[JOBSCOPE]教授インタビュー解説

法規制は新規事業のヒントになる?隠れたニーズの読み方|高橋勅徳准教授

作成者: JOB Scope編集部|Oct 19, 2026, 3:41:21 AM

 

法規制は、事業を縛るだけのものではなく、まだ満たされていないニーズを見つける手がかりにもなります。東京都立大学の高橋勅徳准教授は、自社に関わる法律を洗い出して規制が生む「不均衡」を読み、それを合法的な事業として組み立てる力こそが「経営技術」であり、日本の経営者に最も足りないものだと語ります。

コンプライアンスが重視される今、「法律どおりにやっていては新しい事業は生まれない」と感じている経営者や新規事業の担当者もいるかもしれません。一方で、法を軽視すれば、事業も会社も立ち行かなくなります。

本記事では、高橋准教授へのインタビューをもとに、法と倫理と付き合うための「経営技術」、黒と白の境界を知ることの意味、法規制から隠れたニーズを読む方法、そして若手と管理職にこそこの知識が必要な理由を解説します。なお、本記事は違法行為を勧めるものではなく、法と倫理の境界を正しく理解し、社会に受け入れられる形で事業をつくるための考え方を紹介するものです。

この記事でわかること

・法と倫理と付き合うための「経営技術」とは何か

・黒と白の境界を知る人だけが、グレーを扱える理由

・法規制が生む流通・供給・性能の「不均衡」から、隠れたニーズを読む方法

・若手社員と管理職に、法と倫理の知識が必要な理由

・法を「守るもの」とする日本と、「付き合うもの」とする海外の違い

取材協力:高橋 勅徳 氏

東京都立大学大学院 経営学研究科 准教授(取材時)。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)。沖縄大学法経学部専任講師、滋賀大学経済学部准教授、首都大学東京大学院社会科学研究科准教授を経て現職。専攻は企業家研究、ソーシャル・イノベーション論。第4回日本ベンチャー学会清成忠男賞本賞、第17回日本NPO学会賞優秀賞を受賞。著書に『イ・リーガル・アントレプレナーシップ――法と倫理のはざまを漂う企業家精神』(同文舘出版)、『ライフスタイル起業』(大和書房)、『アナーキー経営学』(NHK出版)、『婚活戦略』など。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

日本の経営者に足りないのは「経営技術」

成功した企業家と、そうでない人の違いはどこにあるのでしょうか。高橋准教授は、怪しげにも見える事業機会を見つけたときに、それを合法的なビジネスモデルとして組み立てられるかどうかだと言います。普通の人は機会を表面的に受け取り、そのまま違法行為に踏み込んでしまいがちです。この差を生むのが「経営技術」の有無です。

高橋准教授は、若い人に違法行為を勧めるつもりはまったくないと強調します。そのうえで、起業や経営には法や倫理との付き合い方が欠かせないと言います。経営学や法律の教科書、一般的なビジネス書よりも、法と倫理の境界で事業をしてきた企業家に目を向けたほうが、その実践的な構造が見えやすいというのです。

高橋准教授は50代を過ぎて、日本の経営者に最も足りないのは、この技術的な側面だと強く感じるようになったといいます。

黒と白を知る者だけが、グレーを扱える

法と倫理のはざまで事業を組み立てる企業家は、自分の行為のどこからが黒で、どこまでが白なのか、その境界を正確に把握しています。そして、どのような手続きを踏めば白と判断されるのかを踏まえて、事業を組み立てます。

「知識を詰め込むと創造性が失われる」という通説がありますが、高橋准教授の見方は逆です。知っているからこそ、グレーを白に寄せていくことができるのです。

ステップ 内容
① ニーズを見つける 法律で規制され、満たされていないニーズを見つける。その先にいる人々が市場になる
② 黒を知る 密輸や無許可での販売、危険な行為など、処罰の対象になる行為を正確に把握する
③ 白から逆算する どこまで合法に近づけられるかを先に考え、セーフとアウトを判定しながら仕組みを設計する

