第7回

売上10億円を超えた
ベンチャー企業の管理職たちの奮闘

部下育成とチームビルディングの本質


2023/11/01

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01 ―――

管理職らが育たないようにしているのが、創業経営者や社長、役員

 

本シリーズ(第1回)から(第6回)までで、10億円の壁を乗り越えることができなかった企業や乗り越えつつある企業を取り上げた。その差は、組織として安定的に稼ぐ仕組みをつくることができたか否かである。それを可能にするためには、次に挙げるポイントを説明した。(この連載の記事一覧はこちらから  another-window-icon

これらの差をつくってしまう大きな要因は創業経営者や社長、役員と解説もした。管理職を信用できずに、権限を奪い、自分たちで一般職を育成しようとするのもわからないでもない。だが、そこをこらえ、段階的に権限委譲し、管理職を通じて一般職を育成し、チームや部署をつくれるか否か。それができないと、10億円を超えるのは不可能に近い。 


今回は、私たちの編集部のメンバーが、過去5年に以内に10億円前後の企業の経営者をヒアリングした一部を紹介したい。特に組織づくりや管理職をはじめとした社員の育成について伺っている。
 


経営者のこういう声を本シリーズで繰り返し紹介するのは10億円前後の企業で、管理職らが育たないようにしている。実は創業経営者や社長、役員ではないか、といった問題意識を私たちが持っているからだ。
 

 

 

02 ―――

風土や仕組みを作るのが、経営者の仕事

 

1つめは旅行会社で、正社員数は10人前後。10億円を目指し、業績拡大を続けている。社長は40代後半。かつては1人で仕事を抱え込むことをしていた。だが、ある時から大幅に権限を管理職に委譲し、組織づくりをしている。 

 

社員やパート社員には納得した仕事をしてもらい、定着率を高めることを大切にしています。そのために、必要以上に指示をしないようにしてきました。個々が自主的に判断し、行動をしてほしい。それが結果として、スタンドプレーになったとしても怒ったり、叱ったりしません。 


かつては経営者としての経験が浅い頃は腹が立つことはありましたが、今はもうそのように感じませんね。部下たちの一つ一つの行動に腹を立てていたのでは、強い組織を作ることはできないでしょう。
 


社員が率先して前にどんどんと進めてくれないと、私がいつまでも目の前の仕事しかこなすことができなくなります。それでは、新たな取り組みや新規事業、経営多角化を進めることもできません。9年前に会員組織を作り運営してきたからこそ、今回のコロナウィルス感染拡大による経営危機を乗り越えることができつつあるのです。
 


以前の私は、部下に任せることが怖くて部下の仕事まで抱え込み、オーバーワークな日々でした。ある時、上司(当時の社長)が教えてくれたのです。「あなたは、今のサイズに収まるタイプじゃない。もっと大きな仕事ができる。もっと部下に任せなさい。部下は、あなたが想像する以上に働くよ」。上手い言い方ですよね…。
 


しだいに仕事を任せるようにすると、社員たちは喜んでいるようでした。職場の雰囲気もよくなりましたよ。経営者としてのプライド?そんなプライドはいりません。部下に仕事を任せて失うプライドやメンツなんてありえない。今回も危機の中、最前線で仕事をしてくれるのは社員ですから、私としては感謝しかありませんよ。
 

たとえばツアーの企画会議でも、社員たちのアイデアや案を否定することはしません。まして、「私が以前考えた企画は…」なんて過去の話は持ち出しません。そんなことでは、今の時代に通用しない。心の中で「これは難しいな」と感じた企画が、大ヒットしたケースもあります。 


まずは社員が納得し満足した企画をしたことで売上が上がり、そのことでお客様に受け入れられたんだと喜びます。それが添乗員に伝わり、お客様の心に届く。まずは、社員がワクワクしないと…。そのような風土や仕組みを作るのが、上司や経営者の仕事だと思います。

