第18回
複雑化・多様化する社員モチベーション維持は一筋縄ではいかない!?
~日々変化するモチベーションを把握できるサーベイとは~
2025/11/07
「ワーク・ライフ・バランス」「働き方改革」などの言葉が飛び交う昨今のビジネス環境下では、社員のモチベーションも多様化しています。
そのため、従来のような画一的な人事施策では、社員のモチベーション向上が難しいと感じている人事担当の方や、マネジメントの方も多いのではないでしょうか。
特に昨今は「退職代行サービス」に代表されるように、社員の転職ハードルはかつての時代に比べて低くなっています。
つまり、ちょっとしたモチベーションの低下が、離職にもつながりかねない、センシティブな時代ともいえます。
昨今、日本企業で社員向けのサーベイ実施が増加しているのも、そのような背景があるといえるでしょう。
ただし、毎年サーベイを実施していても、社員のモチベーションの変化や、変化が起きる要因が把握できないという声も、一定数聞かれます。
「社員のモチベーションを精緻に把握したいものの、従来型のサーベイでいいのだろうか・・・・・・?」
本記事では、そのような不全感を解消するための、生成AIを活用したこの時代にフィットするサーベイ活用について紹介します。
社員のモチベーション管理のみならず、本来的な組織開発のヒントにしていただければ幸いです。
“給与”だけではモチベーションが動かない時代
人材不足が慢性化し、社員定着率が課題とされる昨今、社員の“内発的動機づけ”に目を向けることは、企業の持続的成長には不可欠でしょう。
かつては、報酬や昇給、昇進・昇格といった“外的インセンティブ”が働くモチベーションの主軸でした。しかし現在は、社員のキャリア観の多様化や企業への帰属意識の変化により、「成長実感」「働きがい」「心理的安全性」など、非金銭的な要素が求められるようになっています。
つまり、単に待遇を改善するだけでは、社員のモチベーションは高まりにくい時代といえます。働く“意味”に触れ、社員個々人の感情や価値観にアプローチする施策が必要なのです。
特に若手層の社員に絞って考えると、この傾向はより顕著でしょう。
例えばある中堅メーカーの新卒社員が語ったのは、「給与より、社会に役立っている実感が持てる仕事がしたい」という本音でした。
若手社員にとって「働く理由」があいまいな職場では、どれだけ待遇が良くても、モチベーションを維持できなかったのです。
個人が“意味がある選択”として仕事を捉える現代では、人事としてモチベーションの維持・向上を考える際は、このような「内発的動機付け」に目を向ける必要があります。
つまり、働く個人の価値観変化に応えられるような、柔軟性を持った人事施策が求められているといえるでしょう。
そもそもモチベーションとは何か
モチベーションとは、「行動を起こし、持続させる心理的プロセス」を指します。
経営学や心理学においては「動機づけ(Motivation)」とも呼ばれ、過去には多くの理論が提唱されてきました。
代表的な研究としては、アブラハム・マズローの「欲求階層説」や、フレデリック・ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」があります。
マズローは、人間の欲求を「生理的欲求」から「自己実現欲求」までの5段階に分類し、下位の欲求が満たされることで、より高次の欲求へと移行するとしました。
一方、ハーズバーグは、仕事の満足に寄与する「動機づけ要因(達成感、承認、責任など)」と、不満を防ぐ「衛生要因(給与、労働条件、人間関係など)」を分けて捉え、前者がモチベーションに直結すると指摘しています。
さらに近年では、自己決定理論(Self-Determination Theory:SDT)が注目されています。SDTでは、人が内発的に動機づけられるには「自律性」「有能感」「関係性」の3要素が満たされる必要があるとされます。
この理論は、Google社やユニリーバなど、多くのグローバル企業が人材開発に活用していることでも注目を浴びて来ました。
こうした理論を踏まえれば、単なる報酬制度の強化だけでは、社員の持続的な意欲を引き出すことは難しいことがご理解いただけるかと思います。
つまり、社員一人ひとりの心理的充足や仕事との関係性の質が、モチベーションに密接に関わっていることが見えてくるのです。
ただ残念なことに、日本の労働者のモチベーションは、国際比較で見ると極めて低い水準にあることが分かっています。
例えば、アメリカの調査会社ギャラップ社が毎年実施している「State of the Global Workplace」によれば、2023年時点で「自分の仕事に熱意を持っている」と回答した日本人の割合はわずか5%でした。
この結果は、調査対象となった140カ国の中でも最下位レベルです。
一方、アメリカでは30%超、インドでは40%近い割合で仕事に積極的関与しているという結果が出ており、日本の数値は突出して低いといえます。
参考:2023年版『ギャラップ職場の従業員意識調査:日本の職場の現状』および国際版調査報告書『State of the Global Workplace 2023 Report』
