クリエイティビティ(創造性)とは、経営学では、独自性(新規性)と有用性のあるアイデアを生み出すことと定義されます。東京大学の稲水伸行准教授は、突拍子もないアイデアだけでなく社会の役に立つことが必要であり、その源泉となるのが、仕事そのものの面白さから生まれる「内発的動機付け」だと語ります。
働き方改革は、長時間労働の是正から、どれだけの付加価値を生み出せるかという生産性向上の段階へと移りつつあります。既存のやり方だけでは先細りする中で、新しい製品やサービスを生み出し続けるクリエイティビティとイノベーションが改めて注目されています。
本記事では、職場の物理的環境や人事施策と創造性の関係を研究する稲水准教授へのインタビューをもとに、クリエイティビティの定義とイノベーションとの違い、日本企業の創造性が後退した背景、ワーク・エンゲージメントや内発的動機付けとの関係、稲水准教授が提唱する「オフィス学」、そして創造性を高める職場づくりについて解説します。
この記事でわかること
・経営学におけるクリエイティビティの定義と、イノベーションとの違い
・日本企業のクリエイティビティが後退した背景
・ワーク・エンゲージメントと内発的動機付けがクリエイティビティを高める理由
・「職場組織の総合科学」としてのオフィス学
・クリエイティビティを高める職場づくりの3つのポイント
取材協力:稲水 伸行(いなみず のぶゆき)氏
東京大学大学院 経済学研究科 准教授(取材時)。2003年東京大学経済学部卒業。2008年同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。東京大学ものづくり経営研究センター特任研究員・特任助教、筑波大学ビジネスサイエンス系准教授などを経て、2016年より現職。専門は経営科学、組織行動論。職場の物理的環境や情報技術、人事施策がどのようにクリエイティビティにつながるのかを研究し、経営学の立場から「職場組織の総合科学」としてのオフィス学に取り組む。著書に『流動化する組織の意思決定』(東京大学出版会)。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
クリエイティビティとは?――独自性と有用性
クリエイティビティとは、独自性(新規性)と有用性のあるアイデアを生み出すことです。単に突拍子もないアイデアを思いつくだけでなく、経営学では、それが社会の役に立つという有用性も同時に必要になります。そうでなければイノベーションにつながらないからです。
クリエイティビティとイノベーションの違い
| クリエイティビティ | イノベーション | |
|---|---|---|
| 焦点 | 新しいアイデアを生成するフェーズ | アイデアの生成から、製品・サービス化、市場での競争、売上・利益の実現まで |
| 範囲 | 比較的短いプロセス | より大きく、長いプロセス |
| 実現したといえる時点 | 独自性・有用性のあるアイデアを生み出したとき | 新しい製品・サービスで高い成果を出したとき |
出典:稲水准教授への取材をもとに編集部作成
日本企業のクリエイティビティが後退した背景
1990年代、日本企業はイノベーティブでクリエイティブだと世界から認知されていました。一橋大学の野中郁次郎氏らが『知識創造企業』を著したころです。しかしその後、クリエイティビティやイノベーションという観点は後退してしまったと稲水准教授は言います。
稲水准教授は、エビデンスがあるわけではないと前置きしたうえで、2000年前後からのものづくり経営の現場で見てきたことを語ります。当時はタイや韓国、中国などとの競争が課題で、クリエイティブな商品で対抗するよりも、日本の数十分の1ともいわれた生産コストの安さにどう対抗するかに経営の関心が集中していました。中国や韓国の企業が莫大な投資をする中で、日本に残る拠点はコスト競争にどう勝つかを追い求めた――その結果、1990年代までの日本企業のやり方が質的に変わってしまったという印象だといいます。
ワーク・エンゲージメント・内発的動機付けとクリエイティビティの関係
ワーク・エンゲージメントが注目されるようになったきっかけは、心理学の分野でポジティブ心理学が登場したことです。それまでの心理学は、ストレスを抱えた状態をストレスのない状態に戻すといった「マイナスからゼロへ」が中心でした。1990年代から2000年ごろにかけて、人の心理状態を「ゼロからプラスへ」高める流れの中で、ワーク・エンゲージメントの概念が生まれたのです。
| 内発的動機付け | 外発的動機付け | |
|---|---|---|
| 意味 | 仕事そのものの面白さやチャレンジに引き起こされる行動 | 報酬や評価、罰則など外部からの働きかけで引き起こされる行動 |
| 例 | 「この仕事が面白いからやろう」「チャレンジングだが何とか達成しよう」 | 「お金がもらえるから頑張る」 |
| クリエイティビティとの関係 | 高めると昔から言われている。ワーク・エンゲージメントもこの流れを受け継ぐ | 後編で紹介するように、金銭的なインセンティブで創造性を引き出そうとする施策は勧められない |
出典:稲水准教授への取材をもとに編集部作成
ワーク・エンゲージメントの根っこには内発的動機付けの考え方があり、ワーク・エンゲージメントが高いとクリエイティビティも高くなるという相関があると言われている、と稲水准教授は説明します(ワーク・エンゲージメントの詳細は、髙橋潔教授の解説記事でも紹介しています)。
オフィス学とは?――職場組織の総合科学
稲水准教授は、自身が取り組むオフィス学を「職場組織の総合科学」と位置づけています。建築学やオフィス家具、不動産などの研究者・企業が集まる学会としてのオフィス学がオフィスのデザインやレイアウトを中心に研究するのに対し、稲水准教授のオフィス学は経営学・経営組織論の立場からのアプローチです。
| オフィス学で見るもの | 内容 |
|---|---|
| 前提となるデザイン | 物理的なオフィスのデザイン、人的資源管理(人事施策)のデザイン、ICTのデザイン |
