バランスト・スコアカード(BSC)とは?4つの視点と使い方|山本浩二教授

 

バランスト・スコアカード(BSC)とは、企業の戦略目標を「財務」「顧客」「内部業務プロセス」「学習と成長」の4つの視点で整理し、因果関係でつなげて実行につなげるマネジメントの仕組みです。大阪学院大学の山本浩二教授は、成果だけでなく、成果を生む行動を明確にし、従業員が自ら動ける形にすることが欠かせないと語ります。

立派な戦略や目標を掲げても、現場の日々の行動につながらなければ成果は生まれません。BSCは、戦略と日々の行動をつなぐための代表的な手法の一つです。

本記事では、山本教授へのインタビューをもとに、BSCの4つの視点と使い方、成果指標と活動指標の関係、医療・サービス業への応用、そして中小企業の経営者が管理会計を学び直す意義を解説します。

この記事でわかること

・バランスト・スコアカード(BSC)とは何か、どう生まれたのか

・BSCの4つの視点と、戦略目標を因果関係でつなげる考え方

・成果(結果)とアクションプラン(行動)を分けて考える理由

・医療や訪問看護など、サービス業へのBSCの応用

・経営者が管理会計を学び直し、組織を変え続ける意義

取材協力:山本 浩二 氏

大阪学院大学 経営学部 教授、大阪府立大学(現・大阪公立大学)名誉教授(取材時)。1983年神戸大学大学院経営学研究科修了。香川大学商業短期大学部助教授、大阪府立大学助教授を経て、1996年同大学教授。経済学部長、現代システム科学域副学域長・マネジメント学類長、特命副学長などを歴任。2017年より大阪学院大学経営学部教授を務め、大学院商学研究科長、経営学部長などを歴任。公認会計士試験委員、大阪府代表監査委員、日本原価計算研究学会副会長なども務めた。専門は管理会計、原価計算、経営戦略。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

バランスト・スコアカード(BSC)とは

BSCは、1992年に米国の経営誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』で、ハーバード大学のロバート・S・キャプラン教授と、コンサルティング会社を率いていたデビッド・P・ノートン氏が発表した手法です。

山本教授によれば、BSCは当初、財務の数字だけに偏らずに業績を評価するための道具でした。それが次第に、戦略を実行するためのマネジメントシステムへと発展していきました。

出発点は、ミッション(使命)、ビジョン(目指す姿)、戦略という道筋を明確にすることです。そのうえで、道筋どおりに進めているかを定期的に評価し、PDCAを回していきます。

BSCの4つの視点――戦略目標を因果関係でつなげる

BSCでは、戦略目標を次の4つの視点で整理し、それぞれを因果関係でつなげて考えます。

視点 問い 目標や指標の例
財務の視点 株主や経営にとって、どんな成果を上げるか 売上高、利益
顧客の視点 顧客は何に満足し、何を求めているか 顧客満足度、リピート率
内部業務プロセスの視点 顧客の満足を生むには、社内のどの業務を磨くべきか 業務の品質、対応のスピード
学習と成長の視点 それを支える人材や仕組みをどう育てるか 人材育成、情報システムの整備

出典:山本教授への取材をもとに編集部作成

人材を育て、仕組みを整えることで業務プロセスが良くなり、それが顧客の満足を生み、最終的に財務の成果につながる――この因果関係を描くことが、BSCの要です。「学習と成長の視点」を、「人材育成の視点」と呼び替えて使う企業もあるといいます。

成果だけでなく「行動」を決める――アクションプランの役割

成果を測るには、数値目標が説得力を持ちます。しかし山本教授は、成果はあくまで行動の結果だと強調します。成果を生むための活動指標やアクションプランを決めておかなければ、BSCは機能しません。

例えば、「顧客を訪問する」という行動が「受注が増える」という成果につながる、という因果関係を想定します。広報やPRを充実させることも、アクションプランの一つです。

観点 戦略・成果指標 アクションプラン(活動指標)
例 受注件数、売上高、利益 顧客の訪問件数、PRの実施
コントロール 直接はコントロールできない結果 日々コントロールできる行動
変える頻度 戦略は長期的に考え、頻繁には変えない 成果に結びつかないとわかれば、変えてよい