この背景には、日本企業独特のメンバーシップ型雇用の慣習や、年功序列・同調圧力の強さ、評価制度の曖昧さなどが複雑に絡んでいると考えられます。
つまり、「評価されない」「発言しづらい」「キャリアが見えない」といった不透明感が、社員の意欲を削ぎ、静かな離職(サイレント・クイッティング)につながっているのです。
社員のモチベーション低下を招く3つの落とし穴
前章の理論を踏まえると、現実組織におけるモチベーション低下には、いくつか共通する“落とし穴”があります。
本章では、代表的な3つのケースを紹介します。
人事評価に透明性が乏しい
日本企業独特の“横並び”で新卒社員を育てる文化の弊害として、人事評価が曖昧となっていることは少なくありません。
この人事評価が、昨今のビジネスパーソンのモチベーションを下げる要因になりやすいのです。
逆説的に考えると、曖昧な人事評価であれば「仕事をやってもやらなくても同じ」という感情を、社員に抱かせかねません。
この状況では、自分が会社の制度や雰囲気を壊してでも、成果を上げようというモチベーションを阻害してしまいます。
努力しても正当に評価されないと感じたとき、人は直ちにやる気を失ってしまいます。特に若手社員はその傾向が顕著でしょう。
人事評価の不透明性は、モチベーションの低下のみならず、離職率にも直結してしまうため、注意が必要といえます。
自分の仕事と会社のビジョンとのつながりが見えない
全社の方針と自分の仕事が切り離されて感じると、作業は単なる“タスク”となってしまいます。
その結果、成果が順調に上がっている時には気にならないかもしれませんが、仕事がスタッグした際に、立ち止まる要因になってしまいます。
つまり「自分は何のためにこの壁を乗り越えようとしているのだろうか?」と考え込む心理につながるのです。
会社のビジョンと連動した、自分の役割の意味を理解する「ジョブ・クラリティ(職務明確性)」が欠如している企業は注意が必要です。
日々の行動がどこにつながっているかが見えなくなり、仕事への納得感が生まれず、モチベーション低下を招きやすいでしょう。
成長や挑戦の機会がない
固定化・形式化された業務ばかりでは、社員は「自分の成長が止まっているのではないか」と懸念を抱きやすくなります。
ルーチン業務が悪いわけではないのですが、この成長問題を考える際は「ストレス」とのせめぎ合いで捉える必要があります。
人は本来、ある程度の健全なストレッサーがないと、伸びやかな成長は叶いません。
自然界で、無風の大地にある木々より、多少の雨風がある木々の方が成長できるのと同じような理屈です。
つまり、軋轢やプレッシャーを踏まえての“実感”が持てないと、未来への希望や意欲も萎んでいきます。
ルーチン業務の中でも定期ミーティングなどで、本人の成長実感や業務の改善点を引き出すコミュニケーションを忘れないようにしましょう。
| ケース:気づかれずに退職へと向かう「静かな離職」 |
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あるIT企業のA社で、30代の中堅社員が静かに離職していった。
彼は周囲から「優秀で安定感がある」と評価されていたものの、本人は「このまま何年も同じ業務を続けるのか」と将来に不安を抱えていたのだ。
A社では昔ながらの人事マネジメントをしており、1on1ミーティングやモチベーションサーベイなどはやっておらず、周囲は本人のモヤモヤに気づけなかったのだ。
こうしたモチベーションの低下は、本人の口からは語られにくいもので、上司や組織が気づかないうちに進行していることも少なくない。 |
組織のモチベーションを高める具体策
ここからは、組織として取り組むべき、代表的なモチベーション向上施策を3つ紹介します。
モチベーションに配慮した人事評価
人事評価の可視化はもちろんのこと、社員一人ひとりが「もっと成長したい」と捉えられる評価制度が重要です。
例えば、MBO(目標管理制度)は本人のモチベーションに大きく影響を与えます。
MBOを単なる「成果管理」と捉えてしまうと、上層部から目標を降ろして、その進捗を管理する指標となってしまいます。
ただ、もともと経営学者のピーター・ドラッカーが提唱したMBOは「Management by Objectives and Self-control」の略称です。
つまり、セルフコントロールすることにMBOの真髄があります。
成果主義の名のもとに数字だけを追うのではなく、本人が「これをやりたい」を設定し、組織成果へと接続することがMBOの本来の目的なのです。
MBOの目的に則り、社員が何を成し遂げたいかを組織目標につなげるような運用にすれば、社員のモチベーション向上にはつながりやすいでしょう。
企業のパーパスやビジョンの共有
社員が「なぜこの仕事をしているのか」を自分ごととして捉えられるよう、企業の理念やビジョンを押し付けずに“共感”という形で伝える工夫が必要です。
パーパスが浸透していれば、社員一人ひとりがどのような小さな仕事であっても、企業の目指すべき姿とリンクして考えられるからです。
