日本企業のリーダーが置かれている状況とは

2023年11月29日 | リーダーシップ 日本企業のリーダーが置かれている状況とは

「リーダーシップ」と聞いて、どのような人材を思い浮かべるかは、人によってさまざまでしょう。

米国では、優秀なリーダーこそが「起業」を選ぶといわれています。
もともと米国では「アントレプレナー・キャピタリズム(資本主義)」の国だといわれてきました。社会全体として「ベスト・アンド・ブライテスト(最も優秀な人材)はベンチャービジネスを興すもの」という流れが定着しており、ネットの時代が始まるとそれが一気に強さを発揮しました。

そして、「優れたリーダー」は自らの知恵でビジネスを立ち上げる人というイメージにつながったのです。

一方、日本や欧州は「大企業キャピタリズム」の比率が高いことが特徴でしょう。特にネット時代が到来した平成初期の日本には、米国のような人材の流動性や事業を立ち上げる社会の仕組みが整っておらず、優秀なリーダーは官庁や大企業に行くという伝統的な流れから抜け出せなかったといえます。

裏を返せば、昭和が名経営者たちを輩出できたのは、そのような受け皿がなかったためかもしれません。つまり、戦争で国土が荒廃し、優秀な人材に働き場所がなくなり、ソニーやホンダを創るしか、生きる道はなかったということでしょう。

このように「リーダーシップ」の中身は、時々の環境や醸成によって求められるものが変わります。
先行きの見通しがしにくいVUCAの時代の現代で、日本企業はどのようなリーダーシップを探求すべきなのでしょうか。

今回はリーダーシップ開発を考える上で、日本企業を取り巻く環境について、真摯に目を向けてみたいと思います。

 

right-icon01 企業課題から、求められるリーダー像を探る

いきなりリーダーシップそのものについて考える前に、現代の企業が抱えている組織課題について考えてみます。求められるリーダーシップは、解決すべき組織課題によって変わるからです。

2022年に人事担当者に会社の組織課題について尋ねた調査では、選択数が多い順に、1位「1.新価値創造・イノベーションが起こせていない(66.7%)」、2位「2.次世代の経営を担う人材が育っていない(66.0%)」、3位「3.難しい仕事に挑戦する人が減っている(64.0%)」という結果となりました。

同じ設問に対する管理職層の回答は、1位「2.次世代の経営を担う人材が育っていない(64.7%)」、2位「4.ミドルマネジメント層の負担が過重になっている(62.0%)」、3位「1.新価値創造・イノベーションが起こせていない(60.0%)」でした 。

マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2022年

出所:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」


次世代の経営を担う人材が育っていない」については、2020年ごろから毎年の調査で選択率が上位にくる項目です。

一方、「新価値創造・イノベーションが起こせていない」は、2022年の調査で人事・管理職層とも順位が上がりました。

ここ数年、仕事だけでなく、エンターテインメントや日常のコミュニケーションなど、さまざまな活動のオンライン化が急速に進みました。そのことは単にオンライン化を促進するだけでなく、私たちの日常習慣や価値観にも大きな影響を与えています。

このような先の読めない急速な変化が起こり得る社会のなかで、今までの延長線上にはない新価値の創造に取り組むリーダー像が、昨今は求められていることが浮き彫りになっているといえるでしょう。

right-icon02日本のリーダーが認識する組織状況とは


では、当人であるリーダー層は自身が担当する組織状況をどのように認識しているのでしょうか。

前章の調査では、「新価値創造・イノベーションが起こせていない」が、ここ数年の選択率が上がっているとお伝えしました。

先の読めない急速な変化が起こり得る社会のなかで、今までの延長線上にはない新価値の創造に取り組む人材の獲得・育成や組織づくりが、企業にとって重要課題になっていることは想像に難くありません。

一方で、そうした新価値創造への動きのキーとなるミドルリーダーの問題意識には、やや乖離が生じています。

同調査での「管理職として重要だと考えている役割は何か?」という問いには、「メンバーの育成」「担当部署の目標達成/業務完遂」「業務改善」という項目が並びます。

どちらかというと短期的な成果を上げることに注力せざるを得ない、ミドルリーダーの実態が浮かび上がってきます。

組織からの要請とミドルリーダーの実態にこのようなギャップがあると想像されるなかで、組織状況は果たしてどのような状況なのでしょうか。

「担当している組織の状況」を聞いた設問では次のような結果となっています。

surveyResearch


Aの「実行型マネジメント」が適する組織は、方針や仕事の進め方が固定的で、決定した目標を効率的に実行していくことが業績達成へとつながりやすい特性があります。

一方、Bの「自律共創型マネジメント」が適する組織は、先が読みづらく変化のスピードが速い環境下にあり、変化に合わせて個人や組織が学習しながら自律して判断をしていくことが有効となる特性があります。

