。
| 立場 | 重視していること |
|---|---|
| 日本企業 | 日本の職場環境に馴染むこと、日本語のレベルを上げること |
| 外国人エンジニア | 自分がこれまでに培ってきた技術を生かせるかどうか |
出典:藤原准教授への取材をもとに編集部作成
このミスマッチは大きく、日本企業は外国人エンジニアに「どのように活躍してもらいたいのか」を考え直し、マインドを変える必要があると藤原准教授は言います。
日本の大学で学んだ留学生が、日本で就職せずに母国に帰る傾向もあります。藤原准教授が所属する東北大学にも優秀な留学生が多く在籍していますが、少しずつ母国に戻る傾向があるといいます。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 主な要因 | 給与水準の差。特に情報通信分野では、中国で働くほうが日本より1.3〜1.5倍ほど給与が高い場合もある |
| 日本の魅力 | 治安の良さ。安心して働ける点は評価されている |
| 課題 | 給与と期待のすり合わせができていないことが、活用を妨げている |
出典:藤原准教授への取材をもとに編集部作成
日本企業のイノベーションを加速させるために、藤原准教授が有効だと考えるのが、人材をどう活用するのが最適かを、データで分析することです。日本企業は、データをもとに優秀な人材の配置を考える取り組みをあまりしていません。ITをうまく使えば、それが生産性向上のきっかけになるといいます。
中国・韓国の企業が急成長した時期には、外国人エンジニアを巧みに活用していました。人の組み合わせ方や採用がうまかったことで、わずか10年足らずで日本企業に追いつき、追い越したのです。今やそれらの企業は世界のリーディングカンパニーですが、今いる人材の配置とマネジメントを工夫すれば、日本企業にも勝ち目はあると藤原准教授は見ています。
タレントマネジメント、つまり従業員一人ひとりの経験やスキルを正確に把握して適切に配置することは、その非常に大きな要素だといいます(人事データを戦略に生かす方法については、岩本隆特任教授の解説記事でも紹介しています)。
一人ひとりの経験やスキルを生かした配置を考えるには、まずその情報を一元的に把握し、比較できる状態にしておく必要があります。
社員の経験とスキルを把握し、適正な配置につなげる
データに基づく人材配置には、職務やスキル、経験、評価の情報を一元的に管理できる仕組みが役立ちます。DEFiDEの「JOB Scope」は、職務やスキル、評価・育成の情報を一元的に管理できるクラウドサービスです。
ジョブ型雇用について、藤原准教授はどちらかといえば賛成の立場です。
| ジョブ型の利点 | 内容 |
|---|---|
| 適正配置との親和性 | 従業員の能力やスキルを見極めたうえで職務に就けるという考え方は、データ分析に基づく適正配置と通じる |
| 外国人の即戦力採用 | 職務ごとに必要なスキルセットを事前に定義しておけば、国籍を問わず最適な人材を迅速に見つけて活用できる |
| 海外経験者の受け入れ | 海外で働いた人材が日本企業でキャリアを築く際の障壁を下げ、日本企業に戻るハードルを下げる |
| 労働市場への効果 | 多様な背景を持つ人材が能力を発揮できる基盤となり、柔軟でダイナミックな労働市場の創出につながる |
出典:藤原准教授への取材をもとに編集部作成
前編で見たように、一度海外に出た人材を日本企業に循環させる仕組みはまだありません。ジョブ型は、単なる労働形態ではなく、多様な背景を持つ人材が能力を発揮できる基盤になりうると藤原准教授は言います(ジョブ型を導入すべきかの判断基準については、鈴木竜太教授の解説記事でも紹介しています)。
藤原准教授は、従業員数の限られる中小・中堅企業にとって、データ分析に基づく人事施策は現実的に難しいことに理解を示します。そのうえで、新著では「どの国のエンジニアを、どう活用すると最も効果が出るか」「出身国によってどんな違いがあるか」を明らかにしたといいます。
中小企業では、外国人エンジニアの採用は1人か2人にとどまりがちです。それでもデータ分析からは、「こういうタイプを採用するとよい」という人物像や、採用後に「こうマネジメントするとよい」という方向性がある程度見えてきたといいます。人材に合った活用法があり、それぞれの強みを発揮できる環境づくりが重要なのです。
| 観点 | 大手企業 | 中小・中堅企業 |
|---|---|---|
| 採用のルート | 学会やインターンシップを通じて、有名大学の外国人学生をスカウト | 採用のルートが限られがち |
| ノウハウ | マネジメントや手続きのノウハウ、外部のブレーンを持つ | 環境整備や手続きの手間が、初期段階で大きな負担になる |
| 強み | ― | 「この学生は優秀だ」「このエンジニアはポテンシャルがある」と見抜く目利き力 |
出典:藤原准教授への取材をもとに編集部作成
環境整備や手続きの面倒さから、中小・中堅企業で外国人の採用が進みにくいのは確かです。それでも世界には優秀な人材が多く、活用しないのは「もったいない」と藤原准教授は言います。大手電機メーカーの研究者との対話では、新興国出身の若手エンジニアが優れた研究業績を上げているという話も聞かれたそうです。
手続きや環境面の課題を一つずつ克服しながら、中小・中堅企業ならではの目利き力を生かして外国人エンジニアを採用・活用していくことが、日本のイノベーションにつながると藤原准教授は語ります。
A. 藤原准教授の分析では、日本企業で活躍する外国人材の割合は約4%にとどまります。米国では非ネイティブが25%を占めるとされ、日本はかなり少ない水準です。一方、情報通信分野では外国人エンジニアの研究業績が日本人を上回ることも確認されています。
A. 日本企業と外国人エンジニアの期待にミスマッチがあるからです。日本企業は職場への順応や日本語力の向上を期待しがちですが、外国人エンジニアが最も重視するのは、これまで培ってきた技術を生かせるかどうかです。藤原准教授は、日本企業がどう活躍してほしいかを考え直す必要があるとしています。
A. 藤原准教授は、主な要因は給与水準の差だとしています。特に情報通信分野では、中国で働くほうが日本より1.3〜1.5倍ほど給与が高い場合もあるといいます。治安の良さは評価されているものの、給与と期待のすり合わせができていないことが活用を妨げています。
A. 藤原准教授は役立つと見ています。職務ごとに必要なスキルセットを事前に定義しておけば、国籍を問わず最適な人材を迅速に見つけて活用でき、海外で働いた人材が日本企業に戻るハードルも下げられるとしています。
A. 藤原准教授は、検討する価値があるとしています。環境整備や手続きの負担はあるものの、世界には優秀な人材が多く、中小・中堅企業にも人材のポテンシャルを見抜く目利き力があるからです。採用すべき人物像や採用後のマネジメントの方向性も、データ分析から見えてきているといいます。
前編で見た技術流出と「日本パッシング」は、日本企業が人を惹きつけ、生かす力を失いつつあることを示していました。データに基づいて一人ひとりの強みを生かす配置とマネジメントこそが、その力を取り戻す出発点になります。
職務ごとに必要なスキルを定義する
国籍を問わず最適な人材を見つけて活用するには、職務ごとに必要なスキルセットを明確にしておくことが役立ちます。DEFiDEでは、ジョブ型人事の基本となる職務の枠組みをまとめた資料を提供しています。
▶ 前編:技術流出はなぜ起きたのか?日本のエンジニアが中国・韓国・台湾へ移った構図と「日本パッシング」、女性エンジニアが力を発揮できる条件(内部リンク)
▶ インタビュー全文:今こそ、データに基づく経営を(後編)(JOB Scopeマガジン)