[JOBSCOPE]教授インタビュー解説

技術流動性を高めるには?外国人技術者の受け入れ体制|東北大学・藤原綾乃准教授

作成者: JOB Scope編集部|Oct 18, 2026, 7:39:51 AM

 

技術流動性を高める第一歩は、異なる文化的・技術的背景を持つ人が多様な視点を交わせる「対話の場」を、意図的につくることです。東北大学の藤原綾乃准教授は、外国人技術者を「日本に馴染ませる」のではなく、その「強みをどう引き出すか」へと発想を転換することが、真の多様性と日本企業の再生につながると語ります。

前編で見たように、日本企業再生の鍵は、外の知を取り入れて自らの力に変える「技術流動性」にあります。では、企業は実際に何から始め、どのような受け入れ体制を整えればよいのでしょうか。

本記事では、藤原准教授へのインタビューをもとに、新著の研究を支えた問題意識、技術流動性を高めるための対話の場と発想の転換、外国人技術者の迎え方と海外拠点の活用、受け入れのハードルと日本語要件の見直し、生成AIがもたらすチャンス、そして経営者に求められる姿勢を解説します。

この記事でわかること

・技術流動性を高める第一歩となる「対話の場」と発想の転換

・外国人技術者を複数人で迎えることの効果

・海外拠点の活用と、分野ごとの人材のフィット

・形式的な日本語要件の見直しと、生成AIで下がる言語の壁

・「他国が壁を築くなら、日本は橋を架けにいく」という経営者の姿勢

取材協力:藤原 綾乃 氏

東北大学大学院 経済学研究科 准教授(取材時)。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(技術経営戦略学専攻)、博士(工学)。大阪大学大学院国際公共政策研究科 特任助教、文部科学省 科学技術・学術政策研究所 主任研究官、日本経済大学 准教授を経て現職。専門は技術経営戦略論、国際経営論。技術者・研究者の国際流動化、イノベーション、知識移転を研究している。著書に『技術流出の構図――エンジニアたちは世界へとどう動いたか』(白桃書房、2016年)、『技術獲得のグローバルダイナミクス』(白桃書房、2025年)。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

研究の原点――技術は「人」がつくるもの

新著『技術獲得のグローバルダイナミクス』の執筆では、特許データの名前の表記ゆれや同姓同名の識別など、目視での修正と再実行を繰り返す地道な作業が続きました。参考になる前例もなく、条件の設定やデータの見方を試行錯誤しながら組み直したといいます。パソコン6台を24時間動かし続けた時期もありました。

前著のころ、メディアが海外へ移る技術者を裏切り者のように描いていたことに、藤原准教授は疑問を持っていました。優秀な人ほど、冷遇に反発して出ていくのではないか――その仮説をデータで示したかったのです。

その原点には、企業内研究者だった父の姿があります。週末も家で英語の論文を書く父の姿は、研究者という職業の格好良さそのものだったといいます。だからこそ、近年、企業内の研究者や技術者が「成果」の名のもとに消耗品のように扱われたり、異動や制度変更に埋もれたりしていることに、違和感と危機感を抱いています。研究や技術は「人」がつくるものであり、目に見えにくい努力や継続性をどう正当に評価するかが、新著全体に通じるテーマだといいます。

技術流動性を高める第一歩――「対話の場」と発想の転換

企業が技術流動性を高めるために、まず何から始めればよいのか。藤原准教授は、多様な視点を交わす「対話の場」を意図的に設けることが大切だと言います。日本人同士でも重要ですが、異なる文化的・技術的背景を持つ人が集まる場では、その効果はいっそう大きくなります。

新著で日本人技術者と外国人技術者に行ったアンケートでは、両者の関心にズレが見られました。

立場 重視していること
日本人技術者 外国人に早く職場に馴染んでほしい。日本語能力や社風への順応性を重視
外国人技術者 自分の専門知識や母国での経験が、どれだけ生かされるか

出典:藤原准教授への取材をもとに編集部作成

このズレを放置すれば、せっかくの異なる能力が埋もれてしまいます。「日本に馴染ませる」のではなく「強みをどう引き出すか」へと発想を転換することが、真の多様性につながると藤原准教授は言います(期待のミスマッチについては、藤原准教授の1回目のインタビューの解説記事でも詳しく紹介しています)。

