デザインイノベーションとは?外観が売上を左右する理由|東北大学・秋池篤准教授

 

デザインイノベーションとは、製品の外観やインタフェースを新しくすることで、新たな価値を生み出すことです。東北大学の秋池篤准教授は、製品の外観は消費者の感情と認知の両面に働きかけて購買意欲や売上を左右する一方、「良いデザイン」の明確な基準がないことが、デザインイノベーションのマネジメントを難しくしていると指摘します。

技術による差別化が難しくなるなか、デザイン経営やデザイン思考への関心が高まっています。2018年には経済産業省と特許庁が「『デザイン経営』宣言」を公表しました。それでも、デザインを経営に生かすことは簡単ではありません。

本記事では、デザインイノベーションのマネジメントを研究する秋池准教授へのインタビューをもとに、デザインイノベーションの意味と研究の視点、製品の外観が売上に影響する仕組み、デザインを捉える「新奇性」などの構成概念、日本企業におけるデザインイノベーションの現状と課題について解説します。

この記事でわかること

・デザインイノベーションとは何か、なぜ注目されているのか

・製品の外観が「感情」と「認知」を通じて売上を左右する仕組み

・デザインの「新奇性」の2つの種類(情緒的新奇性・機能喚起新奇性)

・「良いデザイン」の基準があいまいで、マネジメントが難しい理由

・日本企業のデザインは本当に遅れているのか

取材協力:秋池 篤 氏

東北大学大学院 経済学研究科 准教授(取材時)。2011年東京大学経済学部卒業。2015年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、2018年博士(経済学)。東北学院大学経営学部の助教、講師、准教授などを経て、2024年より現職。専門はイノベーション・マネジメント、特にデザインイノベーション。共著に『はじめてのオペレーション経営』(有斐閣、2024年)。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

デザインイノベーションとは――外観やインタフェースで新たな価値を生む

秋池准教授がイノベーション論に関心を持ったのは、製造業で開発に携わっていた父の影響で製品開発に興味を持ったことがきっかけでした。大学のゼミでイノベーション論を学ぶなかで、当時話題だった「日本企業は技術開発に力を入れても、収益につながりにくい」という問題に疑問を持ち、イノベーションを価値に結びつける方法を研究テーマにしたといいます。

秋池准教授が主に研究しているのが、デザインイノベーションです。製品の外観やインタフェースを新しくすることで、新たな価値を生み出す分野で、研究の蓄積はまだ十分ではないものの、世界的に注目が高まっています。日本では2000年代ごろから、技術による差別化が難しくなったことを背景に、デザインが研究の対象として注目されるようになりました。

研究の視点 主な論点
デザインイノベーションが生まれるプロセス デザイン部門と技術・機能部門の資源配分、技術的な制約によるデザインの実現の難しさ、デザイナーのコンセプトをどう具体化するか。「掛け声だけで終わらせない」ために、技術・機能部門とどのような関係を築くか
デザインイノベーションの特徴 機能や技術と違い、デザインは何が良いかが明確でなく、方向性を定めにくい。消費者調査を用いて、どのような要素が重要か、デザインの変化がどんな結果をもたらすかを明らかにする

出典:秋池准教授への取材をもとに編集部作成

例えば製品の色を変えたとき、それが良い変化かどうかを事前に判断するのは難しいものです。こうした「良し悪しがわかりにくい」という特徴こそが、デザインイノベーションを難しくしています。

デザイン部門と技術部門が互いの制約を理解し、資源を配分し合いながら一つの製品をつくり上げるには、部門の壁を越えて協働できる組織の仕組みも欠かせません。

部門の壁を越えて協働できる組織づくりを相談する

デザイン部門と技術部門が連携して新しい価値を生み出すには、役割や評価、人材配置の仕組みを見直すことも役立ちます。DEFiDEでは、人事制度や人材マネジメントの課題について相談を受け付けています。

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製品の外観はなぜ売上を左右するのか――「感情」と「認知」

製品の外形・外観は、消費者に対して次の2つの働きを持つと秋池准教授は説明します。

働き 内容 例
感情面 好ましい感情を生む 「きれいだな」「格好いいな」
認知面 外観から製品の種類や特徴を判断させる 「これはマイクだな」「使いやすそうだ」

出典:秋池准教授への取材をもとに編集部作成

この感情と認知が組み合わさってポジティブに働けば、「多少高くても好みだから買いたい」という購買意欲につながります。逆に「格好悪い」と感じれば、製品は選ばれなくなります。消費者にポジティブな影響を与え、販売数や販売価格が上がれば、企業の売上や利益の向上が期待できるのです。

ただし、機能・技術の効果も無視しない

一方で秋池准教授は、機能的・技術的なイノベーションの影響と比較することも重要だと強調します。特に自動車では、デザインが売上に与える効果よりも、機能や技術の効果のほうが大きいとされています。デザインか機能かの二者択一ではなく、両方を意識した製品開発が重要なのです。

デザインをどう捉えるか――「新奇性」と「典型性」

秋池准教授は、2024年9月に『組織科学』に掲載された論文「『製品デザイン』の捉え方――経営学研究への応用」で、デザインに関する構成概念を整理し、デザインの捉え方は非常に多様であることを指摘しました。

秋池准教授が以前から取り組んでいるのが、新奇性と典型性の研究です。製品のデザインを、そのカテゴリーの一般的なデザインイメージからどの程度変えるか、あるいは維持するかという問題です。電気自動車の外観を題材にした研究では、新奇性を次の2つに分類しました。

