第3回

目的が曖昧なHRサーベイは社員の離職意向を引き起こしてしまうのか!?【後編】 

~社員の個別状況をチェックできるサーベイの全体像を徹底解説~ 


2025/06/05 

 

サーベイの導入が進みつつある日本企業ですが、「組織」という外形が見えにくいものに対し、サーベイで可視化する傾向が多いようです。 

 

一方で、組織を形作っているのは一人ひとりの「社員」になります。 

それにもかかわらず、社員個人の状況を把握するのは、従来型の人事評価制度のみで十分と思っている人事の方も少なくはありません。 

 

しかし人事評価制度だけでは、社員からの不満や離職のサインまでは拾いきれないリスクがあります。社員のコンディションをきめ細やかに把握するためには、目的に応じたサーベイ実施が効果的です。 

 

JOB Scopeはジョブ型人事制度による経営変革コンサルティングを多くの企業に提供してきました。 

その経験から、制度や組織を整備したとしても「社員個人へのケアやサポート」を怠ったばかりに、制度運用が頓挫する場面を熟知しています。 

 

本記事では、数々の企業支援実績で得た社員個人の状況把握のコツやノウハウをもとに、JOB Scopeが推奨するサーベイ活用について紹介します。 

 

 

個別社員をチェックするサーベイとは 

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前述したように、社員一人ひとりの状況把握として代表的なものが「人事評価制度」でしょう。 

 

ただし人事評価の目的は、社員の処遇や昇進・昇格を決めることです。 

そのため一定期間の「行動・プロセス」や「成果・結果」を会社の定めた基準で評価しているのに過ぎません。 

 

もちろん処遇目的だけではなく、社員の課題克服や成長についても人事評価を活用することは望ましいといえます。 

 

ただし、「離職リスクがある社員を見つけたい」「心身ともに健全な状態で働いているかを把握したい」という場合、人事評価だけではなく別途目的に応じたサーベイを導入する必要があるでしょう。 

 

多くの企業で戦略人事化や経営変革を支援しているJOB Scopeでは、企業全体のコンディションを見るサーベイだけでなく、社員個人のケアにも活用できる、以下の7つのサーベイを用意しています。 

 

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社員の状況把握のために施すサーベイは、多くの社員にとっては身近に感じることでしょう。回答の際は、自分を内省したり周囲を顧みたりする機会になるはずです。 

 

だからこそ、サーベイの「やりっぱなし」のような状況に陥ると、会社への不信感や退職意向にダイレクトにつながってしまいます。 

 

ある意味、企業視点のサーベイ実施に不満があっても、社員側は「まあ回答に協力しただけだから」と穏便に受け止める可能性もあります。 

 

しかし自分自身を振り返る機会は、内在する不満や不平要素のネガティブ感情を掘り起こすことにもなります。 

 

そのため、回答した社員は「自分の意思表示(回答)に対して、会社や上司は何をしてくれるのだろう」と、一種の見返りを求めている状態といえます。 

 

つまり、社員個人でのサーベイ実施は非常にセンシティブな側面もあり、活用を誤ると諸刃の剣にもなってしまうのです。 

 

そんな事態を防ぐためにも、この先の章で紹介していくサーベイは、社員側の立場に立った際に「どのように活用すべきか」という実施後の活用を中心に解説していきます。 

 

 

1on1面談サーベイ 

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1on1ミーティングは、元々はアメリカのシリコンバレーの企業で導入が進みました。 

人事評価目的ではなく、人材育成を目的としたマネジメント方法として実施が広がったといえます。 

 

その後日本企業では「部下の才能と情熱を解き放つ」という人材育成コンセプトを掲げる、ヤフー株式会社で2012年に導入され、注目が広がっていきました。 

 

その後は従業員数に関わりなく1on1ミーティングを導入している企業は増えて行き、2020年の実施率は約4割となっています。 

出典:日本の人事部 「人事白書2020 

 

ただしコロナ禍の影響もあり、日本企業での導入はやや「流行言葉」的に進みすぎたことも事実です。 

 

言葉が先行しすぎたため、1on1面談の「型化」「可視化」「履歴化」などのキーワードが課題として挙げられ、サーベイでこれらの課題を解決することが求められたのです。 

 

サーベイの狙い 

1on1面談サーベイとは、面談を通じて上長から成長実感できるアドバイスや指導があったかどうかを調べる調査です。 

 

本来の1on1面談は人事評価面談とは異なり、管理職(上司)が部下の育成を目的として行う面談です。 

決して評価をすることを目的としていないため、日々の業務での成果や失敗を共有し、部下に気づきを促すことにより能力を引き出すことが狙いになります。 

 

