[JOBSCOPE]教授インタビュー解説

優秀な若手の流出を防ぐには?成長実感とキャリア・プラトー|山本寛名誉教授

作成者: JOB Scope編集部|Oct 13, 2026, 12:43:07 PM

 

若手・優秀人材の流出を防ぐうえで最も有効なのは、コミュニケーションの活性化です。青山学院大学の山本寛名誉教授は、縦・横・斜めのコミュニケーションを活発にし、若手に「成長実感」「成長予感」「貢献実感」をセットで味わってもらうことが大切だと語ります。あわせて、管理職に余裕を持たせ、キャリアが停滞する「キャリア・プラトー」に備えることも求められます。

人的資本経営では、社員の能力開発や専門性の向上を支えることが欠かせません。しかし、育てても転職が当たり前になり、若手や優秀な人材の流出が続いている――これは多くの経営者や人事責任者が抱える課題です。

山本名誉教授の研究の出発点は、職業適性でした。その後、社内の昇進、転職へと研究を広げ、終身雇用で一社に長く勤めるパターンが大きく変わるなかで、本人の意識によって大きく変わる「キャリア」と、組織がそれにどう向き合うべきかを主要なテーマにしてきました。本記事では、そのインタビューをもとに、流出を防ぐコミュニケーション、成長を実感できる職場づくり、キャリア・プラトー、そして会社と人を結びつける「専門性」を解説します。

この記事でわかること

・最も有効なリテンション対策と、縦・横・斜めのコミュニケーション

・「成長実感」「成長予感」「貢献実感」をセットで高める方法

・管理職の業務を減らし、余裕を持たせる必要性

・キャリア・プラトーとは何か、人的資本にどう影響するか

・会社と人を結びつける軸としての「専門性」

取材協力:山本 寛 氏

青山学院大学 名誉教授。博士(経営学)。銀行、市役所での勤務を経て大学教員となり、2001年から青山学院大学経営学部で人的資源管理論、キャリアデザイン論を担当(本インタビューの取材時は経営学部教授)。メルボルン大学客員研究員を歴任。日本経営協会 経営科学文献賞などを受賞。専門は働く人のキャリアと、それに関わる組織のマネジメント。主な著書に『人材定着のマネジメント』(中央経済社)、『連鎖退職』『なぜ、御社は若手が辞めるのか』『「中だるみ社員」の罠』(日経BP)、『働く人の専門性と専門性意識』『自分のキャリアを磨く方法』(創成社)など。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

最も有効なリテンション対策は「コミュニケーションの活性化」

山本名誉教授は、若手・優秀人材のリテンション(人材の定着)で最も重要なのはコミュニケーションの活性化だと言います。比較的自由に意見を言え、同僚から率直な意見や反論も返ってくる状態です。これは「心理的安全性」と言い換えることもできます。山本名誉教授は、コミュニケーションを縦・横・斜めの3つの方向に分けて、具体的な施策を挙げています。

施策(方向) ポイント
縦:1on1ミーティング 離職の兆しをつかむのが最も望ましい。若手は年上の上司に希望のキャリアをすぐには話さないため、関係づくりに時間がかかる。上司は傾聴に徹し、「1週間前に頼んだ件はどうなった?」といった進み具合の話は避ける
縦:職場懇談会 中堅・中小企業なら全社単位でもよい。社員が普段感じていることを自由に話す場。ただ聞くだけなら実施しない方がよく、若手の意見に経営側がどう対処するかを、きめ細かくフィードバックする
横:ピアボーナス アプリや社内チャットで仲間の良い行動を称賛し、少額のボーナスやポイントを贈る
横:ファミリーデー 従業員の少ない企業で、家族をオフィスに招いて交流する
斜め:社内の部活動・イベント 数年たつと同じ部署の先輩には相談しにくくなるため、他部署に知り合いをつくると相談しやすくなる

出典:山本名誉教授への取材をもとに編集部作成

なお、社員旅行については、今の時代には必要ないというのが山本名誉教授の見方です(リテンション・マネジメントの基本と管理職の役割については、山本名誉教授の別の解説記事でも紹介しています)。

「成長実感」「成長予感」「貢献実感」をセットで

もう一つの施策として、山本名誉教授は、若手に「成長実感」「成長予感」「貢献実感」の3つをセットで持ってもらうことを挙げます。成長したいという欲求は、マズローの欲求5段階説の最上位である「自己実現」に近いものだといいます。

