中堅企業とは?3つの成長型と顧客を選ぶ経営|千葉大学・清水馨教授が解説

 

中堅企業とは、中小企業と大企業の間に位置する企業で、大企業と競い合い、ときに棲み分け、協力しながら生き抜いてきた存在です。20年以上にわたり中堅企業の経営者にインタビューを重ねてきた千葉大学の清水馨教授は、中堅企業の成長を支えてきたのは、目の前の顧客のニーズに応え続ける地道な努力の連続だと語ります。

経済産業省は2024年を「中堅企業元年」と位置づけ、成長意欲のある中堅企業への支援を進めています。設備投資やM&Aを促す税制措置、新規事業の支援などが講じられ、中堅企業への注目が高まっています。

本記事では、240社の社長インタビューをまとめた著書『中堅企業の質的成長』(中央経済社)を刊行した清水教授へのインタビューをもとに、中堅企業の定義と研究の背景、中堅企業の3つの成長型、顧客を選ぶ経営、売り手と買い手の能力差、下請け関係との向き合い方、そして海外進出の注意点について解説します。

この記事でわかること

・中堅企業とは何か――定義と、研究されてこなかった理由

・中堅企業の3つの成長型

・顧客を4つに分けて「選ぶ」中堅企業の経営

・売り手と買い手の「能力差」から考える中堅企業の存立基盤

・下請け関係との向き合い方と、海外進出・公的支援の注意点

取材協力:清水 馨(しみず かおる)氏

千葉大学大学院 社会科学研究院 教授(取材時)。1992年慶應義塾大学商学部卒業。1998年慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学(2023年博士号取得)。2013年千葉大学法政経学部教授、2017年より千葉大学大学院社会科学研究院教授。20年以上にわたり中堅企業の経営者へのインタビュー調査を続け、イノベーション論や経営者の意思決定を研究。著書に『中堅企業の質的成長 240社の社長インタビュー調査から』(中央経済社、2024年)。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

中堅企業とは?――定義と研究の背景

中堅企業とは、中小企業と大企業の間に位置する規模の企業です。2024年5月に成立した改正産業競争力強化法で、「中堅企業者」は、常時使用する従業員が2,000人以下で、中小企業者に当たらない企業と初めて法的に定義されました。該当する企業は全国で約9,000社と見込まれています。

区分 主な特徴
中小企業 中小企業基本法で業種ごとに資本金や従業員数で定義。日本の企業の99.7%を占める
中堅企業 中小企業に当たらず、常時使用する従業員が2,000人以下の企業(2024年改正の産業競争力強化法による)
大企業 上記以外。企業数ではごく一部

出典:中小企業庁「中小企業白書」、経済産業省「産業競争力強化法」(2024年改正)をもとに編集部作成

なぜ中堅企業は研究されてこなかったのか

中堅企業という概念は、1960年代に経営学者の中村秀一郎氏が初めて示しました。1980年代にかけて20人ほどの研究者が追究しましたが、1990年代後半からは下火になっていたといいます。清水教授は約25年前、誰も研究していなかった中堅企業の実態調査を始めました。

中堅企業が研究されにくかった理由 内容
定義がない 長く法的な定義がなかった
成長の概念があいまい 何をもって成長とするかがはっきりしない
存立理由がわかりにくい なぜ利益が生まれるのかがはっきりしない
中途半端なイメージ 大企業は資源や能力が高いほどよい、中小企業は低賃金と意思決定の速さが強み、とされる中で、中堅企業は魅力に欠けて見えた

出典:清水教授への取材をもとに編集部作成

しかし実態は、多くの中堅企業が大企業と対抗し、棲み分け、協力しながら生きています。清水教授は、企業の99.7%を中小企業として一括りに議論するのではなく、規模に応じて細分化して分析する必要があると指摘しています。実際、経済産業研究所(RIETI)の分析では、2013〜2022年に中小企業から中堅企業へ育った企業が2.5%だったのに対し、中堅企業の15.2%が中小企業に縮小しており、その多くは資本金を減らして中小企業になっていたとされています。

中堅企業の3つの成長型

他の中堅企業研究では、独自の製品、経営者の洞察力、特殊な技術が強調されてきました。一方、清水教授が240社の社長に話を聞いて見えてきたのは、顧客からの有益な情報と適切なお金を得て、よりニーズに合う製品を開発し、従業員の生活を守ろうとする姿でした。清水教授は、中堅企業を中小企業からの成長過程によって3つに分けています。