人事制度下の評価面談であれば、人事である程度コントロールはできるのですが、1on1ミーティングは現場の自由度を重視する必要もあります。 

 

その結果、1on1ミーティングが「社員の育成につながっているかどうか」を人事で把握しにくい事象が起きたのです。 

「何のために行うのか」や「どのように行うのか」などの社員からの不満が募り、1on1ミーティングが本来の目的で機能しない企業も増えてきました。 

 

そのため、実施率や育成ターゲットである社員側からの満足度を客観的に把握する目的で、サーベイを通じて可視化を行う必要があるのです。 

 

 

JOB Scopeの特長 

JOB Scopeでは「現場の自由度は尊重しつつも、面談や育成機会としての効果を確認すべき」という人事の目的を勘案して、サーベイを設計しております。 

 

具体的には1on1面談の実施状況や上司からのアドバイスの有無、モチベーションアップや課題解決への効果などについて、5段階評価の回答は、「1:そう思わない~5:そう思う」と回答ができる質問内容を設定しています。 
1on1面談の目的を踏まえ、質問内容そのものもポジティブな内容となるように設計していることが特長です。 

 

個人の成長実感をビジュアルで確認できることはもちろんのこと、その総和としての組織の1on1の実施状況や効果測定を横並びで比較できるようになっています。 

 

一般的に、1on1の実施状況やコミュニケーション内容についての内容は、人事としては把握や介入が難しいといわれています。 

 

ただし、サーベイを通じた客観的な情報があれば、それらの情報を参考にしながら、さりげなく現場マネジメントや社員にヒアリングしやすくなるでしょう。 

 

 

360度調査(360度サーベイ) 

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360度調査とは上司、部下、同僚など複数の視点から社員を評価する手法です。 

公平性の確保や人材育成に効果があり、成果主義の浸透や新しい働き方の広がりを背景に注目されてきました。 

 

なお、組織の上位にあたる社員が下位の社員を評価する方法を「垂直的評価」、同じ立ち位置の同僚同士で行うものを「水平的評価」と呼びます。 

これに対し、360度調査は対象者を取り囲むさまざまな立場の人間が評価を行う「多面評価」と位置づけられています。 

 

360度調査は、もともと米国の企業で採用されていた人事評価システムです。 

成果主義が主流の米国では、公平性が高い評価制度が求められてきたため、上司のみが行う垂直的評価の弱点をカバーする必要がありました。 

 

一方、日本は終身雇用や年功序列制度を採用してきた歴史があります。 

勤続年数で給与が決まるため、人事評価にさほど重点は置かれていませんでした。 

しかし1990年代のバブル崩壊後は経済成長が止まり、米国で実績を上げていた360度調査が導入されはじめました。 

 

その後、360度調査(多面評価)を導入している企業は徐々に増加し、2007年には5.2%程度の実施率でしたが、2020年に実施した調査によると31.4%という結果でした。 

参考:360度評価の背景と効果的な導入の仕方とは | リクルートマネジメントソリューションズ 

 

ここまで導入が広がった背景としては、働き方改革の影響があると考えられます。 

以前は社員全員が同じオフィス空間で働くことが当たり前でしたが、リモートワークやフリーアドレス、フレックスタイム制などの導入により、上司や人事からの単一的な視点だけでは社員の評価がしづらくなりました。 

 

そのため、上司だけではなく同僚や周囲の関係者から評価を集める360度調査の需要が高まっているといえるでしょう。 

 

 

サーベイの狙い 

360度調査(サーベイ)では、1人の社員に対して上司や同僚、部下など複数人が回答する仕組みとなっています。 

 

自分の行動が、周囲の人にどのように受け止められているかを、本人認識に加え、上司や同僚・部下など周囲の人からの情報をもとに客観的に把握することが可能です。 

本人にとっては、自分の強み・弱みを知る有効な情報で、より効果的な影響力の発揮に向けて、自身の行動を見直すことができます。 

 

特に管理職の場合は、本人のマネジメントや リーダーとしての影響力について、客観的に把握することが重要です。 

360度からの観察を通じ、効果的に発揮している部分と、発揮しきれていない部分を自覚することができます。 

 

サーベイの分析を通じて、人事としては組織的な能力開発ニーズを明らかにすることもできます。 

 

なお360度調査が日本企業に導入された当初は「メンバーが上司を評価する」ことのセンセーショナルさが話題にされがちでした。 

 

そのような風通しが良い風土が日本企業には必要だという意見や、このような仕組みは一過性のものだというさまざまな意見がありました。 

 