 


私たち編集部も管理職をはじめ、社員たちが楽しみながら仕事をして、充実感や達成感を感じ取れる風土や仕組みを作るのが経営者の仕事だと考えている。ただし、漠然と仕事を与え、「楽しもう」と言ったところでそうはならない。 


楽しむことができる制度設計が必要だ。そのためにこそ、ジョブ型雇用の導入が大切と考えている。それぞれの仕事の内容や量、達成すべき質やレべル、賃金や報酬、投下する時間や進め方などを可能な限り明確にして文書化する。そのうえで、本人と管理職らが共有したい。この共有がないと、充実感や達成感は得られない。
 

ジョブ型雇用については、前シリーズの第4回10億円の壁にぶつかるベンチャー企業にとってのジョブ型雇用 another-window-iconにまとめた。ご覧いただきたい。 



03 ―――

「心理的安全性」のある職場 

 

次に挙げたのは、60代の人事コンサルタントへのヒアリングの一部である。20~30代前半は大手の社会人教育支援会社にて勤務。30代半ばで退職後、現在にいたるまで人事コンサルタントとして中堅企業やベンチャー企業への人事コンサルティングを続ける。特に組織づくりや人材育成を専門とする。 

 

最近は、「心理的安全性」のある職場をつくっていくことが人事・労務の分野では重要なキーワードになっています。従業員が安心して、意見や考えを遠慮なく発言し、行動に移したりできることなどを意味します。 


私も社会人教育支援会社に勤務している時、部下として2度と仕えたくない上司がいました。私が20代半ばの一般職の頃で、上司は30代の課長の男性。部署は、部員が約20人。
 


部下たちがこの方に、新規事業の提案をするとそのほとんどをまともには受け付けません。いつまでも回答はなく、真剣に検討もしていないようでした。ところが、部下のミスを見つけるとすかさず指摘し、注意したり、叱ることには燃える…(苦笑)。しかも重箱の隅を楊枝でほじくるようなものでしかなく、私には理解ができませんでした。
 


口ぐせが、「余計なことをするな!」「(俺はそんなこと)知らんがな」。つまりは、ことなかれの現状維持なのでしょうね。私は新規事業をどんどんと進めていきたいタイプでしたから、心の中で上司の姿勢を「こんなのは違うだろう」と頻繁に思っていました。その後、この方が人事異動となり、男性の部長が私たち約20人の直属上司となりました。
 


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人の部署や部下の動かし方は、まったく違いました。たとえば、新たな上司はそれぞれの部員の特徴や特性を見極めて、最も仕事がしやすいように任せるのです。私は前の上司(課長)の時に前進しようとしても「余計なことをするな!」と抑えつけられていたので、やる気が湧いてきて、熱心に仕事に取り組みました。 


口グセが、「よろしくたのんます」「(部下が仕事を)よくやっているよな」。部下の心をつかむのが、うまい。部下の個性を認め、尊重しているからこそ、適切なタイミングで効果的な言葉をかけることができるのでしょうね。個々の部下の承認の欲求を十分に満たしていく。みんなの仕事への姿勢が変わり、部署の業績は早いうちにV字型改革をしました。その後、部長は役員になり、活躍しました。
 



 

04 ―――

役員や管理職が部下の違いや多様性を認めたうえで育成 

  

私は課長になり、部下をはじめて持つようになりました。部長から、「とんがっている奴で、周りとうまくいかない。(部下として)面倒をみてやってくれないか」と頼まれ、受け入れました。 

他の社員に比べると協調性がなく、摩擦が絶えない状況でした。それが尋常ではないといったレベルで、自分の考えが正しいと常に主張し、他人のほとんどの考えや意見を突っぱねる。結局、チームの一員として仕事をすることはやめて、専門性を生かした仕事を任せるようにしました。 


