第29回
データドリブンな人事の第一歩は“組織”に着目すべき!
~勘と経験の人事施策から脱却するための可視化という武器とは~
2026/1/30
「あなたの会社で今、最も課題の優先順位が高い部門はどこか?」と聞かれたとき、迷いなく答えられるでしょうか。
多くの人事は、答えられる“つもり”でいるかもしれません。
ですが本当は、管理職・現場・バックオフィスで、それぞれ違う景色を見ています。
誰も悪くないのに、誰も全体を掴めていない——そんな会社が想像以上に多いのです。
「組織」というものは形がないものなので、例えば「疲弊しきっている社員A」のように具体的な現象として見つけにくいものです。
だからこそ、組織の課題に優先順位をつけるには、可視化が不可欠といえます。
本記事では、「強みと課題をスコアで読み解く」データドリブン人事の核心に迫ります。
組織的な課題は「声の大きい部署を優先しがち」「役員の主観で決めがち」という現象に思い当たる方は、ぜひ当記事をご参照下さい。
なぜ組織の現状把握・可視化は難しいのか?
社員個人へのマネジメントやフォローは重要ですが、全てをマクロ的な視点で施策を展開すると、どこかで限界も生じます。
また、社員の個別事情に目が向きすぎて、組織的な課題や施策が見えなくなる状態にも陥ってしまいます。
本章では、組織の現状把握や可視化を難しくしている理由を、2つの観点から掘り下げます。
感覚と声量に頼る組織運営に慣れているため
組織の現状把握が難しい最大の理由は、情報が平等に扱われていないことにあります。
特に日本企業では、意思決定が「感覚と声量」に強く影響されがちです。
そのリスクとして、People Analyticsの代表的研究では「感覚ベースの判断は、意思決定の質を20〜30%下げる」と警鐘が鳴らされています。
参考:Bersin by Deloitte, 2020|Saba
例えば意思決定の質を下げる例として、以下のような声が大きい部門の要望を「組織的な課題だ」と思い込むような現象が挙げられます。
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・営業:数字を根拠に意見を言いやすい ・開発:論理や他社研究をもとに課題を主張しやすい ・経営管理部門:経営との距離が近く声が届きやすい |
どの企業にも「発信力の強い部署」が存在するでしょう。
このような部署は意見が通りやすく、結果的に「困っている度合い」が高く評価されます。
一方で、業務量は多いのに表に出る機会が少ない部署、たとえばバックオフィスやサポート部門では、課題を抱えていても声が届きにくい状況に追い込まれます。
発信力によって課題の重みが変わってしまうのは、組織という漠然としたものを扱う以上、気を付けたい現象です。
これは、人事が「最も解消すべき組織課題」を誤認する典型的な構造といえるでしょう。
静かに疲弊し続ける組織が存在するため
前章のような風土を前提とした場合、声が弱い部署はどのような状況に追い込まれるのでしょうか。
少々極端な例かもしれませんが、声量が小さい部署は、次のような好ましくない状態にさらされがちです。
・自己解決してしまう文化が強く、課題を外に出さない
・「どうせ変わらない」という諦めの文化が根づく
・意見を出す心理的ハードルが高く、本音が可視化されない
問題は深刻なのに「静か」であるからこそ、誰にも気付かないうえに、重要視されない状態に陥ります。
自ら声を上げない組織を見つけるためには、何らかの可視化の仕組みが必要となるのです。
やみくもにHR施策を進めると、対策そのものが組織課題を深刻化させるリスクも抱えるでしょう。
組織の可視化を軽視すると起こるケース4つ
前章のような組織課題をないがしろにしていると、具体的にはどのようなことが起こるのでしょうか。
同じ会社で働いているはずなのに、経営・人事・現場がまるで別々の景色を見ている——
そんな感覚を抱いたことはありませんか。
