社会ネットワーク論とは?「系列」とGoogleに見る経営|広島大学・秋山高志准教授

 

社会ネットワーク論とは、人や組織を「点」、人間関係や取引、資本関係、提携などを「線」として捉え、ネットワーク上のポジションがパフォーマンスにどう影響するかを分析する学問です。広島大学の秋山高志准教授は、効率を重視する時代に日本の強さを支えた密度の高い「系列」に対し、今は業界をまたぐ密度の低いネットワークが求められていると指摘します。

かつて世界を席巻した日本のものづくりは、国際競争で後れを取り、その差を取り戻せずにいます。日本企業の強みだったはずの企業間の結びつきは、今もなお強みなのでしょうか。

本記事では、経営戦略論と社会ネットワーク論を専門とする秋山准教授へのインタビューをもとに、社会ネットワーク論の基本、密度の高い「系列」と密度の低いGoogle型ネットワークの違い、自動車業界のCASEを題材にした研究、「日本企業には戦略がない」という指摘への答え、そして人への投資の減少、労働生産性の低さと低価格競争、生かし切れていない人材の力といった日本企業の課題について解説します。

この記事でわかること

・社会ネットワーク論とは何か――「点」と「線」で企業を見る

・密度の高い「系列」と、密度の低いGoogle型ネットワークの強み・弱み

・CASE時代に成長する企業のポジションと、日本企業が得意な「創発的な戦略」

・日本の労働生産性が低く、低価格競争で勝てない理由

・人への投資の減少と、女性・高齢者・留学生の力を生かし切れていない課題

取材協力:秋山 高志 氏

広島大学大学院 人間社会科学研究科 人文社会科学専攻 マネジメントプログラム 准教授(取材時)。慶應義塾大学経済学部卒業。京都大学大学院経済学研究科で経営学を修める。2004年4月から2007年3月まで日本学術振興会特別研究員。2007年4月広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻助教、2009年4月福島大学経済経営学類准教授を経て、2014年4月より広島大学准教授。2010年7月博士(経済学)取得。研究・教育分野は経営戦略論、社会ネットワーク論。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

社会ネットワーク論とは――人や組織を「点」と「線」で捉える

社会ネットワーク論は、人や組織を「点」、人間関係や取引、資本関係、提携などを「線」として捉え、ネットワークのなかでどのようなポジションにいるかが、その人や組織のパフォーマンスにどう影響するかを分析する学問です。

秋山准教授はこの手法を経営戦略論に応用し、企業同士のつながり方と業績の関係を研究しています。そこから見えてくるのが、ネットワークの「密度」による強みの違いです。

密度の高い「系列」と、密度の低いGoogle型ネットワーク

観点 密度の高いネットワーク 密度の低いネットワーク
代表例 自動車メーカーの「系列」(トヨタ、かつての日産など) Google(検索広告を中核に、自動運転、医療、宇宙、健康、金融など多業種へ進出)
特徴 中核メーカーを中心にサプライヤーが集まる、閉鎖的で継続的な関係 異なる業種との、弱く幅広い結びつき
強み 情報共有が密で効率的 多様な知識や情報を集められ、イノベーティブ
弱み 新しい知識や情報が入りにくい 効率は低い
フィットする場面 「いかに安く作るか」など、目標が明確な場面 新しいことに取り組む場面、目標や進め方がはっきりしない場面

出典:秋山准教授への取材をもとに編集部作成

中核メーカーを中心にサプライヤーが集まる系列は、密度が高く閉鎖的で継続的なネットワークです。情報共有が密で効率的なため、「いかに安く作るか」といった目標が明確な場面で力を発揮し、日本の自動車産業や電気機器産業の強さにつながりました。

一方、Googleのように検索広告を中核としながら多様な業種に進出する企業は、異業種との結びつきが弱い、密度の低いネットワークを持っています。効率は高くありませんが、多様な知識や情報を集められるため、イノベーティブです。

秋山准教授は、効率の面では系列が優れているものの、新しいことに取り組む場合や、目標や進め方がはっきりしない場合には、業界をまたぐ密度の低いネットワークが適していると言います。変化の激しい今は、密度の低いネットワークがフィットする時代なのです(組織の中の人と人のつながりを組織力に変える考え方については、西村孝史准教授の解説記事でも紹介しています)。

研究事例:CASE時代、成長する企業はどのポジションにいるか

秋山准教授が主に研究しているのは自動車業界です。業界変革の象徴である「CASE」(Connected:コネクティッド、Autonomous:自動運転、Shared & Services:シェアリング・サービス、Electric:電動化)の各領域を「クラスター」とみなし、どのクラスターの間で中心的なポジションにいる企業のパフォーマンスが高いかを分析しています。

