シリーズ あの人この人の「働き方」
AI時代を生きるリーダーたち(1)
AIが浸透しはじめた。いち早く導入し、業務の改善を図り、効率化を進め、経費の削減をする企業が増えている。総務や経理など間接部門だけでなく、営業や企画開発、広報やIRなど様々な部署で使い、経営改革を行うケースもある。一方で社員が状況に応じて使う場合もあり、様々な工夫をしている。
シリーズ「AI時代を生きるリーダーたち」ではそのような混沌としたAI黎明期の中、企業経営者や社員、団体や公的機関の職員、医師や看護師、スポーツ選手など各分野のリーダーがAIとどう向かい合っているかをあぶり出す。
1回目は、New Me株式会社(渋谷区)の代表取締役CEOの篠原さくらさんに伺った。今回は3回連続記事の1回目(その1)。篠原さんは2012年、サイバーエージェントに新卒として入社。人事マネージャーとして新卒採用や広告部門事業などに関わる。その後、デロイトトーマツコンサルティングにて人事コンサルティングに携わった。
2019年1月、ベンチャー企業・WARCの創業メンバーとして執行役員に29歳で就任。同社は成長企業の管理部門のハンズオン支援、管理部門人材紹介、HR techサービスを提供する。経営管理部門責任者を経て、人事責任者として採用や定着、評価など全般をリードした。
退社後、2023年11月に元TBSのアナウンサーの笹川友里さんとNewMe株式会社を共同創業。2026年6月時点でスタッフは業務委託も含めて10人程の体制になっている。
会社概要 |人生を自分でハンドリングし、前向きに生きる女性を増やす | NewMe株式会社
目次
01 ―――
篠原さんたち、NewMeのメンバーは20〜30代女性に向け、「ネオバリキャリ」という生き方を提唱している。これは、キャリアを軸に据えながらも私生活をも大切にし、両方を充実させる新しい女性の働き方・生き方である。
女性もキャリア・ライフ両方選び取れる時代になったからこそ、ロールモデル不在と感じ、進む方向に悩む人は多い。NewMeはYouTubeやInstagramを活用した情報発信、有料コミュニティ「Fourth」運営、大規模キャリアイベントを通じて女性たちが「人生を自分でハンドリング」できる力を養う支援を行う。
篠原さんは2025年の妊娠中のつわりをきっかけにAIを本格導入し、現在では業務の9割以上がAI関連となった。全スタッフがAIを日常的に活用し、会議の自動議事録作成、スマホ音声入力による「壁打ち」、メールの自動下書きで大幅に効率化。属人化を解消し、業務の再現性を高め、スタッフの仕事内容を高度化させるなど、立ち上げフェーズの組織強化にAIを効果的に活かしている。
篠原さんはAIを「仕事を奪う存在」ではなく、女性が仕事と私生活を両立するための強力なツールとして位置づけ、前向きに活用していく重要性を強調する。
02 ―――
篠原さくら さん
「笹川さんとは年齢が一つ違いで、互いに育児をしながら仕事をしていることもあり、考え方や感性が合います。一緒に創業できて本当によかったです。友人として5年程前に知り合い、お互いが仕事を軸に、私生活も充実させていきたいという考えを持っていました。やがて私たちと同じ思いを持つ女性たちのためにバックアップをしていきたい、といった考えも互いに持つようになり、一緒に起業しようとなりました。
「バリキャリ」という言葉があります。いろいろな捉え方はできるでしょうが、働く女性がキャリアをしっかり築いていくために、プライベートをも時には犠牲にしながらも頑張るといったイメージの言葉だったと思っています。
笹川さんとはその次の生き方として「ネオバリキャリ」を考えて、ビジネスをスタートしました。キャリア形成を軸に置きながらもプライベートを大切にして、双方を充実させていく。そんな生き方をイメージしています。特に20代から30代の女性にこのような考え方の人増えてきていると感じます。私たちの事業の大事な柱の一つが、「ネオバリキャリ」な女性たちを全力でバックアップしていくことです。
篠原さん(左)と笹川友里さん
