シリーズ あの人この人の「働き方」
中小企業では、毎年賃上げを継続することは極めて難しい。ところが、政府やマスメディア、世論はそれを求める。中小企業経営者にとっては、苦しいところだろう。
最大の理由は、賃上げの原資が乏しいためだ。そもそもの売上が少なく、下請け体質で価格転嫁が困難なため、コスト上昇分を自社で全額負担せざるを得ない。営業利益から税金、借入返済、設備投資などで半分以上が消える場合があり、会社に残る金額は決して多くはない。
さらには2024~2025年は原材料・エネルギーの高騰、社会保険料をはじめ、税負担が増え、利益率は一段と悪化している。ここで賃上げをすると、赤字や倒産リスクを高める。持続的な賃上げのため、値上げ・コスト削減・借入をしようとしても限界があり、唯一の現実的な道は労働生産性(1人あたり付加価値)の向上のみとなる。多くの経営者が「生産性向上以外に道はない」と認めるが、厳しいものがある。そのような中、中小企業はどのようにして賃上げを継続させるべきか。今回から3回連続で考えたい。今回は、その3回目(最終回)となる。
目次
01 ―――
前々回(その1)
前々回(その1)
M&Aが生産性向上に寄与する主な理由は、次の通りだ。
誤解なきように言えばM&Aをすれば、必ず生産性が上がるわけではない。失敗例もたくさんある。典型的なのは、次のパターンだ。
M&Aそのものより、統合後の運営のほうがはるかに重要と言える。M&Aは目的ではなく、あくまで手段でしかない。生産性を上げ、賃上げにつながる体質を作ることがゴールになる。
02 ―――
ここで、中小企業では毎年賃上げを続けるためには壁があることをあらためて考えたい。以下、私たち編集部の視点で「なぜ、可能性が低いのか」「例外はどこにあるか」まで整理してみた。
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1~4までを見ると、たとえば10年連続で賃上げをするのは容易ではないことがわかる。だが、すべての中小企業ができないわけではない。一部に例外はある。ただし、数は少ない。
このような企業は価格転嫁が比較的容易で、5年程度ならある程度の水準の賃上げを続けられうる。しかし、10年間ほど毎年の賃上げは難しい。仮にできたとしても、「外注比率を上げて、実質的な固定費を減らす」「設備投資が大成功した」「新市場で一気に伸びた」など、特殊要因によるケースが多い。この要因は一時的なものであり、長くは続かない。
ここに、政府や政府・経済界がM&Aに期待する理由がある。1社単独の中小企業では、「賃上げの土台」をつくり続けるのが難しい。だから、企業の統合・再編で体力の底上げをしよう、という考えだ。確かに私たちのヒアリングでも、次のような効果が見られる。
これらが賃上げの土台となり、毎年賃上げを行ううえでの安定したベースになるため、政府がM&Aを通じての企業の再編を後押しているのだ。しかし、私たちが知る中小企業経営者の多くは、ためらうものを感じているようでもある。確かにこれまでビジネスの接点がなかった、あるいは深い関係とは言い難い会社を買収したり、そこの傘下になるのに迷いや戸惑いを感じるのはごく当然のことだろう。
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実は中小企業でも、ある程度は生産性を上げられる方法は存在する。たとえば、外注(アウトソーシング)や業務の効率化や社員間の報告、連絡、相談を密にしてムリ・ムダ・ムラを省くなどだが、これらは年3〜5%アップがやっとだろう。毎年5〜8%以上必要と言われている賃上げペースには到底追いつかない。
「賃上げ+物価+社会保険料で毎年7〜9%必要」と考えられている。つまり、年3〜5%アップではまったく追いつかないから「M&A以外に道がない」と言われるようになっているのだ。M&Aが労働生産性を上げる際に現実的な1つの策であるのは間違いない。今後、全国で確実に増えるはずだ。後継者不在で廃業リスクが高い中小企業が多数あり、そのような経営者は事業継承できる相手の会社を強く求めている。国や地方自治体もそれを支援する態勢をつくりつつある。
M&A をすると問題やトラブルが生じる場合もあるが、メリットも少なくない。特に労働生産性の向上には有効と言えよう。2024年の帝国データバンク調査ではM&Aを実施した中小企業のうち、約65%が「3年以内に労働生産性20%以上向上」と回答している。賃上げ率も「M&A実施企業の平均が +6.8%、非実施企業 +2.9%」 と2倍以上の開きとなっている。
M&Aは生産性向上の有力な手段になり得るが、万能ではない。効果はケースバイケースで、短期的には買収側の生産性が下がるケースもある。一方、特定のタイプ(外部資本が入る・規模拡大・統合ノウハウ導入など)は生産性向上をもたらすことが示されている。
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経産省は、2021年から本格的に動いている。
経済産業省が2024~2025年に特に力を入れているのが、以下の3点セットだ。
政府が「M&Aで規模拡大 → 生産性向上 → 賃上げ」という流れを補助金と税制で強力に後押ししている構図とも言えるだろう。中小企業が賃上げを継続させるためには、「労働生産性を上げて付加価値を増やす」のが不可欠。それを可能にする現実的で即効性のある手段が、M&Aによる吸収合併で規模と効率を一気に拡大することだ。
だからこそ、最近は有識者の一部では「賃上げしたければ、まずM&Aを検討せよ」とまで言う人が増えてきた。しかし、上手くいかないケースもある。大きな原因は「素人判断」と言われる。大半の中小企業経営者が「M&Aは初めて」と言われるが、 アドバイザーをつけると手数料が数千万円になる事例もある。安いアドバイザーに依頼すると、買収価格が2〜3倍に吊り上げられたり、簿外債務を見逃したりするケースもある。成功率はよくて30〜40%(大手案件でもこれくらい)。中小案件はさらに低い(20〜30%程度) 。
賃上げは単なる人件費の増額ではなく、企業体質をより強く、しなやかに変えていく取り組みである。その方法は、決して1つではない。社内改善、デジタル化、業務プロセスの再構築、そして場合によってはM&A。これらの組み合わせ次第で、生産性は大きく変わる。ぜひ、前々回(その1)
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