JOB Scope マガジン - コラム

創業108年の印刷会社の3代目が挑むDX(前編)~株式会社ツジマキ~

作成者: JOB Scope編集部|2024/04/11

第9回

中小企業 2代目、3代目
経営者のデジタル改革奮闘記

創業108年の印刷会社3代目挑むDX
~株式会社
ツジマキ(前編)


2024/04/11


 

本シリーズでは業界・業種を問わず、中小企業の2代目もしくは3代目の経営者の経営改革をテーマにする。特に「DX(デジタルトランスフォーメーション)への挑戦」にフォーカスを当てる。ITデジタルの施策に熱心に取り組み、仕事のあり方や進め方、社員の意識、さらには製品、商品、サービス、そして会社までを変えようとしている企業をセレクトする。

 

第1回 株式会社木元省美堂
第2回 株式会社木元省美堂
第3回 社労士法人名南経営
第4回 社労士法人名南経営
第5回 株式会社テクニカ

第6回 株式会社テクニカ

第7回 宮脇鉄管株式会社

第8回 宮脇鉄管株式会社

 

 

今回(第9回)と次回(第10回)では、株式会社ツジマキ(横浜市)の3代目の代表取締役社長である辻巻晋輔氏を取材した内容を紹介したい。 

 

ツジマキは、1916年にシルクスカーフの製版会社として横浜市で創業した。その後、製版技術を応用した「シルクスクリーン印刷業」に業態を変える。独自性のある印刷技術と高い品質を維持しつつ、現在、業態のさらなる変革に取り組んでいる。 

 

辻巻晋輔氏は明治大学を卒業後、PR会社や広告代理店を経て2009年に入社。2代目である父のもと、経営全般を学びながら特に営業に力を注ぐ。2016年に3代目として就任以降、社名を変えたり、売上を3倍に増やすなど積極的で、野心的な改革を次々と試みている。 

 

 

 

01 ―――

創業108年の印刷会社

 

「1916年に祖父が横浜で創業し、今年(2024年)が108年目となります。父が2代目で、私が3代目となります。父の後を継ぎ、社長になったのが2016年です。 

 

横浜は創業の頃から、シルク(絹)スカーフの生産地として知られるようになりました。東京という大きな消費圏があり、横浜港もあり、交通の便がよかったことも影響していると思います。 

 

祖父は、シルクスカーフを印刷する際に必要な捺染版(なっせんばん)をつくる個人商店・辻巻型店をはじめたのです。父が2代目として1950年に法人化し、有限会社辻巻製版所とします。父は後を継いだ頃から、シルクスカーフを印刷する際に必要な版を違う形でビジネスに活かすことができないか、と模索したようです。 

 

当時のシルクスカーフの印刷は季節や時期により、受注する量や額に大きな波がありました。それでは経営が不安定になることを懸念していた、と父から聞いたことがあります。実際、祖父の頃は製版だけでは経営が成り立たないため、取引のあった群馬県の生糸の町に出稼ぎのような形で出向き、働いていた時期もあるのです」 

 




02 ―――

シルクスクリーン印刷を本格化させる  

 

「父は、有限会社辻巻製版所として加盟する製版組合経由で横浜市からの相談や依頼を受け、シルクスクリーン印刷を本格化させました。それが高い評価を受け、仕事を継続して受注します。この印刷は、シルクスカーフだけでなく、たとえば金属、プラスチック、ガラス、陶器、革、木などにも印刷することができるのです。 

 

多くの印刷会社は新聞社、出版社や広告会社から新聞や雑誌、書籍など紙媒体への印刷を受注します。弊社はシルクスクリーン印刷が中心ですから、様々な業界の依頼に応じることができます。これで受注を増やし、毎年、数千万円の売上を維持し、経営がある程度、安定化するようになったのです。 

1989年に消費税が導入された時、会社や家庭で使う電卓の税抜きボタンなどを使う機会が増えました。そのようなボタンの印刷もシルクスクリーン印刷でできることもあり、この時期に依頼が増えたようです。 

 

現在は、「水と空気以外は、なんでも印刷できる」をモットーに、お客様の素材や目的に合わせた最適な技術を提案しています。持込品でも対応できますが、素材の調達から加工までも承っているのです。試作品など、1個から数百、数千、大ロットの依頼まで対応しています。それが可能な技術革新を常に繰り返しています。 

 

最近は、首都圏の競技場や劇場、ホールなどの椅子にたとえば「A‐5」と番号がついていますが、このシルクスクリーン印刷も多数請け負うようになりました」 

 


シルクスクリーン印刷による印刷物

 

03 ―――

シルクスクリーン印刷とは? 

 

株式会社ツジマキによると、シルクスクリーン印刷は“乳剤”と呼ばれる薬液で版上に膜をつくり、“スキージ”と呼ばれる道具を版の上からインクを擦るように強く一定方向に押し当てることで、穴からインクを透過させて、印刷する方法。 

 

特長は紙はもちろん、ガラス、金属、陶器、プラスチック、布地など、他の印刷方法に比べてあらゆる素材への印刷が可能となる。他の印刷方法よりもインクの塗膜が厚いため、インクの隠蔽性が高く、下地の色に影響されずに印刷することができる。 

 


シルクスクリーン印刷による印刷物

 

 

04 ―――

有限会社辻巻製版所から、株式会社ツジマキへ  

 

「2016年に3代目の社長になってからは、まず、社名を変えました。有限会社辻巻製版所から、株式会社ツジマキへ。2016年が創業100年ということもあり、これを機に会社のブランディングをしたかったのです。長い歴史は実績や信用があることを意味しますから、老舗のツジマキに仕事を依頼したいと今後も思っていただけるようになりたいのです。 

