新卒社員が力を発揮できるかどうかは、最初に「誰と一緒に働くか」で大きく変わります。労働政策研究・研修機構(JILPT)の藤村博之理事長は、人の可能性を引き出せるかは上司次第であり、だからこそ人事は初任配属を慎重に決め、部下を育てるのが上手な上司のもとに配属してほしいと語ります。
前編では、人的資本の価値を高めるには「組織のゆとり」と「考え方のダイバーシティ」が欠かせないことを紹介しました。後編では、人を育てる職場づくりについて、より具体的に考えます。
本記事では、藤村理事長へのインタビューをもとに、失敗が許されない職場でイノベーションが生まれない理由、ジョブ型雇用への見解、従業員を信じて共に考える経営、中小企業ならではの魅力、「日本はできていない」という思い込み、そして初任配属の重要性と決め方について解説します。
この記事でわかること
・失敗が許されない職場からイノベーションが生まれない理由
・ジョブ型雇用は日本の職場に合うのか――藤村理事長の見解
・従業員を信じ、共に考える経営の大切さ
・中小企業ならではの3つの魅力
・初任配属が重要な理由と、配属の決め方
取材協力:藤村 博之(ふじむら ひろゆき)氏
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)理事長(取材時)。1990年滋賀大学経済学部助教授、1996年同教授。1997年法政大学経営学部教授、2004年同大学院イノベーション・マネジメント研究科教授を経て、2023年4月より現職。専門は人的資源論、労働関係論。ドイツとクロアチアでの長期の生活経験も持つ。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
失敗が許されない職場からイノベーションは生まれない
日本企業が直面する人事管理上の問題として、藤村理事長が最初に挙げるのが失敗が許されない状況です。経営者は新しい発想やイノベーションが大事だと言いますが、失敗せずにイノベーションはあり得ません。失敗できるだけの余裕を現場に持たせなければ、面白いものは出てこないのです。
| ゆとりを生む仕組みの例 | 内容 |
|---|---|
| 1980年代の日本企業の「闇研」 | 研究開発のエンジニアが、労働時間の1割ほどを自分が追いかけたいテーマに使ってよかった。研究所の設備も自由に使え、そこから新しい製品が生まれた |
| Googleのかつての「20%ルール」 | 勤務時間の20%を自分がやりたいプロジェクトに使える |
出典:藤村理事長への取材をもとに編集部作成
藤村理事長はこれを車のハンドルの「遊び」にたとえます。一般の車のハンドルに遊びがなければ、かえって事故が起きると言われます。そうした余裕を持たせることが、今一番求められているのです。
「自信を失った結果、変えなくてもいいものまで変えてしまいました。」
――藤村理事長
日本がやってきたことがすべて正しかったわけではありません。しかし、変えてはいけないものもあったはずだ――それが、多くの日本企業が元気をなくしている理由かもしれないと藤村理事長は語ります。
ジョブ型雇用は日本の職場に合うのか
藤村理事長は、ジョブ型で何を表現するかは人によって違うため慎重であるべきだとしたうえで、ジョブ型には強く否定的な立場をとっています。その理由として、次のような点を挙げています。
| 藤村理事長が挙げる理由 | 内容 |
|---|---|
| ① 1960年代の職務給の失敗 | 日本企業は1960年代に職務給を導入しようとしたが、隣の人の仕事を代わりにやる、助け合って職場を運営するといった職場の働き方に合わず、熱心だった電機や鉄鋼の業界も最終的にやめた |
| ② 今のホワイトカラーの職場にも合わない | 担当者不在の電話を取って対応するなど、「お客様を待たせない」という意識で動いている。特定の仕事だけをやればよいジョブ型にはその考え方がない |
| ③ 顧客対応の文化の違い | ジョブ型の欧州では午後5時に窓口を閉め、客もそれを受け入れる。日本では5時までに並んだ客に対応しようとする。この顧客対応の部分が、日本のジョブ型議論に欠けている |
| ④ 人が育たなくなる | 「この範囲の仕事だけやればよい」となり、後輩がおかしなことをしていても口を出さなくなる。新しい案件にも「私の仕事ではない」と言える |
出典:藤村理事長への取材をもとに編集部作成
ドイツやクロアチアで長く生活してきた藤村理事長は、ジョブ型の世界は「働く側の論理」で動いていると言います。なお、ジョブ型については、部分的な導入や職種による使い分けなど、さまざまな考え方があります(製造業とジョブ型の関係については、大木清弘准教授の解説記事でも紹介しています)。
従業員を信じ、共に考える経営を
VUCAの時代に経営者はどう立ち向かえばよいか。藤村理事長のメッセージは明快です。「自社の従業員を信じましょう」「自社の従業員と一緒に考えましょう」。
