[JOBSCOPE]教授インタビュー解説

失敗から学ぶ組織とは?挑戦を生む責任の取り方とDX|高橋伸夫教授

作成者: JOB Scope編集部|Oct 19, 2026, 5:42:11 AM

 

失敗から学ぶ組織とは、失敗を個人の責任に帰して終わらせず、「なぜそうなったのか」「構造に問題はないか」を問い、記録して次に生かす組織です。東京理科大学の高橋伸夫教授は、経営者や上司が自ら責任を引き受ける姿勢を示すことで社員は挑戦でき、制度もDXも、結局は運用する人と目的次第だと語ります。

「挑戦しろ」と言われても、失敗すれば責任を問われる。そんな職場では、誰も新しいことに手を出さなくなります。

本記事では、高橋教授へのインタビューをもとに、失敗を記録し学ぶ組織のあり方、挑戦を生む経営者と上司の責任の取り方、「どんな制度も運用次第」という考え方、そして目的から始めるDXについて解説します。

この記事でわかること

・失敗を「もっと良い仕組みに変えた」と言い換えてしまう日本企業の傾向

・失敗を個人の責任にせず、構造の問題を問う組織のあり方

・経営者と上司の「責任の取り方」が挑戦する文化を生む理由

・「どんな制度も運用次第」――制度より、運用する人が大切

・DXは「データ」ではなく「目的」から始める

取材協力:高橋 伸夫 氏

東京理科大学 経営学部 経営学科 教授、東京大学 名誉教授(取材時)。1957年北海道小樽市生まれ。1980年小樽商科大学商学部卒業、1984年筑波大学大学院社会工学研究科退学。東京大学教養学部助手、東北大学経済学部助教授、東京大学教養学部助教授、同経済学部助教授などを経て、1998年東京大学大学院経済学研究科教授。2023年より現職。専門は経営組織論。組織学会賞(高宮賞)、経営科学文献賞、交通図書賞を受賞。著書に『虚妄の成果主義――日本型年功制復活のススメ』(日経BP社)、『ぬるま湯的経営の研究』(東洋経済新報社)、『組織の思想史』『組織の不都合な真実――経営学は科学なのか?』(日本経済新聞出版)、『知らなかったでは済まされない 経営学の話』(高橋書店)など多数。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

失敗を認め、記録することから始める

高橋教授は、日本企業には、失敗を失敗と認めず、「もっと良い仕組みに変えた」と言い換えて記録に残さない傾向があると指摘します。これでは、同じ失敗が繰り返されてしまいます。

日本社会は、戦後の自信喪失と、バブル期の過剰な自信とを行き来してきたと高橋教授は見ています。だからこそ、流行に流されず、失敗を認めて記録し、次に生かす文化を持つことが、変革の前提になるのです。

失敗を責める組織から、学ぶ組織へ

失敗の原因を個人の責任にするだけでは、再発は防げません。高橋教授は、失敗そのものが問題なのではなく、そこから学べるかどうかが問題だと言います。組織の構造や現場に潜む要因を探し、直していくことが必要です。

観点 責める組織 学ぶ組織
失敗への問い 「誰が失敗したのか」 「なぜそうなったのか」「構造に問題はないか」
対応 責任者を処分して終わる 原因を探り、仕組みを直す
記録 失敗を言い換え、記録に残さない 失敗を認め、記録して共有する
社員の行動 失敗を恐れて挑戦しなくなる 失敗から学び、挑戦し続ける

出典:高橋教授への取材をもとに編集部作成

高橋教授が紹介するのは、ある大企業が新規事業で約100億円の損失を出したときの例です。社長は訓示で、その失敗を「高い授業料だから、皆、無駄にするな」と表現しました。社外から集めたIT人材は社内の各部署に配置され、現場の業務改善に生かされたといいます。経営者が失敗を認めることで、社員は挑戦しやすくなるのです(挑戦に伴う失敗のリスクをどうマネジメントするかについては、秋池篤准教授の解説記事でも紹介しています)。

経営者と上司の「責任の取り方」が挑戦する文化を生む

経営者が挑戦を求めながら、小さな失敗で責任を追及すれば、誰も挑戦しなくなります。高橋教授は、責任の追及は海外の方が厳しいとされるものの、日本も「連帯責任」の発想があり、本質的には大きく変わらないと言います。

高橋教授が紹介するのは、かつてある部長が稟議書に判を押すときに語った、「俺が判子を押しているということは、これで失敗したら俺が責任を取るということだ」という言葉です。その部長にとって、責任の取り方とは社長に謝りに行くことでした。同期の部長からは、その部署は部下が元気だと評価されていたといいます。

上司の姿勢 部下への影響
「失敗したら自分が責任を取る」と示す 部下は安心して挑戦し、職場に活気が生まれる
部下に謝罪や責任を押し付ける 部下は失敗を恐れ、動かなくなる

