セルフリーダーシップとは、役職や立場に関係なく、組織の全員が自らにリーダーシップを発揮し、自律的に働くことです。小杉俊哉氏は、これを「リーダーシップの最終形」と位置づけています。
先行きが見えにくい時代に、組織を変え、人を成長させるリーダーシップはどうあるべきか。リーダーシップ論とキャリア自律を専門とするTHS経営組織研究所の小杉俊哉氏は、組織と個人の関係が変わり、リーダーシップも新たな段階に移りつつあると語ります。
本記事では、小杉氏へのインタビューをもとに、リーダーシップ1.0から4.0への変遷、会社と個人が対等になった時代のキャリア自律、セルフリーダーシップを組織に広げる条件、プロ経営者・CxOというキャリアの選択肢、そして人事に求められる「越境」について解説します。
この記事でわかること
・リーダーシップは専制君主型からどう変わってきたのか
・支援型リーダーシップ(リーダーシップ3.0)の特徴
・会社と個人が対等な時代に、なぜキャリア自律が必要なのか
・セルフリーダーシップ(リーダーシップ4.0)とは何か、組織に広げる条件
・プロ経営者・CxOというキャリアと、人事に求められる越境経験
取材協力:小杉 俊哉(こすぎ としや)氏
合同会社THS経営組織研究所 代表社員、慶應義塾大学SFC研究所 上席所員、ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科 客員教授(取材時)。早稲田大学法学部卒業後、日本電気(NEC)入社。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ユニデン株式会社人事総務部長、アップルコンピュータ人事総務本部長兼米アップル社人事担当ディレクターを経て独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授などを経て、THS経営組織研究所を設立。立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科客員教授、慶應義塾大学大学院理工学研究科特任教授などを歴任。複数社の社外取締役・監査役を務める。専門はリーダーシップ論、キャリア自律、人材マネジメント。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
リーダーシップの変遷――1.0から4.0へ
小杉氏は、多くの企業研修を通じて受講者のリーダーシップスタイルを分析してきました。その経験から、リーダーシップの変遷を次のように整理しています。
| スタイル | 特徴 | 代表例・時代 |
|---|---|---|
| リーダーシップ1.0(専制君主型) | 権力を背景に「自分の指示どおりにやれ」と指示命令する。リーダーシップの原型 | 王や領主、企業では創業経営者 |
| リーダーシップ1.1(分権型) | 与えられた仕事をきっちりやらせる。権力や権限を背景に従わせる点は1.0と同じ | 機能別組織、事業部制 |
| リーダーシップ1.5(調整型) | 家父長型ともいえる日本的なリーダー。組織を運命共同体とし、「組織のために頑張ってくれ」と導く | 1960年代後半〜90年代初頭。世界のお手本とされた |
| 変革型 | 変革を強く促すリーダー | 1990年代〜。日本の生え抜きトップには合わず、多くが失敗した |
| リーダーシップ3.0(支援型) | 「あなたのやりたいこと、強みを活かしたら何ができるのか」を問い、一人ひとりのポテンシャルを引き出す | 21世紀〜。カリスマ性が不要で誰でもできる |
| リーダーシップ4.0(セルフリーダーシップ) | 組織の全員が自らにリーダーシップを発揮し、自律的に働く | 現在。リーダーシップの最終形 |
注:リーダーシップ3.0®、リーダーシップ4.0®は株式会社経営者JPの登録商標
調整型は日本型経営の象徴として、『エクセレント・カンパニー』や『ジャパン・アズ・ナンバーワン』などでも称賛されました。しかし、それでは会社が立ち行かなくなるとして、1990年代以降は変革型のリーダーが主流になります。日本でも変革型のトップが増えましたが、当時の日本企業の文化で育った生え抜きのトップには向かず、うまくいかないケースが多かったといいます。
支援型リーダーシップ(3.0)が主流に
以前の研修では調整型(1.5)が多かった受講者のスタイルは、この10年で、支援型(3.0)が取って代わったと小杉氏は実感しています。支援型は、一人ひとりと向き合い、強みを引き出すリーダーシップです。カリスマ性がいらないため誰でも実践でき、女性リーダーにも適しているといいます。環境や世代の変化とともに、多くの人に支持されるようになりました。
キャリア自律とは?――会社と個人は「対等」になった
キャリア自律とは、会社に任せるのではなく、自分のキャリアを自らの意思でつくっていくことです。小杉氏は長年その重要性を訴えてきましたが、以前は「それは理想だよね」という反応がほとんどでした。
変化のきっかけは、「人材版伊藤レポート」です。同レポートは、会社と個人は「選び、選ばれる」関係であり、キャリア開発の主体は個人であると明言しました。
| かつての関係 | これからの関係 | |
|---|---|---|
| 会社と個人 | 上下関係。言うことを聞いていれば一生勤め上げられる | 対等な「大人の関係」。選び、選ばれる |
| 雇用 | 新卒一括採用・終身雇用が前提 | 双方の努力が実った結果として長期雇用になる |
| キャリア開発の主体 | 会社 | 個人 |
| 会社に求められること | 社員の面倒を見る | 人材が魅力を感じる仕事・キャリア・職場を提供し続ける |
| 個人に求められること | 我慢して勤め上げる | エンプロイアビリティ(雇用され得る能力)を高める自己投資 |
