第31回

社員が本当に望む働き方とは?

企業ビジョンと個人の価値観のベクトルを合わすために
~対立ではなくアウフヘーベン(止揚)を目指す~  

 

2026/2/13 

 

会社で過ごす時間は、決して少なくはありません。

誰もが「会社で費やす時間が豊かなものであってほしい」と願っているはずです。

 

一方で、経営側の視点は少々シビアかもしれません。

「人件費やオフィス費などの投資をしているので、社員には生き生きと働くだけではなく、最大限に業績をリターンしてほしい」のような本音もあるでしょう。

 

このように「社員vs組織」というのは、対立構造と連携構造の微妙な関係性にあるものです。

その違いは対立を乗り越え、高い次元に引き上げられて全体の中に組み込まれる「アウフヘーベン(止揚)」であることが、強い組織には不可欠でしょう。

 

本記事では、なかなかつまびらかにしにくい社員と組織の連携について、最新のテクノロジーであるAIを活用するヒントをお伝えします。

 

「従来型のサーベイでは、個人と組織の接点を見出しにくい」とお考えの方は、ぜひ当記事をご参照下さい。

 

 

社員が「理想の働き方」を語れなくなった理由

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「あなたの理想の働き方は何ですか?」

 

そう問われて、即座に答えられる人はどれほどいるでしょうか。

 

働き方の多様化が叫ばれて久しい今、私たちはかつてないほどの選択肢を手にしています。

しかし皮肉なことに、選択肢が増えるほど「本当に望む形」が見えにくくなったという声も、一定数聞かれるようになりました。

 

一方で、前述の回答に即答できなかったとしても、働き手は「理想」を見失ったわけではありません。

 

変化の激しい現代において、自分自身の価値観と組織の方向性をどう重ねればよいのか、その正解を語る言葉を失いつつあるのです。

 

本章では、社員が理想の働き方を言語化しにくくなった原因を、二つの視点で掘り下げていきます。

 

人事制度メニューは増えたのに納得感が減っている

働き方改革の旗振りとともに、短時間勤務やリモートワーク、副業の解禁など、多くの企業で人事制度の拡充が進みました。

 

物理的な制約は取り払われ、表面上の自由度は確実に高まったといえるでしょう。

しかし一方で、現場の納得感が比例して高まっているかといえば、疑問が残ります。

 

事実、ある調査によれば日本の従業員エンゲージメント率はわずか6%にとどまっており、これは世界の中で極めて低い水準です。

 

人事制度という器が整っても、肝心の日本のビジネスパーソンには、自律的に沸き起こるモチベーションが乏しいといえます。

 

下手をすると、新しい施策が降りてくるたびに、現場では「また何か新しいことが始まった」という変化疲れが蓄積している光景も珍しくありません。

 

この納得感の欠如は、制度の整備が「外側からの条件提示」に終始してしまったことに起因しています。

 

どれほど手厚い福利厚生があっても、それが社員一人ひとりの内面にある動機や価値観と響き合わなければ、働くことの意味は空文化してしまうでしょう。

 

社員が本当に求めているのは、与えられた選択肢の数ではありません。

その働き方を通じて、自分の人生や大切にしたい価値観が組織のビジョンとどうつながっているのかを感じたいのです。

 

その手応えこそが、今の日本企業が喪失しつつあるものなのかもしれません。

 

組織と個人で見ている視界が異なる

立場の違いが生む情報の非対称性が、対話を「交渉」へと変えてしまったことも、見逃せない要因のひとつです。

 

例えば経営層や管理職は、市場全体や会社の戦略といった鳥瞰的な情報に触れる機会が多くあります。

一方で現場の社員は、自身の業務や顧客、人間関係といったミクロな情報に精通しています。

 

この見えている景色の違いは、あらゆる場面で優先順位のズレを生み出す要因となります。

管理職は未来に向けての戦略としての指示を出すものの、現場は「日々の働き方が変わってしまうのではないか」と、戸惑ってしまうのです。

 

互いが自身の視覚こそが正義であると信じているため、歩み寄る余地が失われてしまうのです。

 

本来であれば「共に理想を創る」ための対話であるはずが、いつの間にか互いの利害を調整する「取引」へと変質してしまうようなことも起こりかねません。

 

