サプライチェーン・マネジメントとは?2024年問題と改革|学習院大学・河合亜矢子教授

 

サプライチェーン・マネジメント(SCM)とは、商品が原材料から消費者の手元に届くまでに関わる多くの組織の流れ全体を円滑にし、その価値を最大化する考え方です。学習院大学の河合亜矢子教授は、環境への配慮と働き手の減少が進む今、無理や無駄のしわ寄せが物流の現場に集中しており、企業同士が協働してサプライチェーン全体を最適化することが欠かせないと語ります。

商品が店頭に並ぶまでには、メーカー、卸、小売り、物流など、多くの組織が関わっています。トラックドライバーの時間外労働に上限が設けられた「物流の2024年問題」をきっかけに、その流れの持続可能性が改めて問われています。

本記事では、物流企業での勤務を経てSCMを研究する河合教授へのインタビューをもとに、SCMの意味と研究の視点、SCMが今重要になっている理由、物流の2024年問題で見えた課題、そしてリスクとコストを見える化して企業間の協働を進める改革の進め方を解説します。

この記事でわかること

・サプライチェーン・マネジメント(SCM)とは何か

・SCMが今重要になっている2つの理由(持続可能性とレジリエンス)

・物流の2024年問題で見えた「物流現場へのしわ寄せ」

・共同配送や計画発注を進めるうえで、着荷主が果たす役割

・リスクとコストを見える化し、改革の「最初の一歩」を踏み出す方法

取材協力:河合 亜矢子 氏

学習院大学 経済学部 経営学科 教授(取材時)。2000年筑波大学第三学群社会工学類卒業後、物流企業に入社し、基幹システムの開発などに携わる。2003年に退職し、筑波大学大学院システム情報工学研究科修士課程(2005年修了)、同博士課程(2008年修了、博士(工学))へ。筑波大学サービス・イノベーションプロジェクト研究員、2010年高千穂大学経営学部准教授を経て、2017年より学習院大学。専門はサプライチェーン・マネジメント、経営情報システム。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

サプライチェーン・マネジメントとは――「必要な時に、必要なものが、必要なところに」

商品が消費者の手元に届くまでの、原材料の調達から生産、物流、販売までの流れをサプライチェーンと呼びます。その流れを円滑にし、全体の価値を高めようとする考え方がサプライチェーン・マネジメント(SCM)です。

河合教授が研究の対象とするのは、流通業のSCMです。主なテーマは、「必要な時に、必要なものが、必要なところにある」状態を、社会全体でつくるための組織間の協働です。

考え方 内容
足並みをそろえる 各社が計画的に足並みをそろえ、在庫の状況を見える化する
確定した需要で動く 最終消費者の需要の予測は必要だが、その後の段階は確定した需要に基づいて計画的に動かし、不要な生産を避ける
情報を活用・共有する 持続可能で無駄のないSCMには、経営情報の活用と共有が欠かせない

出典:河合教授への取材をもとに編集部作成

ただし、理想のSCMは「総論には賛成でも、各論に入ると実行が難しい」と河合教授は言います。机上の議論にとどめず、実際の現場にどう落とし込み、関係する企業の協力をどう得るかを検討することが、河合教授の研究の中心です。

研究の原点は、コンビニと物流の現場

河合教授の原点は、学生時代の大手コンビニエンスストアでのアルバイトでした。POSシステムによるレジや発注、需要予測を使った推奨発注、そしてパンやおにぎりが1日3回、時間どおりに届く仕組みに感銘を受けたといいます。卒業後に入社した物流企業では、モノと情報の流れや在庫管理を現場で学びました。売れない在庫が山積みになる一方で、急な品切れで大騒ぎになることもある――その解決策を探すために、大学院へ進んだのです。

