第7回

メンバーシップ型雇用のメリット

2023/06/08

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メンバーシップ型雇用とは?

 

●長期にわたる雇用関係がベース

売上10億円の壁にぶつかるベンチャー企業にとってのジョブ型雇用は、このシリーズの1回~前回(6回)までで説明をしてきた。今回は、ジョブ型雇用と比較されやすいメンバーシップ型雇用をテーマとする。双方を取り上げることで、10億の壁を乗り越えようとする際にどちらが有益であるかを考えたい。

まず、メンバーシップ型雇用のアウトラインを説明する。これは、日本の大企業からベンチャー企業まで幅広く見られる雇用スタイルである。通常は新卒、中途を問わず、正社員として労働契約を結ぶ際に担当する職務や勤務地、労働時間などを厳格には決めない。その1つが、総合職としての採用と言える。

例えば、次のようなキャリアで課長になる。

大卒の新卒として入社し、本社の営業部に5年、その後、本社の営業企画に2年、地方の工場の資材管理部に5年、本社の総務に3年、地方支社の営業企画に4年、20年目に本社の営業企画課の課長になる。

これは、長期にわたる雇用関係があるがゆえに成立するスタイルと言える。それを支える経営基盤や経済環境も必要になる。基本的には業績が毎年現状維持できているか、年を追うごとに増える「右肩上がり」であることが前提になる。

一方で例えば不況が長引くと、部署の部員を減らしたり、管理職のポストを削減したりする。リストラ(人員削減)をせざるを得ない時もあるかもしれない。こうなると雇用関係にきしみが生じ、メンバーシップ型雇用スタイルにも影響が出ることが考えられる。

1950年代後半から70年代前半にかけての高度経済成長期に、メンバーシップ型雇用を採り入れる企業は大企業、中堅企業を中心に広く浸透した。現在もその傾向は大きくは変わらないが、ここ10年程はジョブ型雇用を導入する企業がしだいに増えている。日本経済のあり方が変わりつつあるためだ。

1990年代前半にバブル経済が崩壊し、90年代後半に金融不況となって以降、経済成長が鈍化している。各産業の市場は拡大が難しく、規模が小さくなるケースすらある。少子化が深刻化し、企業の商品、製品、サービスを購入する人の数が減り続けている。働く人の数は減り、事業の拡大ができないケースも目立つ。今後、これらの傾向は一段と鮮明になるはずだ。

なお、大半の中小企業やベンチャー企業もメンバーシップ型雇用ではある。だが、市場で競い合い、シェアを獲得できる強力な事業がないがゆえに経営基盤がぜい弱で、長期安定雇用を築くことができていない。したがって、メンバーシップ型雇用が形式上のものとなり、実際は社員の出入りが激しく、欠員補充的な意味合いの中途採用試験を繰り返しているケースが多い。

 

 

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メンバーシップ型雇用のメリット(その1) 

 
ここからは、メリットについて触れたい。

●計画的段階的に育成できる

メンバーシップ型雇用のメリットの1つは社員を長い期間にわたり、計画的段階的に育成できることだ。特に課長や部長、マネージャーなどの管理職を養成するうえで大きな効果を発揮する。

事業規模を拡大している時に最も大切な人材は、管理職である。事業拡大の時、新たなプロジェクトや部署が次々と設けられる。ここでは、管理職が現場責任者やリーダーとして陣頭指揮をとる。その下で動く社員も大切ではあるが、何よりも指揮官が重要だ。ここがしっかりしていないと、プロジェクトや部署は機能しない。多くの経営学者や人事コンサルタントは「日本の大企業が高度経済成長期に拡大を続けることができたのは、優秀な管理職を大量に育成できたことが大きい」と指摘する。

だが、管理職を育成するのは容易ではない。ベンチャー企業ではわずか数年のキャリアでマネージャーにするケースがあるが、この場合、30代半ばまでくらいはマネジメント力に課題が少なくない。部下である社員の離職率が大企業に比べて高いのは、部下育成力に問題があるからと思われる。

