第27回
多様性の時代、部門ごとの温度差はなぜ生まれるのか?
──ワークバリュー・スコアで“組織のすれ違い”を可視化する
2026/1/16
ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスが叫ばれる昨今、御社の「多様性」は、組織を強くしているでしょうか?
それとも、部門ごとの“温度差”を広げてはいないでしょうか。
近年、多くの企業では「多様性(ダイバーシティ)」をイノベーションの源泉として推進してきました。
しかし、その多様性は、異なる部門や職種の間で「エンゲージメントの分断」という予期せぬリスクを生み出しているかもしれません。
組織学習論の権威ジェームズ・G・マーチは、「曖昧さ(Ambiguity)」こそが、組織が自らの意思を見失う要因だと指摘しました
参照:A Primer on Decision Making | Simon & Schuster
日本企業における“部門間に漂う沈黙”も、まさにその延長線上にあるといえるでしょう。
多様な知恵と視点を持つ部門が、なぜ一枚岩として機能できないのか。
その答えは、互いの「価値観」や「動機づけ」を理解するための「共通の土台」がないままに、議論を進めている点にあります。
本記事では、この「見えない防衛線」を突破し、組織の対話に共通土台となるAIを活用した革新的アプローチに焦点を当てます。
データを“壁”ではなく“橋”に変える。
それが、組織の断絶を希望へと変える第一歩です。
部門の温度差が示す“見えない断層”とは
「経営層・人事部門・管理職・現場が同じ方向を向いていると感じられない」
コロナ禍で社員が同じオフィスに集うことが当たり前ではなくなった頃から、そのような声が多く聞こえるようになりました。
ある調査によると、日本の従業員エンゲージメント率はわずか6%程度。
世界140か国の中でも最低水準という結果でした。
参照:Gallup(2024)日本の従業員エンゲージメントはわずか6%
この数字は「日本の組織全体が冷え込んでいる」とも読み取れますが、実際にはこの結果には部門ごとの温度差が影響を与えています。
営業は目の前の成果を追い、開発は品質を積み上げ、管理部門は統制を守るー
それぞれが正しい努力をしているにもかかわらず、ベクトルが微妙にズレることで「成果の断層」が生まれてしまうのです。
こうした小さなズレが積み重なると、「経営の意図が伝わらない」「現場の不満が届かない」といった信頼の断絶に発展します。
心理学者Amy Edmondson(2018)は著書『The Fearless Organization』で、心理的安全性の欠如がチームの創造性を奪うと指摘しています。
声を上げにくい環境では、社員はリスクを避け、挑戦を控えるようになります。
その結果、現場は静かに硬直化し、やがて「沈黙の構造」が固定化してしまうのです。
理念やスローガンだけでは、こうした構造的なギャップを埋めることはできません。
必要なのは、「どこに温度差があり、何が共感を阻んでいるのか」を見える化する仕組みです。
なぜ部門ごとに「意識のズレ」が生まれるのか
本章では、部門による温度差が生まれる二つの大きな要因について触れていきます。
部門による業務構造やミッションの違い
会社には多様な部門が存在しますが、それぞれの「成果の定義」と「成功の指標」は異なります。
「経営ビジョンの達成」という最終目的は共通でも、営業は短期的な数字の達成を、開発は長期的な品質と技術力の向上を、管理部門は制度と安定の維持を重視します。
このようなミッションの非対称性は自然なことですが、やがて「評価の物差しの違い」が協働を阻む壁をつくります。
組織行動学では、こうした現象を「サブカルチャー化」と呼びます。
部門単位で独自の価値観が形成され、相互理解が難しくなるのです。
それが進行すると、予算や人員を巡る対立、施策の優先順位をめぐる不協和など、
いわば“静かな縄張り争い”が起こります。
結果として、会社全体の推進力が分散し、同じ目的を掲げながらも別々の方向に進んでしまうのです。
心理的安全性の欠如と“停滞の文化”
Googleが実施した「Project Aristotle」の研究では、高業績チームの最大の共通点として「心理的安全性」が挙げられました。
しかし、日本企業では「波風を立てない」「他部門の領域に踏み込まない」など、暗黙の了解文化が根強く残っています。
この文化が続くと、現場の課題は上層に届かず、上層の方針も現場に浸透しません。
やがて「人事は現場をわかっていない」「現場は経営方針を理解しない」という不信の連鎖が生まれます。
“口を出さない”は摩擦を避けるための一時的な防御策ですが、長期的には組織を蝕みます。
意見を言えない環境は、挑戦を封じ、イノベーションの芽を摘んでしまうからです。
だからこそ今、求められているのは“社員の声の可視化”です。
感情や価値観といった曖昧な領域を、データとして見える化するアプローチこそが、ワークバリュースコアの真価なのです。
「意識のズレ」がもたらす3つの経営リスク
部門間の温度差を放置すれば、組織の一体感が失われるだけでなく、業績や人材の定着にも影響を及ぼします。
