若手や女性が管理職になりたがらない理由は、主に「多忙による仕事の魅力の低下」「キャリアとしての遠さ」「仕事上のチャレンジの少なさ」の3つです。法政大学の坂爪洋美教授は、部下のキャリア支援まで管理職に「丸投げ」している現状を見直すことが必要だと指摘します。
プレイングマネージャーとしてあれこれ背負い、疲れ果てている管理職の姿を見て、「管理職にはなりたくない」と考える若手や女性が増えています。パーソル総合研究所の調査でも、今の会社で管理職になりたいと答えた人は16.7%にとどまっています。
| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 現在の勤務先で継続して働きたい人 | 45.9% |
| 現在の勤務先で管理職になりたい人 | 16.7% |
出典:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査 2025」
本記事では、管理職を研究する坂爪教授へのインタビューをもとに、管理職が敬遠される3つの理由、部下のキャリア支援を管理職に丸投げしないための整理、若手を引き留めるための昇進・降格の見直し、ジョブ型で変わりうる管理職と人事部の役割、女性の活躍を阻む「善意の配慮」、そして中小・中堅企業の経営者と人事責任者に求められることについて解説します。
この記事でわかること
・若手や女性が管理職を敬遠する3つの理由
・部下のキャリア支援を管理職に丸投げしないための整理と、外部の活用
・若手を引き留めるための昇進要件の見直しと「降格」の考え方
・ジョブ型で変わりうる管理職と人事部の役割
・女性の活躍を阻む「善意の配慮」と、必要な一押し
法政大学 キャリアデザイン学部 教授(取材時)。慶應義塾大学文学部卒業。民間の人材サービス会社勤務を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程単位取得退学。博士(経営学)。和光大学を経て、2015年より現職。専門は人的資源管理・組織行動論。著書に『シリーズダイバーシティ経営 管理職の役割』(中央経済社、2020年、共著)、論文に「管理職の役割の変化とその課題――文献レビューによる検討」(『日本労働研究雑誌』2020年、単著)など。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
坂爪教授は、若手や女性が管理職を敬遠する理由として、次の3つを挙げています。
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| ① 仕事の魅力の低下 | 多忙さや過重な負担が、管理職という仕事の魅力を下げている |
| ② キャリアとしての遠さ | 大企業では課長に昇格するのは40歳前後。キャリアへの関心と不安が高い20代半ばの若手にとって、15年後の自分やこの会社にいることさえ想像しにくく、管理職になることの意味が描けない |
| ③ 仕事上のチャレンジの少なさ | 「失敗経験が大事」と言われる一方で、失敗させにくい環境になっている。日々の仕事でチャレンジしていないと、管理職になって何をしたいかを思い描きにくい |
女性の場合は、さらに事情が加わります。管理職になる30〜40代は、育児を担う人が多い年代です。育児をしながら働き続けることはできるようになっても、さらに大きな責任を持つ管理職として働くハードルは高いのが実情です。坂爪教授は、子育てをしながら管理職として働ける環境やキャリアパスをつくっていく必要があると言います。
部下のキャリア形成支援に悩む管理職は少なくありません。坂爪教授は、「部下のキャリア形成支援は、本当に管理職の仕事なのか」というところに立ち戻ってもよいと言います。
部下に「2〜3年後にこうなりたい」というビジョンがあれば、「今の仕事はそれにプラスになる」と説明するのは管理職の役割です。しかし、「どうしたらよいかまったくわからない」という部下と一緒に、3年後、5年後のありたい姿をゼロから考えることまで管理職に求めるのは、丸投げしすぎではないかというのが坂爪教授の立場です。
「管理職にそこまで求めるなら、管理職の仕事の何かを減らしましょう」と言いたいです。
――坂爪教授
働き方改革で若手の育成は難しくなり、ハラスメントへの配慮も求められます。そんな中で1on1を導入し、「育成は一対一で」「管理職の皆さん頑張って」というのが今の流れです。しかし、管理職が新たに任された仕事に必要な能力開発をする時間はなく、武器を持たない状態で頑張っていると言ってもよいほどだと坂爪教授は指摘します。
