第10回

売上10億円を超えた
ベンチャー企業の管理職たちの奮闘

部下育成とチームビルディングの本質


2023/11/10

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前回(第9回)と今回(第10回)は10億円の壁にぶつかり、それを乗り越えようとする企業の経営者にインタビュー取材した内容を紹介する。前回の記事をお読みいただいたうえで、今回をご覧ください。 

前回の記事ページはこちら another-window-icon

 

ヒーターの製造メーカー・スリーハイ(横浜市)はエンジニア(技師)がオーダーメイドで首都圏を中心に全国の企業、団体、公的機関などから産業用、工業用ヒーターの制作を受注し、制作・販売する。現在、正社員が18人、パート社員は24人、派遣社員1人。横浜市に工場を設け、タイなど海外にも進出している。売上は、2023年9月で4億円4千万の見込み。 

 

会社名:株式会社スリーハイ 

代表者 :男澤 誠 

所在地 :神奈川県横浜市都筑区東山田4-42-16 

設立  :1990年 

事業内容:産業用ヒーター及び温度コントローラ等の製造及び販売 

 
公式サイト:https://www.threehigh.co.jp/ 

公式Facebook:https://www.facebook.com/threehigh/ 

公式Instagram:https://www.instagram.com/threehigh.official/ 



 

01 ―――

最重要は、スリーハイの存在意義を理解してもらうこと 


Q、組織づくりで、特に力を入れているのはどのようなことでしょうか? 

⑥10億円を超えるためには組織づくりが大切で、その要になるのがマネジメントクラス(管理職7人)です。このメンバーへの教育には、特に力を入れています。現在の規模になると私がすべての正社員やパート社員に指導育成ができませんから、管理職を通じて育成をしてほしいのです。 

 

マネジメントクラスへの教育は難しいものがありますが、やりがいがあり、おもしろい。最も重要なのが、スリーハイの存在意義を理解してもらうこと。私たちが、何のために存在しているのかを全員で共有したい。 

 

管理職たちによく投げかけるのは、たとえば「今、製品をつくっているのは何のため?」「お客さんに電話やメールをするのはなぜ?」などです。目の前の仕事の向こうに何があるのか、と考えてほしい。お客様の作業環境や生活を快適にすることこそが、弊社の存在意義であり、事業の大きな目的です。そこにつながっているかを常に各自が考え、仕事をしてほしいのです。 

 

それを各部署の管理職が率先して部下たちと一緒に考え、全社で共有してもらいたい。たとえば主力製品であるヒーターをつくって販売して終わり、ではないのです。ヒーターを使うお客さんの心まで温まっているかどうか。ここまで踏み込んで考えてほしい。 

 

私が、管理職たちの前で手本を見せます。たとえば、全社員が参加する30分のミーティング(昼礼)で、それぞれの社員が報告をします。その際、たとえばこう聞きます。 

 

「その報告で出てきたお客さんは、あなたの対応に何を感じたと思いますか?」 
「あなたの電話で、何を思ったのでしょうかね」 
「(前回取り上げた)アニュアルレポートにも、今、あなたが報告したことと同じことが書かれてあったよね」 

 

つまり、皆に私たちの存在意義を繰り返し考えてほしいのです。唯一の回答はないのでしょうが、考え続けることでそれぞれの意識や考え方が変わり、サービスの質が向上します。組織の一体感が高まり、各部署や会社の仕組みがつくられていきます。マネジメントクラスを通じて、それを実現したいのです。

 

 

 

02 ―――

マネジメントクラスを育成する 

 

Q、マネジメントクラスを育成する教育は、どのようなものがありますか?  

 

⑦管理職だけが参加する会議もあります。ここは、7人と私が仕事をするうえでの価値観を具体的な事例などをもとにすり合わせ、1つにする場にしています。そして、私の代わりに7人が個々の部署でたとえば「スリーハイの存在意義はこうだよ」と部下たちと話し合い、意識を共有してほしいのです。 

 

これら一連の取り組みが、マネジメントクラスを育成する教育となります。その効果があらわれるのには、時間がかかります。長いスパンでとらえ、皆を信じて丁寧に育成していきたいと考えています。特に今後10年が、マネジメントクラスの育成でたいへんに大事な時期になると位置づけています。 

 

