小さな会社が生き残り、成長するためには、廃業した会社に共通する行動や意識の「逆」を行い、個性や専門性、地域性、質、感性を求める時代の追い風を生かすことが大切です。静岡県立大学の岩崎邦彦教授は、廃業者434人を含む3つの調査から小さな会社の勝ち筋を探り、理性に訴える「水」と感性に訴える「春」の両方の発想が欠かせないと語ります。
起業を後押しする仕組みは充実し、会社を立ち上げること自体は難しくなくなりました。大切なのは、その事業を続け、発展させていくことです。
本記事では、岩崎教授へのインタビューをもとに、成功企業と廃業企業を比べた調査から見えたこと、小さな会社にとっての時代の追い風、「水」と「春」に学ぶ理性と感性のマーケティング、そして好き嫌いで選ばれるブランドの大切さを解説します。
この記事でわかること
・消費者・経営者・廃業者の3つの視点から見た調査
・「生存者バイアス」を避け、廃業者のデータから学ぶ意味
・小さな会社に吹く5つの時代の追い風
・「水」と「春」――マーケティングは理性と感性の両輪
・「良い悪い」ではなく「好き嫌い」で選ばれるブランド
取材協力:岩崎 邦彦 氏
静岡県立大学 経営情報学部 教授、地域経営研究センター長、学長補佐(取材時)。政府系金融機関で中小企業向けの融資審査、東京都庁で地域経済と中小企業の調査・経営指導にそれぞれ約5年携わった後、研究者に。博士(農業経済学、東京農業大学)。専門はマーケティングで、地域と中小企業のマーケティングを主な研究テーマとする。日本地域学会賞、日本観光研究学会賞、世界緑茶協会学術研究大賞、日本印刷学会賞を受賞。中小企業診断士試験委員、静岡市商業振興審議会会長なども務める。著書に『小さな会社を強くするマーケティング思考』『小さな会社を強くするブランドづくりの教科書』『引き算する勇気』『地域引力を高める 観光ブランドの教科書』『農業のマーケティング教科書』(いずれも日本経済新聞出版)など。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
成功企業と廃業企業を比べ、小さな会社の勝ち筋を探る
高度成長期には「大きいことはいいことだ」と考えられていましたが、今は「小さい=弱い」ではありません。岩崎教授は、小さな会社は大企業の縮小版ではなく、独自の役割を持つ存在だと言います。
岩崎教授は新著『小さな会社を強くするマーケティング思考』で、3つの視点から調査を行いました。
| 視点 | 調査 | 目的 |
|---|---|---|
| 買い手 | 全国の消費者調査 | 消費者が何を求めているかを知る |
| 経営者 | 全国の中小企業経営者の調査 | 好調な企業と不振な企業の違いを分析する |
| 廃業者 | 全国の廃業者434人の調査 | 事業を続けられなかった理由から学ぶ |
出典:岩崎教授への取材をもとに編集部作成
成功者のデータだけでは見えないこと
成功した企業のデータだけを集めると、たまたま生き残った例から誤った結論を導いてしまう「生存者バイアス」が生じます。そこで岩崎教授は、廃業した人のデータも加え、何が明暗を分けたのかを明らかにしようとしました。
調査では、廃業した経営者の5割が、起業から5年以内に廃業していたことがわかりました。まさに「はじめが肝心」です。岩崎教授は、廃業した人に共通する行動や意識の「逆」を行うことが、事業を続け、発展させるために欠かせないと指摘します(中小企業が倒産を防ぐお金の管理については、中井透教授の解説記事でも紹介しています)。
時代の追い風を生かせば、小ささは強みに変わる
ただし、小さければ何でも良いわけではありません。岩崎教授は、時代の追い風をどう受け止めるかが問われていると言います。消費者調査では、多くの人が次のような変化を望んでいることがわかりました。
| これまで | これから(消費者が望む方向) |
|---|---|
| 画一性 | 個性 |
| 総合性 | 専門性 |
| 全国で同じ | 地域ならでは |
| 量 | 質 |
| 効率 | 感性 |
出典:岩崎教授への取材をもとに編集部作成
個性、専門性、地域性、質、感性――いずれも、小さな会社にとってのチャンスです。とはいえ、帆を上げないヨットは、追い風が吹いても前に進めません。追い風を力に変えるには、自ら帆を上げる行動が必要なのです(品質で選ばれる中小企業のものづくりについては、山本聡教授の解説記事でも紹介しています)。
「水」と「春」――マーケティングは理性と感性の両輪
「雪がとけると何になる?」――この問いへの答えは、「水」と答える人と、「春」と答える人に大きく分かれます。岩崎教授は、この2つの答えにマーケティングの本質があると言います。
| 答え | 発想 | 訴えるもの |
|---|---|---|
| 水 | サイエンス。試験管の中で何度とかしても水になる、法則性のある考え方 | 人の頭(理性) |
| 春 | アート。試験管の中では春にならない、頭の中に浮かぶイメージ | 人の心(感性) |
出典:岩崎教授への取材をもとに編集部作成
