人事制度の改定は、それほど頻繁に発生することではありません。
従って、新制度の導入スタート時にどのような運用準備を整えるべきかが分からず、苦慮している企業も多いようです。
ある調査では、48.3%の企業が過去5年以内に人事・等級制度について改定を行ったという結果が出ております。ただし、この数値には人事制度のマイナーチェンジも含まれるため、運用準備の範囲や発生するパワーはバラつきがあると思われます。
なお人事制度は外部マーケットの変化などで、ある種の“賞味期限”のようなものもあります。
日本企業でメジャーな職能資格制度が、昨今の競争が激しい外部環境で勝ち抜くために、ジョブ型人事制度に移行しているのは、必然の潮流でしょう。
一方、人事制度の賞味期限を決めるのは、社内の人事制度運用にも左右されます。
本来人事制度そのものには善し悪しはなく、現場で根付くためには、いかに社内に人事制度の思想や運用のノウハウが浸透しているかが重要になるからです。
今回は、人事制度設計後に現場で自走できるかどうかの要となる、運用面に着目しました。
新しい人事制度を導入する場合はもちろんのこと、現在の人事制度が運用によって制度疲労を起こしていないかをチェックする場合にも、参考にしていただければ幸いです。
目次
人事制度は、構築して終了ではありません。むしろ人事制度での狙いを実現できるかどうかの生命線は、制度の運用状況にあります。
人事制度構築は、あくまで骨組みを用意しただけです。そこに血肉や魂を通わせるためには、日々の運用を通じて全社員にまで、人事制度の意図を浸透させる必要があります。
よくある失敗例として、人事制度構築でパワーを使い果たしてしまい、人事制度運用は現場に丸投げしてしまうようなケースです。
現場は日々動いているので、最初は少しの解釈のズレであっても、半年経過するとズレた状態が広がったり、ズレた状態が現場に定着しきったりしてしまいます。
具体的には、主に新しい人事制度に関する以下のような運用設定をする必要があります。
※各事項の詳細の説明は、今後更新予定の別記事で詳細を解説する予定です。
人事制度が現場に浸透するかどうかは、人事部門が運用についてのイマジネーションをどこまで描け、どこまで手を打てるかにかかっているといっても過言ではありません。
人事制度に限らず、社内システムの何かを変更する場合は、社員に周知徹底するための説明は不可欠でしょう。
特に、所属部門を問わず全社員に等しく影響を及ぼす人事制度に変更を加えた場合は、丁寧な理解を促す仕掛けが必要です。
たとえば、等級制度を職能ベースからジョブ型ベースに変更することを例に挙げましょう。
このような人事ポリシーの根幹に該当する変更を行う場合は、変更の方針が決定した時点で、第一弾の社内広報が望まれます。
具体的には、全社総会など全社員が集う場で、経営者からポリシーの変更の意図などを説明することが求められるでしょう。
この段階では細かい制度の説明より、制度変更に込めた思いを伝えることが重要です。
「自社がどのように未来を切り拓きたいのか」「そのために人事制度をどう機能させたいのか」など、制度変更のコンセプトを十分に理解してもらうことに重きを置くべきです。
もちろん実際に制度が施行される前には、人事制度の詳細の説明会も実施する必要があります。
ただ、人事部門は制度設計時に細かい検討に入り込み過ぎて、人事制度のコンセプトの浸透は意外におろそかになるケースもあります。
詳細な説明ももちろん重要ですが、経営陣を巻き込みながら、人事制度をどう社員に浸透させるかというストーリーテリングも忘れてはならない観点でしょう。
人事制度の概要の説明とは別に、運用についての説明も考慮すべき広報施策です。
新しい人事制度下では「いつ」「何をして」「誰が」「どんなツールを使って」など、詳細な運用プロセスを社員に周知徹底していきます。
場合によっては、直接の説明会以外に、社内のイントラネットに情報を公開し、社員間の情報格差をなくす工夫も重要です。
運用に関しては、できれば管理職と一般社員層と分けて、広報施策を考えることが望ましいでしょう。
管理職は自らの言葉で、新しい人事制度の狙いをメンバーに浸透させる役割を担います。
ただし、現場管理職は決して人事の玄人ではありません。
従って、社員に制度を施行する前に、管理職のみを集めて、新しい人事制度について具体的な運用の流れをレクチャーする必要があるのです。
メンバーがいない場面では、管理職も分からないことは遠慮なく質問できるはずです。
場合によってはロールプレイング形式で、管理職によりリアルな場面を想定してもらいながらのディスカッションをすることも効果的です。
いずれにしても、新しい人事制度を現場で生きた形で浸透させるには、管理職の言動が生命線となります。
人事部門としては、管理職全員が自部門で新制度を展開できるために、運用の疑問・懸念をなくすことを最優先して施策を打つべきでしょう。
新しい人事制度を広報する際、社員からの反応が不安になることでしょう。今回は、人事制度設計後に現場に広報を行う「説明」の場面を取り上げました。社員を「同志」「顧客」と見なすバランス感覚を大事にしながら、新しい人事制度のお披露目について、場面設計を考えていただければ幸いです。
職能ベースから、ジョブベースへ。評価の賃金への反映比重をプロセスから業績へ……。
このようにドラスティックに人事制度を変える場合は、評価者への教育もあらためて施す必要がある場合が多いでしょう。
評価者教育は、マネジメント向けの勉強会や研修の実施が考えられます。
その場合は、忙しいマネジメントを現場から離すことになるため、実施時期などは慎重に見極める必要があります。
また目標管理制度を導入する場合は、期初が始まってすぐに目標設定をする必要もあります。この場合も、評価者教育の時期は考慮しなくてはなりません。
評価者教育は時間もコストも発生するので、制度運用を開始してから必要施策を考えてしまうと、後手に回りがちになります。
