シリーズ あの人この人の「働き方」

AI時代を生きるリーダーたち(1)

~「AIは6〜7割で十分。人間がチェックし、
価値を生み出す時代」~

New Me株式会社代表取締役CEO 篠原さくらさん(その2)

 

AIが浸透しはじめた。いち早く導入し、業務の改善を図り、効率化を進め、経費の削減をする企業が増えている。総務や経理など間接部門だけでなく、営業や企画開発、広報やIRなど様々な部署で使い、経営改革を行うケースもある。一方で社員が状況に応じて使う場合もあり、様々な工夫をしている。

 

シリーズ「AI時代を生きるリーダーたち」ではそのような混沌としたAI黎明期の中、企業経営者や社員、団体や公的機関の職員、医師や看護師、スポーツ選手など各分野のリーダーがAIとどう向かい合っているかをあぶり出す。

 

1回目は、New Me株式会社(渋谷区)の代表取締役CEOの篠原さくらさんに伺った。今回は3回連続記事の1回目(その1)。篠原さんは2012年、サイバーエージェントに新卒として入社。人事マネージャーとして新卒採用や広告部門事業などに関わる。その後、デロイトトーマツコンサルティングにて人事コンサルティングに携わった。

 

 

2019年1月、ベンチャー企業・WARCの創業メンバーとして執行役員に29歳で就任。同社は成長企業の管理部門のハンズオン支援、管理部門人材紹介、HR techサービスを提供する。経営管理部門責任者を経て、人事責任者として採用や定着、評価など全般をリードした。

 

退社後、2023年11月に元TBSのアナウンサーの笹川友里さんとNewMe株式会社を共同創業。2026年6月時点でスタッフは業務委託も含めて10人程の体制になっている。

 

NewMe株式会社

 

会社概要 |人生を自分でハンドリングし、前向きに生きる女性を増やす | NewMe株式会社another-window-icon

 

 

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01 ―――

まとめ

 

篠原さくらさんは、AI活用について「まずは小さなところから慣れ親しむこと」を推奨する。プライベートでの利用や苦手な業務から始め、徐々に仕事に広げていくアプローチを勧めている。

 

AIの回答を「10点満点中6〜7割」と位置づけ、人間が必ずチェック・修正する姿勢を強調する。一見完成度が高く見えるAI出力も、論理の飛躍や表現の不適切さが見つかるため、上司が企画書を添削するようにリライトすることが不可欠だと語る。この習慣により、同社では残業が少なく、10時間かかっていた業務を5時間以下に短縮。空いた時間を新規事業や価値創造に充てている。

 

AIはルーチンワークを効率化し、社員を「知的ワーカー」へとシフトさせる一方で、「人間力」と「現場力」はAIでは代替できないと指摘。特に人事領域では、経営層の意向と現場の実情を理解したうえで制度を運用する力がより重要になるとする。

 

AIを活用して「組織としての記憶」を蓄積・共有することで、社員の定着率向上にもつながると期待を寄せている。スタートアップや中小企業は、壮大な計画ではなく「自分たちが苦手とする部分」から部分的に導入していくのが現実的だとアドバイスする。

 

 

 

02 ―――

AI回答がいかなる時も正確であるわけではない

 

篠原さくら さん
篠原さくら さん

「初めから大きなことをAIを使ってしようとするよりも、まずは私生活の些細なことでも良いと思います。それで慣れ親しんでいくことが大切かもしれませんね。悩みを打ち明ければ慰めてくれたり、的確なことを答えてくれたりするケースもあるでしょう。仕事ならば、自分の苦手な作業からやらせてみるのもいいかもしれません。

 

いざAIを使ってみると、想像以上にスピードが速く、アイデアももらえたりして楽しくなっていくかもしれません。回答のレベルも、総じて高いものが多いですから、そういうところから少しずつ活用の幅を広げていくというのもよいですね。資料作成に苦手意識があるなら、まずはAIにサポートしてもらう。仕事でいきなり使うことに抵抗感があるのなら、プライベートで使ってみるのもよろしいかと思います。そういうところから「意外とできるよね」「すごいよね」という発見があるかもしれませんよ。

 