さらに、部下に「本当はこの仕事は好きではない」と言われても、課長クラスには部下を別の部署に異動させる権限がないことがほとんどです。強い希望を持つ社員のキャリアを会社として支援するなら、配置や異動の権限を持つ人が話を聞く必要があります。
坂爪教授によると、会社にとってのキャリア自律の意義は、社員が日々の仕事に自律的・積極的に取り組むようになることです。キャリアへの自律と日々の仕事への自律はつながっており、部下に日々の仕事へ自律的に取り組む姿勢を身につけさせるのは、管理職にしかできない仕事です。そのうえで、キャリア支援を次のように切り分けることが必要だといいます。
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 管理職にしかできないこと | 日々の仕事に自律的に取り組む姿勢を育てる |
| 管理職がやったほうがよいこと | 部下のビジョンと今の仕事のつながりを説明する |
| 管理職以外がやってもよいこと | ゼロからのキャリア相談、異動の希望を聞く(配置や異動の権限を持つ人、キャリアの専門家など) |
出典:坂爪教授への取材内容をもとに編集部作成(例は取材内容から整理)
人的資源に余裕のある大企業であれば、相談スキルの高い人材や、キャリアコンサルタントの資格を持つ人を起用して、社内に相談体制をつくることができます。余裕のないことが多い中小・中堅企業は、外部のキャリアコンサルタントを活用する方法もあります。1社で契約するほどのニーズがなければ、複数の企業で1人のキャリアコンサルタントと契約するやり方も考えられます。自社だけで何とかしようとこだわる必要はないと坂爪教授は言います。
管理職の負担を減らすには、まず管理職や社員が今の仕事や職場をどう感じているのかを把握することが出発点になります。
管理職の負担感や、社員のキャリア意識をつかむ
管理職の負担がどこに偏っているのか、社員がキャリアや職場に何を求めているのかを知ることが、支援の切り分けや施策づくりの出発点です。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」は、生成AIで従業員の属性や組織の特性に合わせた質問を作成し、組織の状態を迅速にきめ細かく可視化します。
終身雇用を必ずしも前提としない今の若手は、労働市場で自分の価値を高めることへの意欲が高く、それが「この会社で働き続けて大丈夫か」という不安にもつながっています。坂爪教授は、流動性の高い人材が社員であることを、経営や人事が理解する必要があると言います。そのうえで、次のような取り組みを提案しています。
坂爪教授によると、降格を例外的なものとしないという考え方は、どこで話してもほとんど受け入れてもらえないといいます。それでも、再挑戦を前提とした降格は、若手に挑戦の機会を広げる方法の一つになりえます。
管理職からは、職務内容が明示されるジョブ型のほうが評価しやすいという声もあります。坂爪教授は、現時点ですぐに管理職の役割が大きく変わるとは考えていませんが、今後の展開によっては変化が生じうると言います。
| 立場 | 起こりうる変化 |
|---|---|
| 管理職 | ジョブに必要な経験や能力を判断しやすい職場が、部下を選ぶ裁量を持つ可能性がある。自分で選んだ部下でチームを構成できれば、マネジメントしやすくなり、腹をくくってマネジメントできる |
| 人事部 | 人事権が部門に部分的に移り、部門の意見を尊重した異動になれば、人事部の力が低下することも考えられる。ただし全体最適の観点から、人事部が異動に関わらなくなることはない |
ただし企業の人と話すと、今でさえ忙しい管理職に裁量権を持たせる、つまり仕事を増やすことには、慎重あるいは否定的な人が多いといいます。
「キャリアビジョンを持たない女性が多い」という指摘について、坂爪教授は、現時点では女性のほうがキャリアビジョンを持ちにくいのかもしれないと言います。育児や介護など仕事以外の要因でキャリアが流動的になりやすいこと、ロールモデルが少ないこと、そして長らく女性社員に「キャリアビジョンを持ってほしい」と求めてこなかったことが背景にあるからです。坂爪教授は、女性だけに責任を押し付けない視点が必要だと語ります。
日本企業の女性管理職の割合は、まだ平均11.1%にとどまっています(帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2025年)」)。女性が中心に立てる場をつくるために、坂爪教授は一見矛盾する2つのことを同時に進める必要があると言います。
