OODAループとは、観察(Observe)、情勢判断(Orient)、意思決定(Decide)、行動(Act)の4つのステップを繰り返し回す、試行錯誤の手法です。イノベーション・マネジメントを専門とする神戸大学の原田勉教授は、イノベーションとは試行錯誤であり、計画どおりに進めるPDCAと、試行錯誤を回すOODAループを両輪で回すことが大切だと語ります。
日本のものづくりが世界を席巻した時代は遠くなり、世界にインパクトを与えるイノベーションがなかなか生まれていません。その突破口はどこにあるのでしょうか。
本記事では、イノベーション経済学とイノベーション・マネジメントの第一人者である原田教授へのインタビューをもとに、イノベーションの定義、イノベーションを阻む「制度」の問題、OODAループとPDCAの違いと使い分け、試行錯誤を効率よく続けるための「OODAマネジメント」、そして生成AIと創造性の関係について解説します。
この記事でわかること
・イノベーションとは「技術での成功+市場での成功」
・イノベーションは「創造性+制度」。制度が創造性の足を引っ張る例
・OODAループとは何か、PDCAとの違いと使い分け
・試行錯誤を長く、安く続ける「OODAマネジメント」
・15%カルチャーの誤解と、生成AIが創造性に与える影響
神戸大学大学院 経営学研究科 教授(取材時)。1967年京都府生まれ。スタンフォード大学Ph.D.(経済学)、神戸大学博士(経営学)。1997年神戸大学経営学部助教授。科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専門はイノベーション経済学、イノベーション・マネジメント。著書に『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)、訳書に『「価値」こそがすべて! ハーバード・ビジネス・スクール教授の戦略講義』(東洋経済新報社)など。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
原田教授は、イノベーションには技術での成功と市場での成功の両方が必要だと言います。技術的に成功して新製品を開発できても、市場でうまくいかなければイノベーションとは言えません。
そのうえで原田教授は、今の日本の問題は技術での成功が減っていることではなく、市場での成功が難しくなっていることだと指摘します。新技術や新製品は生まれていても、それを収益化できていないのです。先進国市場では製品のライフサイクルが速く、すぐに陳腐化するうえ、高品質・高機能が求められる一方で価格は下がり続け、儲かりにくくなっています。
一方で、サービス業に目を向けると多くの革新が起きています。例えば一部の先端的な学習塾は、講師が教える形から、わかりやすく作られた映像コンテンツを配信し、生徒の学習時間の管理に徹する形へと変わり、高い収益を上げています。イノベーションの起こりやすさは領域によって異なるのです(製造業でイノベーションが加速しない理由は、後編で詳しく紹介します)。
原田教授は、イノベーションは創造性と制度の掛け合わせだと言います。創造性はすでにあっても、制度が邪魔をするケースはよくあります。
| 創造性の足を引っ張る制度 | 内容 | 解決の方向 |
|---|---|---|
| 積み上げ式の予算 | 予算は年度初めから執行され、不測の事態に対応できる予算がない。本当はできるのに「予算がないからできない」 | 緊急時に使える予算の仕組み(例:かつてシャープにあった、社長直属の予算を使う緊急プロジェクト制度) |
| ボトルネックへのサポートがない | どこかの部署や人が足を引っ張っても支援がないため、責任問題を恐れて期間や予算を「サバ読み」する。本来3カ月でできることに6カ月かかる | ボトルネックを明確にし、予算面で支援する。五分五分でできる水準を出させ、できなかったら必ず支援する |
出典:原田教授への取材をもとに編集部作成
創造性を邪魔する制度を取り除けるかどうかが、イノベーションの実践的な鍵になると原田教授は語ります。
OODAループとは、簡単に言えば試行錯誤です。原田教授は、PDCAとの違いを次のように説明します。
| PDCA | OODAループ | |
|---|---|---|
| 考え方 | 決まった計画を遂行する | 計画どおりにいかないことを前提に、試行錯誤を繰り返す |
| 回し方 | 年度で1回回す程度 | 一定の条件の範囲内で何度も繰り返す(ループ) |
| 向いている仕事 | 定型業務(生産計画など、マニュアルどおりにやればうまくいく仕事) | 非定型業務(計画どおりにいかず、工夫が必要な仕事) |
出典:原田教授への取材をもとに編集部作成
ループ構造とは、条件が満たされる限り続けるということです。プログラミングのwhile文やfor文のように、見て、直感的に判断し、行動することを繰り返していきます。
原田教授が強調するのは、OODAループとPDCAは対立するものではないということです。大枠の計画を立てても、詳細な行動手順まで定めていることは少なく、どうしても試行錯誤の部分が残ります。工場でも、決められたとおりに行う生産活動と並行して、創意工夫と試行錯誤が求められる改善活動が行われています。
仕事に間違い、失敗がないということは、まず考えられません。
――原田教授
トップダウンで「PDCAを実践しろ」と指示されても、その通りにはいかないのが実情です。PDCAをしっかり回すためにも、現場でOODAループを回す必要がある――両輪で回すことが大切だと原田教授は語ります。
