ジョブ型雇用を導入すべきか?判断基準は従業員との関係|神戸大学・鈴木竜太教授

 

ジョブ型雇用を導入すべきかどうかの判断基準は、会社が従業員との関係をどう考えるか、つまり「従業員に対するポリシー」です。神戸大学の鈴木竜太教授は、ジョブ型雇用は導入すれば課題が解決する「魔法の杖」ではないと指摘します。

「メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ」という声が高まり、自社はどうすべきか悩む企業が増えています。鈴木教授のもとにも、「ジョブ型にすれば色々な課題が解決しますか」という相談が数多く寄せられているといいます。

本記事では、人と組織の関係性や職場のマネジメント、リーダーシップを研究する鈴木教授へのインタビューをもとに、人的資本経営が仕組み化する中で生じているリスク、情報開示ありきの姿勢の問題、ジョブ型雇用の難しさ、そしてメンバーシップ型かジョブ型かを判断する基準について解説します。

この記事でわかること

・人的資本経営が仕組み化する中で失われつつある「人を大事にする」視点

・人的資本の情報開示ありきの姿勢が抱えるリスク

・ジョブ型雇用の難しさ――ジョブの定義と最適なマッチング

・ジョブ型とメンバーシップ型を判断する基準

・自社の人事ポリシーを明確にする必要性

取材協力:鈴木 竜太(すずき りゅうた)氏

神戸大学大学院経営学研究科 経営学専攻 教授(取材時)。1994年神戸大学経営学部卒業。神戸大学大学院博士前期課程修了後、静岡県立大学経営情報学部助手。1999年神戸大学大学院博士後期課程修了。静岡県立大学経営情報学部専任講師、神戸大学大学院経営学研究科助教授を経て、2013年より現職。専門は経営組織論、組織行動論、経営管理論。著書に『組織と個人』(2002年)、『自律する組織人』(2007年)、『関わりあう職場のマネジメント』(2013年)、編著に『1からのキャリア・マネジメント』(碩学舎、2023年)など。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

人的資本経営の仕組み化で薄れる「人を大事にする」視点

鈴木教授は、戦略人事も人的資本経営も、人を大事にし、人を中心に置く経営が大切だというメッセージであり、その考え方には共感していると言います。業績や株価が上がればよいのではなく、人を大事にする経営がよいという考えです。

ところが、戦略人事や人的資本経営が仕組み化・制度化していく中で、その良さが失われているのではないかと鈴木教授は危惧しています。「今やらなければいけないからやる」「戦略に沿ってやるしかない」と、「能力が足りない人はリスキリングしてください」といった形になり、人をお金やモノと同じように扱ってしまう側面が出てきているというのです。

高齢者や女性など、人を一つのかたまりとして括った瞬間に、人はモノやカネのような「リソース」になりがちです。マクロに捉えざるを得ない面があるとしても、そこには違和感があると鈴木教授は語ります。

日本企業は人を大事にしてきたのか

鈴木教授は、高度成長期の日本企業には両方の側面があったと見ています。事業が拡大する中で、限られた人材を上手にやりくりし、「この人のポテンシャルをどう生かすか」「この人にはこちらの仕事がよいのでは」と、現場の一人ひとりをよく見て人事をしていたという意味では、人を大事にしていました。一方で、海外駐在の経験がない人にいきなり現地法人の社長を任せるなど、今思えば無茶な人事もあり、プレッシャーで潰れてしまった人も少なくなかったといいます。

人的資本の情報開示ありきの姿勢は本末転倒

人的資本の情報開示は、企業価値の向上につながるのでしょうか。鈴木教授は、人を大事にする経営や、人の能力を高めることが新規事業の成功に欠かせないという意味で、人の価値は企業価値に直結すると考えています。人材獲得の面でも、開示された人的資本の情報は企業価値になりえます。

ただし、形だけの開示になってしまう企業もあるかもしれません。外部に示す数字はそれなりに整っていても、中身はつじつま合わせ――そうなれば本末転倒です。情報開示ありきで「数字をつくる」ような進め方になってしまうと、開示が本当に企業価値の向上につながるかは疑問だと鈴木教授は指摘します。

ジョブ型雇用は「魔法の杖」ではない――2つの難しさ

鈴木教授は、ジョブ型雇用もメンバーシップ型雇用も、その先にあるものも含めてやり方は多様であり、単純に2つに分けられるものではないと言います。大切なのは、自社に合うかどうかをしっかり考えることです。「ジョブ型雇用を取り入れればきっとうまくいく」という考え方は危ういといいます。

鈴木教授が挙げるジョブ型雇用の難しさは、次の2つです。

難しさ 内容
① ジョブの定義 一つひとつの仕事をどう規定するかが難しい。かつて、ハイパフォーマーの行動特性をもとにジョブごとに必要な能力リストをつくる「コンピテンシーモデル」が試みられたが、細かくなりすぎて実践的にはうまくいかなかった
② 最適なマッチング 社内でやりくりするにせよ、外部の労働市場を使うにせよ、必要な仕事に必要な人がいつもパズルのようにぴったり当てはまるとは限らない。ミスマッチが起きたとき、社内の従業員がどうなるのかという懸念がある

