ライトブルー人材とは、単純作業だけでなく問題解決もできる現場人材(青に白が混じった人材)と、現場から独自に情報を得て新たな価値を生み出すホワイトカラー(白に青が混じった人材)の総称です。東京大学の大木清弘准教授は、AIやロボットが広がる時代に生き残る人材像の一つだと語ります。
前編・中編では、人的資本経営が注目される背景と、製造業における雇用の型の考え方を紹介しました。では、これからの時代に求められる人材とはどのような人材でしょうか。
本記事では、大木准教授へのインタビューをもとに、早稲田大学の藤本隆宏教授と共同で研究する「ライトブルー人材」の考え方、AI・ロボット時代に単純なホワイトカラーやブルーカラーが淘汰されうる理由、ライトブルーとDXの相性、そして中小・中堅企業だからこそできる「本物のインターンシップ」について解説します。
この記事でわかること
・ライトブルー人材とは何か――「青に白」と「白に青」
・AI・ロボット時代に、単純なホワイトカラーとブルーカラーが淘汰されうる理由
・ライトブルーという人材像が、学歴や入り口にとらわれない評価につながる理由
・DXの推進にライトブルー人材が欠かせない理由
・中小企業だからこそできる「本物のインターンシップ」とは
東京大学大学院 経済学研究科・経済学部 准教授(取材時)。1985年神奈川県生まれ。2007年東京大学経済学部経済学科卒業。2011年東京大学大学院経済学研究科博士課程経営専攻単位取得退学。2014年関西大学商学部助教、同年10月から東京大学大学院経済学研究科講師を経て、2019年から現職。博士(経済学)(東京大学)。専門は国際経営で、日本の製造業の海外製造子会社のパフォーマンス向上などを研究。著書『多国籍企業の量産知識:海外子会社の能力構築と本国量産活動のダイナミクス』(有斐閣、2014年)で国際ビジネス研究学会「学会賞(単行本の部)」を受賞。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
ライトブルー人材は、大木准教授が早稲田大学ビジネススクールの藤本隆宏教授と共同で研究しているコンセプトです。藤本教授が講演で使っていた「ライトブルー」という言葉に大木准教授が注目し、共同研究を持ちかけたのがきっかけでした。
日本の製造業の強みは、一般にホワイトカラーが担う問題解決を、現場のブルーカラーが担ってきたことだとされてきました。海外企業ではブルーカラーは単純作業に専念し、問題解決はホワイトカラーの仕事です。この日本の強みは「知的熟練」と呼ばれてきました。
| タイプ | 特徴 |
|---|---|
| 青に白のライトブルー(現場出身) | ブルーカラーでありながら、単純作業だけでなく問題解決など、ホワイトカラーの仕事もこなす人材 |
| 白に青のライトブルー(ホワイトカラー出身) | ホワイトカラーでありながら、現場との情報のパイプや現場感を持ち、必要に応じて現場に入って一緒に考える人材 |
出典:大木准教授への取材をもとに編集部作成
ホワイトカラーの仕事は、究極的にはさまざまな情報をもとに新しい情報を生み出すことです。しかし今は、書類の情報を表計算ソフトに転記するような仕事はRPAで自動化でき、一定の情報から答えを出すことはAIにもできます。
そこで求められるのは、AIが収集できない情報を手に入れ、そこから新たな価値を生み出せる人です。顧客とのやり取りや生産・開発の現場には、その場に行かないとわからない情報があふれています。経営学ではこれを「粘着性の高い情報」と呼びます。センサーなどで一部は取得できても、状況が変われば重要な情報も変わり、人間の機微までは自動で集められません。現場とのパイプを持ち、データの裏にある意味を理解できる現場感を持つことが大切になるのです。
大木准教授は、青に白でも白に青でもない、単純なブルーカラーやホワイトカラーは、これから淘汰される可能性が高まると言います。
| 人材のタイプ | 起こりうること |
|---|---|
| 単純なブルーカラー(決められた作業だけをする) | ロボットのコストが下がれば、ロボットに代替される |
| 単純なホワイトカラー(誰かが上げた情報だけで判断する) | AIに取って代わられる |
| ライトブルー人材 | 問題解決のできるブルーカラー、独自の情報ルートを持つホワイトカラーとして、AI・ロボット時代に生き残る |
大木准教授は、こうした白に青のライトブルー人材は、同じ会社の一員として様々な部門の人と触れ合うメンバーシップ型の中で育ちやすい面があり、ジョブ型では育ちにくくなるかもしれないとも指摘します(中編で紹介したメンバーシップ型の強みとも重なります)。