篠原さん(左)と共同創業した元TBSアナウンサーの笹川友里さん
篠原さん(左)と共同創業した
元TBSアナウンサーの笹川友里さん

私は使い始めると、AIの回答のすべてに納得できない時があることに早いうちに気づきました。それは、当然かもしれません。すべてに納得してしまうならば人間の価値や存在する意味がないでしょうから…。回答として望むクオリティの最も高いレベルを「10」とするなら、AIの回答はその6~7割になってくればいいな、と思っています。社内のメンバーでも誰でも、求める答えを完璧にだしてくることはあまりないため、そこはAIでも同じなのかなと思います」

 

 

 

03 ―――

チェックする姿勢は一段と大切に

 

「回答がいかなる時も事実関係として正しく、正確であるわけではありませんよね。AIがつくる資料は一見すると非常に正確に見える。しかも、理路整然としている。私がきちんと読み直し、考え直していくと、論理において矛盾があったり、表現として適切でないこともあるのです。

 

これは私が会社員の頃に企画書や説明用の資料をメンバーに作成してもらい、自分の頭で考えてさらに遂行してよいものを作ってきた作業と似ています。それと同じような要領で、AIから上がってくる回答を私なりにリライトしたり、修正し直したりしているのです。そういうプロセスは絶対に必要。AIは今後さらに浸透していくのでしょうが、自分の目で、自分の意志でチェックする姿勢は一段と大切になります。

 

そのあたりを踏まえ、うまく活用していくことが必要です。効率よく進み、新たな時間が生まれます。それでプライベートも豊かになり、充実していくと理想ですよね。AIを効果的に使うこともあり、弊社のメンバーは残業時間はそれほど多くない気がします。

 

寝る前にこちらが指示を投げかけておいて、朝起きればスマホやパソコンの画面に成果物が出来上がっている。たとえそれが6~7割の出来であったとしても、それだけでも随分と効率化が進んでいるじゃないですか…。こういう発想が必要なのでないかな、と思っています」

 

 

 

04 ―――

10時間かけていたことが30分でできるようになった

 

ただし、「AIを会社として導入するかどうかは、その会社が置かれている状況による」とも指摘する。一定の企業規模になると、個人情報やコンプライアンスなど様々なケアすべき論点があるため、AI導入を最優先することが必ずしも正しいとは言えない場合もある。まずは自社の課題をしっかり洗い出し、どの順番で何をしていくべきか慎重に考える必要はある。

 

愛用するママチャリを運転する篠原さん(左)と笹川さん
愛用するママチャリを運転する篠原さん(左)と笹川さん

「大きな企業のバックアップのもとで成り立っているわけではなく、私たちのように小さな会社は導入を検討するのもよいのかもしれません。特に弊社ではメンバーのほとんどが女性で「私生活も充実させていきたい」という考えを持ち、忙しい日々を送っているならばなおさらです。

 

クライアント企業からAIに関する相談を受けますが、お客様の様々なデータを入力したり、請求書や見積書、納品者を作成したりといった業務には大きな戦力になると思うんです。ルーチンで行っている事務的な作業はより正確に、スピーディーに効率化でき、コスト削減もできるでしょう。

 

私はAIをこの3年間使うことによって、それまで10時間かけていたことが30分以下でできるようになってきました。空いた時間で、ビジネスにおける新しい価値を生み出すことを考えるようにしているのです。トータルで見ると仕事の量が大幅に減ったわけではなく、むしろ、忙しくなっている部分もあります。

 

そのことに不満はありません。仕事に抵抗感があったり、楽をしたいと思い、使っているわけではないのです。「この会社の事業をより成長させていきたい」「会員のみなさんにより一層満足していただきたい」「メンバーにもそういう思いを持ってもらいたい」「メンバーのプライベートまで含めて、よりよきものにしていきたい」…。このような思いでAIを動かしています」

 

 

 

05 ―――

新規事業へのシフトがスムーズには進んでいかない理由

 

クライアント企業の経営者層と話をしていた時、AIを導入して既存の事業で使っていくと、それぞれの社員がよりスピーディーに仕事をして労働時間が減ってきているようだ。そこで、社長や役員など経営層はその分空いた時間で新規事業を、と考えようとするが、そこに新たな問題や課題が生じているのだという。

 

「AI導入により、空いたリソースを、新規事業に充てていこうと計画する企業が多いようです。社員たちが既存事業にAIを導入して、一生懸命効率化しているうちに、さらに既存事業でやりたいことが浮上してきて、新規事業側にリソースをなかなか割けないなんていう話もクライアント企業から聞くようになりました。

