第15回

売上10億円を超えた
ベンチャー企業の管理職たちの奮闘

部下育成とチームビルディングの本質


2023/01/29

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01 ―――

毎期業績を拡大し、売上は6億4千万円  

 

今回は、PR会社のKMC group株式会社を取り上げる。PR会社などで経験を積んだ7人が2014年に創業し、毎期業績を拡大し続けている。2023年1月の売上が、6億7千万円。10億円を1つの通過点として位置づける。2023年11月の正社員数は、36人。 

 

社員全員がPR会社、広告会社や代理店、テレビ局や番組制作会社、新聞社や出版社、インターネット系企業である程度、仕事をしてきた経験を持つ。それらの経験を生かし、クライアント企業に提案や助言、コンサルティングをしている。クライアント企業は、Panasonic、サイバーエージェントや日本ネスレ、カンロ、成城石井、グリコなど500社を超える。 

 

サービスの内容の一部は、主に次のようなものだ。 

「PR戦略支援」「プレス、記者会見の運営や発表資料の制作」「株主総会の発表資料制作」 

「イベントの企画運営」「動画の企画制作」「SNSやYouTubeチャンネルでの企画制作および配信」。 

 

 

02 ―――

テレビへのアプローチが強いPR会社 

 

社員にはテレビの番組制作に関わった経験者が多いこともありテレビへのアプローチが強いPR会社として知られる。クライアント企業の製品や商品、サービスが人気番組「日経スペシャル カンブリア宮殿」(テレビ東京)をはじめ、様々な番組で取り上げられている。 

 

KMC groupの担当者が、テレビ局や番組制作会社のディレクターやプロデューサーに説明をする際には「ファクトブック」を使う。クライアント企業の事業内容や沿革、企業全体の公式情報をまとめた広報資料である。たとえば、「カンブリア宮殿」から、クライアント企業への取材依頼を狙う場合には、ファクトブックの内容そのものを番組構成に近づけるように作る。 

 

カンブリア宮殿」は基本的に3本のストーリー展開で構成されている。ファクトブックもそれに近い構成で作っている。取材カメラを入れられるクライアント企業の場所も記載し、写真も付けるようにしている。 

 

また、グループ会社を設立させ、きめ細かなサービスができるようにもしている。編集プロダクションのオンエア、動画制作および配信のフィールドキャスター、クラウド広報ソフト開発のスマートピーアールなど、計4社。 

 

今回は、2014年の創業期から在籍し、2018年から取締役(メディア事業責任者)を務める小泉香緒理氏に取材を試みた。 

 

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03 ―――

安定成長ができる理由 

 

まず、比較的安定した成長を続けることができている理由を尋ねると、クライアント企業の多くが広告、メーカーや金融、小売、サービスなどの業界の大手企業からの支持が強いことが理由であることを挙げた。 

 

大企業からスタートアップ企業まで、各社の実情と課題に合わせてプランを立て広報活動を支援させていただいているが、特に大企業が多い。大企業は、自社の商品や製品の販売、サービスの開始をする時にPR会社を起用し、効果を高めようとするケースが多い。はじめは大手のPR会社に委託し、その状況を見つつ、ほかのPR会社に切り替えることがある。その時に、私たちを選んでいただくケースが増えていると実感している。 

 

弊社は、社員全員がメディアでの経験者であることに1つの特徴がある。PR会社、広告会社や代理店、テレビ局や番組制作会社、新聞社や出版社、インターネット系企業である程度、仕事をしてきた人でそろえている。それらの経験を生かし、クライアント企業に提案や助言、コンサルティングができているのではないか。 

 

ほかのPR会社にもメディアで仕事をしてきた社員はいるのだろうが、私たちの場合は営業や管理部門もメディア出身者が多数を占める。ここに、大きな特徴がある。こういう態勢や仕組みになっているために、社を挙げて現実的な提案や助言、コンサルティングを提供できる」 


04 ―――

改革を提言する女性社員の入社

  

安定成長ができる大きな理由に、小泉氏はそれを実現可能にする仕組みがあることを挙げる。そのきっかけとなったのが、創業から2年目の2015年。売上は、2億円前後だった。この時期、大手のPR会社で経験を積んだ20代の女性が中途採用試験を経て入社し、社内ツールや仕組み、態勢が不十分であることを察し、問題や課題を提案した。 

 

たとえば、創業時からプロジェクトごとに構成メンバー(社員)を組むが、2016年以前はリーダーであるマネージャーによって、プロジェクトの記録の残し方が人によってバラバラだったという。メンバーたちの全員が中途採用者であり、経験が豊富なために柔軟に随時、対応をしていた。 

 

業績拡大にともない、社員が増えると、よりスムーズに効率的に仕事を進めようとする機運が高まってきた。その時に、前述の女性が提案をした。小泉氏は、タイミングがとてもよかったと振り返る。 

 

「彼女のコミュニケーションは、すばらしかった。「ここが問題!」と感情的に指摘するのではなく、たとえば「このデータ管理をシステム化していないと、問題が生じやすい」とTPOをわきまえて発言していた。 

 

創業メンバーはそこにかねてから問題意識を持っていたが、日々の仕事に追われ、解決ができなかった。彼女の指摘で、この頃の社員10人程全員が仕事をいったん止めて考えることができた。社長や役員や管理職、社員がマインドシフトをするきっかけとなった。 

 