出典:高橋准教授への取材をもとに編集部作成

高橋准教授は、グレーな事業を社会に受け入れられる形にしていくプロセスを、「漂白」「公然化」「合法化」の3段階で捉えています。これは大企業でも、中小企業でも、個人事業でも通るべきルートだといいます(3段階のプロセスと実例については、後編で詳しく解説します)。

法規制の「不均衡」から、隠れたニーズを読む

高橋准教授は、法律を知るだけでなく、法律とどう付き合うかを考えること自体が、創造性やイノベーション、新規事業開発の手段になると言います。

隠れたニーズは、一般的なマーケティング調査ではなかなか見つかりません。しかし、法律で禁止されたり制限されたりしているものを起点にすると、見つけやすくなるのです。手に入らないものほど、ニーズが生まれるからです。

具体的には、自社の商品やサービスに関わる法律を洗い出してみます。すると、次のような「不均衡」が見えてきます。

不均衡の種類 内容
流通の停止 法律や制度によって、国内では流通していない商品やサービスがある
供給量の制限 法律によって、供給できる量に上限が設けられている
性能の制限 法律によって、成分の濃度や性能に上限が設けられている

出典:高橋准教授への取材をもとに編集部作成

高橋准教授は、法律や倫理を、こうした不均衡を探すための「補助線」として使えると言います。これを「技術」と位置づけているのです。例えば、国内では入手しにくい商品を、個人輸入の代行という形で扱う事業は、以前からインターネット上で成り立ってきました。

規制の背景には、ニーズがある

規制が生まれる背景には、もともとニーズがあったものの、その満たされ方に問題があったという構図があります。だからこそ、規制されたニーズを、合法的な形で満たす方向で考えることが、市場を獲得し、企業家としての利益を得る近道になると高橋准教授は指摘します。

こうした視点は、法務部門だけが持てばよいものではありません。新規事業を担う人材が、法や倫理の境界を理解したうえで発想できるかどうかは、人材の育成や評価のあり方にも関わります。

新規事業を担う人材の育成と評価を考える

新しい事業に挑む人材を育てるには、挑戦を後押しする評価の仕組みと、ルールを理解したうえで判断できる力を育む育成の仕組みが欠かせません。DEFiDEでは、人事制度や人材育成の課題について相談を受け付けています。

▶ 人事制度・人材育成について相談する

若手と管理職にこそ必要な、法と倫理の知識

高橋准教授は、この知識を特に2つの層に知ってほしいと言います。

対象 知ってほしい理由
高校生、大学生、社会人1〜2年目 日本は法律を意識しなくても暮らせる社会だが、ビジネスでは法と倫理の境界を把握した人が勝負を仕掛けてくる。悪い人に巻き込まれないため、無自覚に悪事に加担しないために、若いうちに知っておく
40〜50代のビジネスパーソン、次期管理職 コンプライアンスが過剰になり、法律どおりだけでは新規事業が難しい。法や倫理と付き合う考え方が、国内外で武器になっていることを知っておく

出典:高橋准教授への取材をもとに編集部作成

「闇バイト」に関わって「違法だとは知らなかった」と言う若者は、境界を知る側との競争に負け、食い物にされているともいえます。境界を知ることは、攻めるためだけでなく、自分の身を守るためにも欠かせないのです。

法を「守るもの」とする日本、「付き合うもの」とする海外

高橋准教授によれば、海外の経営者は、法を「付き合うもの、利用するもの」と捉えています。一方、日本では法は「守るもの」とされがちで、それが競争力の差にもつながっているといいます。

