社員が自律性や創造性を発揮できない大きな原因は、会社が「思い切ってやれ」と挑戦を促しながら、同時に「余計なことはするな」とブレーキをかける矛盾にあります。神戸大学の鈴木竜太教授は、仕事の余裕と、挑戦を称賛する文化が欠かせないと語ります。
「もっと自分で考えて行動してほしい」「リーダーシップを発揮できる社員がいない」――多くの経営者や人事担当者がこうした悩みを抱えています。前編では、ジョブ型雇用を選ぶ前に従業員との関係を問い直す必要があることを紹介しました。
本記事では、鈴木教授へのインタビューをもとに、この20年のリーダーシップ研究の状況、リーダーシップを身につけるために必要な想像力と時間、コロナ禍で変わった人と人との関わり、社員が自律性・創造性を発揮できない理由と職場づくりの2つのポイント、キャリアの考え方、そして中小・中堅企業へのメッセージについて解説します。
この記事でわかること
・流行の「○○リーダーシップ」との付き合い方
・リーダーシップを身につけるのに必要な「想像力」と、部下と向き合う時間
・コロナ禍で人と人との関わりはどう変わったのか
・社員が自律性・創造性を発揮できない2つの原因と、職場づくりの2つのポイント
・「目標が見つからない」と悩む人へのキャリアの考え方
取材協力:鈴木 竜太(すずき りゅうた)氏
神戸大学大学院経営学研究科 経営学専攻 教授(取材時)。1994年神戸大学経営学部卒業。神戸大学大学院博士前期課程修了後、静岡県立大学経営情報学部助手。1999年神戸大学大学院博士後期課程修了。静岡県立大学経営情報学部専任講師、神戸大学大学院経営学研究科助教授を経て、2013年より現職。専門は経営組織論、組織行動論、経営管理論。著書に『組織と個人』(2002年)、『自律する組織人』(2007年)、『関わりあう職場のマネジメント』(2013年)、編著に『1からのキャリア・マネジメント』(碩学舎、2023年)など。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
流行の「○○リーダーシップ」には注意を
最近は、オーセンティック・リーダーシップ(自分らしさを最大限に発揮するリーダーのあり方)など、さまざまな「○○リーダーシップ」が次々と登場しています。鈴木教授は、それぞれはしっかりした概念であるにもかかわらず、トレンドとして扱われることに違和感を覚えると言います。それさえあれば何でも解決すると捉えてしまう人が多いからです。
鈴木教授は、日本でリーダーシップ研究全体を俯瞰して発信する研究者は驚くほど少なく、教科書で紹介される理論も2000年ごろで止まっていると指摘します。この20年、新たなページを開く革新的なリーダーシップ論は出ていないものの、知見は確実に蓄積されており、それをきちんと紹介する必要があると考えています。
結果だけを強調するリーダーのもとでは不正が起きやすい
鈴木教授は、失敗の研究にも取り組んでいます。KPIなど数字による業績管理が広がる中で、数字が一人歩きし、プロセスより結果を重視するマネジメントが増えました。研究では、最終結果ばかりを強調するリーダーのもとでは不正が起きやすいことが示されています。「結果さえ出せばプロセスは何でもよい」という空気が生まれるからです。
リーダーシップを身につけるには――「想像力」と「向き合う時間」
個人がリーダーシップを身につける方法としてよく言われるのは、経験を積み、それを内省することです。それに加えて鈴木教授が特に重視するのが、リーダーの想像力です。
「リーダーは知的な想像者である必要があると思います。」
――鈴木教授
自分がこう動いたらフォロワーはどう感じ、どう動くのか――その想像力がなければ、リーダーシップは発揮できません。究極的には、人間や人間集団への理解です。経験はもちろん、本を読む、人と話す、映画を見るといった日々の積み重ねが、想像力を育てます。
経営者・人事がすべきは「部下と向き合う時間」をつくること
リーダーシップの考え方の一つに、極端にいえば、リーダーがメンバーと信頼関係を築けていれば、何をしても皆がついてくるというものがあります。大事なのは何をするかより、よい関係をいかにつくるかなのです。
ところが実際には、リーダーにはその時間がありません。考えがあってもメールで指示を出すだけになったり、部下が20人もいて全員と密にコミュニケーションできなかったりします。だからこそ経営者や人事には、現場のリーダーが部下のことを考え、向き合う時間をつくれる環境を整えることが求められます。
管理職の負担の重さは、管理職を目指す人の減少にもつながっています。パーソル総合研究所の調査では、今の会社で働き続けたい人が45.9%いる一方で、今の会社で管理職になりたいと答えた人は16.7%にとどまっています。
| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 現在の勤務先で継続して働きたい人 | 45.9% |
| 現在の勤務先で管理職になりたい人 | 16.7% |
出典:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査 2025」
コロナ禍で人と人との関わりはどう変わったか