3つの実感 意味 高めるためのポイント
成長実感 自分が成長していると感じられること 褒める頻度を増やし、上司やOJTリーダーがきちんと見る。評価は年1回では間隔が長すぎるため、1カ月単位など細かく行う
成長予感 この先も成長できそうだという見通しを持てること 1〜2年上の先輩が、やりがいのある仕事、良いワーク・ライフ・バランス、相応の収入を得て「キラキラ輝いている」状態をつくり、目標になる存在にする
貢献実感 周りの役に立っていると感じられること 「この仕事をやってくれて、すごく助かっている」「君だから頼んだ」と声をかける

出典:山本名誉教授への取材をもとに編集部作成

一般に、自己評価は他者評価より2割ほど高いと言われます。本人が「頑張っている」と感じているほどには、周りから褒められていないことが多いのです。また、成長は忙しく働いている最中よりも、帰宅してホッとしたときに感じやすいといいます。人は将来の見通しをもとに今を働くため、成長予感も欠かせません。こうした実感を積み重ねることで、本人の成長と周りへの良い影響につながり、エンゲージメントとリテンションが高まるのです(若手の早期離職を防ぐ関わり方については、尾野裕美准教授の解説記事でも紹介しています)。

どんな場面で成長や貢献を実感するかは、一人ひとりが仕事に何を求めているかによって変わります。

若手が仕事に求める価値観を把握する

成長を重視するのか、周りへの貢献を重視するのか――仕事に求めるものは人によって異なります。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」では、従業員が仕事に求める価値観を分析し、関わり方や育成を考えるヒントを得られます。

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管理職の業務を減らし、「余裕」を持たせる

山本名誉教授は、管理職の業務を減らすことも必要だと指摘します。プレイングマネジャーが増えて管理職が疲れ切っていると、部下から見れば「負のロールモデル」になり、優秀な人材の離職を招くからです(管理職になりたくない若手が増える理由については、坂爪洋美教授の解説記事でも紹介しています)。

  • 権限を委譲して業務を減らし、管理職に余裕を持たせる
  • 自分の席から部署全体を見回す時間を持つ
  • パソコン作業や会議ばかりになっていないかを振り返る
  • 「片腕」となるキーパーソンをつくり、部下の動きを代わりに把握してもらう(全員と毎日話すのは難しいため)

こうしたことは部署の戦略そのものであり、戦略を練るためにも管理職には余裕が必要なのです。

キャリア・プラトーとは――企業価値の最大化を阻む停滞

キャリア・プラトーとは、キャリアが停滞している状態のことです。「プラトー」は直訳すると「高原」を意味します。山本名誉教授は、キャリア・プラトーを次の3つに分けて説明しています。

類型 状態
昇進の停滞 課長や部長まで昇進した後、さらに上の職位に昇進できる可能性が大きく下がる。最初に指摘された類型
仕事のマンネリ化 専門性がそれほど高くない仕事は2〜3年で身につき、同じことの繰り返しになって、改善や挑戦ができなくなる
拡大型(山本名誉教授による命名) 仕事が能力を超えて多すぎ、新たな挑戦を考える余裕もない状態。優秀な新人に仕事が集中し、失敗が重なって数年でつぶれてしまう例もある

出典:山本名誉教授への取材をもとに編集部作成

管理職のポストは減っています。組織のフラット化で課長職をなくす企業もありますが、やる気のある中堅層が滞留すれば、離職につながりかねません。忙しすぎる、あるいは同じ仕事の繰り返しでモチベーションが下がると、成長実感も失われます。人は適度に挑戦的で刺激のある仕事でなければ能力が伸びず、結果として業績の低迷を招きます。キャリア・プラトーは、人的資本の価値の最大化を阻む要因になるのです。

会社と人を結びつける軸は「専門性」

山本名誉教授は2023年、著書『働く人の専門性と専門性意識――組織の専門性マネジメントの観点から』(創成社)を刊行しました。執筆の背景には、次の3つの状況があったといいます。

  1. 企業間の競争が激しくなり、多くの企業が社員の知識や専門性を重視するようになった
  2. 現場では、使うアプリやそのバージョンが変わるだけでなく、専門性が求められるようになった
  3. 働く人自身が、専門性の向上を目指すようになった

「専門」と「専門性」は違う

言葉 意味
専門 医者と弁護士のように、実際に携わる分野そのもの。「餅は餅屋」として、専門外への関心を失いがち
専門性 将来活躍したい分野や、身につけたいスキルを考え、高めていくこと