可視化を軽視している組織は、実は“地図のない旅”をしているのと同じです。
方向だけは決めているつもりでも、いざ歩き出すと、どこで迷っているのか誰もわからない状況といえるでしょう。
この章では、地図がない組織がどれだけ危うい状態なのか、いくつかのケースを通して見ていきます。
自社でも似たような現象・風景がないかを考えながらご一読下さい。
ケース① 優秀な若手が静かにフェードアウトする組織
とあるIT企業のA社。
離職率はそこまで高くなく、表向きは「落ち着いた組織」といえる。
ただし、入社3〜5年目の優秀な若手だけが、なぜか毎年抜けていく。
理由をヒアリングしても、返ってくるのはこんな言葉だけ。
「いや、特に不満はないんですけど……」
「ここにいても、自分が伸びる感じがしなくて」
人事は原因がつかめず、上司は「最近の若者は」と諦める。
でも、本当の問題はもっと深いところにあった。
のちにA社では従業員意識サーベイを導入し、自由記述コメントを分析すると、若手の多くが
「期待されている基準がわからない」
「成長実感がなく、数年後の自分の姿が見えない」
「挑戦する風土や、そもそも挑戦する余力もない」
と感じていたことが浮かび上がったのだ。
つまり、定量化・可視化しない限り、若手の不満は静かに・気づかれないまま積もっていくという典型例だったのだ。
ケース② スコアの構造のズレが組織間対立に発展
あるメーカーでは、毎月の部門横断会議がいつも不穏な空気に包まれていた。
営業は売上と商談数で話し、開発は稼働率とリリース品質で語り、管理部門は予算執行の進捗を淡々と示す。
「数字は並んでいるのに、誰も同じ話題をしていない」ような不協和音が生じていたのだ。
理由は、そもそも部門ごとに「指標のフォーマット」が違っていたからだ。
さらに厄介なことに、その指標データは「更新頻度も違う」「定義もバラバラ」「計測方法も統一されていない」状態だった。
たとえデータが揃っていたとしても、結局議論する人々が「同じスコア」を見ていないと、議論は着地しない。
このケースは現場の一例だが、よりセンシティブな内容となる人事関連の議論であれば、同じスコアを見る重要性はさらに増すだろう。
ケース③ 施策の優先順位が毎年ブレる人事組織
「今年は1on1ミーティングを導入しよう」
「やっぱり心理的安全性を高めることが先決だ」
「いや、エンゲージメントサーベイで現状把握が大事だ」
人事の施策が毎年入れ替わる会社は、少なくはない。
特に昨今は「人的資本経営」などの大きな潮流を受けて、人事は最新のHRトレンドに右往左往しがちだ。
このような「場当たり的な人事施策」が横行する、根本的な原因はただひとつ。
共通で議論できる可視化された地図がないため、何が一番の課題なのかが、誰にも分かっていないことだ。
その状態で人事施策の優先順位を議論すると、各人の思い込みや主観ばかりをぶつけあうことになり、建設的な結論は出ないだろう。
こうして毎年方針が異なる施策が展開されることに、現場は疲弊してしまい「また何か新しい取り組みが始まったらしいよ」という諦めが組織に染み込んでいくのだ。
ケース④ 困っている部署が最後まで救われない組織
ある企業では、「営業担当の疲弊が深刻」と管理職が主張し、会社を挙げて営業プロセスを支援する施策を導入した。
しかし従業員意識調査サーベイを取ってスコア化した結果、最も疲弊していたのは営業企画というバックオフィス部門だった。
新しい営業プロセス支援のシステムを操作するのは、営業企画の担当だ。
営業からは「こんな情報が欲しい」「顧客分析をしてくれないか」などのオーダーが舞い込み、営業企画では心身ともに疲弊状態が続いていた。
だが、もともとサポーティブな部署であるので、「営業担当のためなら」と笑顔でどんどん依頼を受けてしまっていたのだ。
なかには、メンタルヘルスを発症するメンバーもいたそうだ。
可視化化しない限り、本当に助けるべき部署が永遠に後回しになるという典型例だろう。
何を可視化・スコア化すべきなのか?