鈴木教授は、コロナ禍は大きな契機だったものの、まったく新しい変化というより、働き方改革やワーク・ライフ・バランス、女性活躍、育児・介護といった以前からの流れの延長線上で一気に変わったと見ています。
典型的なのが、リモートワークを含めた働き方の柔軟性です。多くの人が「あったらいいな」と思いながら実現しないと考えていたことが、パンドラの箱を開けたように実現しました。「実は自分もそう思っていた」という声が一斉に上がり、働き方について思っていることを言ってよい雰囲気が生まれたのです。ただし、人と会うことを大事にする人もいれば、一人で働きたい人もいる。会社に対する人の考え方が根本から変わったわけではなく、あり方にバラエティーができたというのが鈴木教授の見立てです。
今後は企業のスタンス次第で、職場のあり方は多様化していくと鈴木教授は考えています。「皆で会って仕事をする」のか、「必要に応じてオンラインで話せば十分」とするのか。それぞれの会社が決めればよく、学生もそのスタンスを見極めて就職先を選ぶようになるといいます。
社員が自律性・創造性を発揮できない2つの原因
社員一人ひとりが自律的・創造的に仕事をし、新たな価値を生むことの重要性に、鈴木教授は基本的に賛同しています。しかし、多くの企業は試行錯誤の段階で、「もっと自分で考えて動いてほしい」と求めても、うまくいっていないのが実態だといいます。その原因として、鈴木教授は次の2つを挙げます。
| 原因 | 起きていること |
|---|---|
| ① 相反する要求(アクセルとブレーキ) | 「コンプライアンスを守れ」「余計なことはするな」と業務規定やチェックリストで監視されているように感じる一方で、「思い切ってやれ」「怖がるな」とも言われる。現場ではこの2つが重なり、真面目な人ほど「やらない方がよい」と判断してしまう |
| ② 仕事のルーティン化・マニュアル化 | 新人教育や属人化の防止のために、仕事の進め方が細かく決められている。それをこなすので精一杯で、「こちらのやり方がよいのでは」と考える余裕や、自由度を発揮する場がない |
会社にとっては「やってはいけないことはやらず、やってよいことはどんどんやってほしい」という話でも、現場レベルではその線引きが重なってしまっています。マニュアル化は生産性向上や属人化の防止に役立つ一方で、自律性を発揮しにくくする面もあるのです。
自律性・創造性を引き出す職場づくりの2つのポイント
では、自律性や創造性を発揮しやすい職場をつくるには何から取り組むべきか。鈴木教授は次の2つを挙げています。
- 仕事がパンパンになっていないかを見直す:仕事が詰まっていれば、無駄があっても従来のやり方が最も早く、確実に一定の成果が出る。時間の余裕がなければ、工夫して変えようとは思わない
- リスクを取って挑戦することを称賛する文化をつくる:上司の態度や会社の姿勢として、挑戦を称賛する価値観を皆で共有する
鈴木教授は、公務員に創造性が生まれにくい大きな要因として減点主義を挙げます。何かをして成功するより失敗したときの減点のほうがはるかに大きく、何もしなくても評価があまり変わらないのであれば、誰でも「余計なことはせず、手堅くやろう」と考えてしまうからです。
自社の職場がどのような状態にあるのかを把握することが、改善の出発点になります。
職場に「余裕」と「挑戦の文化」があるかを見える化する
社員が自律性や創造性を発揮できているかを知るには、仕事の負荷や挑戦しやすさを社員がどう感じているかを把握することが出発点です。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」は、生成AIで従業員の属性や組織の特性に合わせた質問を作成し、組織の状態を迅速にきめ細かく可視化します。
「目標が見つからない」と悩む人へ――キャリアの考え方
鈴木教授は2023年に『1からのキャリア・マネジメント』(碩学舎)を編著しました。背景には、学生と接する中で感じた問題意識があります。キャリア教育や就職活動では、「将来何になりたいか」「目標は何か」を決め、そこに向かって何をするかを考えるのが当たり前になっています。
それがすっとできる学生もいますが、見つからずに「自分は駄目な人間なのでは」と悩む真面目な学生も多いといいます。鈴木教授は、目標は今すぐ決めなくてもよく、長い人生の中で変わってもいいし、いつか見つかっても、見つからなくてもよいと考えています。
本来、キャリアや仕事、人生を考えることは未来への希望であり、楽しいことのはずです。それが憂鬱なものになり、自由に考えられなくなってしまう――キャリアをさまざまな角度から解き明かし、そのプレッシャーから少しでも解放したいという思いが、この本には込められています。
中小・中堅企業へのメッセージ――人事ポリシーが他社との違いになる
鈴木教授は、中小・中堅企業にはいま、人事のポリシーや人材についての考え方、そして実際にどうマネジメントするのかが突きつけられていると言います。そこを考えなければ、よい人材を採用できず、迎え入れた人材も生かせません。
難しく大変な課題ですが、しっかり考え、知恵を絞って成果を上げている企業もあります。今ここで考えることができれば、他社との違いを明確にでき、それによって人材が集まってくることも十分にありうると鈴木教授は語ります。
よくある質問(FAQ)
