第4回
組織風土やビジョン浸透の可視化にこそサーベイを駆使すべき
~「センサスサーベイ」という一つの解~
2025/06/19
DX化の波が押し寄せる人事業務では、IT人事管理システムの導入が進んでいます。
その影響で、サーベイ実施に着手しやすい状況が整いつつあるともいえます。
ですが「導入したHRテックにたまたまサーベイ機能があったから、やってみる」などの曖昧な目的でのサーベイ実施では、社員の不信を招きかねません。
特に会社の中長期戦略を立てるための情報を得るためのサーベイ実施をするならば、しっかりとサーベイ設計をする必要があるでしょう。
今回はサーベイ文化が浸透しつつある日本企業の状況を踏まえて、「ライトに実施できるサーベイ」ではなく、「風土」や「企業ビジョン」など、中長期で取り組む情報収集に最適なセンサスサーベイに注目しました。
気軽にサーベイ実施に着手するのではなく、企業戦略に紐付いた情報収集をしたいとお考えの人事の方は、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
見えにくい「組織風土」を可視化できるサーベイ
日本企業は欧米企業に比べて、「社風」という言葉に代表されるような「会社の擬人化」文化が強いといえます。
分かりやすい例としては、大手商社や大手広告代理店のトップ2社を「〇〇のA社」「△△のB社」などと例える現象です。
有名企業でなくても「自社は人をサポートする風土がある」と思ったことや、取引先企業から「御社は人情に厚い社員が多いですね」などと言われた経験がある方も多いのではないでしょうか。
このような企業風土を重視する文化が強いにもかかわらず、日本企業はこれらの特徴を「可視化」する取り組みは進んでいません。
一方、そのような社風文化がそれほど浸透していない欧米企業においては、社員の企業ビジョンへの共感度やエンゲージメント度合いを、サーベイを通じて可視化する取り組みが浸透しています。
サーベイによる可視化をしないと、本来持っていた自社の強みや理念が、いつの間にか社員には浸透していなかったという事態も招きかねません。
あるいは、もともとは社風や理念に共感していた社員が、仕事をするプロセスを通じて「何だか最近は“自社らしさ”が薄れているな」とネガティブな感情に変化することも考えられます。
このような、離職意向を抱き始める前兆を見逃してしまうことにもなるでしょう。
「サーベイ実施」と聞くと、労働条件への満足度など分かりやすい指標を設定しがちですが、企業風土や企業ビジョンなど、日常で意識しにくい観点で情報収集する意味もあります。
なぜなら、サーベイに返答するときは、社員にとっても内省する機会になるからです。
「毎日忙しく働いていて気がつかなかったけれど、ずっとこの会社に居続けて良いのだろうか・・・・・・?」というような社員の意向を拾いやすくなるからです。
短期的な施策では改善できない、中長期的かつ組織的な取り組みを検討する情報収集としてもサーベイは活用できます。
中長期目線のサーベイには「企業風土」という、日本企業が大事にしていつつも可視化を怠りがたち観点を盛り込むのが推奨されます。
風土可視化に役立つ「センサスサーベイ」とは
そのような「風土」を可視化するために活用されるのがセンサスサーベイです。
センサスの語源はラテン語のCensereにあり、古代ローマにおいて、市民の登録、財産及び所得の評価、税金の査定などを行う職業のことを指していました。
この言葉が転じてCensusとなり、人口調査や国勢調査など一定の大規模統計調査のことをセンサスと呼ぶようになりました。
上記の語源の通り、センサスサーベイは大規模・中長期目線で実施する傾向があります。
具体的には社員の満足度、モチベーション、組織への帰属意識などの幅広い領域について、1年・半期・四半期などのタイミングで測定します。
センサスサーベイでは、社員がどの程度企業文化の目標や価値観に共感し、日々の業務に積極的に取り組んでいるか把握ができます。
その状況に応じて、職場の企業文化や風土改革、社員の成長やキャリア支援を行う目的があります。
目先の業務への充足度よりは、やや中長期目線のキャリアや会社へのフィット感を確認することが狙いです。
たとえ業務にやりがいを感じていたとしても「この仕事を続けていても自分のキャリアに繋がる気がしない」や「心身共に良い状態で働けていない」という社員を見つけることができるでしょう。
なお、センサスサーベイとよく比較されるのがパルスサーベイです。
センサスサーベイは比較的質問項目が多く「ある一時点の結果」を表しています。したがって「結果を受けて組織的な施策や取り組みを検討・実施→その施策への社員からの受け止め方を次のセンサスサーベイで確認する」という活用サイクルが考えられます。
一方、社員の意識や反応を前向きに変化させるためには、組織的な施策だけとは限りません。
例えば大がかりな「ビジョン浸透研修」を実施したとしても、「研修実施の湯上がり効果」の言葉のように、研修実施後のフォローがないと、効果は継続しにくくなります。
このような日常的な社員のフォローをするために、パルスサーベイは効果を発揮します。「パルス(脈拍)」という言葉が表すように、デイリー・ウィークリーなど短いスパンで社員の状況を把握するのがパルスサーベイの特徴です。
センサスサーベイ・パルスサーベイを両方実施することで、中長期に向けた組織風土の浸透施策と、日常業務を通じた実感や実践を促す施策が、バランス良く展開できるでしょう。
次章以降は、仮にセンサスサーベイを実施したとして、経営・人事として効果的に活用するためのステップを紹介していきます。
活用ステップ①:センサスサーベイで組織の現状を把握する
センサスサーベイの第一歩は「社員が自社をどう感じているか」という現状を把握することです。
初めてのサーベイ実施の場合、まずはサーベイの質問に対して実施時点の社員の現状をフラットに確認することになります。