 

祖父、父からのDNAや意志、創業者精神は大切にしながらも、150年、200年と経営を続けていくためには、時代とともに業態を変えていくことも必要です。1つの業態を続けていくだけでは、弊社のような規模ではやがては行き詰まるのかもしれません。 

 

社名に「製版」があると、業務内容がそれにしばられるのではないか、とも思いました。確かに製版の仕事を請け負うことはしていますが、それ以外にも幅を広げています。それが功を奏して、売上は2016年の数千万円から2023年には約3倍になりました。正社員は16年当時が4人で、2024年2月現在で9人になっています」 

 

 

 

05 ―――

「印刷にまつわることはなんでもやらせてください」  

 

「売上を3倍にするためには、PR会社や広告代理店に勤務していた時に培った経験やノウハウを十分に活かしました。まず、力を入れたのは積極的な情報発信をして私たちのことを知っていただくことです。

様々な機会を通じて、「印刷にまつわることはなんでもやらせてください」とお願いもしました。

 

ある時、以前から取引のあった大手メーカーから、「カタログの印刷ができますか」と尋ねられたのです。ほかの印刷会社に発注しても、スピードに満足ができないようでした。私は弊社で対応ができると確信しましたから、請け負いました。知り合いの印刷会社の協力を得て印刷し、納品したところ、スピードや質を評価してくださったようです。ありがたいことにその後も次々と発注をしていただいています。 

 

私たちはシルクスクリーン印刷を中心に請け負っていますが、紙の印刷にも対応しています。2016年当時は紙の印刷の売上は毎月平均で数十万円でしたが、2023年はその数倍になりました」 

 

 

06 ―――

展示会に出展し、思わぬ依頼を受ける

 

「私どものシルクスクリーン印刷による印刷物を展示会に出展できたことも大きかったと思います。ツジマキとして加盟する協同組合の理事長に相談をしたら、出展を勧めてくれました。しかもご自身のポケットマネーを出して、支援をしてくださったのです。私たちの熱意を買ってくれたのかもしれません。ありがたく思い、今も感謝をしています。 

 

展示会の開催は2011年3月に発生した東日本大震災の後、しばらく経ったからでした。その頃は、防災があらためて重視されていました。それを踏まえ、私はビルやホールなどの廊下や階段で見かける「非常口」「避難経路」などのプレートや警告案内板を展示したのです。これらは、弊社のシルクスクリーン印刷で対応したものなのです。

 

特殊な成分を含んだインク・塗料を用いて印刷することで、新たな機能・付加価値をもたせることができます。警告案内板は、日没後や夜間は確認が非常に困難です。当社の高輝度蓄光インクは耐水性を備えているため、屋外での使用が可能になります。蓄光式看板の災害時避難場所・津波避難ビルなどへの施設への採用が増えているのです。 

 

後日、ある会社から連絡があり、「こんな模様で印刷ができますか」と打診を受けました。それはシルクスクリーン印刷で対応ができるものでしたからその旨を伝えると、「サンプルで100個を印刷してほしい」と依頼を受けたのです。その出来を評価してくださったようで、1000個の印刷を発注していただきました。お聞きすると、その印刷物はイカ釣りの餌木(えぎ)に使うのだそうです。イカは光るものに反応する傾向があるようです。 

 

依頼を受けた時に「それはできません」と断るのではなく、できるかもしれないと思い、可能性は探るようにしています。お客様が「このように見えたら、いいな」と思うものを見えるようにしてみたいと考えています。「見えない価値」を「見える価値」に創造する、がツジマキの経営理念なのです」 

 

そのような社員たちがそろっているのです。たとえば、「神奈川県優良産業人表彰」を受けた技術者が、お客様の印刷に関する課題を全力で解決し、高品質な印刷をご提供して、社会に貢献できる方法を日々模索し実現します」 



07 ―――

絶え間ない技術革新  

 

「技術革新を続け、次のような印刷もできます。たとえばUVインクジェットプリントは、印刷したメディアにUV光(紫外線)を照射することで、インクを硬化させる印刷方法です。この印刷方法は、シルクスクリーン印刷では再現できないグラデーションや写真など。様々な素材にプリントすることが可能です。

 

 

低溶剤インクを使って、塩化ビニールシートやターポリンなどに印刷することもできます。溶剤系のインクは対候性・耐水性に優れているため、屋外ポスターや車両ラッピングはもちろん、POP、シール、ラベルまで多彩な印刷物の製作ができます」 






08 ―――

当たり前の技術が、ずいぶんと高く評価される

 

「フランスのアパレルメーカーの日本国内でのお店で、私たちの工場の技術者の作業や技術を紹介していたただく機会にも恵まれました。知人を通じてその依頼があった時、技術者をまじえ、社員4人で徹底して話し合ったのです。この機会以降、印刷の仕事の依頼がさらに増えました。 

 

私たちからするとごく当たり前の作業や技術が、ずいぶんと高く評価される場合があることを再確認しました。だからこそ、自らを過小評価しないで情報発信をしないといけないと思っています」 

 

                                               

第10回に続く 

 

第1回 株式会社木元省美堂
第2回 株式会社木元省美堂
第3回 社労士法人名南経営
第4回 社労士法人名南経営
第5回 株式会社テクニカ

第6回 株式会社テクニカ

第7回 宮脇鉄管株式会社

第8回 宮脇鉄管株式会社




著者: JOB Scope編集部
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