鈴木教授は、今後ジョブ型雇用を取り入れる企業は増えていくものの、すべての企業がジョブ型に移行することはないと予想しています。逆に「うちはメンバーシップ型でしっかりやっていく」と立ち位置を決める企業も出てくるだろうといいます。

現状は、メンバーシップ型の問題を解決できそうだという「何となくの印象」が先行しています。しかしジョブ型にも欠点はあり、かといって「では折衷でいこう」となれば、それぞれの良さも薄れてしまいます。自社の組織形態や環境に合わせた工夫が必要です(戦略や組織構造から考える視点は池上重輔教授の記事で、導入時の注意点は上林憲雄教授の記事で紹介しています)。

ジョブ型を検討するなら、まずジョブをどう定義し、制度全体をどう設計するかの全体像を押さえておくことが欠かせません。

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ジョブ型かメンバーシップ型か――判断基準は「従業員に対するポリシー」

では、メンバーシップ型とジョブ型のどちらを選ぶべきか。鈴木教授の答えはシンプルです。会社と従業員の関係、あるいは従業員そのものをどんなポリシーで見ているかによって決まるといいます。

会社が目指す従業員との関係 向いている雇用の考え方
従業員を受け入れ、成長や育成をサポートしながら、家族的な関係を長く築きたい メンバーシップ型
環境に応じて人材の流動性を生かし、従業員がやりたいことに取り組み、必要な能力を自ら身につける自立的な関係を築きたい ジョブ型

言い換えれば、経営者にとって従業員がどんな存在なのかに依存するということです。

あいまいなメッセージが現場を混乱させる

ところが日本企業は、この点をあいまいにしてきました。「自律的にキャリアを考えてくれ」と言いながら「メンバーシップ型のように色々な仕事をしてほしい」と求めたり、スキルマップを開示して「あとは自分でやってください」と任せたりするケースもあるといいます。会社が従業員とどう付き合っていきたいのか、そのメッセージがこれまで十分に示されてこなかったのです。

「ジョブ型雇用は決して魔法の杖ではないということです。」

――鈴木教授

メンバーシップ型を続けるのか、ジョブ型に移行するのかを検討するなら、まず自社が従業員との関係をどう考えているのか、そのポリシーを明確にすること。それをあいまいにしたまま、ツールとして何となくジョブ型を取り入れても、うまくいかないと鈴木教授は指摘します。

よくある質問(FAQ)

Q. ジョブ型雇用を導入すべきかどうかは、何を基準に判断すればよいですか?

A. 鈴木教授は、会社と従業員の関係、あるいは従業員そのものをどんなポリシーで見ているかが判断基準になると述べています。従業員の成長を支えながら家族的な関係を長く築きたいならメンバーシップ型、人材の流動性を生かしながら自立的な関係を築きたいならジョブ型が向いています。

Q. ジョブ型雇用にすれば人事の課題は解決しますか?

A. 鈴木教授は、ジョブ型雇用は導入すれば課題が解決する「魔法の杖」ではないと指摘しています。ジョブ型にも欠点があり、自社の組織形態や環境に合うかどうかを考え、自社に合うように制度をつくっていく必要があります。

Q. ジョブ型雇用の難しさは何ですか?

A. 鈴木教授は2つの難しさを挙げています。1つ目は、一つひとつの仕事(ジョブ)をどう定義するかで、かつてのコンピテンシーモデルは細かくなりすぎてうまくいきませんでした。2つ目は、必要な仕事に必要な人を最適にマッチングできるかで、ミスマッチが起きたときに従業員がどうなるかという懸念があります。

Q. 今後、日本企業はすべてジョブ型雇用になりますか?

A. 鈴木教授は、ジョブ型雇用を取り入れる企業は増えるものの、すべての企業がジョブ型に移行することはないと予想しています。メンバーシップ型でやっていくと立ち位置を明確にする企業も出てくるとしています。

Q. 人的資本の情報開示は企業価値の向上につながりますか?

A. 鈴木教授は、人の価値は企業価値に直結するため、開示が評価されれば企業価値の向上につながりうると考えています。一方で、外部向けの数字だけを整え、中身はつじつま合わせという形だけの開示になれば本末転倒であり、開示ありきの進め方には疑問があると指摘しています。

まとめ:ジョブ型を選ぶ前に、従業員との関係を問い直す

  • 戦略人事や人的資本経営は、人を大事にする経営のメッセージ。仕組み化の中で、人をモノやカネのように扱う危うさがある
  • 人的資本の情報開示は、数字をつくる「開示ありき」になれば本末転倒
  • ジョブ型雇用は魔法の杖ではない。ジョブの定義と最適なマッチングという難しさがある
  • ジョブ型を取り入れる企業は増えるが、すべての企業が移行するわけではない
  • 判断基準は、会社が従業員との関係をどう考えるかという「従業員に対するポリシー」

後編では、この20年のリーダーシップ研究から見たリーダーに必要な想像力と時間、コロナ禍で変わった人と人との関わり、社員が自律性や創造性を発揮できない理由と職場づくりのポイント、キャリアの考え方について解説します。

自社の「人事ポリシー」を、制度に落とし込む

従業員とどんな関係を築きたいのかという人事ポリシーを明確にし、それを評価・報酬・育成の仕組みに一貫して落とし込むことが、雇用の型を選ぶ前提になります。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、経営に直結する戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援する人事制度改革プラットフォームです。

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JOB Scope編集部

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