ただし、現状を確認するだけでは経営・人事として何に注力して施策を展開するかが特定できません。
従って、経営ボードメンバーと人事で「この現状をどう捉えるか」と議論することが重要です。
例えば組織文化へ満足している社員が6割だったとします。
それは会社の狙いに対して「多い」水準なのか、あるいは「物足りない」水準などかを話し合うことで、会社として目指す目標が決まります。
仮に「物足りない」としたら、会社として何に取り組む必要があるのかという議論になるはずです。
そこから、次回実施の目標やターゲットを設定し、次からはその目標に対して回答がどうなったかを確認します。
基本はこのサイクルの繰り返しですが、現状把握だけではなく「次回以降の目標を設定する」ことが重要です。
サーベイは「社員の意向が数値化される」ことに意義があるため、他HR施策に比べて目標化しやすい特徴があります。
細かい数値での目標設定というよりも「社員の〇%以上は平均値以上の回答をしている」という目安程度がおすすめです。
目標があることで「サーベイのやりっぱなし」や「サーベイの単発実施」のような事態が避けられるでしょう。
活用ステップ②:組織の問題を特定する
前章の「現状把握」では、次回以降のサーベイの目標を設定すべきとお伝えしました。
目標を設定するためには、現状はなぜこの結果になっているのかという組織の問題を特定する必要があります。
例に出した「組織文化」への満足度が低い場合、社員がどのような場面を見て、現在の認識になっているのかを考えます。
そのためには、サーベイの結果を以下のような観点で分析する必要があります。
サーベイの分析例 |
|
上記の分析結果に応じて、特に問題がありそうな部分に絞って、どのような取り組みを実際に行っているのかを確認します。
サーベイ結果に至る取り組みの洗い出し例 |
|
このような観点で検討を進めていくと、問題の特定ができます。
問題が特定できれば、改善のための取り組み検討へと進めます。
さらに重要なのは、上記のように「結果をこのように認識し」「その結果に至る問題をこのように特定し」「解決のために今後このような取り組みをする」ということを社員に公開・共有することです。
共有があることで社員はサーベイを活用しようとする会社の姿勢を感じ、今後の取り組みへの期待感が高まります。
また、次回のサーベイ実施の際も、きちんと自分の回答が会社に伝わっていることを理解しているので、回答に前向きになるでしょう。
JOB Scopeが推奨するセンサスサーベイとは
センサスサーベイでは「何についての調査」をするかというフレームワークが重要です。
目的が曖昧なまま項目を設計してしまうと、「とりあえず満遍なく聞いておくか」という項目が増えて、回答する社員の負荷が増えてしまいます。
また項目が増えると分析する際の人事の負荷も増加します。
労力不足で分析や解釈がしきれず、社員からも「あの回答結果は全く活用されていないな」という不信感につながります。
ただし、項目設計はパワーがかかる上に、独特のノウハウもあるので、自社内で設計するのは不安という人事の方も多いようです。
そんな時は既に他社で提供実績があり、好評いただいているJOB Scopeのセンサスサーベイを活用するのはいかがでしょうか。
JOB Scopeのサーベイの項目は「仕事とキャリアの満足度」や「報酬と福利厚生、ウェルビーイング」の4つの領域があり、各領域ごとに中カテゴリーが3~5種類紐付いています。
サーベイの特長としては状態を聞くだけではなく、さまざまな指標について「重要度」と「満足度」のフィット&ギャップ分析ができる点です。
社員個人がどれほどその指標を重要視しているか、さらに現在満たされているのかという乖離が確認できます。
いくら満足していても、社員がもともと重視していない項目だったとしたら、定着率や充実感にはあまり貢献していない可能性もあります。
センサスサーベイでは細かく情報をする傾向があるからこそ、企業ビジョンの浸透などの上流から、オフィスの使い勝手など下流まで情報する傾向があります。
よくある事例としては、幅広く情報収集をしすぎて「オフィスの使い勝手の不満が多すぎる」ことを問題視してしまい、レイアウト変更を行ったものの、あまり社員エンゲージメントに効果がないようなケースです。
行った施策そのものは問題はないのですが、「オフィスの使い勝手」がもともと社員がそこまで重視していない施策だとすると、施策としての優先順位は高くなかったかもしれません。
幅広い意見を収集するセンサスサーベイだからこそ、「重視度」と「満足度」の乖離の情報があることが重要になります。
このような乖離を分析することで、組織における優先すべき事項や施策が明確化されるメリットがあるでしょう。
まとめ:センサスサーベイの実施は経営戦略との接続が命
今回は数あるサーベイの中でも、比較的大規模・中長期目線で実施するセンサスサーベイを紹介しました。
HRテックの流行によりサーベイ実施が加速度的に進む日本企業ですが、センサスサーベイは項目設計や実施頻度など、しっかりと検討を進めるべきサーベイといえます。
なぜなら、情報収集の目的が「企業風土」「企業ビジョン」など、中長期目線で取り組むべき施策を見つける目的があるからです。
そのため、項目設計はもとより、結果の解釈も経営幹部も巻き込んで進めるべきでしょう。
一般的なセンサスサーベイは「国勢調査」や「経済センサス」などの、幅広い意見収集をもとに、大枠の傾向を把握することを意図しています。
企業内で実施するセンサスサーベイも、多くの社員を巻き込むため「経営進化のために社員の何について把握したいのか」を重視するようにしましょう。
新しい働き方、DX環境下での人的資本経営を実現し、キャリアマネジメント、組織変革、企業強化から経営変革するグローバル標準人事クラウドサービス【JOB Scope】を運営しています。