第1回

社員定着率を高める! 
タレントマネジメントサイクルの一環としての

サーベイ実施とは


2025/05/08 

 

少子高齢化が進み、生産年齢人口が減り続ける日本企業。 

 

人材獲得が重要なのはもちろんのこと、それ以上に重視する必要があるのは、既存社員の定着や離職防止ではないでしょうか。 

 

既存社員がモチベーションを高めて、企業成長のために自身が絶えず成長を続ける状態になっていれば、新規の人材採用はそこまで必要がなくなるからです。 

 

このような「企業と社員が同時に成長する」というお題は、どこの企業でも異論はないでしょう。 

ただし、そのお題をどう具現化するかという粒度にブレイクダウンしようとすると、手が止まってしまうという人事の方も多いのではないでしょうか。 

 

そのテーマへの一つの解は、社員の状態を把握するサーベイ実施と、そのサーベイを社員定着へと促すタレントマネジメントサイクルに組み込む考え方です。 

 

本記事では、サーベイ実施からどのように社員が生き生きと働くまでのサイクルを回すのかについて、具体的に紹介していきます。 

 

 

実はデータを扱うことが多い人事業務 

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DX(デジタル・トランスフォーメーション)の必要性が叫ばれる日本企業ですが、その波は人事分野においても同様です。 

「HRTech」「HRアナリティクス」などの言葉に代表されるように、社員の状況をデータを通じて見える化する動きが、ここ数年で加速しています。 

その証左として、矢野経済研究所の調査によれば、従業員エンゲージメント診断・サーベイクラウドの市場規模は、2021年は47億2,000万円で前年比123.6%と大きく伸びています。さらに2026年に向けての予測値も、徐々に実施企業が増加していく見込みです。 
参考:矢野経済研究所、従業員エンージメント市場に関する調査結果を発表|日本経済新聞

 

コロナ禍を経験したことで、会社側の従業員エンゲージメントに対する関心は高い状態にあり、多人数の従業員を抱える大手企業の導入が進んだことも、市場拡大の要因となっているでしょう。 

 

このような、「目に見えにくい」社員の状況を可視化する人事部門の取り組みは、注視して観察すると、実は多岐に渡ります。 

 

例えば、人材採用場面で使われるアセスメント・サーベイ、入社後の各種研修や教育施策のログデータ、定期的に実施するエンゲージメントサーベイなど、データそのものは探せば数多く存在するでしょう。 

 

その影響なのかもしれませんが、データの重要性は認識しつつも、結果として「データに振り回されている」状態の人事も実は少なくはありません。 

 

データ収集という作業は、良くも悪くもルーチン化しがちです。 

そのため、例えば「年に1回、エンゲージメントサーベイを実施する」と決まったら、サーベイを行うことそのものが目的化してしまうような状況も散見されます。 

 

 

サーベイを実施することはゴールではない 

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「サーベイを実施する」のような表現は一般的ですが、これはあくまで経営・人事側の言い方です。 

 

社員にとっては「サーベイに回答する」あるいは「サーベイに協力する」というような表現となるでしょう。 

 

サーベイを実施する目的が曖昧だったり、あるいは実施後の結果を受けて経営・人事側からの何も発信やアクションなかったりする場合、社員にとってサーベイはどう映るでしょうか。 

 

もしかすると「人事にいわれて回答しているだけ」「忙しい通常業務への負荷が増えるだけ」となる可能性もあります。 

 

人間心理に関する理論の中に「ブルームの期待理論」というものがあります。 

心理学者ビクター・ブルームによって1964年に提唱されたもので、モチベーション理論の基礎といわれています。 

 

具体的には「何かの行動に対して魅力ある報酬や成果が得られると分かっていれば、人のモチベーションは向上し、頑張ることができる」という考え方のことです。 

 

サーベイを実施した結果、社員が求める「何か」が確約されているとしたら、社員にとっては、回答は「負荷」と感じないはずです。 

能動的にサーベイに回答し、自分の状態・要望などをサーベイを通じて発信するでしょう。 

 

