第2回
目的が曖昧なHRサーベイは社員の離職意向を引き起こしてしまうのか!?
~企業コンディションをチェックできるサーベイの全体像を徹底解説~
2025/05/22
DXが進む日本企業ですが、HRデータから組織や社員の状況を可視化する風土がこれまでなかったため、苦戦している人事部門も多いようです。
極端な例ですが「サーベイを定期的に実施していれば安心だ」と、手段と目的が逆転しているような企業も少なくはない現状もあります。
データ文化がない企業の場合、最初は「とりあえずサーベイで定量データを収集する」をきっかけにすることはやむを得ないかもしれません。
ですが、サーベイ実施は少なからず社員の回答負荷がかかります。
したがって目的や位置づけが不明瞭なサーベイ実施を続けると、ややもすると社員の会社への不信感や離職意向を高めることにもなりかねません。
今回の記事と次回の記事では、JOB Scopeがジョブ型人事制度による経営変革コンサルティング経験から導き出した、真に必要なサーベイを紹介します。
企業全体をチェックするサーベイとは
データ文化が強い欧米企業は、各種サーベイを実施することで、HR部門は常に社員の状況に応じた施策を検討する傾向にあります。
しかし日本企業でのサーベイ導入・実施は比較的最近広がっているため、部分的・単発的な実施に留まる企業も少なくありません。
なかには、自社にはどのサーベイが必要か分からず、とりあえず有名なサーベイを選んでしまい、社員の負荷や疑念を生んでしまうケースも散見されます。
多くの企業で戦略人事化や経営変革を支援しているJOB Scopeでは、各企業のさまざまな状況に対応できるよう、以下の7つのサーベイを用意しています。
便宜的に「企業視点」と「社員視点」と分けていますが、もちろん一つひとつのサーベイは企業・社員いずれの観点でも結果を見る必要はあります。
例えば、個別社員の状況をチェックしているだけでは、企業全体として取り組む改善施策が見つけられません。
一方、集計した企業全体の状態だけを見ているだけでは、離職リスクがある個別社員の存在に気付くことができません。
当たり前ですが「企業」という呼び方をしているだけで、企業の実態は個別社員の集合体のようなものです。
従って、企業・社員双方の視点を持ちながら「いま、自社で実施すべきサーベイは何か」を検討する必要があるのです。
今回の記事では、主に左側の企業視点のサーベイについて狙いや効果について解説していきます。
センサスサーベイ
センサスの語源はラテン語のCensereにあり、古代ローマにおいて、市民の登録、財産及び所得の評価、税金の査定などを行う職業のことを指していました。
この言葉が転じてCensusとなり、人口調査や国勢調査など一定の大規模統計調査のことをセンサスと呼ぶようになりました。
上記の語源の通り、センサスサーベイでは社員の満足度、モチベーション、組織への帰属意識などの幅広い領域について、1年・半期・四半期などのタイミングで測定します。
サーベイの狙い
センサスサーベイでは、社員がどの程度企業文化の目標や価値観に共感し、日々の業務に積極的に取り組んでいるか把握ができます。
その状況に応じて、職場の企業文化や風土改革、社員の成長やキャリア支援を行う目的があります。
目先の業務への充足度よりは、やや中長期目線のキャリアや会社へのフィット感を確認することが狙いです。
たとえ業務にやりがいを感じていたとしても「この仕事を続けていても自分のキャリアに繋がる気がしない」や「心身共に良い状態で働けていない」という社員を見つけることができるでしょう。
JOB Scopeの特長
サーベイの特長としては状態を聞くだけではなく、さまざまな指標について「重要度」と「満足度」のフィット&ギャップ分析ができる点です。
具体的には「仕事とキャリアの満足度」や「報酬と福利厚生、ウェルビーイング」の指標について、社員個人がどれほどその指標を重要視しているか、さらに現在満たされているのかという乖離が確認できます。
いくら満足していても、社員がもともと重視していない項目だったとしたら、定着率や充実感にはあまり貢献していない可能性もあります。
このような乖離を分析することで、組織における優先すべき事項や施策が明確化されるメリットがあるでしょう。
パルスサーベイ
「パルス(pulse)」は、日本語で脈拍を意味します。
パルスサーベイでは、脈拍をチェックするように、組織と個人の関係性の健全度合いを測ることを目的としています。
もともとパルスサーベイは欧米企業を中心に実施が広がりました。