出典:山本教授への取材をもとに編集部作成

利益は、日々直接コントロールできるものではありません。日々コントロールできるのは行動の部分です。だからこそ、従業員一人ひとりが何をすればよいかを理解し、自ら行動を考えて実行することが欠かせないと山本教授は言います。BSCを「絵に描くだけ」で終わらせては意味がないのです。

組織の戦略目標を、部門や個人の目標、日々の行動にまで落とし込み、評価と結びつけることは、人事の仕組みづくりそのものでもあります。

戦略目標を、個人の目標と評価につなげる

組織の戦略を日々の行動につなげるには、職務ごとの役割や目標を明確にし、評価と連動させる仕組みが役立ちます。DEFiDEの「JOB Scope」は、職務定義から目標管理、評価までを一元的に運用できるクラウドサービスです。

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BSCを医療・サービス業に生かす

山本教授は、BSCやVEといった手法を、製造業からサービス業、特に医療の分野へ広げる研究に取り組んでいます。日本の産業の約7割がサービス業だといわれるなかで、管理の仕組みが進んだ製造業に比べ、サービス業の経営管理はまだ発展の途上にあると考えているからです。

医療は「究極のサービス業」

山本教授は、医療は「究極のサービス業」として捉えられるべきだという問題意識を持っています。公立病院や大学病院の多くは赤字だと報じられていますが、医師が経営の視点を持ちにくい構造もあるといいます。

大阪学院大学は、隣接する国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)と包括連携協定を結んでいます。山本教授は2024年に同センターで「医療機関の経営戦略」と題して講演し、収入を増やす制度の見直しを求める前に、まず組織として経営の意識を持てているかを問いかけました。参加した看護師からも、多くの関心が寄せられたといいます。

訪問看護ステーションの経営を支援する

訪問看護ステーションは、医師の指示書に基づき、利用者の自宅で医療機器の管理、点滴、服薬の管理、病状の観察などを行う事業所です。

項目 内容(取材時の情報)
事業所数 全国で15,697カ所(2023年4月1日時点)。2010年と比べて約3倍
都道府県別 大阪府が1,769カ所で最も多く、東京都が1,539カ所で続く
開業の要件 看護職員が常勤換算で2.5人いれば開業できる
経営の課題 管理者は看護師が務めるが、経営には不慣れな人が多い

出典:山本教授への取材をもとに編集部作成

山本教授は、大阪府立大学に在任していたころに大阪府から依頼を受けたことをきっかけに、訪問看護ステーションの経営支援に関わってきました。人材育成を専門とする経営学者と共同で、管理会計の手法を使ってサービスの価値を高め、利用者に選ばれる質の高い事業所づくりを支援しています。2025年3月には、論文「訪問看護ステーションの経営に役立つBSC」を発表しました。

経営者のリスキリングとして、管理会計を学んでほしい

山本教授は、中小・中堅企業の経営者や人事責任者に向けて、現状に安住せず、先を見て組織を変え続ける風土や文化をつくることが大切だと語ります。組織にとって重要なのは価値観の共有であり、それが組織文化だと捉えることができます。その文化づくりでは、人事部門も大きな役割を担います。

山本教授の提言 内容
新しい管理の仕組みを、変化のきっかけにする 現状が最適でないと感じるなら、新たな管理システムの導入も一つの手段。組織文化を刺激し、変えるきっかけになる
規模に関係なく取り組む 大企業だからできるという話ではない。課題は組織の規模に関係なく生じている
日常の業務に自然に組み込む 新しい手法には「余計なことをやらされる」という抵抗が起きやすい。普段の業務に管理会計の仕組みを自然に組み込み、意識を変えていく
学び直す 悩んだら学校に戻る。管理会計は実務経験がないと理解しにくい分野で、社会人経験を持って学び直す意義は大きい

出典:山本教授への取材をもとに編集部作成

前編で紹介した「板前魂」のCEOも、社会人として大学院で学び直し、その学びを経営に生かしてきた一人です(新しい知識を取り入れる前に、古いやり方を手放す「アンラーニング」については、松尾睦教授の解説記事でも紹介しています)。