成長型 特徴
① 一次サプライヤー型 下請けがそのまま大きくなった企業
② 多産業接続型 自社製品を技術的に鍛え、多くの産業と取引する企業
③ 対大企業競合型 軽工業から出発し、世界的に大企業と対抗する企業

出典:清水教授への取材、清水馨『中堅企業の質的成長』をもとに編集部作成

顧客を4つに分けて「選ぶ」中堅企業の経営

中堅企業の社長は、取引の中で有益な情報と適切なお金を重視しており、顧客を次のように分けて対応しているようだと清水教授は言います。

顧客のタイプ 情報 お金
① 情報もお金もくれる顧客 ○ ○
② 情報はくれるが、お金を値切る顧客 ○ ×
③ 情報はくれないが、たくさん払ってくれる顧客 × ○
④ 情報もお金もくれないが、将来性があるかもしれない顧客 × ×(将来性に期待)

出典:清水教授への取材をもとに編集部作成

中堅企業の存立基盤――半歩前に出て、顧客を選ぶ

中堅企業は大企業と中小企業に挟まれているため、潜在的に多くの顧客とライバルがいます。半歩でも前に出ることができれば多くの顧客を獲得できます。しかし、人、工場、資金などの資源が限られているので、顧客を選ぶ必要があるのです。

清水教授は、顧客が自社に正直にニーズを話してくれるか、強引な値引きや短納期を求めてこないか、敬意を示しているかを常に確認し続けることが必要だと言います。自社の努力に比べて顧客の態度が不遜なら、自社のどこが悪いのかを考え直すか、その顧客との縁を切るかという高度な意思決定が求められます。

売り手と買い手の「能力差」が中堅企業の売りになる

清水教授は、これまでの経営学は売り手の能力や資源を中心に見てきたと指摘します。能力や資源が多いほどよいという見方では、どうしても大企業の話になってしまいます。

  これまでの経営学 清水教授が中堅企業から見たこと
注目するもの 売り手の能力や資源 売り手と買い手の能力差・機能差
理想の取引 業界最大手どうしの相思相愛、win-win(相利共生) 売り手も買い手も身の丈に合った相手を求めながら、理想モデルに「擬態」し、互いに擬態を見破る技術を高め合っている
業績を左右するもの 売り手の能力 買い手の能力の有無や高低も、売り手の戦略から業績までのプロセスに大きく影響する

出典:清水教授への取材をもとに編集部作成

顧客も能力を持っています。自社がそれ以上の能力を持たなければビジネスは成り立ちません。売り手と買い手との能力差や機能差をどれだけ自社の売りにできるか――そこをアピールできれば、情報や利益が集まってくると清水教授は語ります。

下請け関係との向き合い方――「ファイティングポーズ」を取り続ける

下請け構造の中では、元請けの要求に応えるのに精一杯で、顧客を選ぶのは簡単ではありません。清水教授は、いきなり「下請けから脱却しよう」という乱暴な議論には与しないとしたうえで、次のように提案しています。

  1. 自社の技術や生産能力を客観視する:元請けに「その程度の技術だ」と思い込まされ、無理な要求を飲んできたのかもしれない
  2. 元請け以外の仕事を取りに行く姿勢を持ち続ける:他の顧客の反応やライバルの状況を知ることで、自社の身の丈と、元請けの本当の能力が見えてくる
  3. 正しく評価されないなら交渉し、ときには断る:自社の技術が評価以上なら「できないものはできない」「その価格ではできない」と言える。能力を正しく認めない顧客は、どんなに大手でも社長自ら断ることが従業員への示しになる

中堅企業の成長段階や取引構造に合わせて人事の仕組みを整えることも、身の丈に合った成長を支える土台になります。

中堅企業の成長段階に合った人事制度を

大企業の制度をそのまま当てはめるのではなく、自社の成長段階や取引構造、集まる人材に合った人事制度を整えることが、中堅企業の持続的な成長を支えます。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、経営に直結する戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援する人事制度改革プラットフォームです。

▶ JOB Scopeの資料を請求する

海外進出と公的支援――「頼りすぎない」ことが大切

清水教授がインタビューした中には、経営者が単身で米国や中国に乗り込んだものの、現地の風習や商習慣を理解せず、日本でうまくいったやり方をそのまま持ち込んでビジネスが成り立たなかった例もあったといいます。

海外進出・公的支援の注意点 内容
連携して進出する 商社やすでに進出している日本企業と手を組む
展示会は小出しに いきなり単独でブースを構えず、最初はグループで出展する。製品のアイデアだけを取られるリスクもある
公的支援に頼りすぎない 自治体や金融機関の支援メニューは活用してよいが、方針が変われば支援も変わる。安定した後ろ盾があると信じ込まない