重要なのは「言葉」として伝えるだけでなく、「浸透しているかどうか」という観点で捉えることです。
例えば、事業部単位での企業ビジョンを再定義したり、ビジョンに照らした顧客の声を聞く場の創出をしたりする施策も有効でしょう。
1on1ミーティングによる成長促進
上司と部下が継続的に対話する場を設けることで、相互理解が深まり、承認欲求も満たされやすくなります。
ただし、昨今は「1on1ミーティング」が流行言葉的に広まっていることには注意が必要です。
重要なのは、業務進捗だけでなく「本人が何を感じているか」「どうなりたいのか」に耳を傾けることです。
つまり、評価のための面談ではなく、成長と信頼を育む場としての1on1が求められます。
場合によっては、サーベイで1on1ミーティングの効果測定をしながら、現場任せの運用を回避することも必要でしょう。
モチベーション向上の鍵はサーベイによる「可視化」と「傾向の把握」
前章でモチベーション向上の施策を伝えて来ましたが、それらの施策の効果やさらなる施策を考えるためには、サーベイによる会社全体の可視化が有効でしょう。
最終的にはモチベーションの“源泉”は、社員一人ひとり異なります。
ただし人事部門として社員個人のモチベーションリソースをマネジメントするのは、かなり難しいでしょう。
そこでサーベイを用いて社員を一律に捉えるのではなく、職種や年代別に異なるモチベーションの傾向を把握することが重要となります。
例えばサーベイを活用すれば、以下のような傾向が確認できます。
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エンジニアは「スキルの陳腐化」への不安が強く、新しい成長機会を重視している ・営業職は「評価の明確性」がモチベーションに直結しやすい ・20代は「裁量」、30〜40代は「キャリア展望」、50代は「組織貢献」に関心がシフトする |
このようにサーベイで大枠を捉えたあとに、マネジメントも含めた個別フォローをするサイクルが、昨今では有効な施策といえるでしょう。
生成AIなら自然にモチベーションの把握が可能
職種や年代別、さらには一人ひとり異なるモチベーションリソースを把握することは重要ですが、現実的には画一的なサーベイでは限界があります。
不自然なサーベイ設計にしてしまうと、回答そのものが社員のストレスとなり、モチベーション低下をも招いてしまいます。
そんな場合は、最新の生成AIの技術をサーベイ設計に取り込むことがおすすめです。
従来型のサーベイでは、社員のコンディションに合わせた項目設計ができません。
しかしAIであれば「今日の調子はどうですか?」との回答に応じて、社員のメンタルや心理的状態に応じて、次の質問を自動生成してくれます。
AIを活用したサーベイであれば、社員がちょっとしたモヤモヤを吐露できます。
すなわち、サーベイの回答を通じて自然にモチベーション不全を解消する効果も期待できるでしょう。
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生成AIによって社員のモチベーションが自然に維持され、 社員からのネガティブサインが発見しやすい職場に! |
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・JOB Scopeは、エンゲージメントを可視化する『生成AIワークバリュー・スコア分析』をリリース
▶▶『生成AIワークバリュー・スコア分析』の詳細はこちらをご覧ください |
※当連載では、なぜ現代マーケットで生成AIによるエンゲージメント把握が有効なのかについて、今後もお伝えしていきます。
従来型の従業員エンゲージメント把握サーベイでは限界を感じている経営・人事部門の方は、ぜひ引き続き今後も記事をお読みください。
まとめ:モチベーションは日々上下するもの
今回は社員のモチベーションに焦点を当てて、解決策の一つとして生成AIを活用したサーベイを紹介しました。
前提として、人間のモチベーションは一律ではなく、日々変化していきます。
どんな人でも常に高いモチベーションを維持していることは不可能ですし、ちょっとした出来事でモチベーションは上下するのは自然です。
だからこそパルスサーベイのような日常的な情報収集では、社員の微妙なモチベーションの変化を察知できます。
そこに生成AIの自然なやり取りが加われば、社員本人もサーベイ回答を通じて、ご自身の不全感に気付け、自然解消できるという効果も期待できます。
一昔前、従業員満足度調査に代表されるサーベイは「経営の通信簿」と例えられてきました。
しかし現代のAI技術を駆使したサーベイであれば、その目的に加えて、社員の日常的なメンタル健康診断として機能するのではないでしょうか。
※生成AIワークバリュー・スコア分析は、デフィデ株式会社の登録商標です。
新しい働き方、DX環境下での人的資本経営を実現し、キャリアマネジメント、組織変革、企業強化から経営変革するグローバル標準人事クラウドサービス【JOB Scope】を運営しています。