JOB Scope マガジン - コラム

第34回 「漠然とした不安を抱え込むのではなく、健全な危機感を共有しよう」

作成者: JOB Scope編集部|2024/12/12

第34回

中小企業 2代目、3代目経営者の デジタル改革奮闘記

「漠然とした不安を抱え込むのではなく、健全な危機感を共有しよう」

~NHKの映像編集を担う最大手の女性経営者の願い~


2024/12/12



本シリーズでは業界・業種を問わず、中小企業の2代目もしくは3代目の経営者の経営改革をテーマにする。特に第DXへの挑戦にフォーカスを当てる。ITデジタルの施策に熱心に取り組み、仕事のあり方や進め方、社員の意識、さらには製品、商品、サービス、そして会社までを変えようとしている企業をセレクトする。

 

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今回は、映像編集の株式会社白川プロ(渋谷区)代表取締役社長の白川亜弥氏にインタビュー取材をした内容の最終回としたい。過去第3回にわたり、白川プロの記事を紹介している。同社は、NHKの地上波から衛星放送まで様々なテレビ番組の映像編集と音響効果に関わっている。

具体的には報道では「おはよう日本」や「首都圏ネットワーク」「ニュース7」「ニュースウォッチ9」などの大型のニュースをはじめ、定時のニュース、あるいは「NHKスペシャル」「クローズアップ現代」など数々のドキュメンタリーや情報番組、エンターテイメントの番組では「鶴瓶の家族に乾杯」「ファミリーヒストリー」「ドキュメント72時間」などになる。正社員は286人(2024年8月現在)で、売上は19億円(2023年)。

 

 

 

01 ―――

デジタル化にも挑戦

 

様々な改革を試みてきましたが、デジタル化も進めてきました。その1つが社内イントラネットで、これを通じて社員に向けて情報発信をしています。たとえば、会社からのお知らせや経営改革についてのメッセージです。正社員286人のうち、260人前後がNHKの各番組に編集マンとして配属されています。勤務時間は個々の編集マンによって異なりますから、情報を共有することが難しくなる場合がありえます。それを避けるためにも、社内イントラネットを設けています。

労働時間の管理においても、デジタル化を進めてきました。社員全員がスマホやパソコンを使い、出勤や退勤の時間を入力しています。給与明細をデータ化し、スマホやパソコンを通じて見ることができるようにもしました。これらの試みは、社員の声を聞きながら段階的に進めてきました。

 

 

02 ―――

デジタルへのリテラシーを高めていきたい 

 

実は、私はデジタル化に常に熱心に取り組んできたわけではないのです。私の世代は、現在の10~20代に比べるとデジタル化に疎い傾向があるのかもしれません。私もその1人で、たとえば給与明細書をデータ化し、スマホで見ることができるようにすることの必要性やメリットをわかりやすく伝えることができない時期があったのです。社外の会社からそのような話を受けても、すぐには了承できませんでした。判断できるだけの下地が当時はなかったのかもしれません。

最近は、たとえばインスタグラムに私生活を撮影し、その画像をアップするなどしてデジタルに慣れ親しもうとしています。それを見た白川プロの編集マンが、「あの画像はどこで撮影をしたのですか?」と聞いてきたことがあり、少々驚きました。うれしくも思いました。今後も、デジタルへのリテラシーを高めていきたいと思います。

 

 

 

03 ―――

泥臭くも果敢に取り組みたい 

 

今後の経営の課題は、いくつもあります。1つは、新規事業です。NHKからの期待や信頼を裏切ることなく、これまで通りにきちんとした仕事を継続していきたいのですが、それと並行し、新しい事業を早く軌道に乗せていきたい。

1962年の創業時より、NHKから依頼を受ける映像編集の仕事を確実にこなすことに重きを長年置いてきました。それは、1から10へ、さらに100へしていくようなものなのかもしれません。それに対し、新規事業はゼロから1へ、が求められます。私たちは何もないところ、つまり、無から形にしてビジネスにしていくことを試みた経験に乏しいのです。

新しいことに挑むならば、必死になり、時には泥臭くも果敢に取り組む姿勢が必要と思います。長い間、NHKで映像編集をしてきて、一定の実績や信用を得ていると社員たちは考えているからなのか、泥臭くとも挑むようにはまだなっていないように私は見ています。このあたりが、大きな課題なのです。

 
 
 

04 ―――

テレビは弱くなるが、映像のビジネスは広がる

 

新規事業は、必要です。NHKに限らず、テレビは今後、1つのメディアと位置付けられていきます。多数のメディアのうちの1つとして社会では見られていくはずです。かつてのように、圧倒的に強い立場ではなくなるのです。

社員には、こう言っています。「テレビは、メディアとしての力が相対的に弱くなるのかもしれない。だけど、映像のビジネスはむしろ、広がっていく。たとえば、インターネットの動画はどんどんと増えている。だからこそ、これまでとは違う切り口や角度で映像を見つめ直していきましょう。」

 

 

