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全国最大規模のスキューバダイビングスクールが店長に売上ノルマを与えない本当の理由 ~株式会社テクニカ~(前編)

作成者: JOB Scope編集部|2024/02/29

第5回

中小企業 2代目、3代目
経営者のデジタル改革奮闘記

全国最大規模のスキューバダイビングスクールが
店長に売上ノルマを与えない本当の理由

~株式会社テクニカ~(前編)


2024/02/29


 

本シリーズでは業界・業種を問わず、中小企業の2代目もしくは3代目の経営者の経営改革をテーマにする。特に「DX(デジタルトランスフォーメーション)への挑戦」にフォーカスを当てる。ITデジタルの施策に熱心に取り組み、仕事のあり方や進め方、社員の意識、さらには製品、商品、サービス、そして会社までを変えようとしている企業をセレクトする。


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第1回 株式会社木元省美堂
第2回 株式会社木元省美堂
第3回 社労士法人名南経営

第4回 社労士法人名南経営

 

 

これらは売上が10億円前後で、社員数で言えば100人以下が多い。大企業や中堅企業のような様々な仕組みが十分に機能しているとは言えない一面があるのかもしれないが、中小企業としては果敢に挑んでいると捉えることができよう。

 

今回(第5回次回(第6)では、国内最大規模のスキューバダイビングスクール「パパラギダイビングスクール」を運営する株式会社テクニカ(神奈川県藤沢市)の2代目の代表取締役社長である松本行弘を取材した内容を紹介したい。 




松本行弘
代表取締役社長

 

 

01 ―――

創業38年で、売上6億円

 

株式会社テクニカは1986年創業で、2024年で38年目を迎える。設立当初から、パパラギダイビングスクール」を運営する。主な事業は、スキューバダイビング(以降、ダイビング)講習や国内外のツアー、ダイビング関連器材の販売など。藤沢市に本店があり、都内や神奈川、沖縄、グアムに12店舗を構える。正社員は2023年12月で43人、アルバイトは7人。売上は、約6億円。 

 

各店舗には、店長以下、スタッフ(正社員、アルバイト)が数人いる。スクールや講習、ツアーの案内や入学の相談、受付、海洋講習・プール講習を担当する。受講生は、初心者からプロ資格を目指す人、高齢者までと幅広い。ダイビングのスポットは、都心から電車で2~3時間程で行ける伊豆(神奈川県)をはじめ、北海道や沖縄など全国各地、海外のリゾート地など。年間1000本を超えるツアーがある。 

 

 


パパラギダイビングスクール店舗
でのひとコマ
 



スクールのホームゲレンデは、伊豆半島東側の相模湾に面した富戸(ふと)。ダイバーの間では、「伊豆半島人気ナンバーワンポイント」と言われている。水深68mから砂地が広がり、初心者も安心して潜ることができる。 

【ダイビング】伊豆半島 城ケ崎海岸 富戸ダイビング (youtube.com) 

【ダイビング】伊豆にこんな沈船あったの?透視度40mの海が気持ち良い! (youtube.com) 

 

 

 

 

02 ―――

創業の目的

 

松本社長によると、1986年の創業期は国内でダイビングインストラクターを職業とする人は少なく、指導技術は必ずしも高くないケースもあったという。そのようなインストクターに教えられ、不満を持ち、ダイビングをやめる人もいたようだ。 

 

創業の目的の1つは、ここにある。創業者や松本社長、スタッフはダイビングを教えるインストラクターの質、数を充実させ、ダイビングや海、自然を好きになる人が増えることを願っている。当初から、インストクターへの教育や研修に力を注いでいる。 

 

「絶対 安全」を合言葉に、年間90日を超える研修・トレーニングを開催する。医師などを講師をとして招いた学習会、応急手当のトレーニングも頻繁に行う。「全ての講習は快適に楽しく」をモットーに、受講する人が気分よく学ぶことができる指導技術を高めるようにもしている。 

 

インスクターは2024年現在で、約40人。安全を確保するためにも全員を正社員としている。このような態勢であるために、講習やツアーの数が多く、教え方や指導技術が均質化、標準化されている。今や、国内トップクラスの初心者ダイビングライセンス認定実績(国内店のみで、累計約28,000人)で知られるようになった。 

 


