第24回
管理職と現場のギャップはもはや見逃せないほど深刻化している!?
~経営層・管理職と現場の意識のズレを解消し、信頼関係を構築するためのAI活用~
2025/12/19
「このままでは、会社が壊れていく―」。
このような悲痛な叫びは、昨今日本の大手企業で内部告発が相次いだニュースで話題になったものです。
その中で共通して語られていたのは、「管理職は現場のことを理解していない」「自分の本音がどこにも届かない」という社員の声です。
この事態は、決して一部の不祥事を起こした企業だけで起こっているわけではありません。
Gallup(2024)の報告によれば、日本のビジネスパーソンのエンゲージメント率はわずか6%であり、140か国中最低レベルに位置付けられています。
さらに、矢野経済研究所(2024)は、人的資本開示義務化の流れの中で、上場企業の間でエンゲージメントスコアを開示する動きが拡大していると報告されています。
つまりかなり意識的に現場の声を収集しにいかないと、今後の国際的なビジネス競争では勝ち抜けないことを意味します。
参考:Only 6% of Japanese Workforce is Engaged, Among The Lowest in the World|KYODO NEWS PRWIRE
参考:従業員エンゲージメント市場に関する調査を実施(2024年)|株式会社矢野経済研究所
1986年にノーベル平和賞を受賞したエリ・ヴィーゼルの言葉を、現代の日本企業に置き換えると、「組織が最も恐れるべきは、無関心であることだ」との示唆が含まれています。
組織における無関心とは、現場の『小さなSOS』と、管理職の『正常性バイアス』が共振し合う状態を指すことに置き換えられるでしょう。
本記事では、なぜこのギャップが生まれ、何が組織にとってのコストとなるかを明らかにします。
そのうえで、最新のAIを活用したサーベイでの分析手法を用いて、信頼関係を再構築する道を探ります。
なぜ管理職と現場の「意識のズレ」が起きるのか?
このような管理職と現場とのズレは、「よくある現象」として実はメカニズム化がされにくい傾向にあります。
その背景には、現代のビジネス環境がもたらす構造的な要因と、人間の認知特性に起因する心理的要因が複雑に絡み合っています。
本章では「意識のズレ」について構造的に解説をしていきます。
構造的要因:価値観と情報の非対称性
働き方に対する価値観の多様化は、マネジメント層と現場とのギャップに大きく影響を及ぼしています。
特にデジタルネイティブであるZ世代は、「仕事は自己実現の手段」と捉え、仕事を通じてのやりがいや成長だけでなく、「ワークライフバランス」や「心理的安全性」を重視します。
一方、ミドル・シニア層の管理職は、高度経済成長期やバブル期を経験しており、「会社への貢献」や「長時間労働をいとわない姿勢」を当然と考えている場合があります。
このような世代ごとにもっている、無意識な価値観はなかなか表層化しにくいといえます。
だからこそ当人達は明確な自覚意識がないまま「何だか噛み合わない」というコミュニケーションギャップにつながりがちです。
この世代間の価値観のズレが、互いの行動や発言を理解しづらくするメカニズムの根本的な原因となっているといえるでしょう。
情報的要因:情報の優先順位の非対称性
働くうえでの立場の違いは、触れる情報の優先順位にも影響を与えます。
例えば経営層・管理職は、市場全体や会社の経営戦略、財務状況といった「鳥瞰的な情報」に触れる機会が多いでしょう。
一方で、現場の社員は、自身の業務や顧客、部署内の人間関係といった「ミクロな情報」に精通しています。
この情報のギャップは、さまざまな優先順位の違いを生み出します。
例えば、管理職は「なぜこの戦略が必要なのか」という視点で指示を出しますが、現場は「なぜ急に方針が変わったのか」と疑問を抱きかねません。
このような「見ている視界の違い」は、お互いは自身が見ていることが正義と思っているので、なかなかギャップの認識がすり合いにくいといえます。
このような重要視する情報の違いから、管理職と現場では不信感が生まれることが、往々にして生じるといえるでしょう。
心理的要因:認知バイアスと情報処理の限界
前提として、人間は、自身にとって都合の悪い情報を無意識に排除したり、自分の考えを支持する情報ばかりを集めようとしたりする「正常性バイアス」という傾向があります。
その心理要因に管理職と現場社員という、会社ならではの「立場」が加わると、視界のギャップにつながってしまうのです。
例えば管理職が「部下は元気そうだ」と思い込んでいるとき、多少の不満のサインを見ても「一時的なものだろう」と判断してしまうのは、この正常性バイアスが働いているためです。
また、自身のマネジメント手法が正しいと信じている場合、その裏付けとなる情報ばかりを集め、部下の本音を無視してしまうこともあります。
これは確証バイアスによるものです。
