生産年齢人口の減少が加速する日本。どの企業も人材確保が喫緊の課題となっている。特にこの先、5年・10年を見越すと若者世代を何とか迎え入れたいところだが、採用はもちろん、せっかく入社に至っても定着が厳しいとあって経営者や人事の悩みは尽きない。こうした中、「マーケティングや社員の採用・育成などの企業活動にアップデートが必要だ」と提言するのが、産業能率大学 経営学部 教授の小々馬 敦氏だ。今後はZ世代に次いでα世代へと主役が切り替わっていく。企業としてどう向き合っていけば良いのかを聞いた。インタビューの後編では、α世代とZ世代の共通点・違いや近著に込めた想いなどを語ってもらいました。

01結果、成果を追い求めるα世代

α世代はZ世代と何が共通していて、どう違うのですか。

共通点は社会課題に敏感で正義感が強いことです。幼い頃から、SDGsをテーマとする授業が学校教育の中に入っているので、意識と行動の前提になっています。Z世代は、周りの人や社会に貢献したい意向が強いですね。「何か社会の役に立ちたい」という気持ちは強いものの、どうしたらそれができるかの手段や解決策には自信が持てず、デジタルやAIのリテラシーを生活の中で消化しきれていないところがあります。Z世代はデジタルネイティブ(生まれた時からインターネットやパソコンのある環境で育ってきた世代)と言われますが、実はSNSやスマホが世の中に出てきて浸透していく過渡期に育っているために怖い思いや嫌な思いをしていて、新しいテクノロジーに関して懐疑的な意識も持っています。DXにも、デジタルでそこまで便利にならなくても良いのではと少し距離を置いているのが実際だと思います。

一方、α世代では、幼少期から生活の中に当たり前のようにAIが存在しています。家の中にある家電にはAI搭載のステッカーが貼ってあり、声を掛けて使いこなしていますし、塾や学校では、タブレットのAIから問題が出題され、答える相手もAIと、AIとの親和性が非常に高いです。AIは自分のことをよく知っている話し相手でもあり、自分に最適なものはそこから出てくると信じています。そして、自分が使いこなせるツールという感覚を持っていると思います。

Z世代と何が違うかというと、Z世代は社会貢献意欲、想いが強く、α世代はしっかりと成果を出したい気持ち、成果志向がより強くなります。言い換えると、Z世代は自由主義で、α世代は民主主義的な考え方がより強いですね。例えば、Z世代は学校で「答えは一つではないから、皆で自由に考えてみよう」と教育を受けてきました。討議をすると皆で話しあうことに時間を掛けるものの、「答えは一つではないから難しいよね」と答えを確認しないままに終わってしまいがちです。ところが、α世代は、AIを活用して解決策を創造する思考が養われていますので、解決すべき課題を確認した上で、それをどのように解決するのか具体的な解決策を見つけることに時間をかけます。

α世代は「答えをどうやって出すのか」というと、「みんなが正しい。社会的に正しいことが正解」という民主主義的な判断をします。また、AIを使って「社会の中庸、中道の意見」を確認できれば答えとしれば良いと割り切って、答えを探すことに時間のコストを使うよりも、解決策を考え講じることに時間を集中してしっかりと成果を出そうという意志が強いのがα世代の特性と言えます。

この背景の一つにはオンラインゲームでの体験があると思います。友達とオンラインゲームの中で、アバター(自分の分身)となって集まり、ゲームをクリアすることに集中していますよね。今回はこれを達成すると目的を共有する仲間が集まり、結果が出るまで熱中して楽しみ結果が出たら解散する。このような結果志向のプロジェクト型チームワークに慣れています。これは、大学生が小学生と一緒に、2030年の未来の暮らしを描くプロジェクトを実施したときに、大学生が自分たちと違う点として感じたと教えてくれたことです。

Z世代やα世代の価値観は、上の世代の価値観に何らかの変化をもたらしているのでしょうか。

現在では、実は世代間の価値観の違いは小さくなっています。親子の仲が良いので、親子のものの考え方は似ていますね。親が子どもの価値観を尊重し、子供の価値観に親の価値観が近付いていく傾向が見られます。子どもの価値観の方が現代社会により適合しているはずなので、親が、「これからはそういう時代だよね」と自身のものの考え方をアップデートすることは合理的です。2020年以降のコロナ禍下で、家族が一緒に過ごす時間が増えて、親子で会話する機会も増えたことの影響もあると思います。