本章では、3つの主要なリスクを紹介していきましょう。
信頼の断絶による離職リスク
もともとエンゲージメントが低い日本企業では、信頼感が損なわれると、会社を離れるという行動につながりがちです。
アジャイルHR(2024)の全国調査によれば、「会社への帰属意識」や「上司への信頼度」の低さが、とりわけ低い水準にあります。
参考:アジャイルHR(2024)全国1万人!従業員エンゲージメント調査
特に20〜30代の若手層では、「自分の努力が正当に評価されない」「上司との対話が建設的でない」と感じた瞬間に、離職を意識し始める傾向が強いといわれています。
信頼関係が希薄な組織では、指示は届いても“意図”が伝わりません。
その結果、現場は「やらされ感」に包まれ、仕事への情熱が冷めていきます。
このような無関心の連鎖は、やがて優秀な人材の流出につながるのです。
エンゲージメントの低下は単なるモチベーションの問題ではなく、組織の信頼資本を失う経営リスクといえるでしょう。
現場の停滞と“変化疲れ”
「また新しい施策が降りてきた」「結局、何も変わらない」
・・・・・・現場からそんな声を聞いたことはないでしょうか。
心理的安全性が低い職場では、社員は失敗を恐れ、本音を隠し、変化に対して防衛的になります。
このような環境では、制度改革やDX推進の取り組みも“形だけ”と受け止められがちです。
また意識調査サーベイのようなものを単発で実施して継続しないことなども、社員の不信を招くリスクがあるでしょう。
意見が出ないから議論が深まらず、結果的に“形だけの施策”が増えていく。
これが「変化疲れ」の典型的な構造です。
つまり、変化そのものではなく、変化の背景にある「信頼の欠如」が、現場を疲弊させているのです。
制度を整える前に、まず「安心して声を上げられる空気」を取り戻すこと。
それこそが、経営・人事が果たすべき第一歩ではないでしょうか。
データの分断による判断の遅れ
もう一つの見えにくいリスクが、情報とデータの断絶です。
部門ごとに目標指標や評価軸がバラバラだと、経営は全体像を把握できません。
その結果、「何がうまくいっていないのか」「どこに投資すべきか」といった判断が、常に後手に回ります。
加えてDX後進国の日本企業では、データを部門ごとに異なるシステムを使用していることも多いでしょう。
データのマージ作業をすることで、管理部門の負担や経営の意思決定の遅れも発生してしまいます。
例えば、営業は売上をKPIにし、開発は品質やリリーススピードを重視する。
どちらも正しい指標であっても、共通の物差しがなければ議論はすれ違い、組織は意思決定のスピードを失うのです。
エンゲージメント低下は、往々にしてこうした“見えない遅延”から始まります。
データの分断は単なる管理上の問題に留まらず、戦略的な遅れを招く構造的リスクだといえるでしょう。
従来型のサーベイが陥りがちな「3つの罠」
部門間の温度差があったとしても、多くの企業は「従業員満足度調査」のようなサーベイで、現状を把握してきました。
しかし、果たしてその数値は現場の実態を映しているのでしょうか。
本章では、従来の手法が見落としてきた“本質的な課題”を整理します。
満足度の平均値が真実を隠す
多くの企業では、従業員満足度調査の結果を「全社平均」で判断してしまうケースが少なくありません。
これは組織の力を弱体化させる「サイロ化」の深刻な実態です。
「スコアが高ければ安心、低ければ改善」は一見シンプルな構図ですが、平均値は往々にして“温度差”を覆い隠します。
例えば、平均スコアが70点であっても、部門別に見ると「開発部80点・営業部55点」という差が存在するかもしれません。
この格差を放置すれば、営業の士気低下はやがて全社業績にも波及していきます。
データを「ならす」ことより、「ばらつきを読む」ことこそが、人事に求められる新たな視点といえるでしょう。
ワークバリューの違いを無視した画一的解釈
従来のサーベイが「満足度」や「不満要因」に焦点を当ててきたのに対し、近年注目されているのがワークバリュー(仕事における価値観)です。
Deci & Ryan(1985)の自己決定理論(SDT)では、人の動機づけは「自律性」「有能感」「関係性」という3要素の充足によって高まるとされています。
部門や職種によって、この価値観のバランスは大きく異なります。
例えば、開発職や研究職は「自律性」を重視し、営業職やカスタマーサポート職は「関係性」や「貢献感」を重んじる傾向にあったとします。
そのような価値観の違いを無視して、全社で一律のスキル開発や階層別研修を実施すると「どこかの部門は満足」「どこかの部門では物足りない」となってしまいます。
本来は丁寧に掘り下げるべき“動機の源泉”を見逃したままでは、これからの時代は社員のモチベーションを上げにくくなるでしょう。
生成AIの技術が企業の未来にもたらすもの
従来型サーベイ課題を解決する技術として、生成AIが注目されています。
たとえ同じサーベイを実施したとしても、生成AIを活用して結果を分析すれば、人の目だけでは見えにくかったものも可視化できます。
ここからは、事例などももとに「部門間の温度差」という課題をもとに、生成AIがどのように貢献できるかを紹介していきます。