ワーク・エンゲージメントは日々の仕事を通じて醸成されるものです。欧米の企業では、パルスサーベイを活用して、社員のワーク・エンゲージメントの把握、施策の実施、施策のモニタリングをスピーディーに進めている事例が数多くあります。
大規模調査型であるセンサスサーベイと比較すると、パルスサーベイは短期反復型です。刻々と変化している社員の状況を、こまめにチェックする位置づけのサーベイといえるでしょう。
サーベイの狙い
パルスサーベイは社員との信頼関係や会社への愛着の度合い、働きがいなど社員の心理的な状況を、リアルタイムでチェックする目的があります。
例えば年に1度しか実施しないサーベイだけでは、速やかかつ細やかな社員ケアが難しいこともあります。
そのためパルスサーベイでは、ウィークリー・マンスリーと、短期間で社員の状態を調査することで、リアルタイムで社員の意識を把握し対策を打つことができます。
社員の小さな不満や不調をこまめに拾うことで、ネガティブな感情や離職意向をそれ以上大きくしない効果があるでしょう。
JOB Scopeの特長
「こまめに」「ライトに」というパルスサーベイの狙いを踏まえ、JOB Scopeでは社員の回答負荷を抑えたサーベイ設計となっています。
具体的には「従業員満足度」「経営理念浸透度」など3つの観点について、社員は5段階で回答するのみです。忙しい社員であっても、業務の合間での回答が可能になります。
また比較的日常的なケアが必要なパート・アルバイト社員が多い職場であっても、気軽にコンディションチェックできる特長もあるでしょう。
ES調査
「ES」とはEmployee Satisfactionの略で、従業員満足度を意味します。
社員が自分の職場や組織全体に対して感じている満足感の度合いを示すもので、日本企業でのサーベイ文化が根付いた先駆け的な存在といえます。
もともとESの概念は、1950年~1960年代に登場したものです。
これまで20世紀初頭から経営の主流とされてきたF. Taylorの科学的管理法に代わって、働く社員側の意欲や人間関係が企業経営に導入されるようになりました。
厚生労働省が平成27年度に実施した調査では、従業員満足度調査を実施し、満足度向上に意欲的に取り組んでいる企業ほど、業績が伸びやすい結果が出ています。
参考:今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する調査研究事業(平成27年度)|厚生労働省
このような国の呼びかけもあり、HR関連サーベイの代名詞として、ESサーベイは日本企業に広まっていったのです。
サーベイの狙い
ES調査(ESサーベイ)は、就労・報酬条件や仕事・職場に対する社員の満足度を確認し、労働環境改善をはかる目的があります。
働きがいやモチベーションといった内的な思考・感情を、定量的に把握することが可能です。実施の結果を活用することで、組織の心理的安全性の向上や、パフォーマンスの改善などを目指します。
近年では、職能資格制度など日本企業で特有の人事制度の見直しについても、ES調査は活用されています。
例えば、人事制度の満足度が一定年次以上のベテラン社員からの満足度は高かったとしても、若手社員層からの満足度が低かったとします。
職能資格制度に不満を抱いた若手社員が、ジョブ型人事制度を導入している競合他社に転職するリスクを考慮し、人事制度の見直しに着手するようなケースも増えているのです。
JOB Scopeの特長
「従業員満足度」というと漠然と聞こえますが、JOB Scopeでは「心理的安全」「仕事の満足度」「会社の仕組み」「人事制度」など、網羅的な7つの観点を設定しています。
全社傾向だけでなく、各部門の各評価軸のパーセンテージを表示しているため、一目で各組織のコンディションが把握でき、組織横並びでのチェックも可能です。
また結果の分布図にカーソルを合わせクリックするだけで、該当社員の結果を表示できるため、気になる社員の個別ケアにも活用できるでしょう。
エンゲージメントサーベイ
「エンゲージメント(engagement)」は、「婚約、誓約、約束、契約」を意味する言葉です。
ここから派生して、人事領域におけるエンゲージメントでは「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」という意味合いで使われています。
日本で急速にエンゲージメントが注目されたのは、米国の調査会社ギャラップ社が2017年に実施した従業員エンゲージメント調査です。