例えば、ファイル共有の技術では、日本は技術的に先行していた面がありましたが、ソフトの開発者が刑事裁判にかけられたことをきっかけに、関連するビジネスの展開は止まってしまいました。一方、米国では、法と倫理をマネジメントする工夫を重ね、同じような技術が合法的なビジネスへと展開されていきました(挑戦に伴う失敗のリスクをどうマネジメントするかについては、秋池篤准教授の解説記事でも紹介しています)。

高橋准教授は、経営技術の蓄積が最も進んでいるのが法と倫理の境界にいる企業家たちであり、正規の経営の側で蓄積が進んでいないことを「情けない」と表現しています。

よくある質問(FAQ)

Q. 法規制から新規事業のアイデアは見つかりますか?

A. 高橋准教授は、法律で禁止されたり制限されたりしているものを起点にすると、隠れたニーズが見つけやすくなるとしています。自社の商品やサービスに関わる法律を洗い出すと、流通の停止、供給量の制限、性能の制限といった「不均衡」が見え、それが規制されたニーズを合法的な形で満たす事業のヒントになります。

Q. 経営技術とは何ですか?

A. 高橋准教授がいう経営技術とは、怪しげにも見える事業機会を見つけたときに、それを合法的なビジネスモデルとして組み立てる力です。法律や倫理を、不均衡を探すための「補助線」として使うことも含まれます。高橋准教授は、日本の経営者に最も足りないのはこの技術的な側面だとしています。

Q. なぜ境界を知ることが大切なのですか?

A. 黒と白の境界を正確に知っている人だけが、グレーな領域を合法的な形に寄せていくことができるからです。知識が創造性を奪うのではなく、知っているからこそ白から逆算して仕組みを設計できます。また、境界を知ることは、違法な行為に巻き込まれないためにも欠かせません。

Q. なぜ若手社員や管理職に法と倫理の知識が必要なのですか?

A. 若手には、悪い人に巻き込まれず、無自覚に悪事に加担しないために必要です。40〜50代や次期管理職には、コンプライアンスが過剰になり法律どおりだけでは新規事業が難しい状況で、法や倫理と付き合う考え方が国内外で武器になっていることを知ってほしいと高橋准教授は述べています。

Q. 日本と海外では、法との向き合い方はどう違いますか?

A. 高橋准教授によれば、海外の経営者は法を「付き合うもの、利用するもの」と捉える一方、日本では「守るもの」とされがちです。その違いが、新しい技術を事業化する際の競争力の差にもつながっているとしています。

まとめ:法律を「補助線」に、隠れたニーズを合法的に満たす

  • 日本の経営者に足りないのは、グレーな機会を合法的なビジネスモデルに組み立てる「経営技術」
  • 黒と白の境界を正確に知る人だけが、グレーを白に寄せていける
  • 自社に関わる法律を洗い出すと、流通・供給量・性能の「不均衡」から隠れたニーズが見える
  • 規制されたニーズを合法的に満たす方向で考えることが、市場を獲得する近道になる
  • 若手は身を守るために、管理職は新規事業の武器として、法と倫理の知識を持つ

では、グレーな事業を社会に受け入れられる形にするには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。後編では、「漂白・公然化・合法化」の3段階と実例、そして経営技術を悪用しないための倫理的な限界を紹介します。

職務と役割を明確にし、挑戦する人材を生かす

新しい事業に挑む人材を生かすには、職務ごとに期待する役割や判断の範囲を明確にしておくことが役立ちます。DEFiDEでは、ジョブ型人事の基本となる職務の枠組みをまとめた資料を提供しています。

▶ ジョブ型人事の資料をダウンロードする

▶ 前編:イ・リーガル・アントレプレナーシップとは?法と倫理のはざまにある市場を見抜く企業家精神と、日本で研究されてこなかった理由(内部リンク)

▶ 後編:グレーゾーンの事業はどう合法化する?「漂白・公然化・合法化」の3段階と、経営技術を悪用しないための倫理(内部リンク)

▶ インタビュー全文:悪用厳禁!禁断の経営技術とは(中編)(JOB Scopeマガジン)