時期 成長していた企業のポジション
約10年前 「コネクティッド」の一分野に集中するだけで業績が良かった。この分野では中国・韓国企業が強かったが、製品のモジュラー化が進んで誰でも作れるようになり、低価格競争に陥った
現在 「コネクティッド」に加えて「電動化」など、複数の領域で提携している企業ほど成長力が高い

出典:秋山准教授への取材をもとに編集部作成

中国は今やEVで世界トップクラスのシェアを持っていますが、10年前は「コネクティッド」の領域で中心的な位置にありました。一つの領域にとどまらず、複数の領域をつなぐポジションを取れるかどうかが、成長を左右するようになっているのです。

オープン・イノベーション時代の事業ポートフォリオ

秋山准教授は、ネットワーク論を事業ポートフォリオの検討にも生かしています。オープン・イノベーションの時代には、どの技術を自社内に抱え、どの技術を社外から調達するかを見極めることが重要になります。自社がネットワークのどこに位置し、誰とつながるかは、戦略そのものなのです。

どの技術を社内で育て、どこを外部と組むのかを決めれば、それを担う人材をどう確保し、育てるかという人事の課題も変わってきます。

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「日本企業には戦略がない」は本当か――得意なのは創発的な戦略

「日本企業には戦略がない」とよく言われます。秋山准教授は、そうではないと答えます。ただし、欧米に比べて計画的な戦略は策定しにくい傾向があるといいます。

観点 日本企業 欧米企業
得意な戦略 創発的な戦略:事業を進める過程で、現場と経営層が話し合いながら徐々に形成する 計画的な戦略:優秀な経営者やホワイトカラーが決定する
現場の役割 戦略づくりに関わる 決定された戦略に従う
支える強み 現場力の高さ 経営層・ホワイトカラーの意思決定力

出典:秋山准教授への取材をもとに編集部作成

日本企業の強みは、現場の力を生かして戦略を形づくっていける点にあります。この強みを、縦割りや前例踏襲の弊害に変えず、変化への対応力として生かせるかどうかが問われています(日本企業のイノベーションが停滞する理由については、原田勉教授の解説記事でも紹介しています)。

企業間のネットワークの組み方とあわせて、秋山准教授は日本企業が抱える足元の課題にも目を向けます。

日本企業の課題①――人への投資の減少

秋山准教授は、大学教員として企業が人への投資を控えるようになったと感じています。自身の学生時代と比べ、今は企業が大学に教育内容を細かく要望し、「一人前にしてから送り出してほしい」という声が増えました。企業に余裕がなくなったことが背景にあるといいます。

中途採用や契約社員、派遣社員、アルバイトが増えたのも、平均年齢の上昇で膨らんだ人件費の総額を抑える狙いがあると秋山准教授は見ています。学卒一括採用と終身雇用が前提だった時代には、人材育成もしっかり行われていました。

一方で、「教育しても数年で辞めてしまう」という経営者の悩みもあります。仕事だけが自己実現の場ではなくなり、ワーク・ライフ・バランスを重視する人が増えたのは、企業や大学の努力で変わるものではない社会全体の流れだと秋山准教授は言います。入社して数カ月で辞める人が増えている点については、仕事の現実への理解が十分でないまま入社していることも影響しているかもしれないとしています。

日本企業の課題②――労働生産性はOECD38カ国中29位、原因は経営側に

公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2024」によると、日本の時間当たり労働生産性は56.8ドル(5,379円)で、OECD加盟38カ国中29位でした。

指標 日本の数値
時間当たり労働生産性 56.8ドル(5,379円)
OECD加盟38カ国中の順位 29位

出典:公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2024」(2024年12月公表)をもとに編集部作成

秋山准教授は、その原因は働く人ではなく、経営者の側にあると見ています(労働生産性を高める方法については、滝澤美帆教授の解説記事でも紹介しています)。

低価格競争をしても、中国や韓国には勝てない

日本の産業の中心は、GDPの約3割を占めるとされる製造業です。しかし、中国や韓国の台頭によってコスト競争力で劣るようになり、低価格競争に巻き込まれています。

段階 起きていること
① モジュラー化 部品を組み合わせれば誰でも製品を作れるようになる
② コモディティ化 製品の差がなくなり、価格での競争になる。家電ではすでに進んでいる
③ 自動車にも波及 EVはモーターと電池を積めば作れるため、新規参入が増え、価格が下がる
④ 日本の不利 人件費、光熱費、土地代、建設費が高く、コスト競争ではアジア諸国に負けてしまう