新卒で入社してから40年以上先まで雇用を保証することは、もはや大企業でも難しくなっています。その時に会社が何をしているのか、そもそも会社が存在しているのかもわからないからです。小杉氏は、双方が努力しなければ、関係は長続きしないと言います。
会社は、人材が魅力を感じる仕事やキャリア、職場を提供し続けなければ、有能な人材ほど辞めてしまいます。個人も、会社が用意する研修だけに頼るのではなく、組織のニーズに見合うエンプロイアビリティを高めるための自己投資が必要です。副業やオンラインMBAなどに自ら取り組む人も増えています。
企業側の受け入れも進んでいます。パーソル総合研究所の調査では、社員の副業を認める企業の割合は64.3%と、2018年の50.9%から上昇し、過去最高となりました。
| 調査年 | 企業の副業容認率 |
|---|---|
| 2018年 | 50.9% |
| 2025年 | 64.3% |
出典:パーソル総合研究所「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」(2025年)
小杉氏は、実はキャリア自律の必要性はずっと前から明らかだったと指摘します。電機業界では事業部ごと売却され、ライバル企業と統合されたり、海外企業の子会社になったりした例が相次ぎました。さらにコロナ禍では、経営トップも上司も「どうしてよいかわからない」状況に直面し、多くの人が自分でどうするかを考えるしかないことに気づいたのです。
社員が何を大切にし、どんなキャリアを望んでいるのかを把握することは、会社が「選ばれる」ための出発点になります。
社員が何を大切にしているかを、データで知る
社員に選ばれる会社であり続けるには、一人ひとりの価値観や働く意識を把握することが欠かせません。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」は、生成AIで従業員の属性や組織の特性に合わせた質問を作成し、組織の状態を迅速にきめ細かく可視化します。
セルフリーダーシップ(リーダーシップ4.0)とは?
小杉氏が『リーダーシップ3.0――カリスマから支援者へ』(祥伝社新書)を書いてから10年がたち、支援型のリーダーは増えました。そこでよく聞かれるのが「その次は何か」という問いです。その答えが、リーダーシップ4.0、すなわちセルフリーダーシップです。
カリスマ性が必要な創業者のようなリーダーシップを、新卒で入社した経営職や管理職が発揮するのは困難です。だからこそ支援型が有効でした。そしてその先には、若い人も含めた組織の全員が自律的に、リーダーのように働くことが求められます。
小杉氏によると、リーダーシップ1.0から3.0までは組織を率いる側の話です。4.0は、すべての組織構成員がリーダーシップを発揮し、自律的に働くことを意味します。早稲田大学大学院の入山章栄教授も、誰もがリーダーシップを発揮する「シェアード・リーダーシップ」がリーダーシップの行き着く境地だと述べており、小杉氏はこれがコンセンサスだと考えています。
「これは、リーダーシップの最終形です。」
――小杉氏
セルフリーダーシップを組織に広げる3つの条件
ただし、セルフリーダーシップは放っておいて育つものではありません。小杉氏は、次のような環境をつくって自律型人材を増やしていく必要があると言います。
- 支援型リーダーの存在:3.0の支援型リーダーが、一人ひとりの自律を支える
- 評価などの組織的な仕組み:自律的な働き方を担保し、報いる評価の仕組みを整える
- 個人の意識:リーダーシップを発揮することは、自分にとって最高の武器になると知る
小杉氏の著書『リーダーのように組織で働く』(クロスメディア・パブリッシング)は、こうした組織と個人のあり方をまとめたものです。
プロ経営者・CxOという「第三のキャリア」
大企業には、自律的に働かず会社任せにしている優秀な人が、活躍の場を得られないまま滞留しているケースが少なくありません。小杉氏は、日本経済全体で見てもったいないと感じ、自らキャリアをつくってプロ経営者を目指す道を示してきました。
生え抜きで社長になるのは宝くじに当たるより難しく、起業して成功するのも簡単ではありません。小杉氏は、雇われて経営を担うプロ経営者、さらに専門領域で活躍するプロのCxOという「第三の道」があると言います。多くのプロ経営者に話を聞くと、新卒で入社するまでは他の人と変わらず、違いは会社での過ごし方にあったといいます。
| 時期 | プロ経営者・CxOに共通する過ごし方 |
|---|---|
| 入社後2〜3年 | 仕事に慣れても手を抜かず、自分の成長曲線を上方に修正して挑戦を続ける |
| 30代 | 何らかの収益責任を負い、経営に必要なスキルやマインドセットを身につける |
| 遅くとも40代前半 | いずれかの企業でプロ経営者やCxOを引き受ける |
プライベート・エクイティ・ファンドからは、「日本にはプロ経営者やCxOの適任者が足りない」という声も上がっており、活躍の場は広がっています。
人事に求められる「越境」と他流試合
小杉氏は、中小・中堅企業の経営者や人事責任者に向けて、人事の多面的な役割を担い、将来はCHROとして戦略人事の実行者になってほしいと語ります。そのために必要なのが、やらなくてもよいところにも一歩踏み出す「越境」です。
- 資本関係のない会社やスタートアップに一時的に移籍する
- 海外、特に途上国で働き、カルチャーショックから学ぶ
- 人事自らが率先して副業に取り組む
- 週末にNPO活動に参加する
自社や業界とまったく違う世界に身を置けば、1年で大きく成長できるといいます。実際に経営者の出世ルートも変わりつつあり、本流を歩んだ人ではなく、子会社から来た人や一度会社を辞めて戻ってきた人がトップになるケースが増えています。そうした人でなければ変革ができないからです。
人事も他流試合に挑み、多様な経験を自らに課していくこと。それが人事として成功するためにも、自身のキャリアにとっても有効だと小杉氏は語ります。
よくある質問(FAQ)