 

目的が曖昧なサーベイ実施は社員定着率へ負の影響がある 

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仮に部分最適な目的でのサーベイ実施や、データを取得する目的だけで実施すると、社員の受け止め方はどうなるでしょうか。 

 

企業への信頼感は薄れ、社員の積極的な姿勢を引き出すどころか「この会社では成長できない」というネガティブな心理を促進してしまうでしょう。 

 

ネガティブ心理の代表格は、社員定着率の低下です。 

前述したように、日本企業では人材の獲得、育成・定着はどのような業種・規模の企業でも課題となっています。 

 

事実、事業責任者の人・組織に関する課題認識についての調査では「人材獲得・採用に苦戦している」がいずれも筆頭に挙がっています。 

 

さらに注視すべきなのが、上位項目には「優秀な人材が流出している」「難しい仕事に挑戦する人が少ない」「メンバーの自発的な活動が少ない」といった、優秀人材・自律人材の活躍に関する課題を抱えている点です。 

参考:事業責任者361名に聞く、人・組織領域の課題認識と支援ニーズ|リクルートマネジメントソリューションズ

 

サーベイの実施というのは、社員自身の工数や協力が必要となるため、見方を変えると、社員にとっては「サーベイに回答したら、この会社からどのようなリターンが得られるのか」という象徴的なHRイベントになります。 

 

そのため、安易な目的で社員にサーベイを実施することは、社員からの期待を裏切ることにもなりかねません。 

 

むしろ会社が変わることを期待してサーベイに回答した社員は、不満感や不全感を吐き出すだけ吐き出してしまっている状態です。 

その状態で経営・人事から何もフィードバックがないとしたら、自分の心の奥に閉まっていた不満に自覚的になってしまいます。 

 

その結果、社員への還元の観点がないサーベイ実施は、何も実施しないよりも実は社員離反のリスクにもつながりやすいといえるでしょう。 

 

 

サーベイは「タレントマネジメントサイクル」に組み込むべき 

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それではサーベイをどのように位置づければいいのでしょうか。 

 

一つの解としては、社員側の立場にたった「タレントマネジメントサイクル」に組み込むことです。 

 

本章では、サーベイを単発あるいは部分最適な実施にしないために「タレントマネジメントサイクル」というモデルに組み込む考え方を紹介します。 

 

このモデルは「サイクル」というフレーズが示すように、サーベイ単体で考えるのではありません。 

企業と個人の成長のための阻害要因や促進要因を見つけるという目的で、サーベイの位置づけを明確にしています。 

※「JOB_Scope_タレントマネジメントサイクル」は弊社の登録商標(2024年取得済み)です 

 

タレントマネジメントサイクルが目指す状態とは 

以下はJOB Scopeオリジナルのタレントマネジメントサイクルのモデル図です。 

タレントマネジメントサイクルは、経営目標から落とし込んだ職務をベースに人事制度を連動させながら、人材の採用~昇給・昇格の評価場面までを戦略的につなぎ、社員の成長を促すモデルです。 

 

経営戦略や経営計画の実現のためには、職務に必要なタスク(課業)や、それを担える人材要件やスキル・成果責任など複数の変数が介在します。 

 

それら変数を統括するために、企業の人材ポリシーに応じた等級・評価・報酬など、各種人事制度を設計します。 

 

このような設計は多くの企業で行っているかと思いますが、これらを社員目線で有機的に接続するのが、JOB Scopeのタレントマネジメントサイクルの要諦です。 

 

このサイクルのポイントは、組織と個人が共に成長できる状態を、実践的につなぎ合わせている仕組みであることでしょう。 

そのために社員の状態を各種サーベイで把握し、このサイクル全体の点検・チューニングすることに位置づけています。 

 

特に、経営や人事側の観点だけでなく、社員個人の視点でサイクルが「どのような意義・メリットがあるのか」とトレースできることを重視しています。 

 

組織側の観点で考えると、シビアなビジネス環境を勝ち抜くための経営戦略や組織の成長は不可欠となります。 

ただし、その経営や組織の成長を築くのは社員一人ひとりの成長に他なりません。 

 