出典:高橋教授への取材をもとに編集部作成

海外の研究でも、上司に意見できる人は部下からの信頼も厚く、部下への影響力が上司への影響力にもつながることが示されているといいます。

「どんな制度も運用次第」――制度の成否を決めるのは人

高橋教授の持論は、「どんな制度も運用次第だ」というものです。同じシステムを使っていても、運用の仕方によって結果は大きく変わります。

例えば、稟議をワークフローのシステムに置き換えても、上司の承認をどう得るかは人によって異なります。直接話をしに行く人もいれば、システムに任せきりにする人、責任を他人に転嫁する人もいます。根本にあるのは、人の問題なのです。

他社が取り組んでいると聞くと、よく考えずに追随してしまう経営者も少なくありません。制度を入れる前に、誰がどのように運用するのか、自社に本当に合うのかを考えることが大切です。

挑戦する文化を育てるには、成果だけでなく、挑戦の過程も見えるようにし、評価に反映できる仕組みが支えになります。

挑戦の過程も評価できる仕組みをつくる

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DXは「データ」ではなく「目的」から始める

高橋教授は、DXは「何をやるのか」が明確であれば実現できるが、抽象的な指示だけでは現場は動けないと言います。データを大量に持っていても、目的がなければ、分析の依頼も成果もあいまいになってしまいます。いわば、「データ自身に語らせるのは無理」なのです。

20年ほど前から、企業が大学に「ビッグデータを活用してほしい」と依頼するケースが増えましたが、目的がないために対応が難しかったといいます。実際にDXを進めている企業の多くは、「DXだとは思わずに取り組んでいた」と話し、後からDXとして意味づけされることが多いそうです。

事例:顧客の車両データを生かすガソリンスタンド

高橋教授が判定委員長を務めた日本経営品質賞で、2021年度に中小規模部門で受賞したヤマヒロは、首都圏でガソリンスタンドを30店舗以上運営しています。

取り組み 内容
データを蓄積する 社長の指示で、セルフ式のスタンドでも顧客の車両データを手入力で蓄積した
仕組みにする ナンバープレートを読み取ると、車検や点検の時期が画面に表示される仕組みをつくった
事業に生かす 車の買い替え時期を迎えた顧客に、レンタカー部門の中古車を紹介し、よく売れているという

出典:高橋教授への取材をもとに編集部作成

経営者が「何をしたいのか」を示し、それを具体的な施策に落とし込む。DXやデータ活用の出発点は、目的を明確にすることなのです(変化に応じて素早く判断を回す考え方については、原田勉教授の解説記事でも紹介しています)。

よくある質問(FAQ)

Q. 失敗から学ぶ組織とはどのような組織ですか?

A. 失敗を個人の責任に帰して終わらせず、「なぜそうなったのか」「構造に問題はないか」を問い、仕組みを直し、失敗を記録して次に生かす組織です。高橋教授は、失敗そのものではなく、そこから学べるかどうかが問題だとしています。

Q. 日本企業は失敗をどう扱いがちですか?

A. 高橋教授は、日本企業には失敗を失敗と認めず、「もっと良い仕組みに変えた」と言い換えて記録に残さない傾向があると指摘しています。これでは同じ失敗が繰り返されるため、失敗を認めて記録することが重要です。

Q. 挑戦する文化を育てるには、上司は何をすべきですか?

A. 高橋教授は、失敗したら自分が責任を取るという姿勢を上司が示すことが大切だとしています。部下に謝罪や責任を押し付ける職場では部下が動かなくなり、責任を引き受ける上司のもとでは部下が元気に挑戦できます。

Q. 「どんな制度も運用次第」とはどういう意味ですか?

A. 同じ制度やシステムを使っていても、運用する人によって結果が大きく変わるという意味です。高橋教授は、制度を入れる前に、誰がどのように運用するのか、自社に本当に合うのかを考えるべきだとしています。

Q. DXやデータ活用がうまくいかないのはなぜですか?

A. 目的があいまいなまま進めるためです。高橋教授は、データを大量に持っていても目的がなければ成果は出ず、「データ自身に語らせるのは無理」だとしています。経営者が何をしたいのかを示し、具体的な施策に落とし込むことが出発点です。

まとめ:失敗を認め、責任を引き受け、目的から始める

  • 失敗を言い換えずに認め、記録して次に生かす
  • 失敗を個人の責任にせず、「なぜそうなったのか」と構造の問題を問う
  • 経営者と上司が責任を引き受ける姿勢を示すと、社員は挑戦できる
  • どんな制度も運用次第。導入前に、誰がどう運用するかを考える
  • DXは「データ」ではなく「目的」から始める

では、人事制度を見直そうとするとき、経営者や人事担当者は何に気をつけるべきなのでしょうか。後編では、成果主義の教訓と、「ダメだったときに戻せるのか」という問い、そして日本企業が自信を持つべき理由を紹介します。

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