リーダーシップは生まれ持った資質ではなく、「行動→内省→改善」のサイクルを繰り返すことで育てられます。中央大学大学院の犬飼知徳教授は、リーダーに必要なのは決まった型ではなく、自分の経験を振り返り、学び続ける力だと語ります。
前編では、戦略と組織をフィットさせることがトップの仕事であると見てきました。しかし、戦略を現場で具体的な行動に変えるのはリーダーです。ところが今、若手社員の間では管理職を避ける傾向が強まっています。
本記事では、犬飼教授へのインタビューをもとに、リーダーシップの本質とそれを支える理論、若手が管理職を避ける3つの理由と企業の対応策、早期の権限委譲と振り返りを組み合わせた育成の仕組み、そして中小企業で段階的にリーダーを育てる方法を解説します。
この記事でわかること
・リーダーシップは育てられるのか――「自分なりのスタイル」という考え方
・コルブの経験学習モデルと、ショーンの「リフレクティブ・プラクティショナー」
・若手が管理職を避ける3つの理由と、企業ができる対策
・早期の権限委譲と内省を組み合わせたリーダー育成の仕組み
・中小企業で「段階的に任せる」3つのステップ
中央大学大学院 戦略経営研究科(中央大学ビジネススクール)教授(取材時)。1975年生まれ、愛知県名古屋市出身。1999年一橋大学商学部卒業、2004年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。2009年博士(商学、一橋大学)。香川大学経済学部講師、准教授を経て、2013年4月中央大学大学院戦略経営研究科准教授、2019年4月より同教授。2022年9月よりカリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)客員研究員。デジタル技術を組織に実装する際の摩擦や、企業アルムナイ(退職者コミュニティ)を研究している。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
リーダーシップは生まれつきの資質なのか、それとも育てられるものなのか。犬飼教授は、リーダーシップは育成可能だという立場です。
ただし、全員が同じ型のリーダーになる必要はありません。声の大きいカリスマ型のリーダーもいれば、対話や傾聴で人を動かす調整型・支援型のリーダーもいます。リーダーシップは個性や価値観と結びついているため、「正解の型」にはめるのではなく、自分なりのスタイルを見つけることが重要だと犬飼教授は言います。
リーダーシップはスポーツに似ていて、実践と試行錯誤のなかでしか身につきません。その核心は、「行動→内省→改善」のサイクルを習慣にすること、つまり振り返る力(リフレクション)です。「なぜその判断をしたのか」「結果はどうだったか」を問い直し、そこから意味を引き出せるかどうかが成長を左右します。成功しているリーダーは、自分を振り返る力が高いといいます。
犬飼教授の考え方は、経験から学ぶことに関する2つの代表的な理論に裏付けられています。
| 理論 | 提唱者 | 内容 |
|---|---|---|
| 経験学習モデル(Experiential Learning Cycle) | デイヴィッド・コルブ | ①具体的経験、②内省的観察、③抽象的概念化、④能動的実験の4段階を循環的にたどることで、学習が深まる |
| リフレクティブ・プラクティショナー(省察的実践家) | ドナルド・ショーン(MIT) | 実務家は自らの行動を省察しながら学び続ける存在である。犬飼教授は、これはリーダーにも当てはまるとする |
出典:犬飼教授への取材をもとに編集部作成
企業は、知識やスキルを教えるだけでなく、「経験をどう振り返らせるか」に目を向けるべきだと犬飼教授は指摘します。研修や制度があっても、本人に振り返る習慣がなければ成長は限られます。「学べる人」がリーダーになれる――学び続ける限り、誰もがリーダーとして育ちうるのです。
若手が管理職になりたがらない傾向について、犬飼教授は次の3つの背景を挙げます。
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| ① 責任に見合う裁量や報酬がない | 役職が上がると仕事量や心理的なプレッシャーばかりが増え、裁量は限られ、報酬の納得感も乏しい |
