第8回
メンバーシップ型雇用の
デメリット
2023/06/09
目次
01 ―――
メンバーシップ型雇用のデメリット(その1)
前回(7回目)では、メンバーシップ型雇用のメリットをテーマにした。今回は、その裏面と言えるデメリットを取り上げる。
●長期間で計画的段階的では時代についていけない?
前回説明したように社員を長い期間にわたり、計画的段階的に育成できるのは確かに大きなメリットではある。トップマネジメント(経営層)にとっては、事業を展開する人材を確実に着実に確保できるのだから、安心ではあるだろう。事業の先行投資はしやすいだろうし、金融機関から融資を受ける際にも説明がつきやすくなるかもしれない。社員にとってもキャリア形成のメドが立つから、人生設計もしやすいはずだ。会社への帰属意識が深くなり、定着率が向上する傾向にはなる。
だが、経済状況や市場が相当な速さで変わる時代に突入している今、時間をかけて計画的段階的に育成するのは大きなリスクにもなる。例えば新卒(大卒)で入社し、様々な部署を経験し、20年目に営業部の管理職になったとする。20代前半で営業をしていた頃とは手法が様変わりし、部下にどのような指示をすればいいのかすらわからないかもしれない。その1つが、ITデジタル機器を駆使した営業手法だ。
現在は仕事で求められる技能や経験、ノウハウ、知識が高度化、専門化、複雑化している。特定の職務に長く従事しないと、適切な対応はできないはずだ。まして管理職として部下を束ねてのチームビルディングは難しいとも言えよう。一般職(非管理職)の頃から基本的には特定の職務のみに関わるようにして、その分野のエキスペートにすべきなのだ。そのようにしないと、時代の変化についていけなくなる恐れがある。
02 ―――
メンバーシップ型雇用のデメリット(その2)
人事評価が低く、管理職になることができずに40代になってから、急きょ専門職になる人が増えている。だが、現在の経済情勢や市場環境は20代の頃からスペシャリストを志さないと、エキスパートになるのは難しいと言わざるを得ない。
メンバーシップ型雇用の1つの問題は「長い期間にわたり、計画的段階的に育成」の「長い期間」と言えよう。計画的段階的に育成することは、ジョブ型雇用であろうとも大切なのだ。今の10~20代はキャリア形成に熱心な傾向があるから、今後ますます重要になる。
会社員のキャリアは、社員ひとりではつくれない。まずは、会社がキャリアを形成できる環境を整え、ロードマップをつくる必要がある。
例えば22歳で入社する場合、25歳、28歳、30歳、33歳、35歳、38歳、40歳と区切りを設ける。会社として個々の社員に「それぞれの年齢でこの仕事をこのくらいのレベルで対応できるようになってほしい」といった目標は提示するべきだ。そのうえで毎年毎期、上司とマンツーマンで話し合い、進捗を共有する。そして、PDCAサイクル(Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善))を回し、キャリアを形成していく。
こういう着実なステップをつくり、社員が納得感、安心感、達成感を味わえるようにする。この仕組みをつくらないと、「長い期間」が漫然としたものになる。そこに意識の高い20~30代は得てして不満を持つ。注意をしたいポイントだ。
03 ―――
メンバーシップ型雇用のデメリット(その3)
●年功序列になりがち
15~20年といった長い期間で社員の処遇を決めるのは、ある意味で人事評価が公平と言える。だが、意識の高い20~30代の社員からすると「年功序列」に見え、中高年に必要以上に優遇した不公平な人事と捉えるかもしれない。
メンバーシップ型の人事評価制度の根幹となるのが、職能資格制度である。担当する仕事の性質や種類により、仕事を遂行するのに必要な能力(=職能)を判定する。その結果にもとづき、賃金表(賃金テーブル)によって賃金を支給する。
職能は、具体的には等級(資格)でランクづけされる。例えば1から7まであり、新卒(大卒)が入社すると1からスタートし、年(キャリア)を重ねると、2、3、4と上がっていく。5からは管理職となり、6、7と上がる。