しかし結果的には、360度調査は日本企業ならではの馴染み方をしたといえます。 

他部署メンバーや同僚など多様な関係性の社員たちで協働しながら成果を上げる日本企業の仕事スタイルが、サーベイ導入の一つの追い風となったのでしょう。 

 

JOB Scopeの特長 

JOB Scopeの特長としては、管理職層向けと一般職層向けに、360度調査の質問の種類を分け、回答者を設定できる点です。 

  

具体的には管理職層向けには「リーダーシップ」や「コンフリクト解決」「指導力」などの 

8項目が用意されています。 

一方、一般職向けには「コミュニケーション」「自己管理」「協調性」などの8項目があります。 

 

このように、組織内の役割によって「求められる力」が変化することそのものが、サーベイ実施を通じて、社員間の共通理解事項になる効果があります。 

 

仕事の接点が異なるメンバーからの多面的な目を通して自分の行動を顧みることで、サーベイを実施する回数を重ねるたびに、具体的な行動改善が期待できるでしょう。 

 

 

コンディションチェック(サーベイ) 

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近年、ビジネスパーソンの「メンタルヘルス」や「ストレス」問題が取り沙汰され、企業では社員の体調不良やメンタル不調などを事前に察知することが求められています。 

 

そこで、社員一人ひとりの気持ちやストレスに寄り添い、長く安心して働いてもらうために、必要となったサーベイが「コンディションチェック」です。 

 

小まめに社員のコンディションを把握する点では、パルスサーベイと同様の目的があります。 

コンディションチェックでは、状況把握に加え、上司や一緒に働くメンバーが互いに声がけをしたり、フォローし合ったりすることを重視する傾向にあるでしょう。 

 

サーベイの狙い 

コンディションチェックでは、社員の業務状況、成長機会やモチベーションの確認が可能になります。 

 

サーベイ実施を通じて、日本企業ならではの「助け合い精神」を現場で発揮してもらう狙いもあります。上司や働く仲間は、結果に応じて声をかけたり、仕事がしやすい運用フローへと見直しを行ったりすることができます。 

 

従ってコンディションチェックは、社員がスマホやPCでその日の仕事内容や体調を申請するような、ライトな設計になっている傾向が強いでしょう。 

 

 

JOB Scopeの特長 

JOB Scopeのコンディションチェックの特長は、回答不可を抑えながら、社員ができるだけ自然に自身の状況を申請できるような設計にしている点です。 

 

具体的には「業務を通じて成長や学びがあると感じますか?」など、回答する社員側の視点で質問を用意しています。 

 

仮に新入社員やパート・アルバイト社員などサーベイ回答に不慣れな社員であっても、スムーズに自分の状況を申請できるでしょう。 

 

人事側としても、分布図など見やすいサーベイのアウトプットがあることで、一目で気になる組織や社員を見つけてフォローすることができます。 

 

 

JOB SCOPE 生成AIワークバリュースコア分析

 

 

まとめ:真に社員にとって魅力がある会社になるために 

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ある調査では、ビジネスパーソンの転職率は2016年と比較すると2023年では約2倍になっているそうです。 

 

社員目線では「自分の求めるキャリアが自社になければ、他社で探せば良い」という発想が、ここ数年で強まっているということです。 

 

ただし人事・経営目線で捉えると、数年前と比較すると、転職リスクがある社員層が倍になっているとも見なせます。 

 

転職ニーズが顕在化している社員だけが、人事のフォロー対象とも限りません。 

ニーズ潜在層まで含めると、かつての時代と比較すると、数倍もの社員の状況をきめ細やかにケアしなくてはならないでしょう。 

 

そう考えると、サーベイを通じて効率的に社員の状況把握する潮流は、時代の必然といえるかもしれません。 

 

さらに「給与は満足しているけど、職場の雰囲気が物足りない」「働く環境はいいが、自分の成長感が得られない」など、転職リスクになり得る個々人のさまざまな理由まで考慮したケアも必要となります。 

 

そのためサーベイ結果で対症療法的な施策を実施するだけではなく、継続的に社員がやりがいや企業へのコミットを感じるような、抜本的な組織的施策も考案すべきでしょう。 

 

制度や風土が整っていくには、ある程度の時間は必要です。 

従って単発のサーベイ実施ではなく、結果を複合的に組み合わせたり、経年で比較したりしながら、社員にとって「魅力がある会社になっているか」を目指す観点を大事にしてください。 

 

 

 

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著者: JOB Scope編集部
新しい働き方、DX環境下での人的資本経営を実現し、キャリアマネジメント、組織変革、企業強化から経営変革するグローバル標準人事クラウドサービス【JOB Scope】を運営しています。

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