ライトブルーというコンセプトには、社会全体が評価する共通の人材像への思いも込められています。最初の入り口がブルーでもホワイトでも、目指す姿は同じ「ライトブルー」になる、ということです。
かつては、大学に行けるだけの力があっても家庭の事情で進学できなかった人たちが、製造業の中心的な担い手として企業を支えていました。ホワイトカラーもそうした現場の人をリスペクトし、両者が持ちつ持たれつで協働していたといいます。しかし今は、ブルーカラーの待遇が不安定になり、「大学に行ったほうがよい」という風潮が強まっています。大木准教授は、付加価値を生むのは本人の能力であり、学歴や最初の入り口ではないと言います。高卒も大卒も大事な人材だと会社が位置づけるうえで、ライトブルーというコンセプトは相性がよいと考えています。
ライトブルーは、人的資本の情報開示にも役立つ可能性があります。日本企業は欧米の人材施策に合わせる動きが強いものの、日本独自の人材像を世界に示すという前向きな選択肢もあります。大木准教授は、ライトブルーというコンセプトはまだ科学的な実証の途上だとしつつ、ライトブルーにこだわらず、自社の独自性や強みを表す言葉をつくり、胸を張って海外にない人材の独自性を打ち出してほしいと語ります。
大木准教授らは現在、ライトブルー人材がパフォーマンス向上に貢献している事例を集めています。中でもDXの文脈でライトブルーとの相性のよさが見えてきたといいます。
製造業では、データサイエンティスト(ホワイト)が現場に入ってもうまくいかない例が少なくありません。その中で、ヤマハ発動機は、現場経験の長い人にプログラミングやPythonを教えてDXを推進しています。まさに青に白のライトブルー人材の活躍です。
| DXを現場経験者が進めると早い理由 | 内容 |
|---|---|
| 取るべきデータがわかる | 現場はノウハウや暗黙知の塊。どのデータを取るべきか、現場の人はおおよそ見当がつく |
| 判断の基準がわかる | データ分析で判断を下すための基準点や限界値(閾値)を決めやすい |
| 習得の速さ | サイエンティストが現場を覚えるより、現場の人がサイエンスを覚えるほうが早いケースが多い |
出典:大木准教授への取材をもとに編集部作成
データサイエンティストも、現場に行って現場の人と一緒に汗をかかなければなりません。特に製造分野では、ホワイトの側もライトブルー化する必要があるのです。大木准教授らは、ライトブルー人材のスキルの可視化なども研究しており、将来的には定量的な調査も目指しています。
ライトブルー人材を育て、評価するには、一人ひとりの役割やスキルを見える化し、職種の枠を超えた成長を後押しする仕組みが役立ちます。
役割とスキルを見える化し、人材の成長を後押しする
現場とホワイトカラーの垣根を越えて活躍する人材を育てるには、一人ひとりの役割やスキル、成長の道筋を明確にする仕組みが欠かせません。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援します。実際の画面を見ながら説明を受けられる個別オンラインデモも行っています。
大木准教授は、中小・中堅企業の経営者が会社や従業員のことを真剣に考える姿をリスペクトしていると言います。そのうえで、大企業にできないことを、特に人の分野で成し遂げてほしいと語り、ゼミの学生がお世話になったある企業の事例を紹介しています。
火力発電所やLNG・LPG船の安全弁をつくるグローバルニッチトップ企業の福井製作所は、大木准教授のゼミの学生2名をインターンとして受け入れ、シンガポールで開かれたエネルギー業界の展示会に約1週間同行させました。
| 日程 | 内容 |
|---|---|
| 1日目 | 業界に詳しい社員と展示会を回り、業界の全体像を理解する |
| 2日目 | 会社の名刺を持ち、さまざまな企業と挨拶・交流する |
| 3日目 | 交流を続けながら、サプライヤーとの協業の場にも参加する |
| 4日目 | 同様の活動に加え、シンガポールの文化に触れる |
出典:大木准教授への取材より(10人を超える社員が学生に対応し、費用も企業が負担した)
参加した学生は、「業界の上流から下流まで理解できた」「会社の名刺を持つことで、会社に所属するとはどういうことかわかった」「仕事とは何かの実感がつかめた」と語り、「お金を払ってでも参加したいレベルだった」と話したといいます。大木准教授は、業界がわかり、会社がわかり、仕事がわかる――これこそが本物のインターンシップだと語ります。
