>人と組織の成長が経営を変革する――次世代経営リーダー育成・企業内大学・デジタル活用を考える(前編)
生成AIやデータサイエンスの進展によって、企業に求められる人材や組織のあり方は変わりつつある。だが、デジタル人材を増やし、AI研修を施すだけでは、企業の変革や価値創造にはつながらない。宇都宮大学データサイエンス経営学部・大学院地域創生科学研究科 教授の大嶋淳俊氏は、政府の政策形成支援や企業コンサルティング、国際協力などの多様な実務経験と学術研究を背景に、人材・組織研究に経営戦略、マーケティング、デジタル活用などの視点を取り入れてきた。「次世代経営リーダー」の育成には、経営陣、人事、現場などが連動する仕組みと、自社の戦略や組織特性に応じた育成モデルが必要だと説く。さらにAIの活用においては、全社員のリテラシーを高めるだけでなく、AIの出力を適切に評価・判断し、事業に生かす力が重要になる。「企業内大学」や越境学習、データサイエンスと経営をつなぐ人材育成、地域との連携。実務と研究を往還してきた大嶋氏が、これからの経営と人材・組織づくりを考える視点を示す。前編では、大嶋氏の研究分野や「次世代経営リーダー」育成に関する見解を聞いた。
【こんな方に、ぜひ読んでいただきたい】
① AIやデータ活用を単なるIT施策で終わらせず、事業課題や経営戦略と結び付け、組織全体に浸透させたい企業の経営者・経営幹部。
② 「次世代経営リーダー」の育成、「企業内大学」、越境学習、配置やタレントマネジメントまで含めた人材成長の仕組みを考える人事・人材育成担当者
③ データサイエンスや生成AIの専門性を経営成果につなげるため、課題発見から小さな実践、検証、組織展開までを担うDX・データ活用推進担当者
【前編のエッセンス】
大嶋氏の研究の特徴は、政策形成支援、企業コンサルティング、国際協力など多様な実務経験を学術研究に取り込み、人材・組織研究を経営戦略、デジタル活用、価値創造と結びつけてきた点にある。APECでの経営人材育成、シンクタンクでのコンサルティングや政策支援、東北での復興支援を経て、現在は「次世代経営リーダー」育成を研究・実践している。特に、「次世代経営リーダー」を育てるには研修だけでは不十分で、経営陣、人事、現場・経営企画などが連動し、配置や挑戦の機会まで含めた仕組みが必要だと指摘する。また、企業ごとの戦略や文化に応じた独自モデルと、経営トップの継続的なコミットメントが不可欠である。
【前編のキーメッセージ】
① 政策形成支援、企業コンサルティング、国際協力などの実務経験と学術研究を融合し、人材・組織研究を経営戦略や価値創造と結びつけてきた。
② 「次世代経営リーダー」は研修だけでは育たず、経営、人事、現場などが連動する仕組みとして育成する必要がある。
③ 企業ごとに戦略や文化は異なるため、自社に適した育成モデルを構築し、経営トップが継続して支えることが重要である。
目次

01人材育成を起点に、実務と研究を往還しながらキャリアを形成
まず大嶋先生の自己紹介、研究分野、そして背景と独自性をご説明ください。
私は総合シンクタンクでキャリアをスタートしました。最初は企業のコンサルティング部門に着任し、その後、APEC(アジア太平洋経済協力、Asia Pacific Economic Cooperation)の経営人材育成分野の事務局に約3年間出向しました。そこでは,各国の政府や専門機関・ビジネススクールなどと連携し,経営人材育成事業や共同研究の推進に携わりました。
もともと、人がどのように成長して成果を達成していくのかに関心がありました。APECで経営人材・マネジメント人材の育成に取り組む中で、1990年代前半から半ばの、インターネットもほぼ普及していない時代に、デジタル技術(当時は衛星などです)を使って、国際協力の枠組みの中で効果的に人材育成を展開する方法を考えていました。人材を育成して成果を上げるために、デジタルをどう組み合わせて効率的・効果的に進めるのか。これがAPECでの活動から得たもので、私の出発点です。