この構造的な溝こそが、働き方を単なる条件の奪い合いに留めている一因といえるでしょう。

 

 

企業のビジョンと社員の価値観はなぜ噛み合わないのか  

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働き方を見失いがちな社員に対し、一方的に組織ビジョンを押し付けても、あまり効果はありません。

 

たとえ崇高なビジョンがあったとしても、現場では他人事として受け止められることもあります。

 

それは言葉の正しさの問題ではなく、受け取る側との間に横たわる情報の断絶に原因があります。

 

 

ビジョンが「正しい言葉」すぎて響かない

多くの企業が掲げるビジョンは、社会正義や美しい理想に満ちています。

 

しかし、その言葉が正しすぎるがゆえに、社員が個人の実感や日々の苦労と結びつかないことが少なくありません。

 

よくあるギャップのケース

・「人的資本経営」「働き方改革」など、世間で良く見聞きする潮流を頻繁に取り入れ、

社員は自社の人事ポリシーが分からなくなってしまう

 

・経営が海外成功企業などのビジョンを参考にして未来を語るほど、目の前の不合理に苦

しむ社員の心は離れていく

 

このように理念やスローガンを並べるだけでは、社員は「自分事」として捉えることは難しいでしょう。

 

 

ビジョンが各々の判断で「翻訳」されてしまう

会社という組織には、職種ごとに異なる成功の定義が存在します。

 

例えば、営業は短期の数字、開発は品質といったミッションの非対称性は、部門ごとの独自価値観を育てます。

これを組織行動学では「サブカルチャー化」と呼び、相互理解を難しくさせる要因となります。

 

よくあるギャップのケース

・「社会に新しい価値を提供する」というビジョンを掲げているが、その実現手段として

営業部門では新規顧客開拓に奔走し、開発部門では海外の新しい技術をリサーチする

 

・新入社員研修ではビジョンが丁寧に説明されるが、配属後は評価や業務の話ばかりが中

心になる。時間が経つにつれ、ビジョンは「入社時に聞いた話」として、記憶の奥に追い

やられていく

 

職種や立場の違いによって、会社のビジョンをある程度翻訳することは自然なことでしょう。

 

しかし経営や人事が違いを放置しているだけでは、極端なケースでは「社員個々人でバラバラに企業ビジョンを解釈する」ような状態に陥ってしまいます。

 

 

ビジョンを捉える根幹が組織と個人で異なる

経営層や管理職は、マーケット全体や中長期の経済予測といったマクロな情報をもとに、ビジョンを描きます。

一方、現場の社員は目の前の顧客やチーム内の人間関係といったミクロな情報の中で、自らの理想や価値観を見出します。

この見ている視界の違いは、ビジョンの意図と現場の優先順位のギャップとして、判断のズレを生む要因となります。

 

よくあるギャップのケース

・経営は20年後を見越して「挑戦を歓迎する」というビジョンが掲げられているが、社

員は目の前の人事評価を気にして無難な行動を選択する

 

・経営は「顧客価値の最大化」を語る一方、現場では顧客対応で迷ったとき、社員はビジョンではなく、KPIの達成を基準に判断している

 

 

お互いに自身の見ている景色を正義とするため、齟齬の認識はなかなか重なりにくいものです。

 

 

社員は何を基準に「ここで働き続けたい」と判断しているのか

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ビジョンが社員に浸透していない状態は、可視化がしにくいこともあり、なかなか優先的に手を打てないという企業も多いようです。

 

しかしリスク目線で考えると、この状態を放置すると社員が自社を諦める、つまりは退職という選択につながってしまいます。

 

本章では、社員が最終的にどのような場面で退職を決めるかというリアルな瞬間に注目しました。

 

ビジョンの浸透が、最終的に社員のエンゲージメントにどうつながるかを考えながら、ご一読下さい。

 

 

物理的な「環境」よりも、精神的な「納得感」があるか

かつては給与や休日数といった条件面が、働き続けるための主要な動機でした。

 

これらはハーズバーグの二要因理論では「衛生的要因」に該当し、不満にはつながるもののモチベーションの向上には寄与しないといわれています。

 