具体的には素敵なネオバリキャリの方に動画・イベント・メディアを通してインタビューしたり、同世代の働く女性で気軽に話し合える場づくりをしています。そうしたコンセプトのもと、YouTubeをはじめとしたメディアも運営します。1度に数百人の女性が参加するキャリアイベントの企画・運営も随時行っているんです。有料のコミュニティも展開し、現在は数百名の会員の方に入っていただいています」
03 ―――
サイバーエージェント在籍中、
社内イベントでお祭り企画をした際の篠原さん
「人が働くうえでの内発的な動機を高めていきたいという想いがずっとあります。そこを中心にキャリアを築いてきたつもりです。2023年の起業の大きなきっかけにもなっています。
10年程前に比べて日本全体で労働時間が少しずつ減っている傾向があり、働き方は多様化しています。それでも、懸命に働く人たちによって会社や部署が成長し、国や社会が発展する一面もあると考えています。私はそのような人たちの「内発的な動機」をさらに高めていきたい。意欲的に自分らしく輝けるように、私たちなりにサポートさせていただきたい。このようなことに、前々からとても興味関心が強かったのです。
仕事を人生の軸に据えて一生懸命にステップアップしていきながら、私生活をも楽しんでいく。この姿勢は、女性にとってもよいことですよね。私も組織や会社に属している限り、全力で働きたいし、働かなければいけないといった思いがあります。新卒で入ったサイバーエージェントの皆さんは本当に懸命に働いていて、あの熱量や姿勢が今でも私の原動力の一つになっています」
04 ―――
Instagram
「私たちのYouTubeチャンネル「NewMe Ch」では、リアルなロールモデルを皆さんにお伝えしていきたい。たとえば大手電機メーカーで30代で部長になった方や化粧品会社のPR部長をされている方などにご出演いただきました。いずれもしっかりとキャリアを構築しながら、一方で私生活も充実している方々です。
私たちは、女性たちが「人生を自分でしっかりハンドリングできるように」というビジョンを大事にしています。同じような立場や考えを持つ者同士がこのコミュニティで互いに支え合ったり、刺激し合ったり、励まし合ったりしながら磨いていける。そんな場を作りたい。
こうした事業を進めながら、新卒や中途の採用支援、特に女性社員のキャリア形成のバックアップも行っています。私自身、新卒採用をはじめ、人事に携わってきた経験が、今も生きていると感じます」
イベントでの篠原さん(右)と笹川さん
「弊社のイベントに参加する方のほとんどが女性ですが、働くことが好きな会社員の方が非常に多い。つい先日も参加者からニーズをいただいたことをきっかけに、就活生向けのイベントを開催しました。その中にも、働くことを中心にしつつ私生活も充実させていきたいと思っている女性がたくさん集まりました。こういう思いを、InstagramやYouTubeを通じて丁寧に情報発信しているつもりです。おかげさまで、それを見て参加してくださる方々が増えていて、ありがたく思っています」
自社のイベントは毎回満員
「今、時代が少しずつ変わりつつあるのを肌で感じ取っています。確かに女性が仕事と私生活の双方を充実させるのは簡単ではないと思います。ですが、上手くやりくりする情報やマインドセットを知っているだけでも、だいぶ違うと思います。
企業側もワークライフバランスを整える努力をしていますが、それでも社員に主体的かつ前向きに働いてほしいと思っていることが多い。一部の企業では、女性に本質的な意味で活躍してもらうための組織開発や制度を整備し始めています。キャリアを軸に人生全チアを両立させるためにどうしたらいいかを考えるようなワークショップをご一緒した企業もあります」
05 ―――
イベントには多数の女性が参加する
「AIが全く何も関わっていない仕事を見つけ出すのが難しいくらい。オフィスで皆と喋る時間も結構あります。そういう時にはさすがに使っていませんが、それ以外は何らかの形でAIを使っています。
本格的に使うようになった大きな理由は、去年(2025年)5月に重症悪阻になったことです。「自分がいなくとも会社が動くような状況を作らなきゃいけない」と反省したんです。創業期から頭では理解していたもののなかなかできていなかった。これを機に、危機感が募ったことがAIへの取り組みを後押ししてくれたのではないかなと思います。