| ② 管理職が「調整役」と見られている | 会議の調整や情報伝達、部門間の板挟みが中心になり、「雑務をこなす係」というイメージが定着している |
| ③ 部下との関係への不安 | 年齢の近い部下への接し方や、指導がハラスメントと受け取られないかという心配が、マネジメント職への否定的な印象につながっている |
出典:犬飼教授への取材をもとに編集部作成
今の若手は、組織への忠誠よりも「自分の価値をどう発揮するか」「どう成長できるか」に関心を持っています。そのため、管理職が成長の機会だと納得できなければ、目指そうとはしないのです(管理職が敬遠される理由については、坂爪洋美教授の解説記事でも紹介しています)。
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| 管理職の再定義 | 管理職を「業務調整係」ではなく、「組織に変化を起こす担い手」「価値を生み出す仕事」と位置づけ直す |
| 早期の意思決定経験 | 若手のうちから新規プロジェクトの立ち上げや部署の方向性の検討に関わらせ、自分の判断が組織に与える影響を実感させる |
| キャリアパスの複線化 | 「マネジメントを経験した後に専門職へ戻る」「管理職を経て経営企画に進む」など複数の道を示し、管理職が袋小路ではないという安心感を与える |
| 文化・風土づくり | 管理職をポジティブに語れる文化、挑戦や失敗を肯定する風土、部下との信頼関係を評価するマネジメントを育てる |
出典:犬飼教授への取材をもとに編集部作成
実際に、若手がマネジメント職を敬遠していたある企業では、管理職の職務定義を「調整業務」から「戦略的な意思決定を任せるもの」に変えたところ、手を挙げる人が増えたといいます。
管理職を「価値を生み出す仕事」として再定義するには、高い成果を上げているリーダーが実際に何をしているのかを知り、自社の管理職像に落とし込むことが手がかりになります。
成果を上げるリーダーの行動を知る
DEFiDEでは、高い収益を上げる企業のリーダーシップの実践をまとめた資料を提供しています。管理職の役割や育成の方針を見直す際の参考にご活用ください。
犬飼教授は、次の2つの柱を同時に設計しなければリーダーは育たないと言います。
| 柱 | 内容 |
|---|---|
| ① 早期に本物の意思決定権限を与える | 例えば30代前半で、事業やプロジェクトの責任者を3〜5年ほど経験させ、成功も失敗も含めて実際の経営判断を下させる。放任ではなく、周囲が支援しつつ最終判断は本人に委ねる「見守られながらの挑戦環境」をつくる |
| ② 経験を内省させる仕組みを用意する | 「なぜその判断をしたのか」「結果をどう捉えているか」「次にどう生かすか」を言語化させる。これがないと、経験は単なる通過点で終わってしまう |
出典:犬飼教授への取材をもとに編集部作成
犬飼教授が教える中央大学ビジネススクール(CBS)では、MBAプログラムに「実践と内省の往復」を体系的に組み込んでいます。
この「アクション→リフレクション→アクション」のループを、2年間で4回繰り返す設計です。他者との対話によって、自分では気づけない思考パターンや行動の癖が浮かび上がります。狙いは知識を詰め込むことではなく、行動を通じて内側から変化を起こすことにあります。
環境が変わり続けるなかで必要なのは、固定化されたスキルではなく、自分の行動を問い直し、次の一手を考え続ける力です。企業の課題は、制度を整えること以上に、「学び続ける習慣」と「経験から意味を引き出す文化」を現場に根づかせることだと犬飼教授は言います(経験から学んで意思決定力を磨く後継者育成については、高田朝子教授の解説記事でも紹介しています)。
リソースの限られた中小企業は、体系的な育成制度を整えにくいものです。しかし犬飼教授は、中小企業はむしろリーダー育成の土壌に恵まれていると見ています。
| 観点 | 大企業 | 中小企業 |
|---|---|---|
| 役割 | 細分化されている | 一人が複数の役割を兼ねる |
| 若手の視野 | 全体像を把握しにくい | 経営に近い現場で全体を見やすい |