| 取り組み | 内容 |
|---|---|
| ① 善意の配慮をなくす | 負荷は高いがよい経験になる仕事を、能力が同等なのに「まずは男性」「女性に無理はさせられない」と男性に任せてしまうことがある。悪意はなく優しさからでも、こうした些細な場面に敏感になり、なくしていく |
| ② 追加の後押しをする | 「課長に挑戦してみては」と言われて「私には無理です」と答える確率は、女性のほうが圧倒的に高い。「やる気がないなら結構」と切り捨てず、「君ならできる」と一押しする |
「平等と言いながら手厚くするのか」という批判を受けることもあるといいます。それでも坂爪教授は、今の段階では矛盾を飲み込んで、両方に取り組むことが大切だと語ります。
人材確保が難しくなる中で、坂爪教授は経営者と人事責任者に、それぞれ次のことを期待しています。
社外の人に向けて「この会社の魅力はどこにあるのか」、社内の人に向けて「うちの会社にはこんなよいところがある」と示すこと。その両方がなければ人は確保できず、それを示すのは経営者の役割です。キャリア自律やダイバーシティ経営が進むと、会社や職場の求心力は低下しがちです。「こんな働きがいがある、こんなキャリアの可能性がある」と発信し、人々が組織の一員としてまとまる仕組みをつくることが求められます。
人事責任者には、2つのことを期待しています。1つは、人材育成のあり方の再構築です。ハラスメントへの対応、年上部下のリスキリング、短い労働時間の中での若手育成など、育成は以前より格段に難しくなっています。もう1つは、ミドル・シニアのマネジメントのあり方の整備です。再雇用制度などで職場の平均年齢が上がり、年上の部下を持つ管理職も増えています。管理職のマネジメントのしやすさをいかに高めるかを考えることが大切です。
A. 坂爪教授は3つの理由を挙げています。多忙さや過重な負担による管理職の仕事の魅力の低下、課長になる40歳前後までの15年先が想像しにくい「キャリアとしての遠さ」、そして日々の仕事でチャレンジの機会が少なく、管理職になって何をしたいかを描きにくいことです。女性の場合は、育児を担う年代と管理職になる年代が重なることもハードルになっています。
A. 坂爪教授は、部下のキャリア支援をすべて管理職に任せるのは丸投げしすぎだとしています。日々の仕事に自律的に取り組む姿勢を育てることは管理職にしかできませんが、ゼロからのキャリア相談や異動の希望を聞くことは、配置の権限を持つ人やキャリアの専門家が担ってもよいとし、役割を切り分けることを勧めています。
A. 坂爪教授は、人的資源に余裕のない中小・中堅企業では、外部のキャリアコンサルタントを活用する方法があるとしています。1社で契約するほどのニーズがなければ、複数の企業で1人のキャリアコンサルタントと契約するやり方も考えられ、自社だけで何とかしようとこだわる必要はないと述べています。
A. 坂爪教授は、能力要件を満たしていれば年数の縛りを外すなど昇進の仕組みを見直し、昇進の実現可能性を具体的に示すことを提案しています。また、実力不足ならいったんポジションから外し、能力を高めてから再挑戦してもらうなど、降格を懲罰ではなく再挑戦の方法として根づかせる考え方も示しています。
A. 坂爪教授は、能力が同等なのに負荷の高い仕事を男性に任せてしまう「善意の配慮」をなくすことと、管理職への挑戦をためらう女性に「君ならできる」と追加の後押しをすることの2つを、矛盾を飲み込んで同時に進めることが大切だとしています。また、キャリアビジョンを持ちにくい現状について、女性だけに責任を押し付けない視点が必要だと述べています。
管理職が疲れ果てた姿を見せている限り、次の世代は管理職を目指しません。管理職の負担を減らし、挑戦できる道筋を示すこと。それが、次世代のリーダーを育てるための第一歩です。
昇進要件とキャリアパスを、人事制度から見直す
若手が管理職に挑戦できる道筋を示すには、役割ごとの要件を明確にし、年数ではなく能力や成果で昇進・再挑戦できる人事制度が欠かせません。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、経営に直結する戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援します。
▶ 前編:ジョブ型はキャリア形成にプラスになるのか?職務記述書がキャリアを描きやすくする理由と、雇用と直結させるリスク(内部リンク)
▶ インタビュー全文:ジョブ型はキャリア形成にプラスの側面も、雇用との安易な直結には懸念(後編)(JOB Scopeマガジン)