なぜ今、SCMが重要なのか――持続可能性とレジリエンス

河合教授は、SCMは「世の中を良くするために存在する」と考えています。今その重要性が増している理由は2つあります。

理由 内容
① 持続可能性 環境への配慮と働き手の減少が進み、「多めに作っておけばよい」「例外は人手でカバーすればよい」といった余裕のある資源の使い方ができなくなっている。将来世代にきれいな環境と働きやすさを引き継ぐため、業務の「整理・整頓・清掃」の3つの「S」を今行う必要がある
② レジリエンス(回復力) グローバルに広がったサプライチェーンを、広がっても狭まっても機能する柔軟性を持たせ、危機から回復できる形にする時期に来ている

出典:河合教授への取材をもとに編集部作成

人がやらなくてよい仕事、作らなくてよいもの、動かさなくてよいものを整理すること。それが、持続可能な社会への布石になると河合教授は言います。

物流の2024年問題で見えた「現場へのしわ寄せ」

2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限が適用され、輸送能力が大きく不足する懸念が生じました。いわゆる「物流の2024年問題」です。

ドライバー不足は2024年に始まった問題ではなく、2018年ごろから言われ続けてきました。長時間労働なのに給与が上がりにくいため若い人に人気がなく、高齢化も進んでいます。河合教授は、この問題はまだ解決しておらず、しばらくは解決しないと見ています。2024年に大きな混乱が起きなかったのは、制度が改善されたからではなく、現場が柔軟に対応したからだというのです。

無理と無駄は、最終的に物流現場に集まる

SCMと物流は別の概念です。しかし、サプライチェーンの無理や無駄のしわ寄せは、最終的に物流の現場に現れると河合教授は言います。計画的な発注や共同配送などを工夫すれば現場の無理は減らせますが、実際には無計画な指示が飛び、夜間の配送など、誰かが負荷を背負っているのが実情です。

時期 流通業界の状況
長年の商慣習 商品が1つ売れるごとに1つ補充する「セルワン・バイワン」が定着し、小口・多頻度の配送が続いてきた
2022〜23年ごろ 物流資源の枯渇と物流費の高騰で、流通業界がようやく負荷に気づいた
ここ2年ほど 潮目が変わり、流通業の経営陣の間でも危機感が高まった。共同配送や計画発注の勉強会が始まり、荷物を受け取る側(着荷主)が情報共有を模索し始めている

出典:河合教授への取材をもとに編集部作成

物流企業だけでできることには限りがあります。だからこそ、荷物を受け取る側である着荷主の積極的な関与が重要だと河合教授は強調します。

「20XX年問題」を一過性の話題で終わらせない

「物流の2024年問題」や、老朽化したシステムによる経済損失が懸念された「2025年の崖」のように、日本では課題に年号をつけた言葉がよく使われます。河合教授は、キャッチコピーで注目を集めること自体は悪くないとしつつ、これらは長年抱えてきた課題が顕在化するという警告であり、その年が過ぎれば解決するものではないと指摘します。改善や現場の対応力は日本の得意分野ですが、変革の流れを止めれば、資源は本当に足りなくなります。現場にしわ寄せがいかないよう、上流から少しずつ合理化を進めることが必要です。

働き手が減るなかで現場の負荷を減らすには、物流に限らず、人がやらなくてよい仕事を見極め、人員の配置や業務の進め方を見直していくことが欠かせません。

人手不足時代の業務と人員配置を見直す

限られた人材で持続的に事業を回すには、業務の整理とあわせて、役割や人員配置、評価の仕組みを見直すことも役立ちます。DEFiDEでは、人事制度や人材マネジメントの課題について相談を受け付けています。

▶ 人材マネジメントについて相談する

改革の「最初の一歩」を踏み出すには――リスクとコストの見える化

共同配送や計画発注といった改善策は、教科書的には思いつきます。しかし、リスクとコストが見えないと、企業は実行に足踏みしてしまうと河合教授は言います。

例えば、2つのスーパーマーケットチェーンが共同配送をすれば、どちらかに先に届き、もう一方からは「なぜうちが後なのか」という不満が出やすくなります。一度始めると元に戻しにくいため、最初の一歩を踏み出せないのです。