人事制度構築時には、作った制度を狙い通り運用するには、どのようなルール設定や教育施策を実施する必要があるのかを、あらかじめ想定するようにしましょう。
評価者教育は、評価権を持っている管理職・マネジメント層に向けた教育施策全般のことです。新人事制度が狙い通り機能するためには、管理職の動きが要になります。今回は、人事制度運用の要となる評価者にむけての教育をテーマとして取り上げます。
職能資格制度やジョブ型等級制度など、社員の格付けをする等級制度はさまざまな種類があります。
どんな等級制度を採択したとしても、日本企業においては社員の当該期の動き方を評価するプロセス評価は、少なからず残るでしょう。
プロセス評価で起こりがちな現象が、いわゆる“後出しジャンケン”のような状態です。
全社員に評価項目が浸透していない状態で、期が終わってから「この行動が足りなかった」とフィードバックを行うようなケースです。
メンバーの心情としては、それなら期初に言ってほしかったと思うことでしょう。
会社が設定した等級基準や評価項目を公開することはもちろんのこと、自部門の仕事に照らしてブレイクダウンすると、より浸透効果が発揮されます。
例えば「スピーディな行動」のようなプロセス評価項目があった場合、営業部門や経理部門では、具体的に想起される場面は異なるはずです。
期初に自部門として求められる行動をメンバーが理解できていれば、期中・期末でのフィードバックへの納得感は格段に向上します。
このようにプロセス評価のP-D-Sが周り始めることは、人材開発において最重要視すべきことでしょう。
社員の行動・プロセスに関する人事評価は、多くの企業でスタンダードに取り入れられており、馴染みがある人事評価制度といえます。プロセス評価の望ましい運用について着目しました。「現場マネジメントがこのような運用を行っているかどうか」の視点でご一読ください。
「仕事の結果」を評価する方法として、目標管理(MBO)は人材マネジメント上、必ず正しく理解したい手法です。
目標管理(MBO=Management by Objectives and Self Control)とは、経営学者として有名なピーター・ドラッカーが、『現代の経営』の中で紹介したマネジメント哲学として広く知られています。
「Management by Objectives and Self Control」とあるように、「目標と自己統制によるマネジメント」という意味が込められています。
多くの日本企業は目標管理を取り入れていますが、実態としてはただの“ノルマ管理”となってしまうことがよくあります。
必達すべき数字として上層部から落ちてくるだけでは、MBOではありません。重要な「and Self Control」の部分が消えてしまっています。
本来のMBOは、一人ひとりが責任を持って目標を立て、目標に照らして自らの成果を評価できなければなりません。
ただし、マネジメントサイドの観点では、MBOを一定期間の結果評価として機能させる必要があります。
そのため、「OKRメソッド」というインテル社のアンディ・グローブ元社長が構築した手法などを活用する必然性が出てくるのです。
詳細は別記事で解説しますが、MBOは「哲学」であり、OKRは「実践手法」という使い分けを、マネジメントは理解する必要があるでしょう。
人事評価手法で、目標管理制度を導入されている企業は多いと言えます。一方、運用面においては、会社からの一方的な目標を強要したり、あるいはメンバーからの安易な目標設定を許容したりなど、本来的な運用ができていないケースも発生しております。目標管理制度の現在の運用をチェックする場合にも参考にしていただければ幸いです。
目標設定や記述するシートは企業によって様々ですが、設定方法にはポイントがあります。
5W1Hで設定するのは基本ですが、最も大切なのが、What(何を)、Where(どのレベル)、When(いつまでに)です。Whatは、KSF(Key Success Factor)として「目標達成のために取り組むべきもの」を明確化します。
たとえば、以下のような観点で、上司とメンバーは目標設定をチェックしましょう。
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上司は、部下と一緒にこのような点を確認して目標設定する事が望まれます。
目標管理制度の成否の大半は、期初の目標設定にかかっているといっても過言ではありません。
もちろん、目標設定を完璧にするだけでなく、期中の進捗のウォッチや状況に応じての支援も、マネジメントには求められます。
多くの企業は期初と期末の面談は行っているものの、期中のフォローは手薄になりがちです。
最近は、1on1の振返りミーティングに代表されるように「気軽に・こまめに」面談を行うトレンドもあります。
特にテレワークが一般的になって働き方も多様化している昨今においては、オンライン面談も活用しながら、従来以上にコミュニケーションを密にすることが推奨されます。
MBOは業績目標達成のためのノルマ管理の仕組みではありません。業績目標の達成はもちろんのこと、目標を担った本人の成長も叶っていないと、本来のMBOの価値は享受できていないでしょう。目標管理制度を「業績向上・人材育成の双方」に好影響があるような、期初・期中・期末での実践的な運用メソッドを紹介します。
人事制度設計には、ある程度「何をどうやって設計するか」のような“型”が存在します。
一方、人事制度運用は「何をどこまで準備するのか」に、明確な線引きはありません。
現場の風土、マネジメントの力量、社員のHRリテラシーなど、各社によって状況は異なるからです。
だからこそ、自社の状況をもっとも理解している人事部門が人事制度運用の強力なコントロールタワーになる必要があります。
現場管理職、新入社員、経営陣、外部のHRプロフェッショナルなどのステークホルダーをマネジメントしながら、新しい人事制度が理想の状態になる運用をめざしましょう。