その結果、組織には集合性無知という状態が生み出されてしまいます。
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「集合的無知(Pluralistic Ignorance)」とは:
組織心理学の概念で、多くの人が内心ではある意見を持っているにもかかわらず、周りの意見が自分と違うと思い込み、結果的に誰も本音を言わない状態を指します。
管理職は「部下は問題ないと思っているだろう」と、現場は「上司に相談しても解決しないだろう」と思い込み、互いに「何も問題はない」という見せかけの状態を維持することとなるのです。 |
管理職と現場の意識ギャップが招くリスクとは
「管理職と現場の間に横たわる“見えないギャップ”は、何をもたらすのか?」
この問いに答えることが、ギャップ解消のための施策の出発点となります。
本章では管理職と現場のギャップが招く、代表的なリスクについてお伝えします。
信頼関係の断絶による離職リスク
アジャイルHR(2024)の全国1万人調査によれば、日本の従業員は「会社への帰属意識」「仕事への熱意」が国際的に低く、その要因の一つに「上司との信頼関係不足」が挙げられています。
参考:コロナ後の従業員エンゲージメントを徹底解明 ~第2回全国調査からわかった従業員エンゲージメントが低い理由とコロナ後の変化~
信頼関係が弱い職場では、社員は努力しても報われないと感じやすく、結果的に組織からの離脱を考えやすくなります。
特に若手社員はキャリアの初期段階において、上司からの承認や成長支援を求めています。しかし「頑張っても評価に反映されない」「相談しても建設的な対話にならない」といった経験を繰り返すと、組織への期待そのものが薄れ、転職市場に流出してしまいます。
現代はSNSや転職サービスを通じて新しい職場を探すハードルが下がっており、信頼関係の断絶は離職リスクを一層高めているのです。
現場課題が経営に届かない「認識のブラックボックス」リスク
パーソル総合研究所(2022)の調査では、人事部門は「成長機会を十分に提供している」と回答したのに対し、現場社員の多くは「機会が不足している」と答えており、両者の認識に大きな差がありました。
参考:パーソル総合研究所、企業人事の実態に関する調査結果を発表
これは「マネジメントや経営・人事が見ている世界」と「現場が感じている現実」の間に、大きなブラックボックスが存在していることを意味します。
現場課題が経営に届かない状況では、組織は「対策を講じているのに成果が出ない」という錯覚に陥りやすくなります。
実際には的外れの施策を繰り返しているだけで、社員の不満は放置され、改善機会を逃すことになるでしょう。
このような状態が続けば、組織全体の俊敏性は失われ、変化の激しい市場環境に対応できなくなります。
イノベーションの停滞によるリスク
前提として、心理的安全性が低いチームでは、現場は失敗や改善提案を口にできません。
Googleの「プロジェクト・アリストテレス」が示した通り、心理的安全性はチーム成果の鍵です。
参考:心理的安全性の広まりにはGoogleの研究が大きかった!その中身とは?|Switch Times
アイデアを自由に出し合える環境がなければ、組織は現状維持にとどまり、成長の機会を逃してしまいます。
例えば「管理職が成功体験しか求めない文化」では、社員は失敗を恐れ、挑戦を避けるようになります。
その結果、現場の知見や工夫が共有されず、同じ問題を繰り返したり、競合に後れを取ったりするリスクが高まります。
逆に、心理的安全性が担保された職場では、ミスが学びに変わり、挑戦が新しい成果につながる循環が生まれます。
つまり、意識ギャップが放置されると、イノベーションの芽そのものが摘み取られてしまうといえるでしょう。
現場とのギャップを埋めるために、社員コンディションをどう把握するのか
前章のようなギャップが生むリスクを解消するために、多くの企業ではエンゲージメントサーベイのようなツールを活用します。
しかし既存のエンゲージメントサーベイは、社員の率直な意見を捉えるのが難しいという課題を抱えています。
パーソル総合研究所の2022年の調査では、非管理職の社員が持つ育成機会や評価制度への認識が、人事部や管理職のそれと大きく乖離していることが明らかになりました
さらに、2022年のColere社の調査では、「サーベイで本音以外を回答したことがある」と答えた社員が77.6%にも上ることが報告されています
参考:パーソル総合研究所(2022)人事部大研究 ―非管理職の意識調査
参考:Colere(2022)従業員の本音が出ない理由と対策
これは、多くの社員がサーベイに対して「本音」を語ることに躊躇している現実を示しています。
また、組織心理学的には、人間が「沈黙は安定の証」だと誤認する認知バイアスが存在します。
参考:MacCoun(1998)Biases in the Interpretation and Use of Research Results