| そこで起きていること | 働く人のモチベーション、チームのマネジメント、リーダーシップ、組織文化 |
| アウトカム | クリエイティビティやイノベーションがどう実現されるか |
出典:稲水准教授への取材をもとに編集部作成
クリエイティビティを高める職場づくりの3つのポイント
クリエイティビティを高めるには、内発的動機付けが重要です。稲水准教授は、職場づくりのポイントを次のように挙げています。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| ① ほどよくチャレンジングな仕事 | ほどよく難しい仕事が与えられていると、内発的に動機付けられ、クリエイティビティが高まる |
| ② 自律的に働ける環境 | 他人に言われてではなく、自ら進んで仕事ができる環境。上司の部下への接し方が、部下が自律性を感じられるかを大きく左右する |
| ③ 部門や会社を越えたつながり | いつも同じメンバーでは新しい発想は出にくい。フリーアドレス、ABW、シェアオフィスなどを活用し、部門を越えたコミュニケーションを活性化させる |
出典:稲水准教授への取材をもとに編集部作成
創造的なパーソナリティが低くても、職場風土で力を発揮できる
稲水准教授は以前、職場と創造性の関係を定量的に探る調査で、個人の創造的なパーソナリティ(CPS:Creative Personality Scale)は創造性に影響するが、そのスコアが低い人でも職場の風土によっては高い創造性を発揮できるという結果を示しています。
| CPSが低い人が力を発揮するには | 内容 |
|---|---|
| 職場の風土 | 前向きにチャレンジし、新しいアイデアを出す雰囲気があれば、クリエイティビティを発揮できる |
| チームの中での役割 | チームで考えれば、全員がアイデアを出す必要はない。出たアイデアを深掘りし、磨いていくのは別のスキル。その部分で貢献すれば、チームとしての創造性は高まる |
出典:稲水准教授への取材をもとに編集部作成
パーソナリティは簡単には変えられませんが、職場の雰囲気とチームの中での役割次第で、誰もがクリエイティビティに貢献できるのです。
社員が仕事に面白さを感じ、自律的に働けているかを知ることが、創造性を高める職場づくりの出発点になります。
社員の「内発的な動機」と自律性の状態を把握する
クリエイティビティの源泉は、仕事そのものの面白さから生まれる内発的動機付けと、自律的に働ける環境です。社員がどんな価値観で働き、仕事にどれだけやりがいや裁量を感じているかを知ることが出発点です。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」は、生成AIで従業員の属性や組織の特性に合わせた質問を作成し、組織の状態を迅速にきめ細かく可視化します。
よくある質問(FAQ)
Q. 経営学でいうクリエイティビティとは何ですか?
A. 独自性(新規性)と有用性のあるアイデアを生み出すことです。稲水准教授は、突拍子もないアイデアを思いつくだけでなく、それが社会の役に立つという有用性も同時に必要であり、そうでなければイノベーションにつながらないと説明しています。
Q. クリエイティビティとイノベーションの違いは何ですか?
A. クリエイティビティは新しいアイデアを生み出すフェーズに焦点を当てた概念です。イノベーションは、そのアイデアを製品やサービスに落とし込み、市場で競争して売上や利益を上げるところまでを含む、より大きく長いプロセスを指します。
Q. ワーク・エンゲージメントはクリエイティビティと関係がありますか?
A. あります。稲水准教授によると、ワーク・エンゲージメントの根っこには、仕事そのものの面白さから生まれる内発的動機付けの考え方があり、内発的に動機付けられるとクリエイティビティが高まると昔から言われています。そのため、両者には相関があるとされています。
Q. クリエイティビティを高める職場づくりのポイントは何ですか?
A. 稲水准教授は、ほどよくチャレンジングな仕事を与えること、自律的に働ける環境をつくること、部門や会社を越えたつながりを生み出すことの3つを挙げています。上司の部下への接し方が、部下が自律性を感じられるかを大きく左右するとしています。
Q. 創造的なパーソナリティが低い人はクリエイティビティを発揮できませんか?
A. 発揮できます。稲水准教授の調査では、創造的なパーソナリティのスコアが低い人でも、前向きにチャレンジする職場の風土があれば高い創造性を発揮できることが示されています。また、チームではアイデアを磨く役割などで貢献でき、全員がアイデアを出す必要はないとしています。
まとめ:創造性は、内発的動機付けと職場の設計から生まれる
- クリエイティビティとは、独自性(新規性)と有用性のあるアイデアを生み出すこと。イノベーションはその先の市場での成果まで含む
- 日本企業はコスト競争を優先する中で、クリエイティビティの観点が後退した
- ワーク・エンゲージメントの根っこにある内発的動機付けが、クリエイティビティを高める
- 職場づくりのポイントは、ほどよいチャレンジ、自律的に働ける環境、部門を越えたつながり
- 創造的なパーソナリティが低くても、職場風土とチームでの役割次第で創造性に貢献できる
後編では、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)は本当に創造性を高めるのか、チームの連携と外部とのつながりのバランス、創造性を高める人事施策と評価、日本マイクロソフトとソニーの事例、日本型のジョブ型と「i-deals」、そして空いた時間や空間を生かす発想について解説します。
社員の挑戦と成長を見える化する
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▶ 後編:ABWは創造性を高めるのか?オフィス改革と人事施策・評価を一体で設計する方法(内部リンク)
▶ インタビュー全文:クリエイティビティがいかに生産性向上につながるかを考察する(前編)(JOB Scopeマガジン)