外国人技術者は「複数人」で迎える

前著の研究では、日本企業出身の技術者が中国や韓国の企業に移った場合、単独よりも複数人で同じグループに所属したほうがパフォーマンスが高いことがわかりました。この知見を応用すれば、日本企業も外国人技術者を複数人で迎えたほうが、能力を引き出しやすい可能性があります。

同じ言語圏や出身国の人を組み合わせれば、心理的な安心感も高まるかもしれません。外国人の少ない企業では、「自分以外にも外国人がいる」というだけで、孤独感や心理的な負担は大きく軽減されます。制度だけでなく、現場での配慮や寄り添いが重要なのです。

外国人技術者の強みを引き出すには、まず一人ひとりがどのような専門知識や経験を持っているのかを、組織として把握しておくことが出発点になります。

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海外拠点の活用と、分野ごとの人材のフィット

海外に拠点を設けて外国人技術者に働いてもらい、日本人がマネジメントするという方法も、効果的だと藤原准教授は言います。実際に、韓国や中国の企業が横浜や京都に研究所を設け、日本人を雇用しながら本国の人材とも交流して研究開発を行っている例があります。

海外拠点の活用 利点
他国の企業が日本に研究所を置く 日本人を雇用しながら本国の人材とも交流できる。育児や介護で海外に行きにくい優秀な人材も雇用できる
日本企業がインドやベトナムなどに研究拠点を置く 現地の人材と共同で研究開発に取り組める

出典:藤原准教授への取材をもとに編集部作成

日本企業で働く外国人技術者の国籍で最も多いのはアメリカです。日米には長年の技術連携の歴史がありますが、近年は米国出身者の来日が減る傾向も見られるといいます。また、分野によって活躍する人材の傾向に違いが見られることもありますが、個人の能力による部分も大きいと藤原准教授は言います。人数や国籍だけでなく、「どの分野に、どのような人材がフィットするか」を丁寧に見ることが重要です。

受け入れのハードル――形式的な日本語要件を見直す

言語、文化、働き方の違いは避けて通れない課題です。大手企業では、研究所の共通言語を英語にしたり、外国人の比率が非常に高い部署を設けたりする例もあるといいます。

外国人技術者が日本で働きたい理由も多様化しています。日本の報酬水準は国際的に見て目立たなくなってきましたが、アニメやゲームなどの文化、治安の良さ、人間関係を大切にする職場風土に惹かれて来日を希望する人は増えています。新著のアンケートでも、報酬だけが動機ではないことが示されました。「なぜ日本で働きたいのか」「どんな環境で力を発揮できるのか」を理解し、文化的な背景に敬意を持つ姿勢が求められます。

日本語能力の証明は本当に必要か

外国人技術者が日本企業で働くケースは増えていますが、企業の受け入れ体制は十分に進化しているとは言いがたいと藤原准教授は指摘します。例えば、職場で日本語を使うかどうかに関係なく、日本語能力の証明を求めるケースがいまだに多いのです。

藤原准教授のゼミを卒業して日本企業に就職した留学生のなかには、業務は英語が中心で日常会話にも支障がないにもかかわらず、日本語能力試験の最上位レベル(N1)の取得を強く求められて戸惑った人もいるといいます。企業側の事情は理解しつつも、形式的な要件が優秀な人材を採用する壁になるのは本末転倒であり、グローバルな人材獲得競争のなかで見直すべき時期に来ていると藤原准教授は言います。

話しやすい雰囲気をつくる

技術流動性を高めるには、外国人技術者の意見に耳を傾けることも欠かせません。大切なのは、話しやすい雰囲気です。最初は距離や緊張があっても、こちらから話しかけたり、相手の関心に合う話題を探したりするうちに壁は溶けていくと藤原准教授は言います。相手の意見をすべて受け入れることではなく、多様な意見が自由に出せる空気を保ち、議論を通じてより良い方向に進める土壌をつくることが重要です(多様な視点が創造性を生む職場づくりについては、稲水伸行准教授の解説記事でも紹介しています)。

生成AIは日本企業にとって大きなチャンス

藤原准教授は、生成AIは日本企業にとって大きなチャンスだと言います。多言語への即時かつ高精度な翻訳が可能になり、文化や社風の文脈の理解も進んだことで、語学力に不安があってもやり取りの質を保ちやすくなりました。

