(番外編)
あの人この人の「働き方」
「僕らは、2人で1人分の仕事をするのです」
「ハハハ・・・(笑)」
No1.ザリガニワークス(前編)
2025/1/17
今回と次回は、エッジのきいた玩具の企画デザインで知られるザリガニワークスの武笠太郎さんと坂本嘉種さんを取材した内容を紹介したい。テーマは、テレワーク。
2人は多摩美術大学在学中、先輩・後輩の間柄で、ともに音楽サークルのメンバー。卒業後は武笠さんが玩具メーカーの企画・デザイン職、坂本さんがゲームメーカーのキャラクターデザイン職などの仕事をしていたが、退職。2004年に共同経営の有限会社ザリガニワークスを興し、「コレジャナイロボ」「自爆ボタン」「土下座ストラップ」をはじめ、数々のヒット作を世に送り出す。
創業時から原宿(渋谷区)にオフィスを構えていたが、2000年のコロナウィルス感染拡大の時期にそれぞれの自宅で仕事をするようになった。武笠さんは「芸術の町」として注目を浴びる藤野(相模原市)に、坂本さんは東京都下の住宅街に住んでいる。テレワークから4年目の今年(2024年10月)、あらためて取材を試みた。
武笠太郎さん
ザリガニワークスの工作担当。「コレジャナイロボ」製作数通算7500体。趣味のダンボール工作ではEテレ「へんしん!ダンコちゃん」に出演。プランナー&ディレクターとしても多数のクライアントワークをこなす。
坂本嘉種さん
ザリガニワークスのデザイン担当。各種デザイン、イラストを中心に、ライティングワークも。コレジャナイロボ主題歌「IT IS NOT THIS! コレジャナイロボ!」では、作詞・作曲も手掛ける。
01 ―――
互いの足りないところを補っている
武笠:有限会社ザリガニワークスは2人だけの会社であるので、「在宅ワーク」をするうえで特に混乱や問題はなかったのです。それぞれが家で仕事をしていて、都内やその近郊に行くのが1か月に多くて3~4回。2人が一緒にクライアントとの打ち合わせや会議に参加する場合もあれば、僕だけが行く時もあります。種さん(坂本さん)が1人で行くこともありますよね。
坂本:僕も都内に行くのは、1か月に3~4回くらいでしょうね。今は、すべての打ち合わせのうち7割程がオンラインツールを使ったものになっています。
武笠:原宿にオフィスを構えていた頃から、仕事をする際の効率面を考えていました。2人しかいませんから、効率よく進めていかないと成り立っていかない。
双方に明確な役割分担があるわけではないのですが、たとえば企業や団体から仕事の依頼があった場合、まず、僕が1人で伺うことが多い。その時点では仕事になるか否かがはっきりしていないですから。こういう場合は、行くようにしています。
坂本:武笠は、相手とのやりとりの中でたとえば「2人と組んで仕事を進めると、こういう展開になりますよ、または、さらにあの人を入れるとこういうことができるかも」といった感じに、ビジネスの枠組みや座組みを膨らませる発想が得意なのです。そこで話し合われた内容を持ち返り、伝えてくれます。電話やオンラインツールで話し合い、「おもしろいね」となれば今度は2人でその企業と話し合うケースもあります。
武笠:種さんの前々からの人脈で、依頼が来る時もありますね。
坂本:僕が1人で先方に伺い、話し合う機会は少なくて、前々からの知り合いなどから依頼があった時くらいでしょうか。僕は武笠のような発想やイメージに自信がないから、初対面の方の場合には、まずは武笠が伺うほうがいいと思っています。
武笠:僕らは、2人で1人分の仕事をするのです。フリーのクリエイターの1人分の仕事をザリガニワークスとして2人でこなすような感じでしょうかね(笑)。
武笠:僕は、制作の深いところやデザインに自信が持てない。そのあたりは、はるかに種さんが優れています。互いの足りないところを補っているのです。ですから、僕が発想やイメージが豊かで、交渉が得意と思われると、それはちょっと違うように感じます。「得意だ」なんて声を大きくして、言えません(笑)。
02 ―――
オフィスの頃のリズムを取り戻しつつある
坂本:お互いの持ち味や立場を心得ているからね。ただ、4年前に在宅ワークをはじめた時には多少の戸惑いはありました。たとえば、オフィスにいた頃は武笠がすぐ横にいたから、雑談を盛んにしていました。「あの漫画、読んだ?」なんてところから盛り上がる時もあります。そこから企画が生まれてくる場合があるのです。 このスピード感のあるやりとりが、在宅ワークではなかなかできないと思っていました。それも今はFacebookなどのメッセンジャーを使い、結構おもしろく雑談をしています。当初は新たな発想やヒントをつかむのが難しかったのですが、最近はコツをつかむことができつつあります。コツを言葉にして説明するのは、難しいのかな(笑)。
武笠:難しいですよね。
坂本:無駄な話し合いは、明らかに大事。
武笠:確かに雑談は大切です。オフィスの頃は種さんからふられて、それに答える。その時に仕事をしているのですが、中断して話し合っていました。もともと集中力がないから。実際、あの雑談でヒントが生まれてきました。今は、あの頃のリズムを取り戻しつつあるように感じています。雑談とは別に、真剣な話し合いもしますよ。2人でZoomを使っての企画会議は少なくとも週1回、2時間程しています。2~3日後にクライアントにアイデアやデザインを提出するケースもありますから。話し合ううえでのルールや約束は決めてはいませんが、良いと思えるコンテンツを作るためには互いに妥協はしません。