ステップ 内容
① 可視化する 起こりうるリスク、想定されるコスト、どの条件を緩和すれば誰も損をせずに改善できるかを、シミュレーションや計算機実験で事前に見える化する
② 議論する 可視化の結果をもとに、関係者が落としどころを議論する
③ 試みる 「やってみよう」という試みを一つでも生み出す
④ 広げる 成功した手法を各社に試してもらい、横展開する

出典:河合教授への取材をもとに編集部作成

河合教授は、研究者が一方的に提案するのではなく、困っている当事者と一緒にシミュレーターをつくり、議論を進める手法を提案しています。日本小売業協会が立ち上げた「流通サプライチェーン政策研究会」では、メーカー、卸、小売りの幹部と、河合教授を含む学術関係者がコーディネーターとなり、少人数のグループで構想を練り、成功した手法を流通各社に広げる取り組みを進めています(経営戦略と日常の業務の関係については、秋池篤准教授の解説記事でも紹介しています)。

よくある質問(FAQ)

Q. サプライチェーン・マネジメントとは何ですか?

A. 商品が原材料から消費者の手元に届くまでに関わる多くの組織の流れ全体を円滑にし、その価値を最大化する考え方です。河合教授は、「必要な時に、必要なものが、必要なところにある」状態を社会全体でつくるための組織間の協働を研究しています。

Q. なぜ今、SCMが重要なのですか?

A. 河合教授は2つの理由を挙げています。一つは、環境への配慮と働き手の減少により、余裕のある資源の使い方ができなくなったこと。もう一つは、グローバルに広がったサプライチェーンに、危機から回復できる柔軟性(レジリエンス)を持たせる必要があることです。

Q. 物流の2024年問題は解決したのですか?

A. 河合教授は、まだ解決しておらず、しばらくは解決しないと見ています。2024年に大きな混乱が起きなかったのは、制度が改善されたからではなく現場が柔軟に対応したからであり、現場にしわ寄せがいかないよう、上流から少しずつ合理化を進める必要があるとしています。

Q. 物流の負荷を減らすには何が必要ですか?

A. 河合教授は、計画的な発注や共同配送などの工夫で現場の無理は減らせるとしています。商品が1つ売れるごとに1つ補充する小口・多頻度の配送が続いてきたため、物流企業だけでなく、荷物を受け取る側である着荷主の積極的な関与が重要だといいます。

Q. サプライチェーンの改革はどう進めればよいですか?

A. リスクとコストが見えないと企業は実行に足踏みするため、起こりうるリスクや想定コスト、どの条件を緩和すれば誰も損をしないかを、シミュレーションなどで事前に見える化することが有効です。河合教授は、当事者と一緒にシミュレーターをつくり、議論しながら最初の一歩を生み出す手法を提案しています。

まとめ:企業の枠を越えて協働し、サプライチェーン全体の価値を高める

  • SCMとは、商品が消費者に届くまでの流れ全体を円滑にし、価値を最大化する考え方
  • 環境への配慮と働き手の減少、そしてレジリエンスの必要性から、SCMの重要性が増している
  • 物流の2024年問題はまだ解決していない。無理と無駄のしわ寄せは最終的に物流の現場に集まる
  • 共同配送や計画発注を進めるには、荷物を受け取る着荷主の積極的な関与が重要
  • リスクとコストをシミュレーションで見える化し、当事者が議論して「最初の一歩」を踏み出す

では、サプライチェーン全体で情報を共有すると、何が変わるのでしょうか。後編では、上流ほど発注量が膨らむ「ブルウィップ効果」と、在庫の見える化、オランダに学ぶサーキュラーサプライチェーン、そして問題を正しく定義するための考え方を紹介します。

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JOB Scope編集部

Written By: JOB Scope編集部

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