大企業の一部の管理職にも問題はあるのかもしれないが、多くのマネジメント力は総じてレベルが高い。様々な部署で経験を積み、管理職としての教育研修を受けているからだ。こういうステップを踏んでも、管理職にふさわしいと思えない人が役職に付いている職場もある。

しかし、多くはベンチャー企業の管理職よりは経験値が総じて高く、技能や知識、ノウハウ、見識をある程度は心得ているだけにトラブルや大きな問題が少ない。厚生労働省の調査では、パワハラは大企業では少なく、中小企業(ベンチャー企業を含む)に多いことが判明している。
 
 
 

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メンバーシップ型雇用のメリット(その2) 

 

●入社後のミスマッチを防ぐ

採用時に例えば「営業に向いている」と判断しても、営業をすると不向きだと判断される場合がある。これは、決して少なくはない。むしろ、多いはずだ。

そもそも、日本の多くの大学では入社後すぐに役立つような教育をしているわけではない。中学や高校にさかのぼっても、職業について深く考えるような場や職業訓練の機会を多数設けているわけでもない。

依然として、大卒の新卒の採用試験で顕著であるのは次の視点だ。

 

  • 学生時時代に希望する職務について何をしてきて入社後、何ができるのか、というよりは、どのような潜在的な能力を持ち合わせているのか。


学生の大半は就職意識よりは、就社意識が強いのだから無理もない。インターンシップは確かに盛んではあるが、職業意識を高めるのではなく、就社意識を強くするプログラムやイベントが多い。

就職意識よりは、就社意識が強いのだから、大企業やメガベンチャー企業、ベンチャー企業では依然として卒業見見込みの大学の入学難易度や偏差値を重要な判断材料にする。そこには潜在的な能力があると思われているからだ。しかし、これが前述のような、例えば「営業には向いていない」といったミスマッチを生む一因になりうる。

 

 

 

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メンバーシップ型雇用のメリット(その3)

 

●公平な人事評価

column_yoshida_7_115~20年といった長い期間で、1人の社員の処遇を決めるのはある意味で人事評価が公平で、正当性をもっていると言える。大企業の場合、様々な部署を数年ごとに経験させ、それぞれの直属上司が1次考課者として、その上の上司が2次考課者、人事部や役員が3次考課者と評価する。

部下としては上司との相性が合わない時や担当する仕事に適性がない場合もあるだろうが。一方で、上司と良好な関係ができる時や仕事に合う時期もあり、バランスは取れている。

多数の上司からの評価を受けると、結果としてその社員の人材としての価値は比較的客観化されていると捉えることができる。それが社員の納得感を高め、仕事への姿勢をよくし、高いレベルの技能や知識、ノウハウを獲得しようとする源となる。定着率が高くなり、プロジェクトやチーム、部署をつくる土台にもなる。こういう社員が増えると、組織のエネルギーが強くなり、業績向上につながる。

ベンチャー企業の社員の離職率が総じて高い理由の1つは、人事評価やそれにともなう処遇を公平に決める仕組みが未熟であり、「客観化されていない」と思われるからだろう。

なお、上昇志向の強い20~30代の社員からすると時間をかけて育成し、処遇を決めることが「年功序列」に見え、物足りないと感じるかもしれない。これは、ある一面だけを捉えると、事実関係として正しい。

メンバーシップ型の人事評価制度の根幹となるのが職能資格制度であるが、この制度を厳格に運用すると、年功序列となる。しかし、実際は大企業では20代前半の一般職の時点で、同期生を一斉に上の等級に上げるケースは少ない。一定の差は20代の頃からすでに設けてある。さらに30代前半で課長に昇格させる総合商社やメーカーもある。

しかも、管理職のポストが90年代に比べると大幅に減り、管理職の数は減少している。たとえ管理職になったとしても、部下を持つことができない、いわゆる非ラインは相当数いる。ここまで視野を広げると、年功序列とは言えないだろう。

 

 

 

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メンバーシップ型雇用のメリット(その4)

 

●全人格的評価

特定の職務の一定の期間における実績や成果で判断し、スペシャリストを育てるのがジョブ型雇用だ。メンバーシップ型は長い期間をかけて様々な部署で多様な仕事を経験させ、いわばジェネラリストを育成する。配置転換や時に転勤などもありうる。

