リーダーの役割と獲得すべき能力とは

2023年12月01日 | リーダーシップ リーダーの役割と獲得すべき能力とは

「リーダーシップ」そのものは概念で正解がないということは、これまでの記事でも述べてきました。

ただ企業内で発揮が求められるリーダーシップ行動は、企業が置かれている状況・課題に置き換えれば、ある程度の予想が可能です。

「○○リーダシップ」という理論を学ぶことは重要ですが、企業の競争力につなげるには、自社ならではのリーダーシップの方向性を考えることが不可欠でしょう。

そのうえで、企業活動に即した具体的な能力開発に落とし込むことをしなければ、真のリーダーシップにつなげることはできません。

今回は、各社ならではリーダーシップ発揮を考える際のヒントとなる、リーダーの役割から導かれるリーダーの能力開発についてお伝えします。

 

right-icon01 リーダーシップとマネジメントの違い

日本企業ではリーダーとマネジメントとの違いを混同していることも多いようです。 リーダーの役割を考える前に、まずはマネジメントとの違いを整理しておきます。

リーダーシップは、環境の変化に対処して組織に変革をもたらすもので、マネジメントは、環境の複雑さに対処して既存のシステムを動かすことです。 よく「リーダーは変革者・開発者」「マネジャーは管理者・統括者」といわれるように、求められる役割や定義は異なります。

つまりマネジャーは組織の数だけ必要となり、逆に組織の数以上は必要ありません。一方、リーダーシップは「リーダーのみ」が発揮するものではないのです。 チームの中で、リーダーの役割の人だけでなく、メンバー全員でリーダーシップを発揮している状態のことを、アカデミックなキーワードでは「シェアド・リーダーシップ」と呼びます。

誰か一人がリーダーシップを発揮しているのではなく、チームで分散・共有しているようなイメージです。分かりやすく表現すると「全員発揮のリーダーシップ」と呼べるような状況といえます。

「決まった事項を素早く・正しく・大量に」実行する時代ではなく「まだ正解が分からないことを、探索的かつ実験的におこなう」現代においては、多様なリーダーシップを発揮する企業が勝ち残っていくのではないでしょうか。



right-icon02リーダーの役割と獲得すべき能力

リーダーが獲得すべき能力は、リーダーが果たすべき役割から考えることが重要です。

リーダーは多くの時間を、目標の成果達成に必要な条件や期待される事を思案し意思決定することに充てます。そして、それらを自分と同じレベルでメンバーに浸透させる役割も担っています。

リーダーは常にチームメンバーに「期待される成果は何か?」「目的は何か?」を訪ね、もし「わからない」との返答であれば、メンバーに対してそれらを明確に指導する必要があるのです。

そんな役割のもと、優れたリーダーに共通する4つの特徴を紹介します。これらは、「能力開発の前提となる条件」のようなものです。

1. チームの信頼関係を醸成する

他者と仕事をして成果を出すリーダーは、信頼関係を構築するのは最重要事項でしょう。

リーダーは透明性を持って、誠実にチームメンバーに向き合う必要があります。時には、リーダーとして自身の課題や困難な取り組みをメンバーと共有することも大切です。

2. メンバーへの思いやりや配慮がある

成果を上げるためには、メンバー一人ひとりの思いや動きが根底にあります。

したがって、チームメンバーの能力だけでなく、日常的に彼らに目配りし、気配りし大切に接する事がリーダーには求められます。

メンバーが公私限らず困難な状況では、親身になって対処することがリーダーの役割でしょう。

3. 揺るぎない姿勢・信念を持つ

不透明な時代においては、リーダー自身が揺るぎない姿勢や信念を持つことが重要になります。

精神的な安らぎの場を作るために、メンバーの質問に誠実に答え対処し、提案するアイデアや不安や日々の課題を聞きく誠実さとそれに対する的確なアドバイスが必要です。

やり取りの際に、一本芯が通った信念があれば、メンバーからの信頼感は増すでしょう。

4. 明るい未来を共有する

メンバーは、リーダーが正しい方向へ導いてくれる事を期待します。
そのため、どのような苦しい状況であっても、リーダーは明るい未来を指し示す必要があるのです。

もちろん、表面的に未来を語るだけでは、説得力が乏しくなります。
困難な状況に置いても「絶対に乗り越えられる」という情熱を持ち、その熱量と同等の「どうすれば乗り越えられるのか」という知恵を絞らなくてはなりません。

5. 現代のリーダーに欠かせないOODAループ

現代のリーダーの役割を考えた時に、必要とされる能力として「OODAループ(ウーダループ)」を紹介します。

OODAループとは、勝敗に関わる意思決定と実行のための思考法の一つです。

国際的な競争力が問われる現代ビジネス場面はもちろんのこと、私生活やスポーツなどあらゆるシーンでの改善に役立つ考え方です。

OODAは、Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act(実行)の頭文字4つで構成されています。主にビジネスシーンにおける、それぞれの段階での考え方や行動の例を以下に示します。

 


・Observe(観察):観察することによって現状を認識します。
たとえば、業界や顧客、競合、新しい技術、社内環境などの状況や変化に着目します。

・Orient(状況判断):観察結果から、状況判断します。
ここでは、Observe(観察)で得たデータから、次のDecide(意思決定)に必要な材料を見極めていくことが重要です。

・Decide(意思決定):具体的な方策や手段に関する意思決定を行います。
この時点で、判断材料の不足に気づけば、観点を変えて観察(Observe)に戻って、ループすることも可能です。

・Act(実行):意思決定したことを実行に移します。
実行後は、フィードバックするために再びObserve(観察)、または必要に応じて他の段階に戻り、ループを再開します。

リーダーが開発すべき能力は多岐に渡りますが、先行きの見通しがききにくい現代では「OODAループ」のようなフレームワークを駆使することも、リーダーに求められる役割の一つといえるでしょう。

right-icon03リーダーシップ開発のためにはコンピテンシーレベルにブレイクダウンすべき

前述したように、リーダーシップはマネジャーのような「誰か決まった人」が発揮すべきものではなく、今の時代は多くの社員が発揮すべき力といえます。

そのためには、自社で求めたいリーダーシップを社員が日常的に意識できるコンピテンシーレベルに落とし込むことが推奨されます。

コンピテンシーとは何か?