出典:山本名誉教授への取材をもとに編集部作成

山本名誉教授は、まず自分の専門分野を決め、それを高めていくことが誰にとっても必要だと言います。専門分野は細かくなりすぎているほど細分化が進んでいますが、分野を決めてゼロから少しずつ高めていくことは誰にでもできます。そして、ジョブ型雇用も人的資本経営も、結局は専門性であり、専門性という軸で会社と人が結びつくというのです。著書では、能力開発などの観点から、組織が何をすべきか、何をしない方がよいかも論じています。

中小・中堅企業の経営者・人事責任者へのメッセージ

人的資本の情報開示は、すべての企業にすぐ義務づけられるわけではありません。しかし山本名誉教授は、将来的には、自社の人に関する情報を外部に開示しながら企業価値を高める取り組みが、どの組織にも求められるようになると見ています。

そのうえで、中小・中堅企業は、大企業よりも社員一人ひとりの違いに寄り添ったマネジメントができる可能性が高いと言います。人材不足のなかで、コミュニケーションを含め、丁寧に社員に寄り添うことが重要なのです。

よくある質問(FAQ)

Q. 若手・優秀人材の流出を防ぐには何が最も有効ですか?

A. 山本名誉教授は、コミュニケーションの活性化が最も重要だとしています。比較的自由に意見を言え、率直な意見や反論も返ってくる、心理的安全性のある状態です。1on1や職場懇談会(縦)、ピアボーナスやファミリーデー(横)、社内の部活動(斜め)などが挙げられています。

Q. 1on1ミーティングで気をつけることは何ですか?

A. 離職の兆しをつかむことが最も望ましく、上司は傾聴に徹することが大切です。「頼んだ件はどうなった?」といった進み具合の話は避けます。若手は年上の上司に希望のキャリアをすぐには話さないため、関係づくりには時間がかかります。

Q. 成長実感・成長予感・貢献実感とは何ですか?

A. 成長実感は自分が成長していると感じること、成長予感はこの先も成長できそうだという見通し、貢献実感は周りの役に立っていると感じることです。山本名誉教授は、この3つをセットで持ってもらうことで、エンゲージメントとリテンションが高まるとしています。

Q. キャリア・プラトーとは何ですか?

A. キャリアが停滞している状態のことで、「プラトー」は「高原」を意味します。昇進の停滞、仕事のマンネリ化、仕事が能力を超えて多すぎる拡大型の3つがあり、山本名誉教授は、人的資本の価値の最大化を阻む要因になるとしています。

Q. 「専門」と「専門性」はどう違いますか?

A. 専門は医者と弁護士のように実際に携わる分野そのもので、専門性は将来活躍したい分野やスキルを考え、高めていくことです。山本名誉教授は、ジョブ型雇用も人的資本経営も結局は専門性であり、専門性という軸で会社と人が結びつくとしています。

まとめ:コミュニケーションと成長の実感で、人と会社を結びつける

  • 最も有効なリテンション対策は、縦・横・斜めのコミュニケーションの活性化
  • 若手に「成長実感」「成長予感」「貢献実感」をセットで持ってもらう
  • 管理職の業務を減らし、余裕を持たせて「負のロールモデル」にしない
  • キャリア・プラトーは、人的資本の価値の最大化を阻む
  • 会社と人を結びつける軸は「専門性」。中小・中堅企業こそ一人ひとりに寄り添える

前編では、ジョブ型雇用が「日本型」の形で根付くことと、人事の役割が個別管理に絞られていくことを見てきました。一人ひとりの専門性と価値観に寄り添うことが、人材の流出を防ぎ、人的資本の価値を高める道なのです。

一人ひとりの専門性と成長を見える化する

社員の成長実感を高め、専門性を軸に人と会社を結びつけるには、職務やスキル、評価の情報を一人ひとりについて把握しておくことが役立ちます。DEFiDEの「JOB Scope」は、職務やスキル、評価・育成の情報を一元的に管理できるクラウドサービスです。

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▶ 前編:ジョブ型雇用は日本に根付くか?「働きがい」と「リスキリング」、個別管理へ向かう人事の役割(内部リンク)

▶ インタビュー全文:人的資本経営もジョブ型雇用も、結局は専門性。それを軸として会社と人が結びつく(後編)(JOB Scopeマガジン)