創業メンバーは2014年より5年程前から同じ会社に勤務していたこともあり、2016年の時点で仲間意識がとても強い。これはいい面でもあるが、仕事においては、なあなあになっている一面があった。互いに痛い部分を指摘し合わない傾向はあるのかもしれない。これでいいのかと思いつつも、とりあえずは目の前の問題を団結し、なんとか乗り越える。それで当面は上手くはいくが、問題がそのまま残ってしまっているような感覚はあった」 

 

 

05 ―――

改革への拒否反応や反発心が芽生えなかった理由

 

中途採用で入社してきた社員が問題を指摘すると、社内に拒否反応や反発心が芽生えることは少なくない。そのことを尋ねると、小泉氏はこう語えた。 

 

「それはなかったように思う。むしろ、社長が中心となり、積極的に提案や指摘を受け入れ、改革を試みた。提案者である女性に大幅に権限を委譲し、提案が実現しやすい環境を整備した。社長は権限移譲をするから、あとはすべて任せたと放り投げることはしない。進捗などを確認し、実現できるようにサポートをしていた。 

 

社長はふだんから、社員やその家族、クライアントや株主のためにも、会社自体を長く残していきたいと話している。会社を私物化するつもりはなく、経営者として最適な人がいるとしたら、社長になってもらいたいとも話す。 

 

このような寛容な姿勢に影響を受けたり、好感を持つ社員が多いことも、改革が進んだ理由だと思う。社長に感化され、管理職であるマネージャーたちのほとんども改革をすぐに受け入れた。2016年に創業メンバーの中に退職者が現れたりして、態勢が多少変わった。このことも、会社の仕事の仕方を変更するタイミングとしてちょうどよかったのではないか」 



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改革を実現させるために、態勢を刷新

 

「この時期までは、テレビや新聞、出版、インターネットで取材や記事執筆、編集をする編集部の連絡先をまとめたリストが十分にはシステム化できていなかった。クライアント企業の製品や商品、サービスをリリースする際には毎回、テーマごとにメールの送信先を見直し、セレクトをしていた。それは、1時間を超える場合もあった。 

 

前述の女性が中心となり、システム化に着手したことで大幅に短縮できた。社内のデータベースでたとえば「芸能人のイベント」をクリックすると、それに関するメディアの連絡先が瞬時に出る。これで、リリースを発信するまでの時間が5分ほどになった」 

 

小泉氏によると、こういう試みを全社規模で2015年~16年に集中的にしたことで、社内の動きは一段とスムーズになった。ムリ、ムダ、ムラが大幅に減り、それぞれのプロジェクトや社員らの仕事は負担が減った。職場の雰囲気も大きく変わったという。 

 

社長らは、女性が一連の改革を実行し、実現させたことを高く評価し、執行役員に抜擢した。このことも、さらなる改革を成功させた一因となったようだ。 

 


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育成を重視した人事制度に

 

改革をする一方で、社員数が20人を超えた2018年頃から人事制度のあり方を見つめ直すようになった。それ以前は、特に管理職の場合、成果・実績に重きを置き、それらの評価が高いと賃金が高くなる仕組みだった。ただし、創業時から個々の管理職にいわゆるノルマは課していない。社長がかつて証券会社に勤務していた時、ノルマ(数値目標)を追う営業の仕方に疑問を感じたのだという。 

 

社長や役員、執行役員などの経営幹部は今後の成長、発展のためには各部署やプロジェクトのチームビルディングが課題であるとし、20年に評価のあり方を大きく変えた。この時期は、社員数は35~40人。 

 

管理職などの育成により一層に力を入れるために、原則として同一の役職は給与を同額とした。 

 

また、一般職(非管理職)の上には、マネージャーなど管理職と専門職(スペシャリスト)が前々からあったが、2018年に明確にわけた。社員のキャリア形成の道筋をつけ、働きやすい環境をつくるためである。育成の一環と言える。職種転換は可能だ。たとえば管理職から専門職へ変わることができるし、その逆もある。本人の希望や会社の状況などを含め、総合的に判断し、決める。 

 

 

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新卒採用を本格化

 

2020年4月入社から、大卒を中心とした新卒採用もはじめた。コロナで21年の採用は見送ったが、22年、23年と毎年3人前後入社している。2023年12月時点で、3年間での退職者は1人。定着率を高めるために力を入れているのが、オンラインなどを駆使した会社説明会である。 

 

さながら、テレビ番組のようなつくりになっている。社長の挨拶にはじまり、KMCgroupの事例紹介(食品系企業様など)、入社後のキャリアについての説明オフィス内ツアー先輩社員や新卒社員を交えた座談会などと続く。 

 

小泉氏は、説明会についてこう語る。 

 

「入社前と入社後のギャップをなくすために、学生が理解できるようにわかりやすく説明した内容を目指している。新卒入社からの退職者が少ない理由の1つは、この説明会にあると思う。新入社員は概して理解力があり、仕事を覚えるのが速い。今後に期待したい」 

 

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小泉氏は、こう締めくくる。
 

 

「10億円は、1つの通過点。これから、さらに発展していきたい。コロナウィルスの感染拡大が深刻化した2020年にテレワークが一般化したが、自社は2014年の創業時から、自宅で仕事ができるようなテレワークをスタートしていたり、フリーアドレスも早い段階で採用していた。働きやすい環境をつくる試みも続けていきたい」





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著者: JOB Scope編集部
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