02世代が移り行く中、もはや消費と言う概念がなくなってきている

新消費をつくるα世代 答えありきで考える「メタ認知力」

小々馬先生は、今年5月に新刊『新消費をつくるα世代』(日経BP)を執筆されました。こちらは、どのような問題意識を持って臨まれたのですか。

私の専門はマーケティングなのですが、授業で教えている基本理論や手法の多くは、おおよそ20世紀に体系化されていて、インターネット、スマホ、SNS、そしてAIの普及が進む21世紀の現代社会において不合理になってきていると感じています。Z世代と、その下に育っているα世代を観察してみると、情報の流れ方や、ひとがつながるコミュニティの形、自分らしさ(アイデンティティ)を実感する方法などの変化が見えてきて、5~10年後の未来社会の姿はきっと彼らの考え方と行動の中に見え始めていると考えました。

今後、日本社会における世代交代が急速に進んでいく中で、Z世代からα世代への変化の流れを把握することで、変化のベクトルの先に、マーケティングが進化すべき方向性を見つけて、企業で活躍しているマーケッターの方々に伝えようと思い本にまとめました。タイトルに「新消費をつくる」とありますが、実は若い世代に限らず広い世代で消費という概念は「価値を損じる無駄使いだから最小にしたい」という認識がありネガティブな行動として受け取られていることが調査からわかっていて、「消費」に変わる新しい概念を考え出すことで、社会価値をつくるマーケティングの存在意義を再定義したいという願いがありました。

他にも、『新消費をつくるα世代』を通じて読者に伝えたいと思われたポイントがありますか。

私が大学を卒業しマーケティングに従事していた1980年代~90年代は、経済成長期の中で世の中の消費量を増やして社会が好景気で回っていけば、皆が幸せになれる。「消費は美徳」というポジティブなシナリオがあり、実際それを実感できていました。でも、今はそうではありません。人口が減少していく社会では、消費という概念は価値を損じていく行動と捉えられていて、人々は「もったいないこと、無駄なことはなるべくしないようにしたい」と思っています。若い世代は「消費をしないことがサステナブル(持続可能)」と声に出しています。

今でも、マーケッターは「消費はポジティブ」と信じながらも、人の消費欲をいかに煽るかの活動が主になっています。世の中の消費に関する空気感を意識した上で、「消費」の概念をポジティブに変容していくのか、マーケティング活動のアプローチを変えていくのかを、消費がポジティブな時代が終わる2020年代こそ、考え直す良いタイミングではないかと伝えたいのが、この本を書いた願いです。

03数年後にはさまざまな世代が混在する職場となる

Z数年後にはY(ミレニアル)世代、Z世代、α世代が職場に揃うことになります。どうマネジメントしていけば良いのでしょうか。

まさにそうですね。もうと5年ぐらい経つとα世代も成人となり職場の仲間に加わってきます。今の時代は、どのように働きたいかの好みは多様ですし、また、職業職種の多様性も増していて選択肢は格段に拡がりました。自分が働く会社(職場)の選び方は、ひと昔のように、知名度の高い会社、一流の会社ではなくなってきています。所謂、「良い会社」の典型的なモデルはなくなっていて、学生の興味は「本当に、自分にあっているかどうか」です。この傾向は、2010年代のSNSの浸透により加速したと感じています。「テレビCMを投下している企業は一流」という認識はもうありませんし、ネットで調べた時に会社の情報が見えないと判断できないので選択肢から外してしまうというのが今の時代です。

経営者自身の言葉で「私たちの会社はこのような想いを実現すべくこの事業に取り組んでいます。」、「この想いに共感できる人たちに集まってほしい」と実直に伝える努力が報われると思います。若者世代の価値観の多様性は大きく、「想いとスタンス(姿勢)」が伝われば、共感する子たちはある程度のボリュームは絶対います。その子たちとうまくつながることができるか、認知度を高める、情報が伝わる範囲を広げるよりも、学生たちが自分の想いに合う会社をネットで探す活動を始めたときに、そこにつながるか、マッチングを高める活動をしていくべきだと思います。

企業としては、自らのスタンスをどう伝えていけば良いとお考えですか。

これからSNSでのアルゴリズム(問題を解決するための手順や計算方法や処理方法)が、さらに進化して想いをマッチングする能力が高くなっていくと思います。そういうメカニズムを使ったサービスが現れれば利用する方法が良いと思います。自社の想いとスタンスに共感してくれる人は、こういうメディアやネットワークを介してつながりやすい、信用信頼している人から伝える方が共感を得やすいので、その人たちがリスペクトしている人を把握してアンバサダー広報のアプローチでつながるなど、つながる環境づくりに時間を掛けた方が良いと思います。

04Z世代がα世代を上手く育成できるのは不安要素が大きい

いずれは、Z世代がα世代を育成する立場になります。Z世代をどう育てていけば良いとお考えですか。

時々、大学生に伝えているのは、「α世代は自分たちとは異なる教育を受けてきているから、自分たちと異なる考え方や行動をしている。違いを背景から理解できれば、違いを尊重・寛容できるよ。」ということです。Z世代は社会のデジタル化、SNSの浸透など世の中が大きく変容する過渡期に嫌な想いをしつつも自分たちなりに努力して適応してきた世代です。上の世代よりテクノロジーを使いこなすリテラシーが高いものの、それらを使い暮らしを便利にすることには少し懐疑的であったりして、課題解決の実装力に関しては奥手なところが見受けられます。