~組織を揺さぶる3つの変数とは~
前章で紹介したケースのように、組織の状態をスコア化しないと「暗黙の了解」などの組織の力学をもとに、多くの齟齬が起こってしまいます。
では、この「見えないまま走るリスク」を避けるために、私たちは何をスコア化すべきなのでしょうか。
重要なのは、スコア化できるものすべてが、組織を動かす本質的な要因とは限らないことです。
むしろ、多くの企業は「測りやすいから測っている」だけで、本当に見るべきもの見落としているのかもしれません。
本章では、組織行動論と人材マネジメント研究で「再現性を持って測定できる」と認められた、3つのコア指標に絞って解説します。
社員の価値観(ワークバリュー)
企業が最も見落としがちではあるもの、社員モチベーションに不可欠な指標が「価値観(ワークバリュー)」です。
人は、自分が大切にしたい価値と噛み合わない環境では、パフォーマンスを発揮しにくくなります。
それにもかかわらず、多くの企業ではこの「価値観のズレ」が見えないまま議論が進んでしまいます。
心理学者Shalom H. Schwartz(1992)の「基本的価値観理論」では、人間の価値観は10の普遍的カテゴリーに分類できるとされています
具体的には、以下のようなカテゴリーが挙げられます。
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- ・「自方向性」…自分で決めて動くことを大切にする
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- ・「達成」…成果を残すことにやりがいを感じる
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- ・「互恵性」…人の役に立つことに価値を置く
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- ・「伝統」…秩序や安定を重視する
同じ会社の中でも、年代や部署によって重視する価値は大きく違います。
例えば、ある若手社員は「裁量」を何より重視しているのに、上司は丁寧な指示を与えることでサポートしているつもり、などの現象です。
このような働く価値観は、当たり前ですが、目視で確認できません。
だからこそ、自分が持っている価値観を無意識に投影して「相手にとってもこれが最適だろう」というズレが生じてしまうのです。
「見えない衝突」を事前に発見するためにも、価値観は可視化の本質的な対象といえるでしょう。
行動兆候
さらに把握すべきなのは、社員の行動パターンでしょう。
社員はある日いきなり「退職」や「メンタルヘルス」のような極端な行動に走るわけではありません。
その一歩目は、日常の言動の細かい変化にあらわれるはずです。
ところが、上司は常にメンバーの行動を見守っていられるわけではありません。
もしかすると本人ですら、自分の行動の変化に気付いていないケースもあります。
例えば、こんな些細な変化に心当たりはありませんか?
- ・定例会議で徐々に発言数が減る
- ・チャットメッセージの返信にタイムラグが出る
- ・会議のカメラがオフになりがち
- ・ネガティブな言い回しが増える
これらは単なる個人の行動変化のみならず、「チームの温度が下がりはじめたサイン」と見なせます。
MIT Media Labの研究でも示されているように、「発言の減少」や「曖昧な表現の増加」は組織疲労の初期兆候であるとされています。
この「兆候の可視化」は、管理職の勘や経験に頼るだけでは、察知が難しい領域です。
組織的なデータで可視化されてこそ、見える領域といえるでしょう。
コンディション(感情・負荷)
最後に重要となる観点が、社員のコンディションに関するスコアです。
コンディションには体調だけではなく、感情の揺れ、業務負荷、疲労度、満足度といった変数が含まれます。
例えば、あるバックオフィスの社員はこう語っていました。
「仕事は好きです。でも、毎日小さな火消しで終わってしまうんです。
気づいたら、楽しいと感じた記憶がどこかに行ってしまって・・・・・・。」
こうした状態を「なんとなくの元気がないだけ」として放置すると、半年後には離職意向へと転じるリスクもあります。
このような機微を含めたコンディションチェックも、可視化の優先順位が高い領域でしょう。
例えばパルスサーベイのような日常的なサーベイを用いれば、「先月までは毎日仕事に前向きと回答していたA社員の平均値が、今月から低下している」のような定量化が可能です。
スコアを“物語”として扱う視点がデータドリブンな人事には不可欠
ここまで触れてきた可視化にともなうスコアとは、ただの数字や定量化データではありません。