その後シンクタンクに戻り、コンサルティングや中央官庁の仕事を続ける中で、目に見える成果を出すことを強く意識するようになりました。そうなると、人を育成するだけでは足りず、組織の戦略を達成するにはどうすればよいのかという問題になります。整理すると、人材を中核に据えて戦略と組織の研究を行い、成果につなげるということです。実務のかたわら、立教大学などいくつかの大学で非常勤講師も務め、学術的な関心も深めていきました。
私の研究の特徴は、政策形成や企業コンサルティング、国際協力などの現場で得た問題意識を学術研究に取り込み、そこで得られた知見を再び実務に還元しようとしていることです。また、デジタル経営やマーケティングも研究してきたため、人材育成を人事部門の問題に限定せず、経営戦略や顧客・社会への価値創造と結びつけて考えています。
なぜシンクタンクから大学教員に移ったのかという点ですが、シンクタンクで政策形成支援や企業コンサルティング、国際協力など幅広い実務を経験する中で、その知見をさらに学術的に深め、社会に還元したいと考えるようになりました。
2014〜15年頃、国の仕事でよく東北に行っていたのですが、東日本大震災の影響から回復が進んでいない状況でした。そこで、大学教員の立場で東北の復興支援に取り組もうと、東北の大学に移りました。福島で3年、宮城で5年、合計8年間です。東北では、人材・組織研究やデジタル活用に関する専門性を生かし、地域の企業や自治体などと連携して、多数の産官学連携プロジェクトに取り組みました。
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02「志」を軸に,グローカルな視点と経験を研究・実践に生かす
先生は経営リーダー育成において「志」を重視されています。キャリアを紐解くと、グローバルとローカルの両方(グローカルな視点)、ビジネス経験とアカデミックな思考、さらにデジタル活用にも以前から注力されています。それらを掛け合わせて研究と実践に取り組まれている、という理解でよろしいでしょうか。
ありがとうございます。政策形成支援、企業コンサルティング、APECでの国際協力など、さまざまな現場を経験してきたことが、現在の研究にも生きていると思います。グローバルな視点と地域社会の現実を結びつけながら、経営戦略やデジタル活用などの知見も取り入れ、研究成果を社会に還元することを大切にしています。
私自身、最初から明確な全体戦略を描いてキャリアを積んできたわけではありません。しかし、その時々の課題に挑戦しながら、自分の経験や専門性を何のために生かすのかという「志」を大切にしてきました。学生や社会人の方々にも、自分なりの志と中長期的な方向性を持って、学び、成長してほしいと伝えています。
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03デジタル時代を動かす「次世代経営リーダー」育成を15年以上研究
次のテーマは、「次世代経営リーダー育成」です。Amazonで大嶋先生の著書『次世代経営リーダー育成: 経営人材創出モデルの探究』(学文社)を取り寄せ、次世代経営リーダー教育の歴史などを拝見しました。「次世代リーダー育成」に対する強い想いをお持ちだと感じました。大嶋先生のお考えをお聞かせください。

先ほど申し上げたとおり、1990年代前半から半ばにAPECの事務局に出向し、経営人材・マネジメント人材の育成に携わりました。当時は若手で右も左もわからない中、米国のビジネススクールの教授をはじめとするプロフェッショナルの方々と、私がコーディネーターの立場で共同研究を行っていました。
その中で、全社教育も大切ですが、社会、特にデジタルの変化が大きくなる中で(今はAIが象徴的ですが)、自分の「志」をベースにビジョンや方向性を示して組織を動かす経営人材が非常に重要だと実感しました。これはAPEC時代だけでなく、その後、東京大学大学院の修士・博士課程に進んだ時も同様です。デジタルも重要ですが、それを理解して動かす経営人材が欠かせません。
大学院時代には、日本の大企業と数多く接点がありました。名だたる大企業の方々が、「次の世代の経営人材が不足している」「うまく育成できていない」「どうしたらよいのか」とお話しされていました。これは研究としてしっかりまとめる意味があり、社会的なニーズでもあると考え、博士論文もそのような内容にしました。私は、これからの経営リーダーに求められる要素として、「志・共感・共創・関係性」の4Kリーダーシップを重視しています。こうした力は知識の習得だけでは育たず、挑戦的な経験や内省、他者との協働などを通じて磨かれると考えています。