 

AIによって社員を減らすことができるから、大幅なコスト削減が可能と考える人もいるようですが、それぞれの社員がAIを活用してレベルがアップしていくかもしれない。会社が活性化し、社員を減らすことができないほどになるケースもあるかもしれませんよね。

 

はっきり言えるのは、これまでのようなルーチンワークは減っていく傾向があります。ホワイトワーカーに関しては、それぞれが知的ワーカーとして頭をさらに使い、高いレベルの仕事をしていく機会が求められているのです」

 

 

 

 

06 ―――

「人間力」と「現場力」は、AIではできない

 

「これまで以上に、高度な人間力とコミュニケーション能力が人事には求められるようになってきている」とも語る。

 

「たとえば、人事部や経営企画部は社長や役員など経営層の意向や考えを素早く的確に感じ取り、各部署や現場クラスの内情も実情もよく心得ているがゆえに的確な判断ができる。こういう人材がより必要になってきます。以前から人事の人は心得ていたのでしょうが、その必要性が増してくると私は見ています。

 

人事制度や賃金制度、社内の様々なルールはAIでもたたき台を作ることができる。会社の内情や実情、これまでの経緯や問題、課題を伝えていけばきっと素早く作れてしまうでしょうね。これからの人事は次のように視野を広げて、ロジカルに考えることが求められてくると思うのです。

 

「なぜ、この制度が必要なのか」「どういう背景があって導入するのか」「制度をどのタイミングでどういう具合にどう伝えると、より多くの社員たちの納得感を得られるのか」「どうしたら、スムーズに制度が機能するのか」…。関係各所の意向を正しく理解し、調整に走る。

 

こういう意味での「人間力」が必要ですよね。「制度を作った」ことよりも、「人間力のあるこの人がこういう説明をし、導入をしようとする。あるいは、こうやって導入したからうまくいっている」。

 

このように社内で言われるようなものが求められてきているのではないでしょうか。それぞれの部署や社内全体の内情、実情をよく心得ているという意味での「現場力」と表裏一体とも言えるかと思います。「人間力」と「現場力」は相通じるものがあり、現在のAIではなかなかできないことです」

 

 

 

07 ―――

「組織としての記憶」を共有し、定着率を高めていく

 

「私が関わってきた採用業務で言えば、業務フローやその中におけるそれぞれのオペレーションはAI化が進んでいくでしょうね。求人作成にしろ、求人広告にしろ、AIは優れたものを作れるようになってきました。書類選考や面接にも、すでに導入している企業もあります。ただし、これが中小企業でどこまで浸透するかというと、私は一部ではスムーズにはいかないのかなという気がします。

 

自社のイベントに登壇
自社のイベントに登壇

たとえば、新卒者を毎年5人前後採用しているのであれば、母集団(エントリー者数)も限られたものになるでしょう。書類選考においても、それほど時間がかかるわけではないと思うんです。人気のある大企業やメガベンチャーに比べるとおそらく少ないでしょうね。むしろ、AIを導入して自動化を進めるほうが、手間暇やコストがかかることになりうるのではないでしょうか。

 

人事において中小企業も導入できるなと私が思うのは、退職者の「組織としての記憶」です。過去にこういうことがあって、こんな経緯でこのような人が辞めていった。この事実をデータ化してAIに入力していく。それを踏まえて現在の社員への対応を行う。こんな取り組みも近いうちに行われていくと思います。

 

実はこれらは一部の中小企業でははるか前から取り組んできたのでしょうね。それが十分にはデジタル化されず、社内で共有されていなかったのだろうと思います。今はAIを使い、全社で「組織としての記憶」を共有することで定着率を高めていくこともできますよね。それは、コスト削減にもなりえます。

 

きっと中小企業に限らないのでしょうけれど、導入することに抵抗感がある場合はまず「この仕事が一番嫌だな」「苦手意識を持っている」といったところに部分的に導入してみるのはよいのかもしれません。最初から壮大なプランを作ろうとすると、中堅企業、中小企業やベンチャー企業はすぐにはできないのかもしれません。私たちのようなスタートアップならば、なおさら。だから、できるところから取り組んできたのです」

 

 

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著者: JOB Scope編集部
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