出典:清水教授への取材をもとに編集部作成

経営者は「責任ある自由人」

清水教授は、中堅企業の社長は「責任ある自由人」を目指し、自己決定できる範囲の確保に全力を挙げているように見えたと言います。

自分たちで材料を買い、自分たちでニーズを分析し、自分たちで設計し、自分たちで作り、自分たちで値段を決め、自分で相手を定め、自分たちで売ることです。

――清水教授

そこに製品やサービスの品質への責任が生まれ、自分たちの製品を売るという強い意識とブランドが生まれます。他人の目を気にせず自由に意思決定し、それを従業員が見ている中で利益を上げていく――それが中堅企業の経営の醍醐味だと清水教授は語ります。

よくある質問(FAQ)

Q. 中堅企業とは何ですか?

A. 中小企業と大企業の間に位置する規模の企業です。2024年の産業競争力強化法の改正で、「中堅企業者」は常時使用する従業員が2,000人以下で、中小企業者に当たらない企業と定められました。清水教授は、多くの中堅企業が大企業と対抗し、棲み分け、協力しながら生きていると述べています。

Q. 中堅企業にはどんなタイプがありますか?

A. 清水教授は、中小企業からの成長過程によって、下請けがそのまま大きくなった「一次サプライヤー型」、自社製品を技術的に鍛えた「多産業接続型」、軽工業から出発し世界的に大企業と対抗する「対大企業競合型」の3つに分けています。

Q. 中堅企業はなぜ顧客を選ぶ必要があるのですか?

A. 大企業と中小企業に挟まれた中堅企業には潜在的に多くの顧客とライバルがいますが、人や工場、資金などの資源が限られているためです。清水教授は、情報とお金という観点から顧客を見極め、不遜な態度をとる顧客とは縁を切る意思決定も必要だとしています。

Q. 下請け企業はどうすればよいですか?

A. 清水教授は、いきなり下請けからの脱却を目指すのではなく、自社の技術や生産能力を客観視し、元請け以外の仕事を取りに行く姿勢を持ち続けることを勧めています。自社の能力を正しく評価しない顧客は、大手であっても社長自ら断ることが従業員への示しになるとしています。

Q. 中堅企業が海外進出する際の注意点は何ですか?

A. 清水教授は、現地の風習や商習慣を理解せず日本のやり方を持ち込むと失敗しやすいとし、商社や進出済みの日本企業と組むこと、展示会は最初はグループで出展することを勧めています。自治体や金融機関の支援は活用してよいが、頼りすぎないことが大切だとしています。

まとめ:中堅企業は、顧客を選び、身の丈を知り、自ら決める

  • 中堅企業とは中小企業と大企業の間の企業。2024年の改正産業競争力強化法で、従業員2,000人以下の非中小企業と定められた
  • 中堅企業は3つの成長型に分けられ、顧客からの情報と適切なお金を得て従業員の生活を守ろうとしている
  • 資源が限られる中堅企業は、顧客を4つに分けて見極め、選ぶ必要がある
  • 売り手と買い手の能力差・機能差こそが中堅企業の売り。下請けでも自社の身の丈を客観視する
  • 海外進出は連携と小出しで、公的支援には頼りすぎない。社長は「責任ある自由人」として自ら決める

後編では、急成長だけではない中堅・中小企業のイノベーションの捉え方、失敗に寛容な姿勢、「やめる」意思決定の重要性、MVVとの付き合い方、人的資本を高める数値目標と言葉の使い方、そして社員が前向きな言葉を使い続ける会社づくりについて解説します。

身の丈に合った成長戦略と人事を、プロと一緒に

中堅企業ならではの成長には、大企業の手法の当てはめではなく、自社の顧客や技術、集まる人材に合った人事と組織づくりが欠かせません。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、経営に直結する戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援します。

▶ JOB Scopeについてオンラインで相談する

▶ 後編:中堅・中小企業のイノベーションとは?「やめる決断」と失敗に寛容な組織、社員の言葉が会社を変える(内部リンク)

▶ インタビュー全文:中堅企業は地道な努力の連続(前編)(JOB Scopeマガジン)

JOB Scope編集部

Written By: JOB Scope編集部

新しい働き方、DX環境下での人的資本経営を実現し、キャリアマネジメント、組織変革、企業強化から経営変革するグローバル標準人事クラウドサービス【JOB Scope】を運営しています。

経営・人事に役立つ情報をメールでお届けします。