マーケティングを成功させるには、サイエンスの発想とアートの発想のバランスが欠かせません。
「水」の経営者と「春」の補佐役が補い合う
岩崎教授が全国のスモールビジネスの経営者1,000人に、「水タイプ」と「春タイプ」のどちらの会社の業績が良いと思うかを尋ねたところ、答えは「どちらともいえない」でした。大切なのは優劣ではなく、バランスなのです。
例えば、技術に強い「水」の夫と、顧客への対応に長けた「春」の妻が営む会社は、業績が良い傾向があるといいます。アップルやソニー、ホンダも、創業期には対照的な2人が力を合わせていました。経営者と補佐役が互いの足りない部分を補い合う関係が、会社を強くするのです。
経営者と補佐役が互いの強みを生かし合う関係は、組織を率いるリーダーシップのあり方そのものでもあります。
補い合うリーダーシップで組織を強くする
経営者と補佐役、上司と部下が互いの強みを生かし合う関係は、小さな会社の大きな力になります。DEFiDEでは、高い収益を上げる企業のリーダーシップの実践をまとめた資料を公開しています。
「良い悪い」ではなく「好き嫌い」で選ばれるブランドへ
岩崎教授は、顧客に選ばれる理由には2つの種類があると言います。
| 勝負の種類 | 特徴 | 例 |
|---|---|---|
| 良い・悪いの勝負(頭に訴える) | 一本のものさしで勝ち負けがはっきりする | 同じ商品なら、2,000円より1,000円を選ぶ |
| 好き・嫌いの勝負(心に訴える) | ものさしがなく、人によって好みが分かれる | トマトソース、クリームソース、和風ソースのどれを選ぶか |
出典:岩崎教授への取材をもとに編集部作成
価格や機能といった「良い悪い」の勝負では、規模の大きい企業が有利になりがちです。これからの中小企業のブランドづくりで大切なのは、顧客の心に訴え、「好かれる会社・ブランド」になることだと岩崎教授は言います。
よくある質問(FAQ)
Q. 小さな会社が生き残るためには何が大切ですか?
A. 岩崎教授は、廃業した人に共通する行動や意識の「逆」を行うことが、事業を続け発展させるために欠かせないとしています。廃業した経営者の5割が起業から5年以内に廃業しており、「はじめが肝心」だといいます。
Q. なぜ廃業者の調査が重要なのですか?
A. 成功した企業のデータだけを集めると、たまたま生き残った例から誤った結論を導く「生存者バイアス」が生じるためです。岩崎教授は、全国の廃業者434人の調査を加えることで、何が明暗を分けたのかを明らかにしようとしました。
Q. 小さな会社にとっての時代の追い風とは何ですか?
A. 岩崎教授の消費者調査では、多くの人が、画一性より個性、総合性より専門性、全国で同じものより地域ならでは、量より質、効率より感性を求めていることがわかりました。いずれも小さな会社にとってのチャンスです。
Q. マーケティングの「水」と「春」とは何ですか?
A. 「雪がとけると何になる?」という問いへの2つの答えです。「水」は法則性のあるサイエンスの発想で人の頭(理性)に訴え、「春」はイメージを描くアートの発想で人の心(感性)に訴えます。岩崎教授は、両方のバランスが欠かせないとしています。
Q. 「好き嫌い」で選ばれるブランドとはどういう意味ですか?
A. 価格や機能のように一本のものさしで勝ち負けが決まる「良い悪い」の勝負ではなく、人によって好みが分かれる「好き嫌い」の勝負で選ばれるブランドのことです。岩崎教授は、中小企業は顧客の心に訴え、好かれる会社・ブランドを目指すべきだとしています。
まとめ:廃業の逆を行き、追い風に帆を上げる
- 小さな会社は大企業の縮小版ではなく、独自の役割を持つ
- 成功者だけでなく廃業者からも学び、その「逆」を行う。はじめが肝心
- 個性・専門性・地域性・質・感性という時代の追い風は、小さな会社のチャンス
- マーケティングは「水」(理性)と「春」(感性)の両輪。経営者と補佐役も補い合う
- 「良い悪い」ではなく「好き嫌い」で選ばれる、好かれるブランドを目指す
では、顧客に好かれるブランドは、どうすればつくれるのでしょうか。後編では、「引き算」で個性を磨く方法、ブランドづくりの最初のステップ、そして顧客だけでなく社員や未来の仲間も惹きつける「引力」のマーケティングを紹介します。
社員の強みと役割を見える化する
経営者と補佐役、社員一人ひとりが互いの強みを生かし合うには、それぞれの職務やスキルを把握できる仕組みが役立ちます。DEFiDEの「JOB Scope」は、職務やスキル、評価・育成の情報を一元的に管理できるクラウドサービスです。
▶ 前編:中小企業のマーケティングとは?規模の小ささを強みに変える発想と、「大は小を兼ねない」時代の地域ブランド(内部リンク)
▶ 後編:中小企業のブランドづくりはどう進める?「引き算」で個性を磨く方法と、社員と未来の仲間も惹きつける「引力」のマーケティング(内部リンク)
▶ インタビュー全文:小ささを強さに変えるマーケティング思考――地域と企業を元気にするブランド戦略と経営哲学(中編)(JOB Scopeマガジン)