長い期間において様々な職務を対応するためには、特定の職務をこなす技能や知識だけでなく、次のようなことも評価されがちになる。

 

  • 上司や同僚らとの良好な人間関係処理能力

  • グループやプロジェクト、部署の一員としての言動ができるか

  • 組織に同化することができているか


これらが、一部の労働学者が指摘する「全人格的評価」につながる可能性がある。評価の範囲が、性格の隅々にまで及ぶことを意味する。評価の範囲が広いがゆえに、評価者である上司らに必要以上に配慮する経営風土になる場合もある。いわゆる「会社人間」「同質社会」「同調圧力」と問題視されるゆえんは、このような評価と深い関係があると言われている。



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メンバーシップ型雇用のメリット(その5) 

 

●事業の成長と人の成長のバランスを保つ

計画的段階的に育成ができると、事業の展開にもメドがつく。例えば、「この時期には、こんな人材がこのくらいのレベルに達している」と人員計画を練ることができる。これに合わせて、「人員をこの時期にこれくらいの数を配属できるから、ここではこんな事業を進めよう」と考えられる。

事業が成長する時に、社員の成長がそれに追いついていかず、事業を拡大できない場合がある。成長著しいベンチャー企業によく見られがちだ。結局、人材難のために事業の成長をあえて緩めざるを得ない時がある。

大企業はかつてメンバーシップ型雇用が上手く機能させていたから、この問題を克服できていた。本来は、事業と人事の双方の戦略が一致しているのが好ましいのだ。

 

 

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メンバーシップ型雇用のメリット(その6)


●求心力が強くなり、定着率が高くなる

計画的段階的に育成すると、それぞれの社員の昇格などの処遇がはっきりと見えてくるまでに時間がかかる。そのことは、会社の求心力が高まることを意味する。

社員の意識は会社やトップマネジメント(経営層)に向けられ、組織への帰属意識や一体感が強くなる。定着率が高くなり、情報や意識、目標の共有が進み、社員間のコミュニケーションコストが下がる。社員間だけでなく、部署間のコミュニケーションコストが減る。トップマネジメントから各部署、部署間のコミュニケーションルートが豊富になる。

これが意思疎通の誤解を防ぎ、社員の納得感や充実感を高め、定着率をさらに高くする。定着率を高くするのは「最大のコスト削減策」と言われるように、収益が改善され、経営基盤が強固になる。

なお、大企業が中小企業やベンチャー企業に比べてパワハラや退職勧奨、退職強要、解雇などの労務トラブルが少ない理由の1つは、社内のコミュニケーションルートが豊富であることが挙げられるだろう。

 

 

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メンバーシップ型雇用のメリット(その7)

 

●組織の競争力を高める

誰が部長や課長になるか、そこから誰が役員になるかー。こういう社員の処遇が明確になるまでの時間が長いことは、社員間の競争がし烈になることを意味する。個々の社員は「自分がある程度のところまでは昇格できる」と信じ、長きにわたり、力を注ぐ。このような社員が増えるほどに、各プロジェクトや部署、会社全体のエネルギーは強くなる。それが、業績拡大の原動力になっていく。

組織の競争力を高めるためには、競争に参加する人の数を増やすのが鉄則である。メンバーシップ型雇用ではそれが可能であり、社員数が多い大企業ならばなおさら有利になる。特に定着率が高い企業になると、さらに競争力がアップする。まして、全人格的評価ならば個々の社員が上司や同僚、部署やプロジェクトに気を使うことになり、エネルギーが一段と協力になる。

 


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メンバーシップ型雇用のメリットのまとめ 

 

ここ10年程、経済雑誌やビジネス雑誌、ニュースサイトを中心にメンバーシップ型雇用を批判する報道が目立つ。「時代にマッチしていない」「若い層にとって不利」「グローバル化に対応できない」などが多い。

だが、それらの指摘が事実と言えるのか否かは、実はそれぞれの企業により異なる。少なくとも、大企業やメガベンチャー企業の多くはこの雇用スタイルであったし、今なお半数以上を占めることは事実なのだ。

 

 

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著者: JOB Scope編集部
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