藤村理事長は、不確実性は昔から高く、明日がどうなるか予測できる時代などなかったと言います。大切なのは、変化が起きたときにいかにうまく対応できるかです。経営者一人で考えるには限界があり、普段から従業員にも考えてもらう必要があります。
考えるとは議論することであり、議論するには時間的な余裕が必要です。働き方改革の最大の目的は、そうして生み出した時間を使い、皆で問題を考え、議論する組織にすることだと藤村理事長は言います。
社員のアイデアは否定せず、やらせてみる
前編で紹介したサカタ製作所の社長は、自分なりの方針があっても、従業員から別の案が出たら絶対に否定せず「やってみよう」と言うそうです。うまくいかなければ、また皆で考える。社長の考えを押し付けて失敗すれば社長のせいにされがちですが、自分たちで考えたアイデアなら、失敗しても自分たちの責任として次につなげられるのです。忍耐が必要なところだと藤村理事長は言います。
中小企業ならではの3つの魅力
中小企業を辞めた理由として多いのは「労働条件がよくない」ことです。それでも藤村理事長は、中小企業には次のような魅力があると言います。
| 魅力 | 内容 |
|---|---|
| ① 経営者と従業員の距離が近い | 社長が「わが社をこういう会社にしたい。一緒にやってほしい」と直接語りかけられる。従業員は社長のやりたいことを一緒に実現する「協力者」になれる |
| ② やりたいことに挑戦しやすい | 社長がOKと言えばやらせてもらえる。「大きな組織の小さな歯車より、小さな組織の大きな歯車」 |
| ③ 気心の知れた仲間と働ける | 限られた人数の中で働くため、新しい人間関係を次々に築くのが苦手な人にも働きやすい |
出典:藤村理事長への取材をもとに編集部作成
「日本はできていない」という思い込みを見直す
JILPTは、厚生労働省の政策立案に役立つ実態調査と、ハローワークや労働基準監督署の職員研修を担っています。藤村理事長は、「日本は外部労働市場が未発達で、外から人を採用するのが難しい」という見方にも疑問を投げかけます。
JILPTの研究員がOECDの8カ国と行った共同研究では、AIが職場に入ったときに仕事がどう変わるかを、製造業と金融業で調べました。その結果、どの国も、自社の仕事にAIをどう生かすかは、仕事の仕組みを理解した内部の人材がAIを学んで決めていたといいます。外部のAI専門家には、その会社の仕事の仕組みはわからないからです。
「日本はできていないが、欧米はできている」と言われることも、実は米国や欧州も苦労している。日本がやってきたことは悪くない。そのよさを評価したうえで、何を変えるべきかを議論する材料を提供したい――それがJILPT理事長としての藤村理事長の抱負です。
初任配属が重要な理由――「誰と働くか」が人を育てる
最後に藤村理事長は、中小・中堅企業の経営者と人事責任者に向けて、人を育てるには時間と労力がかかる。その覚悟を持ってほしいと語ります。人はそう簡単には育たず、試行錯誤の連続です。「こいつはだめだ」と思った社員が、別の部署で花開くこともあります。
藤村理事長が例に挙げるのが、プロ野球のイチロー選手です。1991年のドラフト4位でオリックスに入団したイチロー選手は、当初の監督からは評価されませんでしたが、1994年に仰木彬氏が監督になると一気に活躍し始めました。選りすぐりの選手が集まるプロ野球でさえ、誰と一緒に働くかで活躍できるかが決まるのです。ポテンシャルを期待して迎える新卒採用ならなおさらです。
新卒の早期離職も依然として多く、大卒者の3年以内離職率は33.8%にのぼります(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」)。最初の配属先と上司は、その後の成長と定着を大きく左右します。
初任配属の決め方
| 採用規模 | 配属の決め方の例 |
|---|---|
| 新卒を50人程度採用する企業 | 新入社員を求める部署との集団面接を行う。部署の課長と現場社員が仕事内容を説明し、興味のある人と面接する(実際に行っている企業がある) |
| 新卒が10人以下の企業 | 人事部が配属先を決める。その際、部下を育てるのが上手な上司のもとに配属する |
出典:藤村理事長への取材をもとに編集部作成
可能性のある人材が、配属先次第でだめになってしまうことがあります。決めつけず、人の可能性をできるだけ追求してほしい――それが藤村理事長からのメッセージです(若手の早期離職を防ぐ方法については、尾野裕美准教授の解説記事でも紹介しています)。
育て上手な上司を増やすことは、初任配属の選択肢を広げることにもつながります。
部下を育てるのが上手なリーダーの行動を知る
新卒社員の可能性を引き出せるかは、一緒に働く上司次第です。部下を育てる上司を増やすうえで、成果を上げているリーダーの行動を知ることは一つのヒントになります。利益率の高い会社のリーダーに共通する行動をまとめた資料を、無料で提供しています。
よくある質問(FAQ)