マネジメントは「一人でできないことを、組織で実現する」ため

山本教授は、大阪府立大学を退任する際、マネジメントを学ぶ学生のためのテキスト『マネジメント講義ノート』の編集に携わりました。経営戦略、組織論、人材マネジメント、財務会計、経営分析、原価計算、管理会計、マネジメント・コントロールなど、経営に必要な分野を幅広く扱っています。

山本教授は、経営学の本質を「一人でできないこと、個人でできないことを、組織として皆で実現・達成していくこと」だと言います。だからこそ、組織の大小に関わらず、マネジメントを学ぶ意義があるのです。マネジメントの考え方は、個人のキャリアや人生、家庭での人間関係づくりにも役立つといいます(財務戦略と人への投資を結びつける考え方については、保田隆明教授の解説記事でも紹介しています)。

よくある質問(FAQ)

Q. バランスト・スコアカード(BSC)とは何ですか?

A. 企業の戦略目標を「財務」「顧客」「内部業務プロセス」「学習と成長」の4つの視点で整理し、因果関係でつなげて実行につなげるマネジメントの仕組みです。1992年にキャプラン教授とノートン氏が発表し、業績評価の道具から戦略を実行するためのマネジメントシステムへと発展しました。

Q. BSCの4つの視点とは何ですか?

A. 売上高や利益などの「財務の視点」、顧客の満足に関する「顧客の視点」、顧客の満足を生む社内業務に関する「内部業務プロセスの視点」、人材育成や情報システムに関する「学習と成長の視点」の4つです。人材や仕組みを育てることが業務を良くし、顧客満足を経て財務の成果につながると考えます。

Q. BSCを機能させるには何が必要ですか?

A. 山本教授は、成果は行動の結果であるため、成果を生む活動指標やアクションプランを決めることが欠かせないとしています。戦略は長期的に考えて頻繁に変えず、アクションプランは成果に結びつかなければ変えてよいとし、従業員が自ら行動を考えて実行できる形にすることが重要だとしています。

Q. BSCは医療やサービス業でも使えますか?

A. 使えます。山本教授は、医療を「究極のサービス業」と捉え、BSCを医療機関や訪問看護ステーションの経営に応用する研究や支援に取り組んでいます。管理会計の手法を使ってサービスの価値を高め、利用者に選ばれる質の高い事業所づくりを目指しています。

Q. 中小企業の経営者は管理会計をどう学べばよいですか?

A. 山本教授は、悩んだら学校に戻ることを勧めています。管理会計は実務経験がないと理解しにくい分野のため、社会人経験を持って大学などで学び直す意義は大きいとしています。導入する際は、普段の業務に自然に組み込み、「余計なことをやらされる」という意識を変えていくことが大切です。

まとめ:戦略を行動につなげ、組織を変え続ける

  • BSCとは、戦略目標を4つの視点で整理し、因果関係でつなげて実行につなげる仕組み
  • 成果は行動の結果。成果指標だけでなく、アクションプラン(活動指標)を決める
  • 戦略は頻繁に変えず、成果に結びつかないアクションプランは見直す
  • BSCは医療や訪問看護などのサービス業にも応用でき、サービスの価値を高められる
  • 組織の規模に関わらず、管理会計を学び直し、組織を変え続ける風土をつくる

前編で見たように、管理会計は意思決定の精度を高めるだけでなく、組織の文化を変える手段にもなります。BSCは、その考え方を戦略の実行にまで広げ、組織の一人ひとりの行動につなげていくための仕組みといえるでしょう。

戦略を実行できる人事の仕組みを整える

戦略を現場の行動につなげるには、目標の設定から評価、育成までを一貫した仕組みとして整えることが欠かせません。DEFiDEでは、人事制度や組織づくりの課題について相談を受け付けています。

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▶ 前編:管理会計とは?財務会計との違いと、原価企画・制約理論で意思決定の精度を高める方法(内部リンク)

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JOB Scope編集部

Written By: JOB Scope編集部

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