この制度を厳格に運用すると、年功序列といった印象を与える可能性が高い。しかし、実際は大企業の場合、同期生が30人とすると1から2に上がる時に30人全員が一斉に上がるのではない。25人程が上がり、5人程は1にとどまる。2に上がるのは数年以内が多い。2から3へ、3から4に上がる時も少しずつ差をつける。5の管理職(この場合は課長)には30人の同期生のうち、いわゆるトップエリートと言われる2~3人が最も早く昇格する。年齢では、30代前半となる。
一方で、ここ20年程は40代後半になっても管理職になれない人は30人のうち、5~7人程になる大企業が増えている。管理職になっても部下を持つことができない、いわゆる非ラインの扱いを受ける人も少なくない。
入社時の20代前半の頃から微妙な差をつけ、30代前半から40代後半にかけて管理職になる頃には完全に差を設けるのが、職能資格制度の重要ポイントである。
例えば20代の時、1から4に飛び級にしたり、わずか1年で1から2にすると、同期生の間で「こんなに短い期間で勝者と敗者にわけるなんて納得ができない」と不満が強くなるかもしれない。それではシラケてしまい、仕事への姿勢が悪くなる人が増え、組織の勢いを失う。
強い組織をつくるためには競争に参加させる人の数を増やし、ダイナミズムをつくることだ。そのためには、競争の結果に微妙な差を設けるほうがいい場合もある。そもそも、わずか数年で同期生の仕事力に大きな差がつくこと自体、本来は問題がある。それは仕事をあてがう方法や仕事の設計(難易度や量など)に何らかのムリがあるはずだ。
その意味では職能資格制度、つまりはメンバーシップ型雇用は一面においては理にかなったものと言える。だが、制度の運用を厳格にすると、年功序列といった印象は与えかねない。実際、大企業では1960年代前後から制度の運用に柔軟性を欠き、あたかも全員が同じペースで等級を上がっていくかのようなイメージで見られがちになってきた。これでは、20~30代の意識の高い社員が辞めるかもしれない。
したがって、20代の頃から飛び級を積極的に認めたり、例えば1から2に、2から3に、3から4に上げる人の数をさらに減らし、社員間でさらなる競争をするようにしたほうがいい場合もあるだろう。競争に参加させる人の数は減らさないようにしつつ、20~30代の意識の高い社員の心をつかむ工夫をするが必要だ。少子化で、優秀な社員の数が相対的に減る以上、ここは重視するべきところである。
04 ―――
メンバーシップ型雇用のデメリット(その4)
●賃金が実態とかけ離れた場合になることもある
メンバーシップ型雇用のベースとなっているのが、職能資格制度である。この制度は経済や業績が拡大している時は効果を発揮するのだが、不況や業績悪化になると、逆回転し始める。
長期にわたり、計画的段階的に育成し、等級を上げていくと一定水準以上の経験や技能、知識、ノウハウ、見識を兼ね備えた人材を管理職にすることができる。だが、総額人件費を圧縮・削減するためにそのポストがない場合があるのだ。
ところが、現在の法制度や裁判の判決では、いったん上げた等級を下げるのは難しい。つまり、管理職(課長)の等級である5にしたものの、それにふさわしい仕事はなく、いわゆる部下のいない管理職している人もいる。これでも、賃金テーブルで決まっている5の額を支払う。実態とはかけ離れた賃金となる。
こういう管理職が相当数になると総額人件費は膨れ上がる。そのしわ寄せが、20~30代の一般職にも及ぶ。ここ20数年、賃上げができていない理由の1つが、ここにある。これでは、20~30代の離職率が高くなる可能性がある。
05 ―――
メンバーシップ型雇用のデメリット(その5)
●あいまいな評価で、社員や会社が勢いを失う
ジョブ型雇用は特定の職務をこなす技能や知識、成果、実績といった定量的な材料をもとに判断し、評価する。一方でメンバーシップ型雇用は、判断材料が個々の社員の性格や気質など属人的な部分にまで及ぶ傾向がある。そこには、常にあいまいさがつきまとう。長い期間において様々な職務を対応させ、評価するからだ。例えば、次のようなことも評価されがちになる。
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上司や同僚らとの良好な人間関係処理能力