働くうえでの選択肢が飽和した現代において、衛生的要因のような「あって当たり前」の前提条件に力を注いでも、社員エンゲージメントにはあまり効果がありません。

 

社員が真に求めているのは、自分の仕事が誰の、何のために役立っているのかという「納得感」でしょう。

 

どれほど効率的なシステムや便利な制度があっても、その先に「手応え」が感じられなければ、仕事は単なる作業へと形骸化していきます。

 

社員は日々、目の前の業務が自分の信じる価値観と地続きであるかどうかを、シビアに見極めています。

 

 

自分の価値観が「受容」されているか

「ここで働き続けたい」という意志は、組織の中で「自分が一人の人間として認識されている」という実感から生まれます。

 

シビアな見方をすると社員を「役割」や「数字」として捉えることも、事業経営上やむなしといえるでしょう。

しかし、社員一人ひとりにはそれぞれの生活があり、守りたい価値観やライフプランがあります。

 

自分の個人的な理想やキャリアの不安を口にしたとき、それが「組織の論理」で切り捨てられるのではなく、一度はありのままに受け止められる。

このような「受容」のプロセスこそが、組織への帰属意識(エンゲージメント)を育む土壌となります。

 

「本音を言っても大丈夫だ」という確信が持てたとき、初めて社員は組織のビジョンを自分事として捉え直す余裕を持てるのです。

 

 

会社との関係性が「条件」から「共感」になっているか

社員が「ここで働き続けたい」と心から思う瞬間、会社との関係は「労働と対価の交換(条件交渉)」を超え、「目的の共有(共感)」へと昇華します。

 

・自分の強みが、組織の課題解決に直結していると感じられる

・会社の目指す未来が、自分の描く理想像と重なっている

・失敗を恐れず、本音で議論できる仲間がいる

 

こうした「手応え」の積み重ねが、条件の良し悪しに左右されない強固なエンゲージメントを形成します。

 

社員間で組織と自分のビジョンの接点が日常的な会話で出てくる状況になれば、実はどのような有利な労働条件よりも、社員のリテンション効果は高いでしょう。

 

 

AIの技術が、組織と社員の情報の非対称性を解消できる

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これまでの章で浮き彫りになったのは、経営と現場の間に横たわる「情報の非対称性」や、本音を飲み込まざるを得ない「心理的障壁」でした。

 

この点を解消すべく、日本企業でも従業員満足度調査やエンゲージメントサーベイを取り入れてきました。

 

しかし、画一的な従来型サーベイでは、組織内のセンシティブな課題解決には限界があります。

 

これらを根性論や場当たり的な面談で解決しようとするのではなく、テクノロジーによって解消できるのが、生成AIです。

 

本章では、これまで曖昧に放置されてきた社員個人の想いを、組織を動かす力へと変換できる、AIが果たすべき役割を紹介します。

 

 

生成AIが「個人のつぶやき」を「組織の資産」に変える

従来の組織サーベイの多くは、選択肢式の回答を集計するに留まっていました。

 

しかし、社員の真の理想や違和感は、自由記述欄の「行間」や、日常の何気ない対話や表情の変化の中に隠れています。

 

生成AIは、膨大なテキストデータから文脈を読み解き、個人の主観的な「つぶやき」を、組織が向き合うべき「共通課題」へと昇華させます。

 

【AIを活用した具体例】

・部門や年次をまたいで、フリーコメント欄に「もっと効率的に働きたい」という声が多いことが発見できた

 

・ある社員の不満を発見したことで「業務プロセスの改善案」という組織的な改革につなげられた

 

 

属人的なマネジメントの限界を、客観的なデータで突破する

現場の納得感は、往々にして直属の上司の「聞く力」に依存しがちです。

 

しかしマネジャーも人間である以上、部下の本音をすべて汲み取るには限界があります。

 

AIによる客観的なスコアリングは、マネージャーの主観というフィルターを排し、組織の「健康状態」を等身大に映し出します。

 

【AIを活用した具体例】

・「うちのチームは風通しが良い」と自負していたマネジャーが、AI分析により「特定の若手層にだけ心理的安全性が欠如している」という事実に気がつけた

 