Q. 新卒の初任配属はなぜ重要なのですか?
A. 藤村理事長は、人が力を発揮できるかどうかは誰と一緒に働くかで大きく変わるためだとしています。プロ野球のイチロー選手も監督が変わって活躍し始めたように、ポテンシャルを期待して採用する新卒社員ならなおさら、最初の上司や配属先がその後の成長を左右するとしています。
Q. 初任配属はどう決めればよいですか?
A. 藤村理事長は、新卒を50人程度採用する企業なら、新入社員を求める部署との集団面接を行う方法を紹介しています。10人以下なら人事部が配属を決めることになりますが、その際は部下を育てるのが上手な上司のもとに配属してほしいとしています。
Q. なぜ失敗が許されない職場ではイノベーションが生まれないのですか?
A. 新しいものを生み出そうとすれば失敗はつきものだからです。藤村理事長は、かつての日本企業の「闇研」のように、現場に失敗できるだけの余裕を持たせなければ面白いものは出てこないとし、車のハンドルの「遊び」にたとえています。
Q. ジョブ型雇用は日本の職場に合いますか?
A. 藤村理事長は、助け合って職場を運営し、顧客を待たせないという日本の働き方に合わず、人も育たなくなるとして、ジョブ型に強く否定的な立場をとっています。1960年代に職務給の導入がうまくいかなかった歴史も挙げています。ジョブ型には部分的な導入などさまざまな考え方があります。
Q. 中小企業で働く魅力は何ですか?
A. 藤村理事長は、経営者と従業員の距離が近く社長が直接語りかけられること、社長がOKと言えばやりたいことに挑戦しやすいこと、気心の知れた仲間と働けることの3つを挙げています。
まとめ:人の可能性を信じ、「誰と働くか」を大切に
- 失敗が許されない職場からイノベーションは生まれない。ハンドルの「遊び」のような余裕を現場に
- ジョブ型について藤村理事長は、日本の助け合いと顧客対応の文化に合わず、人が育たなくなると見ている
- 経営者は従業員を信じ、一緒に考える。働き方改革で生んだ時間を議論に使う
- 中小企業の魅力は、経営者との距離の近さ、挑戦のしやすさ、気心の知れた仲間
- 人を育てるには覚悟が必要。初任配属を慎重に決め、育て上手な上司のもとに配属する
人はそう簡単には育ちません。しかし、ゆとりのある職場で、信頼され、よい上司と働くことができれば、誰もが可能性を開花させられます。その出発点が、初任配属なのです。
人を育てる配置と制度を、プロと一緒に
一人ひとりの可能性を引き出すには、配属や異動、上司の育成力の把握、評価・育成の仕組みを一貫して設計することが大切です。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、経営に直結する戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援します。
▶ 前編:人的資本の価値を高めるには?「組織のゆとり」と「考え方のダイバーシティ」が欠かせない理由(内部リンク)
▶ インタビュー全文:日本企業の良さを再検証した上で、人的資本の価値向上につなげていく必要がある(後編)(JOB Scopeマガジン)