一方、大木准教授が問題視するのは、採用を前提に学生を数日間拘束する今の多くのインターンシップです。初日に会社説明をし、残りは「新規事業の提案」などのグループワークをさせて最終日に発表させる――。ある学生は「夏休みに毎週インターンが入り、前の週の企業で受けたフィードバックを次の週の企業で生かしている。就活のための勉強をしている感覚」と話したといいます。
| よくあるインターンシップ | 本物のインターンシップ | |
|---|---|---|
| 目的 | 採用活動の一環 | 業界・会社・仕事を知ってもらう |
| 内容 | 会社説明とグループワーク | 実際の仕事や現場に同行し、会社の一員として体験する |
| 学生の姿勢 | 人事の顔色をうかがい、就活の練習の場になる | 純粋に業界や会社、仕事を学べる |
| 企業が得るもの | 学生の本当の姿が見えにくい | 学生が業界と会社を好きになり、長期的な関係が築ける |
こうしたインターンシップは、大企業にはできませんし、放っておいても人が集まるのでやる理由もありません。しかし、一定の余裕がある中小・中堅企業ならできるはずだと大木准教授は言います。例えば、日頃の仕事の一部を1週間ほど体験してもらう、社長のかばん持ちをしてもらうといった方法です。入社につながるかはわからなくても、学生にとっては一生ものの学びになり、長期的な関係づくりになります(インターンシップの採用活用については、亀野淳教授の解説記事でも紹介しています)。
「大企業ができないことに敢えて挑むのが、中小企業だ」というような意気込みを期待したいです。
――大木准教授
トップの一存でダイナミックに動けるのは、中小・中堅企業の強みです。時代のニーズに柔軟に対応できる機動力は、学生や若い世代が求めているものでもあります。「新しいことをやってやる」という気持ちで挑むことが、結果的に「そちらのほうが楽しそうだ」という流れを生んでいくと大木准教授は期待しています。
A. ライトブルー人材とは、単純作業だけでなく問題解決もできる現場人材(青に白)と、現場との情報のパイプや現場感を持つホワイトカラー(白に青)の総称です。大木准教授が早稲田大学の藤本隆宏教授と共同で研究しているコンセプトで、AI・ロボット時代に生き残る人材像の一つとされています。
A. 大木准教授は、決められた作業だけのブルーカラーはロボットに、誰かが上げた情報だけで判断するホワイトカラーはAIに代替されうると指摘しています。一方、現場でしか得られない「粘着性の高い情報」をつかみ、問題解決や新たな価値の創出ができるライトブルー人材は、AIやロボットに代替されにくいためです。
A. 現場はノウハウや暗黙知の塊であり、現場経験の長い人は取るべきデータや判断の基準をよく知っているためです。大木准教授は、データサイエンティストが現場を覚えるより、現場の人がデータ分析を覚えるほうが早いケースが多いとし、ヤマハ発動機の事例を紹介しています。
A. 大木准教授は、学生が業界・会社・仕事を知る機会になるインターンシップこそが本物だとしています。採用を前提に会社説明とグループワークを行う形ではなく、福井製作所のように実際の仕事の場に同行させ、会社の一員として体験させるような内容を指しています。
A. 大木准教授は、大企業にはできないことに挑んでほしいとしています。例えば、日頃の仕事の一部を学生に体験してもらう本物のインターンシップは、大企業はやる理由がない一方、機動力のある中小・中堅企業ならできると述べています。
人的資本経営もジョブ型も、ライトブルーという人材像も、最終的には自社で議論するための道具です。自社の強みに合った人材像を描き、胸を張って打ち出していくことが、これからの日本企業に求められています。
経営・人事に役立つ情報を、定期的にお届け
JOB Scopeマガジンでは、人的資本経営や人材育成、組織づくりの第一線で活躍する研究者へのインタビューやコラムを発信しています。最新記事やセミナーの情報を、メールマガジンでお届けします。
▶ 前編:人的資本経営はなぜ注目されるのか?投資家が本当に見ているポイントと、日本のものづくりの「人づくり」(内部リンク)
▶ 中編:製造業にジョブ型は合うのか?「どこで付加価値を生むか」で決まる雇用の型と、経営戦略に紐づく人的資本開示(内部リンク)
▶ インタビュー全文:人的資本経営もジョブ型も議論の道具に(後編)(JOB Scopeマガジン)