新奇性の種類 内容
情緒的新奇性 感覚的に「本当に新しい」と感じられる新奇性
機能喚起新奇性 「機能的に新しそう」「優れていそう」と感じさせる新奇性

出典:秋池准教授への取材をもとに編集部作成

ただし、デザインを捉える構成概念はほかにも数多くあります。機能と象徴性・美観性の側面から捉える研究や、単純か複雑かに注目する研究など、さまざまな議論が並び立っている状態です。デザインを一つの側面だけで捉えるのは難しいからこそ、企業としてデザインのどの側面に注力するかを決めることが大切だと秋池准教授は言います。

秋池准教授は今後、サステナビリティをデザインの一要素として表現する研究にも、新奇性・典型性の研究で培った消費者調査の手法を応用したいと考えています。以前の研究で、製品カテゴリーとのフィット感が消費者にとって重要だったことを踏まえた発想です。

デザインイノベーションはなぜ難しいのか――「良いデザイン」の基準がない

経済産業省と特許庁は2018年5月に「『デザイン経営』宣言」を公表し、デザイナーの発想を生かしたイノベーションや、製品デザインの改善を重視する姿勢を明確にしました。秋池准教授は、この点で日本企業のデザインイノベーションは進展していると評価します。

一方で、デザインの重要性は2000年代から指摘され続けてきました。2018年に改めて宣言が出されたこと自体が、この領域のマネジメントの難しさを示しているとも言えます。その背景にあるのが、デザインに明確な評価基準がないことです。

難しさ 内容
「新しいデザイン」とは何か どう新しくすればよいのかがあいまい
「良いデザイン」とは何か 何をもって良いとするかが定まらない
消費者の好みの多様さ 好みは人それぞれで、市場に出すまで良し悪しがわからない

出典:秋池准教授への取材をもとに編集部作成

企業はデザインイノベーションを重視しようとしていますが、その実現は難しく、実務と研究の両面で取り組み続ける必要があると秋池准教授は言います(創造性を高める職場づくりについては、稲水伸行准教授の解説記事でも紹介しています)。

日本企業のデザインは本当に遅れているのか

日本企業は欧米企業に比べて製品デザインで遅れているのでしょうか。秋池准教授は、一概にそうとは言い切れないと言います。日本でも高く評価される製品を生み出している企業はありますし、欧米企業のすべてがデザインに優れているわけでもありません。国内外の優れた取り組みに学び、キャッチアップしていく姿勢が大切です。

デザインの重要性を意識する経営者も増えています。以前から重視している企業がある一方、優先順位が低い企業もあり、全体として認識が深まったとまでは断定できないものの、三菱総合研究所と日本デザイン振興会の2023年の調査では、2020年から2023年にかけてデザインへの投資はやや増加しているといいます。社会全体としては、デザインへの関心は深まっていると見てよいでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q. デザインイノベーションとは何ですか?

A. 製品の外観やインタフェースを新しくすることで、新たな価値を生み出すことです。秋池准教授によれば、日本では2000年代ごろから、技術による差別化が難しくなったことを背景に、デザインが研究の対象として注目されるようになりました。

Q. 製品の外観は売上にどう影響しますか?

A. 外観は、「きれいだ」「格好いい」といった感情面と、「使いやすそうだ」など製品の特徴を判断させる認知面の2つに働きかけます。両方がポジティブに働けば購買意欲が高まり、販売数や販売価格の向上につながります。ただし自動車などでは、機能や技術の効果のほうが大きいとされます。

Q. デザインの新奇性とは何ですか?

A. 製品のデザインが、そのカテゴリーの一般的なイメージからどれだけ新しいかという概念です。秋池准教授は、感覚的に「本当に新しい」と感じる「情緒的新奇性」と、「機能的に新しそう」「優れていそう」と感じさせる「機能喚起新奇性」の2つに分類しています。

Q. デザインイノベーションのマネジメントはなぜ難しいのですか?

A. デザインには明確な評価基準がないからです。「新しいデザイン」「良いデザイン」とは何かがあいまいで、消費者の好みも人それぞれのため、市場に出すまで良し悪しがわかりません。秋池准教授は、企業としてデザインのどの側面に注力するかを決めることが大切だとしています。

Q. 日本企業のデザインは欧米に比べて遅れていますか?

A. 秋池准教授は、一概にそうとは言い切れないとしています。日本でも高く評価される製品を生み出している企業はあり、欧米企業のすべてがデザインに優れているわけでもありません。「デザイン経営」宣言などを見ても、日本は着実に進歩していると捉えてよいといいます。

まとめ:デザインの「どの側面」に注力するかを決め、機能とともに価値を生む

  • デザインイノベーションとは、製品の外観やインタフェースを新しくして新たな価値を生むこと
  • 外観は「感情」と「認知」の両面に働きかけ、購買意欲や売上を左右する。ただし機能・技術の効果も無視しない
  • デザインの捉え方は多様。新奇性には「情緒的新奇性」と「機能喚起新奇性」がある
  • 「良いデザイン」の明確な基準がないことが、デザインイノベーションのマネジメントを難しくしている
  • 日本企業が一概に遅れているわけではない。国内外の優れた取り組みに学び、キャッチアップする

デザインに限らず、新しいことへの挑戦には失敗のリスクが付きものです。後編では、イノベーションを加速するために、失敗のリスクをどうマネジメントするのか――リアルオプションやスピンアウト、変革型のリーダーシップといった方法を紹介します。

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JOB Scope編集部

Written By: JOB Scope編集部

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