ダイビングの講習 

 

 

 

 

03 ―――

みんなで幸せになってやろう

 

「2013年12月に先代(創業者)が全社員向けのメールで“社長を辞める”と伝え、数日後に2人で話し合いをした際に次の社長をしてもらいたい、と言われました。

当時、私は取締役企画部長です。そばで先代の姿を見てはいましたが、突然、指名をされると戸惑うものが多少はありました。先代とは血縁関係はありませんし、自分自身は経営者になる気は全くありませんでした。先代が辞める時は会社がなくなるのかもしれない、と思っていたのです。 

 

話し合いの場で仮に私が断ったらどうなりますか、とお聞きしたくらいです。実は、役員になる時にも、いったんは断ったのです。 

 

2代目への就任についての話し合いをしている時に、頭の中である言葉が下りてきました。それは、“みんなで幸福になってやろう”というものです。会社は数字(業績)も大切ですが、何よりもそこで働く人がやりがいを持ち、安心して働き、幸福感を味わえるようにしなければいけない、と私は考えています。そして、そんな会社だからこそお客様を幸せに出来る。今も、あの時に降りてきた言葉を追いかけている気がします。 

 

社長就任後は、先代から教えを受けることは全くなく、自分で何をどうしていけばいいのか、わからないままのスタートでした。この時に痛感したのが、組織として安定的に動く仕組みをつくることです。特に創業者の後を継ぐ2代目には、それが強く求められるように思えます」 

 

 

 

04 ―――

49歳の時に2代目の社長に、2024年で11年目

 

松本社長は、現在58歳。27歳でテクニカに入社した。それ以前は音楽が好きで、バンドでギターを弾いていた。25歳でダイビングのライセンスをとり、器材を買ったものの、乗り物酔いがひどく、船に乗ることにはためらいがあった。 

 

そこで、当時(1980年代半ば~後半)からしだいに知られるようになったワーキングホリデーの制度を利用し、オーストラリアに1年間滞在した。同制度は、2国間の協定にもとづき、主に10~20代の人が相手国に滞在する。その滞在資金を補うために、一定の就労を認める査証及び出入国管理上の制度。 

 

ダイビングを楽しみたい一心で、船上での仕事をして船酔いにならない体質に変えました。帰国後、いくつかの会社の採用試験を受けたものの、テレビ番組で海が映し出された瞬間、“海に帰らなきゃ”という思いに駆られて本屋へ走り、ダイビング雑誌を買ってきました。将来、一番なくなりそうにないダイビングショップを探したところ、パパラギの求人広告が目に入りました。さっそく電話をして面接を受け、その3日後にはスタッフとして働いていたのです」 

 

入社後は藤沢市の本店で店長、グアム店でゼネラルマネージャー(総支配人)、本社の企画部、都内の店舗の店長、企画部長、取締役を歴任した。グアムでは4年勤務し、永住権をとったが、四季折々の海の日本に戻りたいと強く思ったという。49歳の時に2代目の社長となり、2024年で11年目を迎える。 

 

 

 

 

05 ―――

永続する会社づくりが役割 

 

「創業者である先代の後を継ぐのは、経営者の経験がなかった私からすると、大変ではありました。2代目である私は、永続する会社にする役割がある。このことを1つの使命としてきました。そのためには、個々の社員がバラバラに動くのではなく、組織として動くことができる仕組みをつくることが必要だと考えています。 

 

先代は私よりははるかに行動力や決断力があり、すばらしい経営者でした。ひとりで意思決定をすることが多かったようにも思います。それだけの力や実績があったのです。ひとりで決めるのは、中小企業の創業者には多いのかもしれませんね。でも、それは私のスタイルではありませんから、将来を一緒につくるチームが必要と考えました。 

 

社長になり、2年目の時(2014年)、全店長にメールを送りました。「一緒に会社をつくりませんか?」と題したもので、経営に直接関わるメンバーを募集したのです。組織として経営を担うような態勢にしたかったのです。 

 

4人がエントリーし、それに1人を追加し、5人がチームとなり、現在まで力をあわせてきました。5人は営業に長けていたり、ウェブや動画に精通していたり、人材育成が上手かったりするなど、いずれも経験豊富で、有望な面々です。5人をディレクターと呼び、5人全員でディレクターチームとしています」 