05 ―――

「仕事と介護の両立部門」認定企業として表彰


そこから先は、現場にいる社員たちに任せたいのです。新規事業に限らず、映像編集においても、個々の社員の仕事について必要以上は口にしないようにしています。かつてはニュースなどの映像編集に関わっていましたが、本社の総務に配属となってからはそれぞれの編集マンの映像のつなぎ方について基本的には何も言いません。編集マンにはNHKのディレクターやプロデューサー、白川プロの上司がいますから、それらを飛び越えて私が言うべきことでもないと思うのです。飛び越えてしまうと、会社の仕組みが機能しなくなるかもしれないのです。

役員になってからは個々の社員が納得感を持ち、安心して働くことができる環境を整備するのが取り組むべき仕事と考えてきました。たとえば、その1つが社員の若返りや適材適所の人事です。
2024年4月には30代半ばから40代前半にかけての3人の社員を執行役員に任命しました。映像編集や新規事業、人事総務のそれぞれの部署から1人を選んだのです。

こういうことは、役員や管理職をはじめ、社員たちに丁寧に説明をしています。若手抜擢に不満ややっかみは社内ではないと思いますが、仮にあった場合、それが広がらないようにするためにも若手登用の意味を機会あるごとに言うようにしています。

 

 

06 ―――

「漠然とした不安ではなく、皆で健全な危機感を共有」 

 

新規事業を進めるのは、ある意味で先行投資となります。すると、映像編集など既存の事業に関わる社員が疑問を感じるかもしれません。たとえば、「自分たちが働き、稼いでいる!自分たちこそが会社を支えているのだ」といったものです。

それは一面においては事実であるし、そう思うのもわからないでもないのです。しかし、NHKの映像編集をする事業だけでは、やがて私たちは大きな壁にぶつかるかもしれません。その時では遅いのです。だからこそ、今のうちから新規事業に取りかからないといけない、とよく言うようにしています。

「漠然とした不安を抱え込むのではなく、皆で健全な危機感を共有しましょう」とも言っています。編集マンであった頃の私も含め、これまでは社員たちはこれでいいのかな、と不安をなんとなく抱えながらも、とりあえずは目の前の仕事をしていた面があると思います。それで、確かに大きな問題はなかったのです。居心地もよいのです。白川プロの社員間の人間関係は比較的よく、NHKは働きやすい職場でもあるように感じます。

しかし、私たちを取り巻く環境はしだいに変わりつつあります。現状に甘んじることなく、ともに危機意識を持つために、各部署の予算、売上、経費を部分的に社内に公開しました。様々なとらえ方ができうるのでしょうが、たとえば花形と思われていた部署が実は採算が合わなくなりつつある、などと感じ取ってほしいのです。もしかすると、ベテランが多数いる部署の中にも、そのような採算が合わないところがあるのかもしれません。「自分たちが働き、稼いでいる!」とは言いきれないケースもあるのかもしれないのです。

 

 

 

07 ―――

れまでにないタイプの社員が必要 

 
経理を公開すると、いずれは社員から不満が生じるかもしれません。たとえば、「自分たちこそが屋台骨を支えているのだから、給与を上げてほしい」といったものです。こういう言い分が仮に増えてくると、人事制度をあらためる時がくるのかもしれないとは思っています。その時は、大改革になるのかもしれません。私としては、がんばった人がきちんと評価され、それにふさわしい待遇を受けることができるようにしたいとは常に考えています。

そして、それぞれの社員の持ち味や個性を生かして、とんがった部分があるならばそれをきちんととがらせてあげたい。とんがったものを持った社員が増えてきてほしい、と願っています。新規事業を進めるならば、なおさらです。かつて私が映像編集の現場にいる頃、とんがったものを兼ね備えていても、それを生かすことができないために退職した人がいます。それは、残念なことでした。

たとえば、YouTubeの動画を見ると、私は映像編集の仕方に疑問を感じる場合があります。あの映像編集ではおそらくNHKでは放送できないだろうと思うケースも少なからずありますが、それが多くの人に見られているのは事実なのです。映像編集とは違うところに、ご覧になる方たちは魅力をきっと感じているのでしょうね。

そのあたりは、これまでの映像編集に強い影響を受けている私たちの世代ではわからぬ部分があるのかもしれません。だからこそ、特に新規事業の部署ではこれまでにないタイプの社員が必要だと思っています。



  08 ―――

差別化を図り、発展していく 

 

経営を考えるうえで数字(業績、売上、経費、利益など)は、ある程度心得ていないといけないと考えています。管理職の時には苦手意識があったので、社長になってからは税理士や財務のコンサルタントの方からは月に数回のペースでレクチャーを受けてきました。数字を私なりに理解すると、見えてくるものもあります。

たとえば、新規事業に参入する際にただ単に白川プロが請け負う額を下げるようでは、つまり、価格競争に巻き込まれると社員たちが疲弊してしまいかねません。ですので、ある程度の額は維持していく必要があります。

とはいえ、競合社は多数あります。発注する側もシビアな場合があります。私たちをご理解いただくために差別化を図る必要があります。長い歴史で培った実績と信用、ブランドは前面に出していきたいです。お陰様で企業や団体から、ご依頼をしだいにいただくようになってきました。

このように私なりにもがきながら前に進めていることは、社員たちに理解されつつあるようです。これからも力を注いでいきたい、と考えています。

 

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著者: JOB Scope編集部
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