この調査では、日本企業は「熱意あふれる社員」の割合がわずか6%であり、139ヵ国中132位と最低ランクに近い順位であることが判明しました。
この衝撃的な調査は新聞など各種メディアで報じられ、日本企業でも「エンゲージメント」の概念が広く認知されるようになりました。
報酬や仕事への単なる満足を越え、社員自身の「やりたい」を引き出すエンゲージメントは、当時の日本企業では目新しい考え方だったといえます。
サーベイの狙い
社員の信頼関係や会社への愛着心、働きがいなど社員の心理的な状況を可視化することで、どの程度内在するモチベーションが高まっているかを把握する目的があります。
従業員満足度(ES)とエンゲージメントは混同されることが多いため、あらためて違いを整理します。
ESサーベイは、社員が企業や仕事に対して「一方向的」に感じる満足度を示します。
一方、エンゲージメントサーベイは社員と組織の結びつきを示し、「双方向的」なつながりを測定します。
具体的にエンゲージメントサーベイでは、仕事に取り組む際の「思考面・情緒面・行動面」における「集中度・情熱度・積極性」などを測定します。社員が組織の一員である認識や仕事に対する誇りを持つ状態を保つことで、離職率の低下が期待できます。
一般的にESは「衛星要因」と呼ばれ、「整備されていないと社員が不満を感じる」ものの「整備していても満足につながるわけでない」要素といえます。
一方のエンゲージメントは「動機付け要因」と呼ばれ、「ないからといってすぐに不満が出るものではない」ものの「あればあるほど仕事に前向きになる」要素です。
動機付け要因と衛生要因は相反する概念ではなく、互いに足りない部分を補い合うような関係になっています。
社員のコンディションを整えるには、動機付け要因と衛生要因のどちらか一方だけ満たせばよいというわけではなく、衛生要因における問題を解決した上で動機付け要因を満たす必要があるでしょう。
したがって、ESもエンゲージメントも把握することで、より複合的な解釈が可能になり、最適な施策を展開することができると考えています。
JOB Scopeの特長
ESよりも「エンゲージメント」はさらに漠然とした概念となるため、サーベイ設計に苦慮する企業が多いでしょう。
そのためJOB Scopeでは「仕事への情熱」「価値観の一致」「リーダーシップの質」「認知と報酬」「仕事と私生活のバランス」など、ESサーベイより幅広い10の観点を設定しています。
ESサーベイ同様、分布図をクリックすると、気になる個別該当社員の結果を表示できます。
エンゲージメントは本人の内側にアプローチをするため、なかなか組織一律の施策だけで高めることが難しい領域といえます。
なぜならモチベーションリソース(やる気の源泉)は、社員個人によって異なるからです。よりエンゲージメントを高めるためには、最も対象社員を知っているであろう現場のマネジメントラインも巻き込む必要があります。
そのため、マネジメントからのフォローも含めて施策を考えるためには、全体傾向だけではなく個別社員を見つけられる機能は重要といえるでしょう。
まとめ:サーベイは企業の通信簿のようなもの
今回は主に企業のコンディションを測定するサーベイを取り上げました。
ある著名なCEOは「サーベイは企業・経営の通信簿のようなもの」と述べています。
学校における通信簿と聞くと、生徒の学業成績だけをイメージするかもしれませんが、実はそうではありません。
学校での学業成績以外にも、行動の状況・健康状態などが含まれます。
企業も同じではないでしょうか。
業績がいかに良好であっても、企業ビジョンが社員に浸透していない企業は、長い事業存続は難しい可能性があります。
同様に、サーベイの単発実施や単体実施だけでは「ある一時点の状況」や「ある一部分の状況」しか把握できません。
例えばサーベイ実施の目的が「離職を防止したい」というものだったとしても、「離職意向があるかどうか?」を聞くだけでは、よほど離職ニーズが顕在化した社員しか見つけられません。
また見つけたとしても、この質問だけでは何をどのように対応したら、離職を防止できるかは分からないでしょう。
離職を考えるきっかけは「職場のコミュニケーション」や「人事制度への不満」など、社員によって要因が異なるからです。
経営や人事として、真の意味で「企業の通信簿」としてのコンディションを把握するには、計画的かつ多面的な視点で、サーベイ実施を検討する必要があるといえるでしょう。
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