2つの職場環境の選択率が拮抗しているように、リーダーやマネジャー自身は組織を取り巻く状況の変化を敏感に察知しているといえます。

とりわけ「1.自組織を取り巻く環境の変化はめまぐるしく、ほとんど予測が立たない」「3.上位方針や戦略が抽象的で、自組織で取り組むことは自分たちで考えて設定することが求められる」という項目の選択率の高さから、リーダー自身が考え、判断しようとする自覚があるのをご理解いただけるのではないでしょうか。

right-icon03日本企業でのリーダー不足という現状

次に具体的に、日本企業でのリーダー像について考えていきます。
長年続いた終身雇用制度の影響で、日本は年齢やヒエラルキーに基づく組織文化の企業が多いといえるでしょう。その影響で「リスク回避」「コミュニケーション欠如」「指示待ち」など、ネガティブな特性が目立つケースも散見されます。

また、「階層別研修」に代表されるような教育は受けているモノの、正しいリーダーシップを学ばないまま、リーダーの地位に就いてしまっている人も少なくはありません。

結果的に、国際的に見ると日本の企業人の競争力は高まりにくい状況になっています。
スイスのビジネススクールIMD(International Institute for Management Development)は、毎年国際人材競争力ランキングによると、日本の競争力は39位と低迷しているのです。

スイスのビジネススクールIMD


なおこのランキングは、「①労働環境への投資と開発」「②国外の人材を引きつける魅力」「③人材が持つ技能や能力」の3つの指標がメインとなっています。

日本企業が労働環境や社員の人材開発に消極的な結果、国外へのアピール力やスキルが低下している状況が自明といえるでしょう。

この結果をリーダーシップ開発に置き換えて考えてみます。

つまり、企業の競争力につながるレベルのリーダーシップ開発に取り組むには、かなり不利な状況からスタートになるということです。

一方、本腰を入れてリーダーシップ開発に取り組めば、少なくとも国内企業内での競争力を獲得できるという見方もできるでしょう。

次章では、具体的にリーダーシップ開発は誰が主体となって開発していくべきなのかというテーマについて考えていきます。

right-icon04リーダーシップは誰が主導で鍛えるべきか?

日本企業では、イノベーティブなリーダーが求められているものの、現実には共創力が乏しい人材が多い現状があります。

では現実的には、どのように企業の成長につながるリーダーシップ開発に取り組んでいくべきなのでしょうか。
このテーマを考える際に、大きく課題となる2つの現状をお伝えします。

自己研鑽が苦手な日本人

リーダーシップ開発は実践で磨く必要がありますが、実践するまえに基本的なリーダーシップ理論や、リーダーシップを発揮する基礎スキルの習得は求められます。

日本の社会人が、どの程度学ぶ時間を確保しているかご存じでしょうか。

実は、日本の社会人は学ぶ時間が圧倒的に少ないと言わざるを得ません。
総務省の調査では、社会人の1日の平均勉強時間はわずか6分でした。しかも、95%以上の社会人が「勉強時間は0」と回答しているのです。

参考:平成28年社会生活基本調査another-window-icon

日本は長時間労働の傾向が高いため、仕事で1日の大半の時間が取られてしまい、自己研鑽する時間が捻出できない状況なのかもしれません。

会社を離れて、社外で自己啓発をしているかどうかという観点でも、残念な調査データがあります。
先進各国と比べても、圧倒的に日本人は「何もやっていない」という回答比率が高いのです。


成長意識調査

これらの問題点を考えると、働く個人の自助努力だけでリーダーシップの知識やスキル習得は進みにくいことが予想されます。
ますます企業側から学びの環境を整える必要性がご理解いただけるのではないでしょうか。

企業側の人材投資の消極性


企業側にもリーダーシップ開発を進めるにあたっては、直視すべき現実があります。
学びに消極的な日本のビジネスパーソンを生んでしまうのは、企業側の人材投資への消極性も大きく起因しているのです。

なお人的資本経営の考え方では、人材を「資産 (Human capital)」と見なして投資対象と認識しています。

しかし従来の日本企業は、社員を「資源(Human resource)」と捉え、採用や教育費などは「費用」とする考え方が大半でした。

資源という言葉の通り、社員が身に着けた能力を、いかに効率的に「消費」するかという解釈になります。そのため、人材に投じる資金はコストとして捉えられ、いかに支出を抑えるかが経営マネジメントの主眼になりがちでした。

事実、人材に対する人材開発や能力開発の投資は、日本は先進国の中で最低レベルです。

OJT以外の人材投資が少ない日本

GDPに占める企業の能力開発費の割合

このような、企業の人材投資への姿勢の低さは、「人的資本経営」や「リスキリング」など、日本企業で潮流になりつつあるテーマの大きな障害といえます。

だからこそ、人材投資のスモールスタートを切るとしたら、影響力が大きいリーダーシップ開発を突破口にするべきではないでしょうか。

right-icon05まとめ

今回は日本企業のリーダーやリーダーシップ開発を取り巻く環境を取り上げました。

ややネガティブな内容も多かったかもしれませんが、課題を特定するには、「現状」と「理想」を阻む「問題点」を直視することが第一歩となります。

「足らないを知る」は、物事の進化には欠かせないでしょう。

米国の作家・イラストレーターであるシェル・シルヴァスタインは著書『ぼくを探しに』で「ぼくはかけらを探してる、足りないかけらを探してる、さあ行くぞ」との台詞が登場します。

何かが足りない——

そう感じるセンサーに従って前進し続けると、必ず何かが見つかるでしょう。人間や組織を成長させるのは「自分は(我々は)不足している」という自覚なのかもしれません。