同時に、「次世代経営リーダー育成」を柱に据えた議論の枠組みとして、「企業内大学」(コーポレートユニバーシティ、CU。経営戦略と人材育成を結びつけ、体系的・継続的な学習と職場での実践を通じて、人材と組織の能力向上を図る戦略的人材育成基盤)があります。「企業内大学」の大きな柱の一つが「次世代経営リーダー」の育成です。企業内大学にはそれ以外にも、全社教育やデジタル人材・専門人材の教育といった枠組みがあります。
「次世代経営リーダー」の育成と、それを組織的にバックアップする「企業内大学」のような制度・仕組みを、どう構築すればよいのか。これを15年ほどかけて、50社近くの大企業・グローバル企業のケーススタディや定量調査(「何が・どれくらい」を数値で測る調査)などを通じて研究してきました。日本企業にも海外企業にも役立つ、「次世代経営リーダー育成モデル」を提示したいと考えたのです。
この分野は、もともと米国で非常に進んでいます。最も有名なのは、「次世代経営リーダー育成」の第一人者、米国・南カリフォルニア大学マーシャル・ビジネススクール教授であったモーガン・マッコールの『ハイフライヤー: 次世代リーダーの育成法』(プレジデント社)だと思いますが、この原著が刊行されたのは1998年です。そこで、2010年代、20年代に本当に必要とされる「次世代経営リーダー育成モデル」は何かをまとめたいと考え、書籍を出版しました。
現在,私は宇都宮大学に在籍していますが、この考え方を、コンサルティング的な形で、学術主導により地域の企業を支援しています。実務や実際の社会にも生かせるよう、取り組んでいるところです。

04研修だけでは育たない、経営の仕組みとしてのリーダー育成
「次世代経営リーダー」の育成は、どの企業経営者にとっても難しく、そして「うまくいっていない」と言われます。難しさの理由はどこにあるのでしょうか。
企業によって条件はさまざまですが、まず、「この分野のプロフェッショナルが企業の中で育っていない」という事情があります。そのため、米国の事例や日本の先進企業の事例をなんとなく真似ようとしても、組織のありよう、文化、戦略、人材構成などが企業ごとに異なり、うまくいきません。
もう一つは、皆様もご承知のとおり、人材育成は経営の仕組みの一部にしか過ぎないということです。人材戦略に関する会議体を設けても、経営戦略との連携が弱く、経営陣が育成方針に十分関与していなければ、実効性のある仕組みにはなりません。加えて、人材を配置する制度、適切な人材を採用して配置する仕組み、チャレンジをさせる仕組みなど、さまざまな仕組みがうまくつながって初めて、「次世代経営リーダー育成」のモデルが成り立ちます。本来は各社がそれを作るべきですが、人事部門では担当者の定期的な異動などにより、次世代経営リーダー育成に関する専門性やノウハウを継続的に蓄積することが難しい場合もあります。経営戦略と人材育成の連携が十分でないことも課題です。少しでもお役に立ちたいと思い、博士論文を書き、それを本にしました。
そもそも、「次世代経営リーダー」は人事が育成するのでしょうか。現場の管理職でしょうか。あるいは経営陣が熱を入れてやるべきなのでしょうか。それとも三位一体なのでしょうか。
おっしゃるとおり、三位一体です。ただし、三者が均等に一体となる場合もあれば、そうでない場合もあります。たとえば成長過程にある比較的若い企業であれば、経営陣がより強く握っていなければなりません。人事が人を育てる組織であれば、人事がイニシアティブを握ります。
ただ、私の研究では、人事主導だけでは不十分な場合が多くあります。経営陣や経営企画部門と連動したり、場合によっては、「次世代経営リーダー」の育成に限っては経営企画部門が主導し、人事がサポートする形をとったりと、企業のありようによってかなり変わってきます。