原田教授の友人で、GAFAの一社でプログラマーをしている人は、一流と二流のプログラマーの違いを「二流は10回失敗したら諦める。一流は99回駄目でも、100回目に成功する」と語ったといいます。プログラミングはバグとの戦いであり、失敗にどれだけ耐えられるかが差を生むのです。
| 試行錯誤を続けるために必要なもの | 内容 |
|---|---|
| 心理的な安全性 | 失敗しても挑戦を続けられる雰囲気 |
| 予算の裏付け | 試行錯誤を続けられるだけの資金 |
| バーチャル化 | 実物で試すとお金がかかる。2次元より3次元のCADのように、仮想空間で試すとスピーディーに試行錯誤できる。ただし捨てている部分もあるため、現実化(アクチュアル化)して問題を浮き彫りにする相互作用が大切 |
出典:原田教授への取材をもとに編集部作成
試行錯誤をできるだけ長く、成功するまで続けられるか。そのための時間とコストを下げられるか――これがマネジメントにとって重要であり、「OODAマネジメント」の考え方です。詳細は、原田教授の著書『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)にまとめられています。
試行錯誤を組織で続けるには、計画どおりに進まないことを前提に、目標と振り返りを上司と本人がこまめに共有できる仕組みも役立ちます。
目標と振り返りを、こまめに共有する仕組みを
計画どおりにいかない仕事で試行錯誤を続けるには、目標や進み具合、振り返りの内容を上司と本人が共有し、軌道修正しやすくすることが大切です。DEFiDEの「JOB Scope」では、実際の画面を見ながら説明を受けられる個別オンラインデモを行っています。
「両利きの経営」は、簡単に言えば儲かっている事業のお金で新しいことを始めることです。資金繰りに困っている状況では試行錯誤はできず、ある程度の余裕が必要だと原田教授は言います。
勤務時間の15%を好きな研究開発に使えるスリーエムの「15%カルチャー」は有名で、Googleも一時「20%ルール」を設けていました。ただし原田教授は、15%カルチャーは「何でも好きなことをしてよい」という制度ではないと指摘します。好きなことをするにはお金がかかり、スリーエムでは社内のファンドに応募したり、事業部と交渉したりして、自分で予算を取ってくることが前提になっています。形式的に申請すれば自動的にお金が出る日本企業の制度とは、まったく違うのです(時間や空間の「余白」を創造性に生かす考え方は、稲水伸行准教授の解説記事でも紹介しています)。
原田教授は、生成AIがイノベーションを加速するかどうかは使う人によると言います。小中高生に使わせるのがよいかはわからず、考える力が低下するおそれもあります。一方、20歳を超えた大人であれば、使うと非常に効率がよいといいます。
原田教授が神戸大学のMBAの学生に聞くと、ほぼ全員が生成AIを使っているそうです。コーディングや、2週間かかっていた会議資料の作成も短時間でできるようになりました。間違いが多いなど問題点はあるものの、キャッチボールやブレーンストーミングがしやすく、うまく使えば創造性にプラスに働くと原田教授は見ています。
A. 観察(Observe)、情勢判断(Orient)、意思決定(Decide)、行動(Act)の4つのステップを、条件が満たされる限り繰り返し回す手法です。原田教授は、簡単に言えば試行錯誤のことであり、計画どおりにいかない仕事で工夫を重ねるために必要だと説明しています。
A. PDCAは決まった計画を遂行する考え方で、年度で1回回す程度です。OODAループは計画どおりにいかないことを前提に、一定の範囲内で何度も試行錯誤を繰り返します。原田教授は、定型業務はPDCA、非定型業務はOODAループが向いているとしています。
A. 原田教授は、両者は対立するものではなく、両輪で回すことが大切だとしています。大枠の計画を立てても詳細な手順まで決まっていることは少なく、現場では試行錯誤が必要になるため、PDCAをうまく回すためにもOODAループが必要だと述べています。
A. 原田教授は、技術での成功と市場での成功の両方が必要だとしています。また、イノベーションは創造性と制度の掛け合わせであり、積み上げ式の予算やボトルネックへのサポート不足といった制度が創造性の足を引っ張ることが多いと指摘しています。
A. スリーエムで有名な、勤務時間の15%を好きな研究開発などに使える制度です。原田教授は、何でも好きなことをしてよいわけではなく、社内ファンドに応募したり事業部と交渉したりして、自分で予算を取ってくることが前提になっている点が重要だと指摘しています。
後編では、日本企業のイノベーションが停滞する原因として、製造業の「100億円の壁」、グローバルニッチとサムスンの途上国戦略、人的資本経営のパラドックス、ジョブ型への見解、そして顧客と従業員の「バリュードライバー」を見極める重要性について解説します。
試行錯誤を支える人事制度を
失敗を恐れず試行錯誤を続けられる組織をつくるには、挑戦のプロセスや周囲への貢献を評価し、学びにつなげる人事の仕組みが欠かせません。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、経営に直結する戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援する人事制度改革プラットフォームです。
▶ 後編:日本企業のイノベーションはなぜ停滞するのか?「100億円の壁」とグローバルニッチ、顧客と従業員の「バリュードライバー」(内部リンク)
▶ インタビュー全文:イノベーションとは、試行錯誤なり(後編)(JOB Scopeマガジン)