経営者があきらめてはいけない、と自らに言い聞かせています。「なぜ、これほどに言ってもわからないのだろう」と思うのではなく、皆が必ず変わると信じることこそが必要なのです。たとえば、部下の言動が、スリーハイの存在意義や大切にするものと合致していないときがあります。その際、私はこう言いたくなるのです。 

 

「あなたは、ただの管理人になっていますよ。管理職として部下の行動をスリーハイの進んでいく方向に合わせないといけないでしょう」 

 

しかし、あえて言わないのです。ここまで言えば、管理職たちが自ら考えることをしなくなるからです。むしろ、こう言います。 

 

「どうして、あなたは部下のその行動にそのような反応をしたの?」 

「なぜ、そこで部下に言わなかったの?」 

 

本人たちに気づきを与えたいからです。 

 

マネジメントのメンバーに大切にしてもらいたいことが、もう1つあります。管理職として会議などで話すとき、主語は「私」ではなく、「私たち」とするのが理想です。たとえば「私たちは、このように思います」というように。「私」で話す管理職は、部署や社内のことを他人事のように語る場合があるのです。これでは、組織がつくれない。 

 



03 ―――

社長が社員にダイレクトに言うのは、組織づくりをするうえで遠回りになる

 

Q、一般職である社員たちに、社長として直接何かの指示をしたり、助言をする機会はありますか? 

 

最近は、少なくなっています。規模が大きくなり、私ひとりでカバーするのがだんだん難しくなってきました。今の段階では管理職を通して育成をすることが、組織づくりになると考えています。 

 

⑧私が一般職にダイレクトに言うと、組織づくりをするうえでは遠回りになるように思います。近道は管理職7人を主役にして、前面に出るようにして、彼らが育成をするように誘うことが大切ではないでしょうか。私が指示をしたり、助言をしたりすると、管理職としてのプライドに傷がつくでしょう。 

 

私は脇役でいい、と思っています。ここ10年で様々な機会で自分の考えを発することができましたら、主役になるのはもう十分なのです。中小企業の経営者の中には、自分こそが前面に出るべきと思う方もいるのかもしれませんが、私はその考えがあまりないのです。 

 

今後は、管理職を前面に出したい。もう、私が前面に出るのはいいかな、と考えています。ただ、経営者として生きた証は何らかの形で残し、次世代の人に伝えていきたい。 

 

今、スリーハイは1つのステージは終わり、新しいステージに向かいつつあるのかもしれませんね。次の時代を担えるリーダーを育てるのが、私の今後の大きな仕事です。 

 

ここからは、前回(第9回)と今回(第10回)の男澤社長へのインタビュー記事の中でアンダーラインを引いた箇所について、私たち編集部がこれまでのコンサルティング経験をもとに補足説明をする。




04 ―――

態勢を刷新しないと、売上は増えない

  
正社員の5人は経験と実績が豊富なエンジニアで、チームとしてまとまっているように見えました。 

 売上10億円の壁にぶつかる企業の多くに見られる。優秀な創業経営者のもと、数人のメンバーが職人気質でハイレベルの仕事をする。すばらしいことではあるのだが、ここにはプレイヤーはいても、マネジメントをする人がいない。それができうるのは唯一、経営者なのだが、その経営者のもとではマネジメントは今後もなされないと捉えるのが、妥当。 

 

つまり、経営者を変えるなどして態勢を刷新しないと、売上は増えない。その意味で、2代目にバトンタッチしたことは、適切な経営判断と言えるのではないか 。

 

 

 

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05 ―――

仕組みづくりが可能な人材を採用すべき 

 

父は、こう答えました。「今のメンバーは、お前の言うことを素直には聞かないだろう。私が雇い、育て上げ、使いやすい人材にしたのだから。これから一緒に会社をつくり直すことができる人を雇い、育てたらいい」。

 

一緒に会社をつくり直すことができる人を雇い、育てたらいい。この言葉に尽きる。売上10億円の壁にぶつかる企業の場合、仕組みづくりができていない。だからこそ、それが可能な人材を採用すべき。世間一般の捉え方で、たとえば学歴や職歴で判断すべきものではない。あくまで、その会社の社風、歴史、事業やビジネスモデル、社員との人間関係と合う人を選ぶ必要がある。そこを踏まないと、定着率は向上しない。組織づくりはできない。10億円の壁を乗り越えるのは難しい。

 