出典:秋山准教授への取材をもとに編集部作成

「より良いものをより安く」をやめ、差別化した製品を高く売る

では、どうすればよいのか。秋山准教授は、「より良いものをより安く」という売り方をやめ、差別化した製品をより高く売る意識に変えるべきだと言います。日本では価格に敏感な消費者が多く、値上げをすると企業が批判されやすい面がありますが、秋山准教授は、物価の上昇もある程度は受け入れていく必要があるという考えです。

米国の生産性が高いのは、ITや金融といった分野を押さえ、少ない人数で大きな収益を上げられるからです。ただ、日本がその分野で米国と競うのは難しく、フィンテックやITで戦える日本企業は多くありません。大学のコンピューターサイエンス教育にも課題があり、大学も日本企業への貢献を強める必要があると秋山准教授は指摘します(日本企業の利益率が低い理由については、保田隆明教授の解説記事でも紹介しています)。

日本企業の課題③――女性、高齢者、留学生の力を生かし切れていない

労働力の面でも、日本には生かし切れていない人材がいると秋山准教授は指摘します。

対象 現状 秋山准教授の見方
女性 出産期に労働力率が下がる「M字カーブ」から、正規雇用率が20代後半をピークに低下する「L字カーブ」が課題に 約半数が雇用されていないか、重要なポジションに就いていないのは「もったいない」。もっと活躍の場を広げるべき
高齢者 60歳での退職がまだ多い まだ元気な人が多く、年金の受給開始が原則65歳であることを踏まえても、60歳での退職は早すぎる。より活躍してもらうべき
留学生・外国人 秋山准教授が教える大学院では留学生が約6割。近年は修了後に母国へ帰る人が増えている 日本で働く経済的なメリットが相対的に小さくなっている。「ずっと日本にいたい」と思われる国になることが望ましい

出典:秋山准教授への取材をもとに編集部作成

留学生が日本に残らなくなった背景には、日本と母国との経済的な差が縮まったことがあるといいます。日本が経済的に強くなることが理想ですが、その解決策はまだ見えていないと秋山准教授は率直に語ります。

よくある質問(FAQ)

Q. 社会ネットワーク論とは何ですか?

A. 人や組織を「点」、人間関係や取引、資本関係、提携などを「線」として捉え、ネットワーク上のポジションがパフォーマンスにどう影響するかを分析する学問です。秋山准教授は、この手法を経営戦略論に応用して、企業間のつながりと業績の関係を研究しています。

Q. 「系列」の強みと弱みは何ですか?

A. 系列は中核メーカーを中心にサプライヤーが集まる、密度が高く閉鎖的で継続的なネットワークです。情報共有が密で効率的なため、目標が明確な場面に強く、日本の自動車産業などの強さにつながりました。一方、新しいことに取り組む場面では、業界をまたぐ密度の低いネットワークのほうが適しているとされます。

Q. CASE時代に成長している自動車関連企業の特徴は何ですか?

A. 秋山准教授の研究では、約10年前は「コネクティッド」の一分野に集中するだけで業績が良かったものの、現在は「コネクティッド」に加えて「電動化」など複数の領域で提携している企業ほど成長力が高いとされています。

Q. 日本企業には戦略がないのですか?

A. 秋山准教授は、そうではないとしています。欧米に比べて計画的な戦略は策定しにくいものの、事業の過程で現場と経営層が話し合いながら徐々に戦略を形成する「創発的な戦略」を得意としており、それは現場力の高さによるものだと説明しています。

Q. 日本の労働生産性が低いのはなぜですか?

A. 日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2024」によると、日本の時間当たり労働生産性はOECD加盟38カ国中29位です。秋山准教授は、原因は働く人ではなく経営者の側にあるとし、コストの高い日本が「より良いものをより安く」という低価格競争に巻き込まれていることを指摘しています。

まとめ:業界をまたぐつながりと、「より高く売る」発想への転換を

  • 社会ネットワーク論は、人や組織を「点」、関係を「線」で捉え、ポジションと成果の関係を分析する学問
  • 密度の高い系列は効率に優れるが、新しいことに取り組むときは業界をまたぐ密度の低いネットワークが適している
  • CASE時代は、一つの領域に集中するより、複数の領域で提携する企業ほど成長力が高い。日本企業は「創発的な戦略」を得意とする
  • 日本の時間当たり労働生産性はOECD加盟38カ国中29位。低価格競争をやめ、差別化した製品を高く売る意識への転換が必要
  • 人への投資は減り、女性や高齢者、留学生の力も生かし切れていない

では、単品売りと低価格競争から抜け出し、稼ぐ力を取り戻すために、日本企業はどのような組織を目指せばよいのでしょうか。後編では、アップルとトヨタの例から「組織能力」の正体と、顧客と長く付き合うリレーションシップ・マーケティングについて解説します。

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JOB Scope編集部

Written By: JOB Scope編集部

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