Q. 社員が自律性や創造性を発揮できないのはなぜですか?
A. 鈴木教授は2つの原因を挙げています。1つ目は、「思い切ってやれ」と挑戦を促しながら、コンプライアンスや業務規定で「余計なことはするな」とブレーキをかける相反する要求です。2つ目は、仕事のルーティン化・マニュアル化が進み、工夫する余裕や自由度を発揮する場がないことです。
Q. 自律性や創造性を引き出す職場をつくるには何が必要ですか?
A. 鈴木教授は、仕事がパンパンになっていないかを見直して時間の余裕をつくること、そしてリスクを取って挑戦することを称賛する文化を醸成することの2つを挙げています。失敗の減点が大きい減点主義のもとでは、誰も挑戦しなくなるためです。
Q. リーダーシップを身につけるにはどうすればよいですか?
A. 経験を積んで内省することに加え、鈴木教授は「リーダーの想像力」が特に重要だとしています。自分の行動にフォロワーがどう感じ、どう動くかを想像する力であり、本を読む、人と話す、映画を見るといった日々の積み重ねで育てることができます。
Q. 経営者や人事は、リーダーシップの発揮をどう支援すべきですか?
A. 鈴木教授は、現場のリーダーが部下のことを考え、部下と向き合う時間をつくれる環境を整えることが重要だとしています。リーダーがメンバーと信頼関係を築けていれば皆がついてくるという考え方もあり、何をするかより、よい関係をつくる時間を組織が確保することが大切です。
Q. キャリアの目標が見つからないのは問題ですか?
A. 鈴木教授は、目標は今すぐ決めなくてもよく、長い人生の中で変わってもよいし、いつか見つかっても、見つからなくてもよいと述べています。本来キャリアを考えることは未来への希望であり、目標が見つからないことで自分を責める必要はないとしています。
まとめ:「矛盾」をなくし、「余裕」と「関係」をつくる
- 流行の「○○リーダーシップ」を万能視しない。結果だけを強調するリーダーのもとでは不正が起きやすい
- リーダーシップには、フォロワーの反応を思い描く想像力と、部下と向き合う時間が欠かせない
- コロナ禍で働き方のバラエティーが生まれた。職場のあり方は企業のスタンス次第で多様化していく
- 自律性・創造性を妨げるのは、アクセルとブレーキを同時に踏む矛盾と、仕事のマニュアル化
- 仕事の余裕をつくり、挑戦を称賛する文化を育てることが、自律的で創造的な職場への第一歩
自律性や創造性は、社員に求めるだけでは生まれません。挑戦できる余裕と文化、そしてリーダーが部下と向き合える時間を、会社がつくること。それが、人を大事にする経営の具体的な姿だといえます。
挑戦を「減点」ではなく「評価」する人事制度へ
社員が挑戦できる文化をつくるには、失敗を恐れずに取り組んだプロセスを評価し、役割や成長を明確にする人事の仕組みが欠かせません。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、経営に直結する戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援します。
▶ 前編:ジョブ型雇用を導入すべきか?判断基準は「従業員との関係をどう考えるか」(内部リンク)
▶ インタビュー全文:ジョブ型雇用は魔法の杖ではない まずは会社と従業員との関係性を再考する必要がある(後編)(JOB Scopeマガジン)