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06 ―――

ステージに合った人を選ぶことは、極めて大切 

 
新卒採用は、この時点ではしていません。私がまだ経験が浅く、育成はできないだろうと思いました。むしろ、数年で構わないので社会人経験があり、私の足りないところを補ってくれるタイプを求めていたのです。
 

定着させ、育成する態勢が整っていないならば、新卒採用はすべきではない。このステージならば、中途採用で新しい社長を支えてくれるような人を雇うほうが得策。ステージに合った人を選ぶことは、極めて大切。 

 

経営者には今、会社がどのステージがいるのかを正しく把握する力が求められる。10億円の壁にぶつかる企業の場合、経営者がステージを心得たうえで採用していないことが多い。



 

いずれも前職の経験を必要以上に前面に出すことはせず、素直にこの会社に溶け込んでくれました。中途採用で入る人としては珍しいタイプかもしれませんね。 

中途採用ではキャリアや実績はもちろん大切である。だが、10億円の壁にぶつかる企業では組織づくりが重要課題である以上、社員の定着率向上が必須。そのためには、社に早いうちに溶け込むことができる人でないといけない。それを判断するのが、このレベルの企業の採用における重要な視点

 

 

 

07 ―――

理念共有を盛んにしようとしても、本末転倒

 
社長と社員といった関係よりも踏み込んで、人と人との関係になります。そのうえで、経営理念などを共有できるようにしたのです。人間関係ができていない中で理念は社員の意識に浸透しないと思います。 

人間関係ができていない中で理念は社員の意識に浸透しない。だからこそ、社に溶け込むことができるような人を厳選すべき。この視点がない中、中途採用で前職の経験などを重視し、内定を出す。そして入社後にミスマッチとなる。それにも関わらず、理念共有を盛んにしようとしても、本末転倒。

 

 

 

10億円を超えるために組織づくりは大切で、その要になるのがマネジメントクラス(管理職7人)です。このメンバーへの教育には、特に力を入れています。現在の規模になると私がすべての正社員やパート社員に指導育成ができませんから、管理職を通じて育成をしてほしいのです。

 

この言葉をあらためて考えたい。組織づくりをする際に真っ先に最大のエネルギーを注ぎ込んで教えるのが、管理職だ。ここが育っていないと、各部署が機能しない。そのような中、一般職の社員たちが育つ可能性は相当に低い。大事なのは、プレイヤーとしての力量を上げるのはなく、マネジメントの力を上げるべき。部下の育成やチームビルディングができてこそ、管理職。 

 

避けるべきは、社長が一般職を育成しようとすること。それでは、部署はいつまでも機能しない。社内がスムーズに動かない。管理職も育たない。

 




 

08 ―――

組織づくりをするためにこそ、管理職が集う 


管理だけが参加する会議もあります。ここ、7人と私が仕事をするうえでの価値観を具体的な事例などをもとにすり合わせ、1つにする場にしています。そして、私の代わりに7人が個々の部署でたとえば「スリーハイの存在意義はこうだよ」と部下たちと話し合い、意識を共有してほしいのです。 

10億円の壁にぶつかる企業の管理職の会議は、本来こうあるべき。もちろん、各部署の仕事の進捗や課題、問題点、連絡事項、社員の現状などは管理職全体で把握しておくべきではある。だが、それと同等に社の存在意義や事業のミッション、理念について深く話し合い、共有する場にしたい。決して大企業の管理職会議ではない。組織づくりをするためにこそ、管理職が集うようにしたい。

 

 


私が一般職にダイレクトに言うのは、組織づくりをするうえでは遠回りになるように思います。近道は管理職7人を主役にして、前面に出して、管理職が育成するのが大切なのではないでしょうか。  

10億円の壁にぶつかる企業では、なかなかできていない。社長が管理職よりも前面に出て指示をすることが多い。本当に正しく把握したうえで指示をするならばともかく、感覚的に思いつきの場合も少なくない。これでは、管理職が育たない。組織づくりもできないはずだ。

 

 

以上ではあるが、読者諸氏には前回と今回のインタビュー記事をあらためてお読みいただきたい。10億円の壁にぶつかる企業には、ヒントになることが多いはずだ。 

 

 


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著者: JOB Scope編集部
新しい働き方、DX環境下での人的資本経営を実現し、キャリアマネジメント、組織変革、企業強化から経営変革するグローバル標準人事クラウドサービス【JOB Scope】を運営しています。
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