第23回

「いつまでも社長をしていると、会社や社員が成長しない。だからこそ、退く」

~凄腕の創業経営者が後継者に託した思い~

(前編)


2024/10/25

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本シリーズでは、前シリーズ「ベンチャー企業がぶつかる「10億円の壁」をどう乗り越えるか!another-window-icon」「売上10億円を超えたベンチャー企業の管理職たちの奮闘!another-window-icon」の続編として、業界・業種を問わず、中小企業の2代目もしくは3代目の経営者の経営改革をテーマにする。特に「DX(デジタルトランスフォーメーション)への挑戦にフォーカスを当てる。ITデジタルの施策に熱心に取り組み、仕事のあり方や進め方、社員の意識、さらには製品、商品、サービス、そして会社までを変えようとしている企業をセレクトする。 

 

 

 
今回と次回は、東京反訳株式会社東京豊島区の第2代代表取締役社長である田邊英司氏と取締役の武田晶子氏を取材した内容を紹介したい。田邊社長は昨年2023年6月に就任し、創業者であり、初代の代表取締役の吉田隆氏は代表取締役会長になった。

東京反訳の設立は2006年で、2024年で18年を迎える。創業当初から、主に文字起こしテープ起こしの事業を行う。大学や研究機関、企業、医療施設、公的機関、法律事務所などの会議や打ち合わせ、商談やヒアリング聞き取り、取材などで録音されたやりとりや発言を時間内で書き起こし、発言録にした原稿として納品する。

最近はZoomやMicrosoft Teams、Cisco WebexなどのWEB会議ツールで録画したデータの文字起こし、英語他多言語の翻訳、E-learningやマニュアル用動画などの字幕作成サービスの依頼も増えている。創業時から2024年6月現在までの総受注件数は、20万件程になる。

高い品質の原稿を作成することで高い評価を受け続け、業績を拡大し、2023年の売上は6億6千万円。正社員数は40人で、外部委託として文字起こしをするリライター主に個人事業主で、東京反訳では「ワーカーさん」と呼ぶは実稼働約600人。売上、社員数、リライターの数がこの規模に達している文字起こしの会社は全国で数社しかない。

 

 

 

01 ―――

多数の文字起こしとは異なる分野で信頼を勝ち得る

 

田邊英司社長の回答

「ご依頼をいただけるのは、全国の大学や研究機関などの学者、研究者の方がとても多いのです。全体の約3割を超えます。あるいは、企業の特に人事・総務・法務分野を中心にセキュリティーを重視している部署からも、多数のご依頼をいただいています。

ほかの文字起こしの会社はおそらく、出版社や新聞社から依頼を受けるケースが多いように思います。弊社もまた、ご依頼をいただきますが、出版社や新聞社の場合、文字起こしの会社に発注するボリューム案件が多いですから、発注先としての文字起こしの会社も多数あり、発注先を変えるケースも多々あるのではないでしょうか。弊社の場合は、全国の大学や研究機関などの学者、研究者の方からのご依頼が多いのです。そのあたりが、ほかの文字起こしの会社と違うところの1つなのではないか、と考えています」

 

 

02 ―――

高品質の原稿作成にこだわる 

 

「弊社をお選びいただいている理由の1つには、高品質の原稿発言録としてまとめたものを時間内に作成することができることが評価されているからではないか、と思います。たとえば、ある研究者の方がこうおっしゃってくださいました。外国情勢に関わるインタビューですので、聞き慣れない専門用語もあったかと思いますが、そうした部分も漢字などでしっかりと文字起こしがなされていて、大変助かった。

聞き慣れない言葉や音声の状況で聞き取りが難しいところも、ワーカーさんや弊社の社員が参考資料や文献などにあたるなどして確認し、録音時の言葉や表現に可能な限りにしたうえで納品をしています。」

 

 

 

03 ―――

安さと速さで競い合うことはしない

「最近は、文字起こしが可能な音声認識のアプリや組み込み型のシステムを使う会社が増えています。これらは、安さと速さの面で優れているように思います。私たちは安さと速さで競い合うのではなく、高い品質のものにしていくことでお客様のご要望に応えることができるようにしていきたいのです。

新規のお客様からご依頼をいただく場合、すでに弊社のサービスをご利用いただいた方からの紹介が多いのです。高品質の原稿を納品させていただいていることを評価してくださったのかもしれませんね。」
 
 
 

04 ―――

600人のリライターと「顔の見える関係」をつくる 

 
「作業の流れはまず、弊社と業務委託や秘密保持の契約をするワーカーさんリライターが文字起こしをします。ワーカーさんが作成した文字起こしの原稿は、弊社の社員が念入りに確認し、依頼を受けた方に時間内に納品をしています。

契約をするワーカーさんの約9割は女性で、最近は男性も増えてきました。ほとんどが個人事業主で、主にご自宅で文字起こしの作業をします。創業時から基本的には、弊社の社員とはメールや電話を通じて意思疎通をはかり、仕事をしています。私たちは互いに顔の見える関係をつくりたいと願い、ワーカーさんが参加する機会を様々な形で設けてきました。