コンピテンシーとは、好業績者が成果を達成すべき「特性」を、ベストプラクティスとして社内に公開し、最大多数の社員に移植する(ベンチマークする)仕組みです。

アメリカの心理学者マクレランドによる1970年代の研究を起源に、1980年代後半から1990年代初頭にかけて普及しました。

日本にコンピテンシーを持ち込んだのは、HRコンサルティング企業であるヘイ・コンサルティンググループ(当時)といわれています。

ヘイの川上真史氏によれば、当時コンピテンシーは「行動」ではなく「動機」や「意識」をモデル化するものでした。

しかし人事評価制度としてコンピテンシーを活用するには、動機や意識は人の目で観察しにくいため、「行動」に集約されていきました。

現在、多くの企業でコンピテンシーは「行動のディクショナリー化、モデル化」として認識されているでしょう。

自社でリーダーシップ開発を実施したいとお考えの場合は、思い込みだけで設計をするのではなく、コンピテンシーの考え方を取り入れることがおすすめです。
求めたい行動レベルで自社が求めるリーダーシップが定義できれば、実践的な能力開発につながるはずです。

コンピテンシーの設計プロセスとは

リーダーシップは先天的な能力ではありません。重要なのは、スキルの一つとしてコンピテンシーに加えることで、開発ができることです。

組織の中で実際にリーダーシップのコンピテンシーを作成するためには、その組織ならではのコンピテンシーモデルを作成する必要があります。

ここからは代表的なコンピテンシーの4つの設計プロセスを解説していきます。

 

ステップ1:必要な能力要素を洗い出す

コンピテンシーモデル設計の一歩目は、ハイパフォーマーに着目することです。
一般的なハイパフォーマーは、安定的に業績を上げている社員が多くなりますが、今回は「理想的なリーダーシップを発揮している社員」を想定するとよいでしょう。

次に、リーダーシップを表現するための能力要素を検討します。例えば「課題解決力」「論理的思考力」などの表現となります。


ステップ2:ハイパフォーマーへのヒアリングを行う

コンピテンシーモデルの作り方で重要となるのが、ハイパフォーマーへのインタビューです。ハイパフォーマーが行っている行動特性や、行動の指針としている考え方などを洗い出した能力要素に沿って聞き取り調査します。

特にリーダーシップ行動は先ほどの「OODAループ」のように、行動の背景にさまざまな背景や根拠があるのが特徴です。

ヒアリングを通じて「どんな情報を集めて」「どんな判断をして」その行動に至ったかなど、コンピテンシーの肉付けとなる情報を引き出すようにしましょう。


ステップ3:組織の将来像とすり合わせる

コンピテンシーモデルは組織の将来像と一致していなければなりません。
短期的な目標設定でコンピテンシーの要素を洗い出すと、組織の経営ビジョンと乖離している可能性があります。

そのため、コンピテンシーモデルがある程度固まった後に、組織の将来ビジョンとすり合わせる必要があるでしょう。

ステップ4:社員が取るべき行動の指針にする

コンピテンシーモデルの設計プロセスで、忘れがちなものの重要な観点となるのが、組織内での周知や共有です。

せっかくモデルを作成しても、社員に伝わらなければ意味がありません。そのため、コンピテンシーモデルを社員が発揮してほしいリーダーシップ行動の指針として丁寧に周知徹底する必要があるでしょう。

これらコンピテンシー設計プロセスは、自社の人事部門だけで進めるのはパワーが発生するのも事実です。また、社内の人間だけでは必要となるリーダーシップの要素が客観的に見えにくいという声も聞かれます。

成長するチームづくりに特化した、日本で唯一の人事サービス「JOB Scope」では、職務定義に必要なタスク(課業)の設定の他に、ビジネスパーソンとして求められるコンピテンシーリストが273用意されています。職務定義に沿ったリーダーシップの要素抽出の参考になるはずです。

JOB Scopeは、企業の現状分析(As is)から始まり、企業のヒトに対する考えや人事ポリシーから将来目指すべき人事モデル(To be)を定義した上で、クラウドで運用することが可能な仕組みです。

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right-icon04まとめ

今回の記事は、リーダーシップという概念を自社社員の行動実践へと置き換えていただくため、取り組みのヒントを紹介してきました。

アメリカの経営学者でありリーダーシップ論で有名なウォーレン・ベニスは「リーダーシップとは、ビジョンを現実に変える能力である」と述べています。

つまり組織のリーダーはビジョンを持つだけではなく、そのビジョンを実現するための計画や戦略を立て、実際にチームや組織を動かすという行動に移す必要があるのです。

本連載では基本的なリーダーシップ理論を紹介してきましたが、真に重要なことは論ではなく実践です。理論を学んだうえで、自社でその理論を実践行動として発揮してもらうための施策検討へと展開させていってください。


本連載「リーダーシップの教科書【理論編】」は当記事で終了ですが、後日「リーダーシップの教科書【実践編】」シリーズを掲載予定です。

理論を学んだうえで、現場でリーダーシップを活かしたいとお考えの方は、引き続き当サイトで記事をお読みいただければ幸いです。