そのスコアに至る背景には、そのチームがどんな日々を過ごし、どんな葛藤を抱え、何に力を注いできたのか——そんな“物語の断片”が潜んでいます。
問題は、「点数が高いか低いか」ではなく、「なぜ」その数字になるのかです。
例えば、ある部門のスコアが急に落ちたとします。
スコア数値にだけに着目していると「モチベーションが低い社員が集まっている」や「採用や配属ミスがあったのか?」と拙速な結論に至る人事も少なくはありません。
これでは、決してデータドリブンな人事とはいえません。
スコアの裏側には新人リーダーとのミスコミュニケーションや、繁忙期でのリソース不足が隠れていることもあるからです。
一方で、チーム間コミュニケーションスコアが安定的な高い組織があったとします。
それは単なる「仲が良い組織」だけではなく、日常の小さなフィードバックや、メンバー間のレビュー文化の積み重ねが影響しているかもしれません。
つまり、スコアを見るという行為は、「組織の呼吸を聞く」ようなものなのです。
スコア化は声量の差を消して、困っている部署を公平に見つけるための装置でもあります。
数字の上下だけに一喜一憂するのではなく、その背後にある“物語”を拾い上げていくことこそ、データドリブンを標榜する人事が最も大切にすべき観点でしょう。
生成AIワークバリュースコア分析なら、組織の“物語”が解釈できる
スコアを“物語”として扱うためには、前提として「正しいスコア」を取得することが不可欠です。
従来型の画一的なサーベイでは、回答者の心理的バイアスなどが左右し、本音を引き出すには限界がありました。
そこで力を発揮するのが「生成AIワークバリュースコア分析」です。
AIが最も得意とするのは、相手の状況に応じた情報収集に長けている点です。
例えば「生成AIワークバリュースコア分析」では、回答者の属性(入社年次・所属部署など)のみならず、心理状態(ヤル気がどの程度あるのか、など)に合わせて、AIが最適な質問を自動的に抽出します。
社員個々人が本音で回答したスコアを「組織」ごとに捉えることで、初めて人事や経営は「この組織では何が起こっているのだろう?」と、物語を推察することができるでしょう。
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生成AIによって部門ごとの打ち手の優先順位を可視化、 建設的な議論ができるデータドリブンな組織に! |
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※当連載では、なぜ現代マーケットで生成AIによるエンゲージメント把握が有効なのかについて、シリーズ記事でお伝えしていきます。
従来型のサーベイでは限界を感じている経営・人事部門の方は、ぜひ引き続き今後も記事をお読みください。
まとめ:形が見えにくいからこそ、組織のストーリー(物語)に着目すべき
日本企業は「あの会社はエネルギッシュだね」というように、法人格に人格を付与する独自の文化があります。
実は企業内の組織も同じで、「営業は元気がいい」「開発は頑固者が多い」などという表現を聞かれる方も多いのではないでしょうか。
このような表現をさらに紐解いていくと、以下のような解釈が成り立ちます。
・営業は自社業績を牽引するプレッシャーが多いから、明るく振る舞いがち
・開発は企業成長を支えた自負があるため、大事な技術を守りがち
企業の歩みに沿わせた組織ごとのストーリーがあり、それらが「あの部署は〇〇」という風土につながっているのです。
このようなイメージは暗黙の了解になっているからこそ、あらためて組織間の打ち手を検討する際には阻害要因になるケースもしばしばあります。
データドリブンな人事とは、一度このような前提を取り去り、つまびらかにデータを眺めることです。
そして「組織の背景を踏まえると、このデータが語っているものは何か?」と、背景に思いを馳せることに真価があります。
組織開発の原則として「組織は、観察されると変わり始める」というものがあります。
見えないからといって「組織」という単位で観察することを放棄すると、安定的な企業成長の足枷になってしまいます。
むしろ組織に精通している会社の人事という「組織」こそ、会社内の組織の背景にあるストーリーを解釈できる存在となります。
単なる「可視化」という状態に留まらず、その可視化されたデータを通訳できる状態になれれば、さらに未来に向けての新しいストーリーを紡ぐことができるのではないでしょうか。
※生成AIワークバリュー・スコア分析は、デフィデ株式会社の登録商標です。
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