・経験則による「勘」に頼っていたベテラン管理職が、AIによる組織改善アドバイスに素直に耳を傾けるようになった

 

 

「社員の理想」を経営の言葉につなげるAIの役割

社員が語る「私らしい働き方」と、経営が語る「事業成長」は相反するものなのでしょうか。

 

一見すると統合が難しいこの二つの言葉を、AIは共通の指標で繋ぎ合わせます。

 

社員の価値観がどのビジョンに共鳴し、どこで乖離しているのかを可視化することで、経営は「現場に届く言葉」を選び直すことができるのです。

 

【AIを活用した具体例】

・経営が「挑戦」を掲げる中、現場は「失敗への減点評価」を恐れて萎縮しているという構造が浮き彫りになる

 

・AIの分析を基に、経営側が「挑戦の定義」を現場の納得感がある形へと再定義する

 

 

「生成AIワークバリュー・スコア分析」なら組織と社員の価値観が接続できる 

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組織と個人の溝を埋めるためには、前提として社員が「本音で」サーベイに回答することが前提条件となります。

 

従来型の画一的なサーベイでは、回答者の心理的バイアスなどが左右し、社員の率直な気持ちを引き出すには限界がありました。

 

そこで力を発揮するのが「生成AIワークバリュースコア分析」です。

 

なぜならAIが最も得意とするのは、相手の状況に応じた情報収集に長けている点だからです。

 

例えば「生成AIワークバリュースコア分析」では、回答者の属性(入社年次・所属部署など)のみならず、心理状態(やる気がどの程度あるのか、など)に合わせて、AIが最適な質問を自動的に抽出します。

 

さらに「年に1回実施の定点観測」ではなく、パルスサーベイのようにリアルタイムで問うことで、社員自身も気付いていないわずかな変化も察知が可能です。

 

社員個々人が本音で回答したスコアを「組織ビジョンとの接点」で捉えることで、優先的に手を打つべき点が見つかることでしょう。

 

生成AIによって組織ビジョンの社員浸透度を確認

双方が納得できる環境整備の第一歩に!

・日々の社員コンディション変化を可視化する『生成AIワークバリュー・スコア分析』

 

・従来型の画一的なサーベイ設計ではなく、社員個々人の立場や心情に寄り添いながら、

社員のコンディション把握が可能

 

・「ビジョンへの納得」を直接問うのではなく、社員の日常的なコンディションに絡め

て、浸透度を確認できる

 

▶▶『生成AIワークバリュー・スコア分析』の詳細はこちらをご覧ください

 

 

まとめ:誰も悪くないからこそ、接点を見出すスタンスこそが重要

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本記事を通して見てきたのは、組織の中に横たわる「情報の非対称性」という抗えない構造でした。

 

階層の違い、部門ミッションの違い、年齢の違い…、組織内には情報の「見ている前提の違い」を生む要因がいくつも潜んでいます。

 

究極的には、社員一人ひとり観ている視界は異なるため、同じ情報を見聞きしたとしても、何を感じるかは変わるでしょう。

 

この見えている景色の違いは、どちらかが間違っているわけではなく、誰も悪くありません。

 

しかし、その断絶が放置されることで、いつの間にか対話は冷淡な「取引」へと変質し、社員は自らの理想を語る言葉を失ってしまったのです。

 

量子力学の父であるニールス・ボーアは、次のような言葉を残しています。

 

「浅い真理の反対は誤りであるが、深い真理の反対は、もう一つの深い真理である」

 

経営が掲げる「事業成長という真理」と、社員が願う「自分らしい働き方という真理」。

この二つは本来、対立するものではなく、どちらも組織にとって欠かせない「深い真理」です。

 

AIという「通訳者」を介して、互いの景色を認め合い、歩み寄る。

そのプロセスこそが、形のない組織に血を通わせ、より高い次元で両立させるアウフヘーベンに導く第一歩となるでしょう。

 

 

 

 

※生成AIワークバリュー・スコア分析は、デフィデ株式会社の登録商標です。

 

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著者: JOB Scope編集部
新しい働き方、DX環境下での人的資本経営を実現し、キャリアマネジメント、組織変革、企業強化から経営変革するグローバル標準人事クラウドサービス【JOB Scope】を運営しています。

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