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グループやプロジェクト、部署の一員としての言動ができるか
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組織に同化することができているか
これらいずれもが長い期間、多様な職務を経験するうえでインフラ(土台)になるものであり、身につけるべきことではある。だが、評価の範囲が広く、判断基準があいまいになりがちで、上司の主観が働くウエートが大きくなりがちな面もある。部下が評価者である上司らに必要以上に配慮する経営風土にもなりうる。それがしだいに「同質社会」「同調圧力」と問題視される文化を形づくることにもなる。これが、大企業の勢いを失わせる一因とも言われる。
ここから、だらだら残業や有休休暇消化率が慢性的に低い問題が生じやすい。有能であっても、異端な人材は積極的には認めない文化にもなりうる。また、ダイバーシティ(多様性)が人事の課題となっているにも関わらず、派遣社員や契約社員、外国人や高齢者、障がい者に活躍できる機会や場をつくることが十分にはできていない。
06 ―――
メンバーシップ型雇用のデメリット(その6)
●ダイバーシティが生きない
今後は、派遣社員や契約社員、外国人や高齢者、障がい者がこれまで以上に貴重な人材となる。ただ単に労働力不足を埋め合わせるためではなく、それぞれの特性を生かし、戦力にしていかないといけない。メンバーシップ型雇用では、それが難しい面があるかもしれない。少なくとも特定の職務の成果、実績で判断するジョブ型雇用よりは戦力をしようとする際に問題やトラブルにぶつかることが多いはずだ。
そもそも、派遣社員や契約社員、外国人や高齢者、障がい者の多くは労働契約を結ぶ際に担当する職務や勤務地、労働時間などを厳格には決めていないと、安心して働くことができない。
このような人材が競争に参加しないと、組織のダイナミズムが生まれない。正社員の数が減っていて、今後さらに減る以上、正社員と派遣社員や契約社員、外国人や高齢者、障がい者の意識面の垣根を取り払い、同じ枠組みの中で刺激し合い、競い合えるようにするのが好ましい。
その時に適しているのは特定の職務をこなす技能や知識、成果、実績といった定量的な材料をもとに判断し、評価するジョブ型雇用ではないだろうか。競争環境を公平という概念で整備するうえで、ジョブ型雇用は優れている。
07 ―――
メンバーシップ型雇用のデメリット(その7)
●中途採用者が不満を持つ
メンバーシップ型雇用を継続すると、中途採用で入った社員が処遇に不満を持つ場合がある。入社時に前述の職能資格制度のいずれかの等級にランクされる。転職した会社の人事が前職の実績や現在の年齢、社会人になった時期から現在までの勤続年数などを考慮し、決めるのだが、ここには不公平感がつきまとう。
例えば「なぜ、自分は等級の2なのか。4にふさわしい実績を前職で積んできたはず」といったものだ。しかも、そこから挽回しようと懸命に取り組んでも、2から4に飛び級にはならないケースが多い。
これでは、同世代で優秀なプロパー層(新卒で入社した社員)にはこの中途採用者が追いつけない。ここに不公平感や不満を感じ、退職するかもしれない。依然として、メンバーシップ型雇用を中心としたスタイルではこのように中途採用者を生かしきれないケースがある。これでは、ダイバーシティとは言わないだろう。そして中途採用者も競争に参加しないと、組織のダイナミズムが生まれえない。激しいグローバル化の中、国際市場で勝つことは到底難しい。
08 ―――
メンバーシップ型雇用のデメリットのまとめ
メンバーシップ型雇用は長年、大企業やメガベンチャー企業で長年使われてきただけにメリットは多く、経済合理性もある。1990年代後半の不況以降、何かと批判されがちではあるが、依然としてメンバー型シップをやめない企業はある。
だが、少なくともこの雇用スタイルが適さない企業がある。それが、このシリーズで取り上げる売上10億円の壁にぶつかるベンチャー企業だ。シリーズの1回目から現在の8回までをご覧になると、ご理解いただけるはずだ。
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