 

 

 

 

06 ―――

ミーティングとメールで価値観共有

 

少なくとも毎月1回は、松本社長と5人が参加するミーティングをする。必ず顔を合わせ、話し合うようにしているのは非常事態宣言の際も例外ではなかった。テーマは、会社の方向、業績や各店舗の状況、課題、問題点、解決策やその進捗、スタッフの現状や課題、採用や育成など様々だ。 

 

それと並行し、6人が「DMG(ディレクターミーティング)」と題したメールを使い、「ミーティングで話し合った内容についてさらに踏み込んで、ディスカッションを随時する。話し合ったことをそのままにするのではなく、ミーティングとメールを使い分け、効果を高めようとしている。 

 

 

 

07 ―――

「それはうちの会社らしいかな?」 

 

松本社長は「あえて、なんでも事細かに話し合うようにしている」と話す。 

 

「ミーティングとDMGメールを使い、私たちの会社が何を大切にするべきか、そのために私たちは何をどうするべきか、といった意識や価値観を共有したいと思っています。私の中では数年前ぐらいから、6人の間で共通の価値観がある程度出来上がりつつあるように感じる機会が増えてきました。 

 

たとえば、毎月のミーティングで、相違のある意見が出された時に「それはうちの会社らしいかな?」というメンバーがいる。そこから始まる5人のディスカッションを見聞きしていると、ふだんからパパラギらしさを深く考えていることがよくわかります。2015年にミーティングをはじめた頃は、これほどに密度の濃い話し合いにはなっていませんでした。経営陣が“パパラギらしさ”を共有しているからこそ、ほかのスタッフにも伝えることができます。 

 

ディレクター5人が、組織をつくっていくうえで中心になっていますが、これとは別に、店長全員が参加するミーティングも毎月しています。まず、私やディレクターと店長たちの間で価値観の共有が浸透し、それが全社に伝わることを願ってきました」 

 

 

 

08 ―――

各店舗に売上のノルマを与えていない

 

松本社長は、「価値観はとても大切」と力を込めて話す。 

 

「たとえば、各店長には売上のノルマを与えていないのです。もちろん、経営に直接関わる私やディレクターたちには責任がありますから、業績の目標を持っています。それを各現場にそのまま与えると、おそらく、その数字を常に意識し、時に必要以上に受け止めるのではないか、と思うのです。それでは、たとえばこれからダイビングをしようとする方が来店した時、お金に見えるようになるのかもしれません。それは好ましくないし、失礼でしょう。私たちは、お客様の夢を実現するお手伝いをするのが仕事ですからね。 

 

店舗では、若いスタッフにとって自分の親のような年齢の方に講習の内容を説明する場合があります。その際、まずは、パパラギの一員として信用されないといけない。説明する内容や仕方、身なりや言葉づかい、態度も雰囲気においても。そうしないと、お客様は安心して話せないでしょう。 

 

私たちのスクールの大きな使命はお客様の命を預かる以上、安心、安全をきちんと提供することなのです。ですから、「人間力」「プロ力」「仕事力」の3つから成る「パパラギ・スタンダード」という行動規範を持っています。スタンダードが目指すのは、絶対安全のうえで海の素晴らしさをお伝えできるインストラクターであること。そのために指導技術を高めることです。 

 

最も大事にしているのは、「人間力」。たとえばダイビングの当日、お客様から「今日は、ちょっと体調が悪くて」と話してもらえるかどうか、なのです。信用されていないと、こういうことを聞いてもらえないでしょう。人間力があってこそ安全を守れる、と考えているのです。 

 

私がスタッフに怒ったり、叱ったりすることはまずしません。各店舗や現場が萎縮しないようにしているつもりです。ごく稀ですが、人間力に関わることがあった場合は店長に伝えた後で、本人に本社へ来てもらい、話を聞き、あらためるように指導します。ただし、基本的には店長が本人に指導をしています。店長を飛び超えて、私が直接、本に言うことはできるだけ避けています。店長の立場もあるし、組織として機能しなくなるからです。大切にしているのは、組織として動くことです」 

  

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次回は、松本社長のデジタル改革をテーマとします。 
全国最大規模のスキューバダイビングスクール2代目が挑むDX(後編へ)

 

 



著者: JOB Scope編集部
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