本来はたとえば、役員や管理職が部下の違いや多様性を認めたうえで育成することを大切にすべきで、社員どうしも互いの違いを認め、尊重し合うことが大事なのです。

 



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05 ―――

「部下の長所を言えますか?」

 

部下を「使えない」と言っている上司がいるならば、その方は相手の短所だけを見ているのではないでしょうか。しかも、それは主観によるものが大きい場合があるようにも思います。明確で、客観的な根拠に乏しいのではないでしょうか。 


ほとんどの人には、何らかの長所があります。それを見つけるのが、上司の仕事のはずです。人本経営では、役員や管理職は支援型リーダーであることが必要と考えられています。部下の個性や持ち味、特徴やよいところ、長所をいかに引き出すことを重視しています。
 


コンサルティングの場で役員や管理職にお聞きするのが、「部下の長所を言えますか?」です。返事に困る人もいますが、難しく考える必要はありません。
 

上司が「これをするように」と言わなくとも、黙々と取り組んでいることなのです。たとえば、部内で最も早く出社しているならば、それが長所だと私は思います。長所に気づくことが、役員や管理職に求められているのです。 

そして、本人が長所を繰り返しできるように環境を整えていけばよい。長所が活かせる仕事をたくさんするようになると、短所が周囲には見えなくなります。本人のやる気が増して、仕事への姿勢がよくなり、職場の雰囲気も変わるでしょう。部署の業績も次第によくなるはずです。 


経営者の中には、「従業員の長所を見つけ、それが活きるようにするのは難しい」と話す方がいます。一方で、私が知る人本経営に取り組む会社の経営者は、「人から自分にしてもらった時にうれしいことを従業員にすればいい。難しく考える必要はない」と話します。私は、この言葉は示唆に富むものと思っています。
 


知人に、このような反論をする方もいます。「そのようにして従業員を甘やかしていると、業績拡大はできない。本人たちが不得手とすることでも、どんとんとさせて鍛えていかないと成長はしないし、会社も発展しない」。
 

私は、この考え方を否定はしません。これで会社の業績がよくなり、従業員が幸福になるならば1つの考えではある、と思います。 


しかし、今の時代はこういう路線では従業員の心を満足させ、モチベーションアップを図り、会社の業績を拡大するのは難しいように思います。労働力人口減少の流れはもはや止まらず、人手不足が一段と深刻化していくでしょう。この傾向は、ますます拍車がかかるはずです。
 


それを踏まえ、考え方を変えていくべき時期に入っているはずです。多様な従業員と関係の質をよくしていくことが組織を長期にわたり、安定的に持続させ、成長させていく鍵になってきていると思います。その意味で、「使える、使えない」の議論は時代遅れなのではないでしょうか。
 

 


私たち編集部は、心理的安全性が確保された職場をつくり、そのもとで社長や役員が管理職をはじめ、社員の長所をみつけ、そこを中心とした育成をしようとすることに共感する。育成においては、人事コンサルタントの特に次の言葉を考えたい。
 

 

「本人が長所を繰り返しできるように環境を整えていけばよい。長所が活かせる仕事をたくさんするようになると、短所が周囲には見えなくなります。本人のやる気が増して、仕事への姿勢がよくなり、職場の雰囲気も変わるでしょう。部署の業績も次第によくなるはずです」 

「多様な従業員と関係の質をよくしていくことが組織を長期にわたり、安定的に持続させ、成長させていく鍵になってきている」 

 

特に売上が10億円の壁にぶつかるベンチャー企業では、採用力は大企業やメガベンチャー企業に比べて見劣りする。「戦力にならないならば辞めさせればいい」では、仕組みはいつまでもつくれない。要であるはずの管理職の育成においても同じことが言える。 