たとえば、研修会や学習会を随時開催しています。本社内で行う場合もあれば、オンラインで実施するケースもあります。学ぶテーマとして多いのはいかに高い品質のものにするか、などです。このような会を通じて、ワーカーさんたちのコミュニティが出来上がったりしているようです。あるいは、それぞれの誕生日には日々の仕事への感謝とお祝いの意味を込めて、私たちからメールをお送りもしているのです。」
 


05 ―――

マーケティングとブランディングで明確な差別化 

 

「吉田は創業前に、広告関係の会社を経営していました。当時、お客様にテープ起こしをしてほしいと頼まれ、請け負ったようです。それが、1つのきっかけとなるのです。お客様がしだいに増えたので、会社のホームページに文字起こしをしますと載せたところ、さらに多くのご依頼をいただくようになります。大きな事業になりうると考え、2006年に文字起こしの専門会社としてスタートしたのです。

おそらく、吉田には創業以前から東京反訳をこういうようにしていくといったストーリーがきちんとあったのではないかな、と思います。2024年の現在も、きっとその途中なのではないでしょうか。吉田の意識の中では、特に創業時からマーケティングとブランディングは、同業他社と明確な差別化ができていたはずなのです。ここが、文字起こし会社としては比較的大きな規模に達している大きな理由だと私は考えています。」

 

 

 

06 ―――

インターネットで見つけてもらえる会社を目指す 

 

「私はメーカーに勤務した後、40歳で起業しました。創業後にビジネスを行うなかで吉田との出会い縁があり、東京反訳には5年前に役員として参画しました。業界の外から来たから感じるのかもしれませんが、文字起こしという1つの仕事の報酬は平均数万円ですから、ほかの業界と比べるとやや小さいビジネスと言えるのかもしれません。弊社では平均数万円のご依頼が、年間で平均2万件を超えているのです。これは高品質の原稿をつくるワーカーさんや社員たちの力ももちろんあるのですが、特にマーケティングが優れていたからではないか、と思います。

報酬額やご依頼をいだくお客様の数を踏まえると、こちらから「文字起こしはいかがでしょうか?」と売り込むよりは文字起こしを探している方に弊社を見つけていただくようにするほうが適しているように私は考えます。たとえば、ご自宅で水道に不具合が生じ、修理をする会社を緊急で探している方がいるとします。インターネットで検索し、適した会社を見つけ、連絡をおそらくするのではないでしょうか。これは、文字起こしの会社を探す時と似ていているのです。

創業者の吉田はお客様が文字起こしの会社を探す時、このことを心得ていたのでしょうね。創業の2006年は日本の社会にネットが浸透し、10年も経っていない頃です。その時からお客様が東京反訳のホームページを早く見つけ、品質、納期、セキュリティーなどを確認し、安心してもらえるようにしてきたのです。

当時から、吉田とともにホームページを中心としたマーケティングやブランディングを担当してきたのが取締役の武田晶子で、マーケティングの専任者です。私が入社した頃、社員は約20人で、この規模でマーケティング専任がいることにずいぶんと驚きました。東京反訳がこの分野で強い理由の1つが、ここにあるのだろうと思います。」

 

 

 

07 ―――

いかに誠実で、安心な会社であるか

取締役武田晶子氏の回答 
 
「創業時からホームページでは、文字起こしというサービスを細分化してきました。たとえば日本語、英語など多言語、議事録、出張録音などです。ごく当たり前の作業なのですが、それぞれのサービスニーズに即した検索キーワード対策や広告出稿を行い、お客様の課題ごとに最適なページが表示されるように、時流やニーズの変化を捉えながら日々、チューニングを行ってきました。

ホームページを作るうえでは、いかに誠実で、安心な会社であるかをご理解いただけるようにしてきたつもりです。アクセスを増やすことだけや一時的なヒットをすることに力を注ぐのは、私は否定的だったのです。地味ではあるのかもしれませんが、そのような姿勢も功を奏したのかもしれませんね。

創業者の吉田は早くから、セキュリティーが重要視される時代になるからそのことはホームページできちんと説明をしたほうがいい、と話していました。私は、そこにとても優れたものを感じていました。実際、そのような時代になっています。」

 

 

 

08 ―――

 

いつまでも社長をしていると、会社や社員が成長しない 

 

田邊英司社長の回答 

「吉田が昨年、65歳で社長を退任したのは美学のようなものがあったからではないのかな、と思います。前々から、このくらいの年齢を考えていたようです。私自身は経営についてマンツーマンで教わることはあまりなく、こちらがわからないことなどを伺えば丁寧に教えてくれる、といったスタイルです。今も週に数日、出社しますので報告をしたり、話し合う機会はあります。」



取締役・武田晶子氏の回答

「東京反訳の今後を考え、退任したのではないかと私は思います。いつまでも社長をしていると、会社や社員が成長しない。だからこそ、退く。また、中小企業にとって後継者問題は事業継続の可能性を決める大きな課題です。だからこそ、早めに後継者を決めておきたかったのではないでしょうか。」




後編・第24回に続く




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著者: JOB Scope編集部
新しい働き方、DX環境下での人的資本経営を実現し、キャリアマネジメント、組織変革、企業強化から経営変革するグローバル標準人事クラウドサービス【JOB Scope】を運営しています。
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