対して、α世代は家の中も学校もICT環境が整っていて、色々なデジタルディバイスに囲まれてそれらを使いこなすことい慣れて成長しています。2030年代になると、Z世代が職場の中心年齢層を構成しますが、そこにさらにリテラシーが高く、成果志向の強いα世代が後輩として入社していきます。彼らは、Z世代よりも実践主義者になるでしょうから、社会貢献意識が高いものの課題解決の実装に奥手なZ世代の先輩のゆるい判断と行動に「いらっときて」突き上げるのではないかと想像しています。上手くリーダーシップを取りきれないケースが起こるかもしれません。ちょっと心配しています。

企業の方にお願いしたいのは、Z世代の社員にα世代と円滑に協働できる準備をさせてあげて欲しいです。具体的には、α世代が学校で受けていてZ世代が経験していないSTEAM教育(科学/Science、技術/Technology、工学/Engineering、芸術・リベラルアーツ/Art、数学/Mathematics)の5分野を統合的に学ぶ教育)のアート思考、さらにはプログラミング、ファイナンス、外国語、AIリテラシーなどを、彼ら・彼女らが自分で学べる機会をサポートすることです。これらの新しい教養は、さらに上のXY世代にも必要性が大きくなっていくでしょうから、来る2030年代に向けて社内の基礎リテラシーをα世代と同等以上に高めておくことで、近い将来に組織の価値創造と実装力が加速的に高まることが期待できます。

まずは、α世代を知ることからスタートするのでしょうか。

恐らく、α世代とその親のY世代の価値観が、2030年代のスタンダードになっていくと思います。α世代について知るというよりも、自分たちが育ってきた時代の常識や価値観を現代にアップデートすることが必要で、そのためには、これからの時代の常識や価値観はどのように変容していくか、その流れを理解することが大事になります。その手段として、現在、2030年代の未来社会を見据えてデザインされた初等教育を受けているα世代がどのように育っていて、考え方や行動の特性が見られるのかに興味を持っていただきたいです。

若者世代の特性変容の流れを報告する活動が私たちの研究室の使命と考えています。

05時代のキーワードを試して、自社に最適なものを見つけ出し磨いていこう

中小、中堅企業の経営者や人事責任者へのメッセージをお願いいたします。

人材教育のキーワードが次々に現れてきますよね。ジョブ型採用や人的資本経営もその一つです。日本の経営者は勉学熱心であり、経営や人事のバズワードが尽きません。それぞれの専門家の方は、一時のブームに終わることを嫌い、「この言葉の概念が多様に扱われていて、本質が理解されていない」とコメントされることが多いと思います。その通りかと思いますが、だからといって経営者の方々には「バスワードに惑わされない方が良い」と言いたくないです。

自社に最適な経営のスタイルや手法は、経営と事業環境、自社の成長過程により常に変化していきます。時代のバズワードになっていること自体に意味があるので、なぜ今、このワード・概念がフューチャーされているのか、それは自社の環境に照らし合わせると、どこを取り入れて、どこを参照すると効があるのかを考えていただき、それぞれの概念をある程度消化した上で、例えば「ジョブ型採用に関する我々の考え方、スタンスはこうです」というように方針を打ち出し経営に取り入れると良いのではないでしょうか。就活する学生たちはジョブ型採用というワードを知っています。知りたいのは、「ジョブ型の働き方について、この会社の経営者はどう考えているのか」で、そこで共感できるかを確かめたいと考えています。

色々な経営人事のキーワードが出てきたら、自社に適用可能かどうか試してみてほしいです。失敗もするでしょうが、自社に最適なアプローチを見出すことができるかもしれません。その経営概念の本質を極めるというよりも、経営社、従業員、そしてこれから入ってくる社員の想いに配慮しつつ、試行錯誤する中で自社なりの解釈で、自社のスタイルにより良くアップデートしていくプロセスが合理的だと思います。規模の大きな企業組織体よりも、意思決定の速度と柔軟性が高い中堅企業にこそ、価値共創を実現する機会は大きいと考えています。


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小々馬 敦

産業能率大学

経営学部 教授

1983年青山学院大学経営学部卒、第一広告社(現ISBBDO)やインターブランドジャパンにて戦略プランナー、事業開発、経営企画に従事。その後、米国のブランドコンサルティング企業数社の日本法人代表を歴任し、国内外企業の無形資産価値経営、パーパス経営とブランディング、マーケティングの連携を支援。2013年より産業能率大学 経営学部教授を務める。

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