言語の壁が高く、海外の情報へのアクセスや発信にハードルがあった日本にとって、生成AIはそのバリアを大きく下げるものです。通訳や翻訳者に頼らずに世界と直接つながれるようになり、アイデアや考え方がしっかりしていれば、日本の中小企業がグローバル企業へ成長することも不可能ではないと藤原准教授は語ります。

日本企業で働く外国人技術者は増加傾向にあり、かつては欧米などの先進国の人材が中心でしたが、近年はアフリカをはじめとするグローバルサウスの地域から、意欲的で優秀な技術者が関心を寄せるケースも増えています。日本の技術水準や現場での学びの機会に魅力を感じ、自国の発展に経験を還元したいという声も多いといいます。こうした人材とともに価値を創ることが、日本企業の新たな可能性を開きます。

経営者へ――「他国が壁を築くなら、日本は橋を架けにいく」

GDPの順位の低下に象徴されるように、社会や経済には閉塞感が漂い、人々が内向きになるのも無理はありません。それでも藤原准教授は、多様性を諦めるべきではないと言います。世界的に内向きの傾向があるなかで、日本は「外に開き、つながりに行く」姿勢をこれまで以上に持つ必要があります。

言語の壁はAIによって急速に乗り越えやすくなり、日本にはアニメやゲーム、世界でもまれな治安の良さなど、すでに多くの魅力があります。今は「知のダイナミズムの中心地を取り戻す」絶好の機会であり、経営者には「他国が壁を築くなら、日本は橋を架けにいく」という気概と行動力を持ってほしい――それが藤原准教授からのメッセージです。

よくある質問(FAQ)

Q. 技術流動性を高めるには、何から始めればよいですか?

A. 藤原准教授は、多様な視点を交わす「対話の場」を意図的に設けることが大切だとしています。特に異なる文化的・技術的背景を持つ人が集まる場で効果が大きく、外国人技術者を「日本に馴染ませる」のではなく、その「強みをどう引き出すか」へ発想を転換することが重要だといいます。

Q. 外国人技術者を迎えるときのポイントは何ですか?

A. 藤原准教授の研究では、技術者が単独よりも複数人で同じグループに所属したほうがパフォーマンスが高いことがわかっています。同じ言語圏や出身国の人を組み合わせると心理的な安心感が高まり、孤独感や負担も軽減されます。制度だけでなく現場での配慮が重要です。

Q. 外国人技術者に日本語能力の証明を求めるべきですか?

A. 藤原准教授は、職場で日本語を使うかどうかに関係なく日本語能力の証明を求めるケースがいまだに多いことを問題視しています。業務が英語中心でも最上位レベルの資格を求めるなど、形式的な要件が優秀な人材の採用の壁になるのは本末転倒であり、見直すべき時期に来ているとしています。

Q. 生成AIは外国人技術者の活用にどう役立ちますか?

A. 生成AIにより多言語への即時かつ高精度な翻訳が可能になり、語学力に不安があってもやり取りの質を保ちやすくなりました。藤原准教授は、言語の壁が下がったことで、日本の中小企業が世界と直接つながり、グローバル企業へ成長することも不可能ではないとしています。

Q. 外国人技術者はなぜ日本で働きたいと考えるのですか?

A. 藤原准教授によれば、報酬だけが動機ではなく、アニメやゲームなどの文化、治安の良さ、人間関係を大切にする職場風土、日本の技術水準や現場での学びの機会などに魅力を感じる人が多いといいます。近年はグローバルサウスの地域からの関心も高まっています。

まとめ:対話の場をつくり、強みを引き出し、世界と橋を架ける

  • 技術流動性を高める第一歩は、多様な視点を交わす「対話の場」を意図的につくること
  • 外国人技術者は「日本に馴染ませる」のではなく、「強みを引き出す」発想で、複数人で迎える
  • 海外拠点の活用や、分野ごとの人材のフィットを丁寧に見ることも有効
  • 形式的な日本語要件は見直しの時期。生成AIで言語の壁は大きく下がっている
  • 「他国が壁を築くなら、日本は橋を架けにいく」――外に開き、つながりに行く姿勢を持つ

前編で見たように、日本は外の知を取り入れ、自らの文脈に翻訳することでイノベーションを生んできました。技術流動性を高めることは、その日本の強みを、今の時代に合った形で取り戻すことでもあります。

働く動機と価値観を把握し、強みを引き出す

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