それでも常に必要なのは、経営陣による何らかの形でのコミットメントです。優秀な人材を各部門から引き抜いて選抜研修を受けさせたり、たとえばインドの支店など海外の新規事業に急に送り込んだりすれば、各事業部門は自分たちのエース、あるいは将来のエースを動かされるわけですから、当然抵抗します。そこで経営トップがきちんとバックアップし、それが組織のためには当たり前だという仕組みを作って浸透させなければなりません。そうでなければ、選抜研修をやっても表面的なものに終わり、人も育たず、他社へ逃げてしまうことになりがちです。
ですから、三位一体のフォーメーションの組み方も、自社なりのモデルを構築しながら、それをうまく動かすための体制を作らなければならないと考えています。

05継承だけでなく異質性も受け入れる、自社独自の育成モデルを
確かに、企業のステージによっても違うと思います。日系グローバル企業では、「次世代経営リーダーは日本人でよいのか」という話も出てきますし、海外での日本人ビジネスパーソンの評価も昔ほどではありません。また、中小企業では、「次世代経営リーダー」の育成という発想すらないオーナー社長もいると聞きます。企業ごとに状況は違うということですね。
大きく違います。まず大企業でも、ある代の経営トップが仕組み作りに邁進し、ある程度まで進めたものの、それをうまく継承せずに頓挫してしまう企業を、私は数多く見てきました。
経営トップの最後の重要な仕事は、優秀な後継者を育てて据えることだとよく言われます。これは「リーダーシップの継承」と呼ばれ、私だけでなく、神戸大学の金井壽宏名誉教授、高橋潔名誉教授なども同様のことをおっしゃっています。経営トップが交代するたびに理念や育成方針が変わり、それまで築いてきた仕組みが十分に継承されなければ、継続的な人材育成は難しくなります。経営者個人の方針に依存するのではなく、次世代のリーダーを育てる仕組みを組織として継承していくことが重要です。これは大企業でも往々にしてあることです。
中堅・中小企業については、おっしゃるような問題を大きく抱えているところもあれば、事業承継(自分の子どもや次の世代へのバトンタッチ)に非常に熱心に心を砕いている経営者の方もいらっしゃいます。ただ、先ほどの本に書いたとおり、しっかりした仕組みを作るにはそれ相応のエネルギーとコストがかかります。企業によっては経営塾などを設けている場合もありますが、そうした取り組みを、次世代経営リーダーの継続的な育成につなげる仕組みが重要です。ただし、大企業でも中堅・中小企業でも気をつけなければならないのは、「金太郎飴」のような人材ばかりを育てないことです。経営塾が経営者の武勇伝を語る場になり、次の金太郎飴のような人材を生み出してしまっては困ります。
リーダーシップの一部を継承するのは良いとしても、異質性や新規性を許容する育成の仕組みを作っておかなければなりません。特にオーナー社長の場合はインパクトが強いため、同質性が強まりやすい傾向にあります。しかし、イノベーションには異質なものや新規なものが必要です。それをうまく許容する経営塾や仕組みを作れる中堅中小企業の経営者であれば、うまくいく可能性は高まります。

大嶋 淳俊 氏
宇都宮大学
データサイエンス経営学部
大学院地域創生科学研究科
教授
博士(人間科学)。大手総合シンクタンクで,政府の政策形成支援や民間企業のコンサルティングなどに従事。APEC(アジア太平洋経済協力)の経営人材育成分野の事務局への出向も経験。その後,東日本大震災からの復興支援への貢献を目指して福島・宮城の大学で計8年間教授を務め,産官学連携や地域活性化に取り組む。
現在は宇都宮大学データサイエンス経営学部・大学院地域創生科学研究科教授。次世代経営リーダー育成,企業内大学,デジタル経営などを研究。主な著書に『次世代経営リーダー育成』『企業内大学』『デジタル経営学入門』,英文学術書『The Evolution and Challenges of Corporate Universities in Japan』など。国内外で経営リーダー育成や産官学連携にも取り組んでいる。現在はリーダーシップ開発に関する新たな英文学術書を執筆中。
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