| 意思決定への関与 | 裁量が限られがち | 意思決定に関わる機会が多く、「濃い経験」を早く積める |
出典:犬飼教授への取材をもとに編集部作成
ただし、無計画に任せれば本人も組織もリスクを負います。犬飼教授は、段階的に任せることが重要だとして、次の3つのステップを挙げます。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① プロジェクト単位で経験させる | 業務改善、新製品の試作、展示会出展など、比較的リスクの低いものから任せる。目標設定、メンバーの巻き込み、意思決定といった基本動作を体験できる |
| ② 小さな意思決定を任せる | 仕入れ先の選定や営業施策の企画などを、上司が伴走しながら担わせる。失敗してもリカバリーできる範囲であることが条件 |
| ③ プロセスを評価する文化をつくる | 成果だけでなく「どう考え、どう判断し、どう振る舞ったか」にフィードバックする。例えば週1回のミーティングで「今週うまくいかなかったこと」と「そのときの考え」を聞くだけでも、学びの密度は変わる |
出典:犬飼教授への取材をもとに編集部作成
中小企業では、大企業以上に「人を見る目」「日常の言葉かけ」「意思決定の現場」が育成の鍵になります。派手な制度ではなく、日々の仕事のなかに育成の機会を埋め込むことが大切です。
リーダーシップは生まれ持った資質ではなく、実践と内省のサイクルによって育ちます。誰もが「自分なりのスタイル」でリーダーになれる。組織の役割は、その人らしいリーダーシップを引き出す環境を設計することだと犬飼教授は語ります。
正解のない複雑な問題に向き合うには、マニュアルどおりに動く人ではなく、問い、考え、学び続ける人が必要です。「学べる人」を育てることが、企業の競争力に直結するのです。特別な制度がなくても、「まずは任せてみる」「一緒に振り返る」という小さな繰り返しが、大きなリーダーシップを生みます。
A. 犬飼教授は、リーダーシップは生まれつきの資質ではなく育成可能だとしています。カリスマ型や調整型・支援型などさまざまなスタイルがあり、正解の型にはめるのではなく、実践と試行錯誤を通じて自分なりのスタイルを見つけることが重要だといいます。
A. 「行動→内省→改善」のサイクルを習慣にすることです。犬飼教授は、なぜその判断をしたのか、結果はどうだったかを問い直す振り返りの力(リフレクション)が成長を左右するとし、コルブの経験学習モデルやショーンのリフレクティブ・プラクティショナーの考え方を挙げています。
A. 犬飼教授は、責任に見合う裁量や報酬がないこと、管理職が会議や調整に追われる「調整役」と見られていること、年齢の近い部下との関係やハラスメントへの不安の3つを挙げています。
A. 管理職を「組織に変化を起こす担い手」と再定義すること、若手のうちから意思決定を経験させること、管理職から専門職や経営企画に進むなどキャリアパスを複線化すること、挑戦や失敗を肯定する文化をつくることが有効だとしています。
A. 犬飼教授は、中小企業は一人が複数の役割を担い、意思決定に関わる機会が多いため、むしろリーダー育成の土壌に恵まれているとしています。プロジェクト単位で経験させる、小さな意思決定を任せる、プロセスを評価するという段階的な任せ方を勧めています。
戦略を描くのはトップであり、それを現場で形にするのはリーダーです。前編で紹介した「戦略と組織のフィット」とあわせて、自社のリーダー育成のあり方を見直してみてはいかがでしょうか。
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若手に段階的に任せ、プロセスを含めてフィードバックするには、職務や役割、評価、育成の状況を一元的に把握できる仕組みが役立ちます。DEFiDEの「JOB Scope」では、実際の画面を見ながら説明を受けられる個別オンラインデモを行っています。
▶ 前編:「組織は戦略に従う」とは?戦略と組織がズレる理由「組織イナーシャ」と、フィットさせるトップ・マネジメントの仕事(内部リンク)
▶ インタビュー全文:戦略を実行するための組織に組み直そう(後編)(JOB Scopeマガジン)