このバイアスによって、人事部門や管理職は、社員からの不満の声がない現状を「問題なし」と過小評価してしまうリスクを抱えています。
こうした従来のサーベイの限界を克服する手段として、社員の内面をより深く理解できる生成AIの活用に注目が集まっています。
AI分析が切り拓く新しいエンゲージメント戦略
「どうすれば社員の“声にならない声”を可視化できるのか?」
生成AIを活用すれば、サーベイや面談だけでは捉えにくい自由記述・チャットログ・コメントなどの自然言語データから、「価値観」「動機づけ」「感情」「期待」のパターンをスコア化できます。
これにより、現場の声の“温度差”を浮き彫りにすることが可能です。
裏付けとして「自己決定理論(Self-Determination Theory)」があります
この理論によれば、人が内発的に動機づけられるためには「自律性」「有能感」「関係性」の三つが満たされる必要があります。AI分析は、これらの要素がどの程度満たされているかを定量的に把握する手段となります。
実際に国内でも、AI分析を導入した企業が「成長機会の不足」という若手の不満を早期に抽出し、キャリア開発プログラムを整備した結果、離職率が大幅人改善したという報告も聞かれます。
ただし、従来型サーベイを活用している企業からは「自社社員の意識を把握するために、具体的にどのようにAIを活用すべきか分からない」という声も聞かれます。
そんな際は、既に多くの企業で活用されているHRプロフェッショナルのサーベイを使うことが推奨されます。
現場での信頼関係を築くための「生成AIワークバリュー・スコア分析」
「管理職と現場の“見えないギャップ”をどう可視化し、改善につなげるのか?」
その答えが「生成AIワークバリュー・スコア分析」です。
本サービスでは、社員の発言・自由記述をAIが解析し、価値観スコアとして数値化します。
管理職の認識と現場の本音との差を可視化し、従来のサーベイでは見えなかった心の距離を明確に示します。
導入メリットは次の通りです。
・離職防止:メンバーの離職兆候を早期に数値化し、迅速な対応が可能
・コミュニケーションの円滑化:社員の内発的動機を理解した会話ができる
・管理職自身の教育:部下の価値観を可視化し、マネジメント改善に活用できる
人的資本開示義務化の流れの中で、社員の意識を定点観測することは単なる「社員のご機嫌うかがい」ではなく「経営資源の活用」です。
こうしたデータを、生成AIが客観的に解析・スコア化することで、属人的な観察に頼らずに、組織内の潜在的リスクを発見することができます。
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生成AIによって管理職と現場のギャップを可視化、 心理的安全性が確保された職場に! |
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・日々蓄積していくストレスの変化を可視化する『生成AIワークバリュー・スコア分析』
・従来型の画一的なサーベイ設計ではなく、社員個々人の立場や心情に寄り添いながら、社員のコンディション把握が可能
・管理職自身も勘違いしていた、現場社員の「本音」が把握できることで、日常マネジメントでの自然なフォローが成立
▶▶『生成AIワークバリュー・スコア分析』の詳細はこちらをご覧ください |
※当連載では、なぜ現代マーケットで生成AIによるエンゲージメント把握が有効なのかについて、シリーズ記事でお伝えしていきます。
従来型のサーベイでは限界を感じている経営・人事部門の方は、ぜひ引き続き今後も記事をお読みください。
まとめ:「現場に委ねる」だけではなく、任せるためのサポートをすべき
ビジネスでは頻繁に「信頼は数字で示せる」という言葉が使われます。
誰もがAIを活用するデータドリブンな今の時代、このフレーズは、もはや単なる比喩ではなく現実になりつつあります。
組織は感情や雰囲気だけでなく、データによって現場とのギャップを可視化し、管理職・経営層と共有できる「ものさし」を持たなければなりません。
一方でデータがはじき出した数値を鵜呑みにするのではなく、最も社員を理解してきた立場ならではの解釈をする必要もあるでしょう。
ドラッカーが指摘したように、「無関心」は組織の最大の敵です。
「本音」に耳を傾け、「データ」に基づいて信頼を築く—それがこれからの社員エンゲージメント戦略です。
そのためには、現場に任せるだけではなく、組織的にサポートできる情報を渡すことが必要です。
自社の“見えないギャップ”をAIの力で可視化することが、強い現場をつくるスタート地点ではないでしょうか。
※生成AIワークバリュー・スコア分析は、デフィデ株式会社の登録商標です。
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