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06 ―――

上司と部下はガチンコで向かい合うべき


次に挙げるのは、60代の人事コンサルタントへのヒアリングの一部である。正社員数が70人を超えるコンサルティング会社の社長でもあり、売上は10億円を超えている。 

コロナウィルス感染拡大の影響もあり、テレワークがあらためて注目されています。今後は、社員が自宅で仕事をする場合、成果や実績で判断する傾向がより強くなります。成果主義は、一段と浸透するとは思います。そうしないと、特に欧米企業と競い合うことはできない。 

日本企業の人事評価の圧倒的な特徴は評価が中央化するか、寛大化することです。たとえば5段階で評価する場合、中央値である3にする傾向があります。平均以下である1や2にすると、評価者(通常、直属上司)にかわいそうといった感情が働くのかもしれません。本来は、駄目な人には駄目だと言わないと、中長期的に見ると伸びないはずです。 


たとえば
2をつけるならば、今後どうしていけばいいのかと本人と向かい合い、説明する必要がある。成果主義は、評価をつけて終わるわけではありません。踏み込んで、伸びるためにはどうすればいいのか、何をどうするべきかと考えなければいけない。本人の成長のために、厳しいことを言わなければいけないのかもしれない。場合によっては、降格が必要になるのかもしれません。 


その意味で、上司と部下はガチンコで向かい合うべきです。上司としてはそこまで話し合える関係を作れるかどうか、が問われます。前提として、上司と部下が同じミッションや目標を持っていることが必要です。
 


上司はアメリカンフットボールで言えば、クォーターバック(試合で、攻撃をする際の司令塔)みたいな役割。部下たちにどういうタイミングで何を感じさせたらいいか。どのようにして成長させるか、などを常に考えないといけない。

 

 

 

07 ―――

部下は、貴重な経営資源

 

部下は、貴重な経営資源です。それを使って、チームや部署のパフォーマンスを最大化させることが上司には求められます。そのために中長期的な視点に立ち、育て上げていくことが大切です。私生活などワークライフバランスにも配慮し、心身の健康を考慮し、労働生産性が上がるように仕向けていきたい。
 

私も、様々な失敗を経て現在に至っているのです。自分は100点と思っていたら、駄目なのではないでしょうか。管理職でも、経営者でも自らのマネジメントを改善していくマインドやスタンスを持ちたい。強みや弱みを客観的に評価できる人が、優秀なのだと思います。自分のことを過大評価したり、過小評価したりしている人は多いですよね。自己評価を正しくできる人は、上司と部下との関係を客観的に見ることができるのです。 


上司と部下が同じ目的のチームの一員である以上、互いに相手を思いやれるか否か。ここが、大事なのです。その関係があると、いい上司と部下になれます。
 


自分を高めることを絶えず意識しながら、自己検証をする。これをやらされ感を感じて行うのではなく、ゲーム感覚で楽しみつつ、自らを高めていけるとよいと思います。
 

 

 

 

08 ―――

上司はアメリカンフットボールで言えば、クォーターバック 

 

私たち編集部は、人事コンサルタントの特に次の言葉に共感したい。 

「上司はアメリカンフットボールで言えば、クォーターバック(試合で、攻撃をする際の司令塔)みたいな役割。部下たちにどういうタイミングで何を感じさせたらいいか。どのようにして成長させるか、などを常に考えないといけない」 


「部下は、貴重な経営資源です。それを使って、チームや部署のパフォーマンスを最大化させることが上司には求められます。そのために中長期的な視点に立ち、育て上げていくことが大切です。私生活などワークライフバランスにも配慮し、心身の健康を考慮し、労働生産性が上がるように仕向けていきたい」
 

  

これらの言葉を管理職やその予備軍に伝えてほしい。そして、「自分たちの職場ではこの言葉をどう受けとけ、どのように活かすか」と話し合いをしてもらいたい。 

管理職を育成するうえで、たとえば「部下たちにどういうタイミングで何を感じさせたらいいか。どのようにして成長させるか、などを常に考えないといけない」などは不可欠な視点であるからだ。 

 



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著者: JOB Scope編集部
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