経験論からも言えるのですが、スタートアップの時期や会社の規模が小さい時はそれぞれのスタッフの仕事がいわば属人化している。「その人がいないと動かない」といったような傾向が少なからずある。1人が欠けるとさっそくスムーズに動かなくなる。あるいは、社内で決まったことが全メンバーに意識の面で共有できていない。こうした問題を克服するためには会社としての仕組みを作る必要があるのでしょうが、そのためにAIはとても有効です」
06 ―――
「会社員だった頃、ミーティングや会議の後には議事録をまとめるのが大切な仕事の一つでした。私も何度も経験しました。これは大切な仕事であり、特に経験が浅いうちは学ぶものがたくさんあります。ただ、時間が少々かかりますよね。
会議をAIできれいに議事録化してもらっています。それを自動でチャットツールにて社内に迅速に共有できる。組織全体の動きが格段にテンポよく、効率的になりました。時間もかなり削減できているのでしょうね。弊社のような立ち上げフェーズの場合、仕組みづくりをしていくうえで情報共有は重要ですから大事なツールです。
できるだけAIを使って会議記録やノウハウをまとめておくと、急遽、体の具合が悪くなり、休む時にも他の人が対応できるでしょう。属人的なものから他の社員やスタッフにも共有し、多くができるようになるから、再現性がある。こういう仕組みを作っていくうえで本当に効果があります。
特定の人のみが使いこなして優秀になっていくのではなく、全員が各自のレベルを上げていく。その意味での仕組み作りも、弊社では心がけています。大切なのは自分だけで使って「私のAI活用進んでいる!」と自己満足で終わらないようにすることだと感じます。
私の場合は業務全般で幅広く活用して効率化を図っているのです。スマホに音声入力で問いかけをする“壁打ち”をすることも多々あります。たとえば、こんな感じです。「今、こういう事業の課題があり、こう考えているんだけど、現時点ではこれとこれが課題。これらを克服するために、このリソースをこんな具合に使い、この時期までに解決したいと思う。どうすればいいか…」。
すると、すぐに理路整然とわかりやすい事業計画にして返してくれます。これをたたき台にして、さらに深く考え直すようにします。弊社のオフィスでは多くのスタッフが壁打ちを盛んにしています。たまに皆がスマホに向かって同時にしゃべっていることも(笑)。
メール返信の時にも活用することがあります。たとえば、クライアント企業とのこれまでのやりとりでメールの内容やフォーマットがある程度決まっているものがあります。この場合は、AIに下書きを作ってもらい、そこにクライアントとのこれまでの流れを踏まえて、私なりに最後の確認の際に「クライアントの心に刺さる言葉」を加えるように心がけています」
07 ―――
「特に印象的なのは、アシスタントのメンバーです。以前は会議の議事録を素早くわかりやすくまとめたり、社外からのメール返信を丁寧に担当してくれていました。AIを活用するようになって、彼女の仕事の内容はより高度なものにシフトしています。
メンバーの女性と篠原さん(左)
一例を挙げます。私がAIと壁打ちをしたうえで考えを明確に具体化させ、それを彼女に伝えます。こんなようなものです。「今度、このコミュニティサイトをこんな具合に変えたいんだけど、このポイントと要件を踏まえて作ってみて。特にこの辺りは、ユーザーにこう見せたい」。
これを受けた彼女がさらにAIと相談しながら、細かいところまでユーザー目線で丁寧に仕上げてくれます。彼女とAIのコンビがすばらしい!おかげで外部の技術者に依頼する機会が減り、時間とコストの大幅削減にもつながっています。AIはうまく使えれば本当にメリットの大きいツール。今ではAIに仕事を取って代わられないように、皆それぞれ工夫をしています。
AIを過信せず、うまく付き合っていく。そういうつもりでまず使い続けると、景色は変わるかもしれません。最初は「AIに仕事を奪われるんじゃないか…」と危機感を抱いていた人も、変化を実感できると思います。その危機感を前向きに持つことが、とても重要なポイントではないでしょうか」
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