生成AIが可視化する“部門の個性”
McKinsey & Companyが2025年のHR動向に関する調査で指摘するように、AIは人事部門の生産性を劇的に向上させ、「AIによるHR変革」は不可避な現実となっています。
例えば生成AIなら、部門ごとの自由記述から「自律性の不足」を示す「指示待ち」「〜せねばならない」といった表現の多さや、「有能感の低さ」を示す「自信がない」「無理」といった言葉を抽出します。
ある製造業企業では数千件の自由記述をAIが分析し、開発部門では「裁量の欠如」、営業部門では「貢献感の不足」という異なる不満要因を抽出しました。
AIがもたらす最大の価値は、「定量化できなかった人の感情や価値観」を見える化することにあります。
従来のサーベイが“表面の満足度”を捉えていたのに対し、AIは「なぜそう感じるのか」「その背景にどんな心理があるのか」を読み解くことができます。
AIを活用することで、違いを問題とせず設計に活かす発想の転換が期待できるでしょう。
部門別で可視化されるワークバリュー差
AIによる分析では、部門単位でのワークバリューの違いまでも明らかにします。
具体的にあるIT企業では、開発職とバックオフィス職の間で「自律性」と「関係性」のスコアに大きな差があることが判明しました。
開発職は「自分で意思決定したい」「技術力を磨きたい」という“自律的動機”が強く、
一方でバックオフィス職は「仲間とのつながり」や「感謝される実感」を求める傾向が見られたのです。
この結果をもとに人事は、開発職向けに「裁量拡大を意識した業務委任方針」を導入。
バックオフィス職には「貢献を見える化する評価制度」を新設しました。
結果として、両部門でエンゲージメントスコアが改善し、部門横断プロジェクトへの参加率が向上したといいます。
AIによるスコアリングは、単に“違いを指摘する”ものではなく、その違いを尊重し、設計に活かすための新しい人事戦略の土台となるのです。
AIが生み出す「共通のものの見方」
ピーター・ドラッカーは、「効果的な組織とは、共通のものの見方、理解、方向づけを持つ集団である」と述べています。
AIが部門ごとが持つ価値観を可視化することは、まさにその“共通の視座”を創り出す行為です。
たとえば、部門ごとに異なる言葉で語られていた「やりがい」や「成長機会」も、AIが数値として示すことで共通の言語になります。
経営・人事・現場が同じデータを見ながら議論すれば、「誰が正しいか」ではなく「どの価値観をどう満たすか」という建設的な対話が生まれます。
すなわちAIは、人と人の間にある“温度差”を埋めるための、共感の媒介者です。
データは冷たく見えても、その背景には無数の声が宿っています。
それを正しく読み解くことができれば、これからの企業競争力につながるでしょう。
部門間の信頼関係を築くための「生成AIワークバリュー・スコア分析」
サーベイ結果の分析はもちろんのこと、生成AIの技術を最大限に活用するならば、質問段階で「本音を引き出す」ことが有効です。
その答えの一つが「生成AIワークバリュー・スコア分析」です。
このサーベイでは、生成AIが一人ひとりの状況(所属部署・入社年次など)や最初の質問への回答に応じて、次の質問をアジャストしてくれます。
特にAIコミュニケーションに慣れている若手世代であれば、上司には伝えにくい本音をAIには開示することも期待ができます。
人事・経営もダッシュボードで「組織風土へのフィットやギャップ」を一目で確認できるため、速やかに組織課題を発見できるでしょう。
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※当連載では、なぜ現代マーケットで生成AIによるエンゲージメント把握が有効なのかについて、シリーズ記事でお伝えしていきます。
従来型のサーベイでは限界を感じている経営・人事部門の方は、ぜひ引き続き今後も記事をお読みください。
まとめ:部門間ギャップには受容すべきものと解決すべきものがある
冒頭で紹介したように、元来日本企業のエンゲージメントは決して高くはありません。
この現実は「社員がやる気を失っている」というよりも、経営と現場、あるいは部門間に「理解されていない」という感情の溝が広がっていることを示しています。
この「放置されている」という感情こそが、組織が恐れるべき最大の敵です。
ノーベル平和賞を受賞したエリ・ヴィーゼルは、ホロコーストの経験から「愛の反対は憎しみではない。無関心だ」と説きました。
組織の文脈に置き換えれば、社員への無関心(=潜在的な不満の見過ごし)こそが、エンゲージメントの崩壊と組織の分断を招く最大の要因なのです。
AIが可視化するワークバリューのスコアは、単なるデータではなく、社員一人ひとりの声の集積です。
そこから浮かび上がる「尊重すべき多様性」と「解決すべき亀裂」とを見極めることが、人事の新たな役割となるのではないでしょうか。
※生成AIワークバリュー・スコア分析は、デフィデ株式会社の登録商標です。
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