坂本:進んでいこうとする方向が同じだから、意見が違ったとしても喧嘩には全然なりません。むしろ、アイデアの弱いところが見つかったりして大切な場になります。オフィスの頃と同じく、コミュニケーションは密にできているよね。「もう1度、オフィスを借りて仕事をしようよ」といったやりとりにはならないです。きっと、互いに在宅ワークに大きな不満はないのでしょうね。
武笠:僕の場合は、原宿までの通勤時間を仕事に使うことができるようになったのがとてもいい。
03 ―――
在宅ワークの2つの問題点
在宅ワークの2つの問題点
坂本:あえて問題を挙げると2つかな。1つは工房があるといい。ちょうど今(2024年10月)、国分寺のギャラリーで展示をしていますが、こういう時には、工房があると準備などに便利ではあるのです。
もう1つは、クライアントが立ち寄れる場がないこと。オフィスを借りていた頃はクライアントの方が「原宿や渋谷に来たので、お邪魔しました」と現れ、話し合う機会があったのです。仕事だけではなく、雑談も含めて。これが、いい発想や企画につながるケースがあるのです。
武笠:2つめの問題点で言えば最近、ある試みをはじめました。エックス(旧ツイッター)の機能の1つのスペースです。これを使うと、参加者がリアルタイムで僕らと会話をすることができるのです。発言をしなくて、聞いているだけでもいいのです。エックスでのアカウントをもっていることが、参加のためには必要となります。それ以外は条件を設けていませんので、どなたでも2人と音声による会話ができます。
まったく面識がない人が参加し、話し合う。バーチャルな意味でのオフィスみたいなものです。ウェブでも、こういうことができるのですね。これからは定期的に試みてもいいのかな、とは思っています。
坂本:人が気軽に僕らに触れてくれるのを大事にしたい、と考えています。やり方を工夫すると、ウェブで皆が話し合えるオフィスのようなものをつくることができるのかもしれないね。
04 ―――
僕らは、クライアントに恵まれています
坂本:在宅ワークにしてから4年目になりましたが、クライアントとの仕事の仕方が大きく変わったケースはないですね。オンラインでの話し合いが圧倒的に多いのですが、直接会う場合もあります。
僕らはものづくりをしますから、それを手元に置いてクライアントの前で「この部分はこうです」などと説明をする時があるのです。逆に質問を受ける場合もあります。手元に玩具を置き、触りながら確認し合い、話し合うのはとても大切です。玩具を持ってクライアントのもとへ出向くケースもありますが、その逆が多いでしょうね。
武笠:こちらからデータをクライアントに送り、それをもとにつくっていただくのです。仕上がったものを確認するために出向いたり、こちらに持ってきていただくケースが多い。
坂本:そうだね。
武笠:直接会って話し合うケースもあれば、オンラインでのミーティングもありますが、ある程度の使い分けはしています。たとえば、クライアントがどういう形で(玩具を)売り出していくのかといった戦略があいまいであるような時はお会いしたほうがいいのかな、と思っています。
坂本:確かにね。(クライアントの)職場を拝見させてください!とお願いをする時もあります。皆さんが働いているところや雰囲気を知りたい。ただ単に、皆さんと楽しく話し合いたいからでもあります。ほとんどのクライアントが、職場を見させてくれます。僕らは、クライアントに恵まれていますね。仕事について意見や考えがぶつかったりすることはほとんどないですから。
武笠:確かに恵まれているのでしょうね。
坂本:ザリガニワークスはデザイン会社ではなく、企画デザイン会社ですので、通常は、クライアントから依頼を受けた時に企画から関わります。それは、ある意味でそのプロジェクトの中央に近い位置にはじめから僕らがいることなのだと思います。すでにクライアントのところで企画が決まったうえで、デザイン会社がデザインの仕事を受注するケースとは違う関係性になりやすいのかな、と感じます。おのずとクライアントとのコミュニケーションのあり方は異なるでしょうね。
たとえばデザインのみを請け負っている場合、クライアントに対し、ノーと言ったり、突っ込んだ提案をしたりなどがしづらい場合も多いと思います。僕らは企画から関わるので、こちらの責任でアイデアを提案できないとむしろ仕事をしている事になりません。企画から入るからこそ、当てにされているとも言えるのかもしれない。このあたりは、僕らの仕事の仕方の特徴的なところかと思います。
武笠:そうでしょうね。
坂本:企画から入る時、クライアントとディスカッションをする場合があります。仮に意見や考えが多少異なったとしても、それはとても健全なものだと思います。お互いが同じ方向を向いたうえで、「こうしよう」「いや、このほうがさらにいい」と話し合うわけですから。
このあたりも、僕らの仕事の軸になっている部分だと思います。はじめから真ん中近くに置いていただけることが、クライアントとの関係が恵まれたものになっていく大きな理由なのかもしれませんね。
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