そのため、社員自身が持つ能力(タレント)に着目し、人事マネジメント施策全般に活用していくタレントマネジメントの主語は、社員そのものになります。 

 

社員全員が自然に「経営戦略にコミットしたい」と能動的な姿勢でいればいいのですが、現実には若手からベテラン社員が、等しくそのような視座を持つのは現実的ではないでしょう。 

 

ただし「自分が成長したい」という純粋な成長欲求であれば、社員は誰しも抱いています。 

 

企業で働いている以上、人は誰しも「昨日できなかったことができるようになりたい」や「将来の自分のビジョンに向けて近づいている手ごたえが欲しい」という「成長欲求」があるでしょう。 

 

そのため、企業・組織の成長と社員個人の成長をつなぐために「タレントマネジメントサイクル」を描く必要があるのです。 

 

このように、企業として目指す姿をモデル化し、その中でサーベイ実施を位置づけるだけで、社員から見たサーベイの実施意義や目的はクリアになるでしょう。 

 

※JOB Scopeのタレントマネジメントサイクルについては、詳しくはコチラの記事をご一読ください 

 

タレントマネジメントサイクルを社員成長につなげるために

前述したように、人事が主導する取り組みについては、どうしても現場の社員にとっては、ある種の「やらされている感覚」が生じてしまうのも事実です。 

 

今回紹介したタレントマネジメントサイクルは、単なる管理システムではなく、社員側のメリットや意義からも説明をすることができます。 

 

具体的には、社員の成長を引き出すために、以下のように、モデルを社員側からの視点で変換をすることも重要です。 

「経営戦略と社員をつなぐ」と言葉で言うことは簡単ですが、実際は社員個人の見ている視界で語ることが重要になります。 

 

「目標管理」や「昇給・昇格」というのは、社員にとっては身近なイベントです。 

自分の視界でどのように有機的につながっていくのかを理解できるだけで、イベントが自分ごと化でき、目の前の仕事への向き合い方も変わってきます。 

 

そのような社員自身の視界でサーベイの実施を説明することができれば、「人事にいわれて回答している」という視界から、「自分の成長を促す現状把握のために回答する」という視界に変わります。 

 

HRBPHuman Resource Business Partner)を標榜する人事であれば、人事のプロフェッショナルとして、ここまで経営と社員個人をつなぐ絵を描く役割を果たすべきでしょう。 

 

 

まとめ:サイクルは個と組織の相乗効果で加速していく 

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社員一人ひとりには、誰しも組織から付与された「一定期間に達成すべき目標」があるでしょう。 

 

もしかしたら、社員の中には「言われたことをきちんとやる」ことが、目標だと思い込んでいる方がいるかもしれません。 

 

しかしP.F.ドラッカー著書の『プロフェッショナルの条件』では、目標とは「やらされる」ものではなく、自分自身がプロとして成果をあげるためのものと説かれています。 

 

今回紹介したタレントマネジメントサイクルでは、社員自身が「言われたことをやる」ではなく「自分が仕事やキャリアをコントロールする」というパラダイムシフトを促す目的もあります。 

 

だからこそ、あえて「組織に使われる視点」という管理システムから、「自らが活用する視点」という自分ごとに変換することも志向しているモデルなのです。 

 

「言われたことをやる」視界では、言われないと何もできない社員が生まれます。 

そして、言われたことが気に入らないと、離職意向を抱くかもしれません。 

 

社員一人ひとりが自律的に考え、そして行動することによって、組織の成長も加速度的に早まることにつながるのです。 

 

タレントマネジメントサイクルを通じて「組織成長の主役となるのは、あなたたち一人ひとりの成長そのものだ」とメッセージを投げかけてみてはいかがでしょうか。 

 

 

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著者: JOB Scope編集部
新しい働き方、DX環境下での人的資本経営を実現し、キャリアマネジメント、組織変革、企業強化から経営変革するグローバル標準人事クラウドサービス【JOB Scope】を運営しています。

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