Q. セルフリーダーシップとは何ですか?
A. セルフリーダーシップとは、役職や立場に関係なく、組織の全員が自らにリーダーシップを発揮し、自律的に働くことです。小杉氏はこれを「リーダーシップ4.0」と呼び、リーダーシップの最終形と位置づけています。
Q. リーダーシップはどのように変遷してきましたか?
A. 小杉氏は、権力を背景に指示命令する専制君主型(1.0)、分権型(1.1)、日本的な調整型(1.5)、1990年代以降の変革型、一人ひとりの強みを引き出す支援型(3.0)、そして全員がリーダーシップを発揮するセルフリーダーシップ(4.0)へと変遷してきたと整理しています。
Q. 支援型リーダーシップとは何ですか?
A. 支援型リーダーシップとは、「あなたのやりたいこと、強みを活かしたら何ができるのか」を問うことから始め、一人ひとりと向き合ってポテンシャルを引き出すリーダーシップです。カリスマ性が不要で誰でも実践でき、小杉氏はこの10年で主流になったと見ています。
Q. なぜ今、キャリア自律が必要なのですか?
A. 終身雇用を前提とした会社と個人の上下関係が崩れ、「人材版伊藤レポート」でも、会社と個人は選び選ばれる対等な関係であり、キャリア開発の主体は個人だと明言されたためです。小杉氏は、会社は魅力ある仕事やキャリアを提供し続け、個人はエンプロイアビリティを高める自己投資を続けるという、双方の努力が必要だとしています。
Q. セルフリーダーシップを組織に広げるには何が必要ですか?
A. 小杉氏は、セルフリーダーシップは放っておいて育つものではないとしています。一人ひとりの自律を支える支援型リーダーの存在と、自律的な働き方を担保する評価などの組織的な仕組みを整え、個人にもリーダーシップが自分の武器になることを伝えていく必要があります。
Q. 人事が成長するために何をすべきですか?
A. 小杉氏は、やらなくてもよいところにも一歩踏み出す「越境」を勧めています。資本関係のない会社やスタートアップへの一時的な移籍、海外での勤務、副業やNPO活動などを通じて異文化・異業種を経験することが、人事としての成長にもキャリアにも有効だとしています。
まとめ:全員がリーダーシップを発揮する時代へ
- リーダーシップは、専制君主型から調整型、変革型を経て、一人ひとりの強みを引き出す支援型(3.0)が主流になった
- その先にあるのが、組織の全員がリーダーシップを発揮するセルフリーダーシップ(4.0)。リーダーシップの最終形
- 会社と個人は対等な関係になり、キャリア開発の主体は個人に。会社と個人の双方の努力が欠かせない
- セルフリーダーシップを広げるには、支援型リーダーと評価などの仕組みが必要
- プロ経営者・CxOという第三のキャリアがあり、違いを生むのは会社での過ごし方
- 人事こそ越境し、多様な経験を自らに課すことで、変革を担う存在になれる
会社が社員の面倒を見る時代から、会社と個人が互いを選び合う時代へ。その変化の中で、一人ひとりが自らリーダーシップを発揮できる環境をつくることが、これからの経営と人事の役割です。
自律型人材を支える「評価の仕組み」をつくる
セルフリーダーシップを組織に根づかせるには、一人ひとりの役割を明確にし、自律的な挑戦に報いる評価の仕組みが欠かせません。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、経営に直結する戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援します。
▶ 前編:CHROとは?戦略人事を実現する「人事の5つの役割」と、CHRO人材が不足する理由(内部リンク)
▶ インタビュー全文:誰もがリーダーシップを発揮しながら、自律的にキャリアを開発すべき時代をいかに迎え撃つか(後編)(JOB Scopeマガジン)